Archive for the ‘ビッグデータ’ Category

AIが人に感動を与える、心に響く広告メッセージはアルゴリズムが生成する

Thursday, July 28th, 2016

AIが生成する文章は機械的で、意味は分かるがそれ以上のものではない。いま、AIは単に文章を書くだけではなく、人の心に響くメッセージを創ることができるようになった。人間のコピーライターの想像力を上回るとの意見も聞かれる。この技術を広告に応用すると、商品の売り上げが伸びる。医療機関はAIが生成するメッセージで効果的な治療法を研究している。男性が女性をデートに誘うときのメッセージの書き方をAIが指南する。米国大統領選挙では、有権者を駆り立てるメッセージをAIで生成しているに違いない。

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アルゴリズムで人の心に響くコンテンツを生成

この技術を開発しているのはNew Yorkに拠点を置くPersadoというベンチャー企業だ。機械学習や自然言語処理の技術を使って、消費者に行動を促すメッセージを生成する。このシステムは「Cognitive Content Platform」と呼ばれ、アルゴリズムが人の心に響くコンテンツを生成する。ウェブサイトやメールなどのキャンペーンメッセージを生成する時に利用する。既に多くの企業で使われ、人間が生成したメッセージに比べPersadoで生成すると、コンバージョン率 (商品を購入する率) が平均で49.5%向上したとの統計データがある。Persadoは人間以上に魅力的なメッセージを創作する。

旅行会社のキャンペーンメッセージ

Persadoはこの機能を「Persado Enterprise」と「Persado Go」として商品化している。Persado Enterpriseはフルスペックのプラットフォームで、Persado Goはその簡易版となる。Persadoを使って電子メール、ウェブページ、Facebook記事、広告メッセージを生成する。例えば、旅行会社がキャンペーンメッセージを生成すると次のようになる。旅行会社のウェブサイトで「期間限定の格安フライト、予約は今だ」との見出しをよく目にする。これに対しPersadoがタイトルを生成すると、「自分のご褒美に最高の旅行を、さあ出発しよう」となる。後者のほうが親しみを抱かせる表現と思えるが、Persadoは統計手法に沿ってメッセージを生成している。Persadoは膨大な数の事例から学習し、コンバージョン率が上がる文字列を生成する。

データベースと機械学習

この背後にはマーケティングメッセージに関する大規模なデータベース (先頭の写真) や機械学習で強化されたアルゴリズムがある。Persadoはマーケッティングで使われる言葉やフレーズを解析し、これらの重みや関係を定義する。言葉は三つのカテゴリーに分類される。「Descriptive」は記述言語を意味し、製品の説明文章がこのカテゴリーになる。「Emotional」は消費者の感情に訴える言語を意味する。「Functional」はボタンを押すなどナビゲーションに関する記述を表す。

過去のキャンペーンで使われたメッセージサンプルを収集し、それらをPersadoで編集し、繰り返しその効果を検証した。つまり、Persadoで生成したメッセージの効果を測定し、機械学習の手法でその機能を上げていく。その結果、感情に訴えるメッセージが消費者からのレスポンスを大きく向上させることが分かった。上述のEmotionalに区分される言葉を有効に組み合わせる手法で人の心を揺さぶるメッセージを生成する。

感情に訴える言葉とは

Emotionalに区分される言葉はEmotional Languageと呼ばれツリー構造で分類される。大きくはPositiveとNegativeに分類され、その下に小分類が続く。Positiveの下には、「Joy」、「Achievement」、 「Encourage」などがある。この分類は「Ontology of Emotion」と呼ばれ、語彙の意味と他の語彙との関係を示し25万語から構成される。Persadoは定義されたEmotional   Languageを使ってコンテンツを生成する。言葉のパズルを解くように言葉を組み合わせてメッセージを生成する。下のグラフはEmotional Languageの解析結果で、ポジティブな言葉でも、その効果は大きく異なる。「Exclusivity」は大きくプラスに作用するが、「Excitement」は反対に大きくマイナスに作用する。Persadoは膨大な数のベンチャーマークを通し、解析結果を把握し、文字列を最適化していく。

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クリック率とコンバージョン率が大きく増える

Persadoの効果は多くのキャンペーンで実証されている。下の写真はAmerican Expressのバナー広告の事例で、上段が一般的に利用されるコンテンツで、下段はそれをPersadoを使って改良したもの。Persadoがキャッチコピーを創ると、消費者のクリック率はほぼ三倍に増えた。そして、コンバージョン率はほぼ2.5倍となった。一見すると両者の間に大きな違いはないが、ベンチマークではこのように大きく差がついた。「Ends Soon」という言葉が危機感をあおり、消費者に購買を促すように思えるが、Persadoはその理由までは解明できないとしている。ここが現在のAIの力の限界でもある。

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病院と患者が効果的にコミュニケーションする手法

Persadoは広告キャンペーンだけでなく、幅広い分野で新しい使い方を開発している。その一つがデジタル・ヘルスケアーで、病院と患者が効果的にコミュニケーションする手法を開発している。オバマケアーが目指しているように、医療機関は患者を治療するだけでなく、疾患に関し標準的な治療プロセスを確立し、治療効果を上げ、コストを下げる方向に進んでいる。

この手法は「Clinical Pathway」と呼ばれ、糖尿病や高血圧患者の治療でトライアルが始まっている。医師は患者に治療のための指導をするが、いかに患者を納得させるかでPersadoの技術を活用する。患者がオンラインサイトで食事の指導を受けるときに活用する。どのような言葉の並びが患者を説得し、実際の行動につながるかの研究をしている。

例えば、患者に薬を飲むことを促すメッセージとして「4時半になりました、処方した薬を飲みましょう」が一般的である。これに対してPersadoは、「チャールズさん薬を飲んでください。家族はあなたを必要としています。」というメッセージを生成する。患者を恣意的に誘導するのではなく、健康な生活を促すためにはどう記述すべきかの研究が続いている。

ウェアラブルに表示するメッセージ

医療に関連する分野にQuantified Selfがある。これは消費者がウエアラブルなどで身体のデータを収集し、それを健康な生活を送るために活用しようとする動きである。Persadoを健康な生活を送るために利用する。Apple Watchなどのウエアラブルに健康管理のメッセージが表示されるが、消費者の多くはこれを好意的に受け止めていない。ディスプレイに「立ち上がる時間です」とメッセージが表示されるが、それに従って行動を起こす人は多くはない。これに対し、Persadoは利用者のモティベーションを高めるメッセージはどうあるべきかを研究している。

消費者に支払いを督促する方法

金融機関もPersadoに関心を寄せている。日々のトランザクションに関するメッセージをPersadoで生成する。衛星ラジオSirius XMは、利用者に料金を遅延なく支払うことを伝えるメッセージを開発している。料金の支払いが遅れると、電気会社からは「電気を止める」と脅かされ、これを快く思っていない消費者も少なくない。カード会社からは「忙しいのは理解できる」と同情され、少しは気分が楽になる。消費者に支払いを督促するにはどんな文字列が最適なのか、PersadoはAmerican Expressと開発を進めている。

男性が女性を誘うときのメッセージ

米国では交際相手を見つけるためデートアプリが幅広く使われている。日本の出会い系サイトのように危険なアプリもあるが、その多くは相手を探すための重要なツールとして社会生活に定着している。Tinderのように若者に爆発的に広まったアプリもある。Persadoはデートアプリの機能として、男性が女性を誘うときのメッセージをアドバイスする。女性に対して、「今夜出かけませんか?」というのはダメで、「今日は出かけるには素晴らしい日ですね?」と言うように指南する。どれだけ効果があるのかベンチマーク結果は公表されていないが、Persadoの新しい活用モデルとして期待が集まっている。

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大統領選挙で有権者の心を掴む

選挙で有権者に配信するメッセージの生成でPersadoが使われる。選挙戦はSNSやメールやメッセージングなど、デジタルの戦いになっている。有権者に集会などキャンペーン活動に参加を促すためにPersadoが使われる。また、ボランティア活動への参加者を募るためにも利用される。Persadoはどのような言葉の配列が効果を上げるのか、その結果を検証している。米国では両党から大統領候補が出そろい、本格的な選挙戦が始まった。それぞれの陣営が有権者に配信するメッセージをAIで作成している可能性は否定できない。(上の写真:民主党全国大会はHillary Clintonを大統領候補に指名して本日幕を閉じた。)

AIがコピーライターの職を奪う

米国市場の大きな流れは、テキストをマニュアルで作成する方式から、アルゴリズムで生成する方式に変わってきたこと。更に、Persadoのように、アルゴリズムがコピーライターより効果的なメッセージを生成するようになったこと。市場では再び、AIがコピーライターの職を奪うとの危機感が広がっている。一方、Persadoはあくまで人間の創作活動を支援するツールに過ぎないという意見もある。人間が書いた文章をPersadoがブラッシュアップする。我々がスペルチェッカーを使うように、これからはワードプロセッサーで書いた文章をPersadoが添削する。どちらももっともな意見であるが、AIは着実に我々の仕事に迫っているように感じる。

言葉をエンジニアリングする企業

Persadoの手法は、Behavioral MarketingなのかPsychologyなのか議論が続いている。前者は消費者の挙動に応じた広告手法を意味する。いわゆるターゲッティング広告でゴルフのニュースを見ると、ゴルフ製品の広告が表示されるという方式である。後者は心理学で、消費者の心情を理解して広告を配信する手法を指す。メッセージを受信した消費者はどう感じているのかについてはPersadoは把握していない。ただ、Persadoは消費者が特定のメッセージを受信すると、それにどう反応するかを経験的に掴んでいる。Persadoは両者の境界領域にある会社として位置づけられる。また、Persadoは言葉をエンジニアリングする企業とも定義できる。

Googleはスマートシティの研究開発に着手、都市交通をデータ解析する技術に投資

Friday, September 19th, 2014

Googleは高度技術研究所「Google X」に続き、第二の研究機関「Google Y」の設立を計画している。Google Yは効率的な空港やモデル都市の開発を手掛ける。一方、Google Venturesは「Urban Engines」という会社に投資し、データ解析の手法で交通渋滞を緩和する技術を開発している。Googleは社会インフラ整備事業に乗り出そうとしている。

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Google Yでスマートシティの研究

Google CEOのLarry Pageは一年前、「Google 2.0」というプロジェクトをスタートした。The Informationが9月18日に報道した。このプロジェクトは社会が直面している大きな課題を解決することを目指す。同時に、Googleの次の事業モデルを模索する、という意味もある。最初のテーマとして、空港や都市の整備が挙げられた。更に、これらテーマを推進するために、Google Yの創設が提案された。

上の写真は昨年のGoogle I/O基調講演で、PageはGoogleの新たな挑戦について説明した。具体的なプロジェクトは示されなかったが、PageはGoogle 2.0の構想を抱いていたと思われる。Google XはSergey Brinの指揮の下、自動運転車やGoogle Glassなど、将来技術の研究を行っている。これに対して、Google Yは長期レンジの研究で、大規模プロジェクトを対象としている点に特徴がある。必ずしも採算性を意識している訳ではない。Googleはエネルギー分野では、風力発電や太陽熱発電など、既に大規模プロジェクトを展開している。シリコンバレーを含む北カリフォルニアは、Googleが開発した太陽熱発電所 (Ivanpah Solar Power Facility) から電力を購入している。今度は、Google Yでスマートシティの研究開発に向うこととなる。

都市交通解析システムへ投資

これに先行しGoogle Venturesは、Urban Enginesというベンチャー企業に投資を行った。Urban Enginesはカリフォルニア州ロスアルトスに拠点を置き、都市交通解析システムを開発。Urban Enginesは、センサーやカメラなどのハードウェアを使わないで、データ解析の手法で、電車やバスの運行状況をモニターする。更に、インセンティブプログラムで、人間心理に訴えて、混雑緩和を行う手法を開発。システムが生成するログデータを解析することで、都市交通を解析する点に特徴がある。

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データ解析で運行状況モニター

上の写真はその事例で、鉄道会社が電車運行状況をモニターしている様子。ブラウザー上に、電車の位置や混雑状況が表示される。電車の位置は路線上の箱で、混雑度は箱が塗りつぶされた割合で示される。駅は丸印で、その隣のバーは、駅の混雑状況を示している。駅に収容人数を超える乗客がいる際は警告メッセージをあげる。画面左上で日時を指定し、再生ボタンを押すと、動画で時間ごとの変化を見ることができる。管理者は、ハードウェア機器の導入無しで、電車の運行を監視できる。

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運行監視システムの仕組み

Urban Enginesは既存システムが生成するデータログを解析することで、運行状況を把握する。乗客の動きは、乗車カード (JR東日本のSuicaのようなカード) の情報を入力とする。電車やバスの位置はGPSなどの位置情報を利用。乗客一人一人がセンサーの役割を果たし、この手法は「クラウドセンシング」と呼ばれている。具体的には、前述の通り、電車や駅の混雑状況の他に、駅での待ち時間を把握できる (上の写真、イメージ)。電車やバスの位置と速度を把握し、遅れや運休でどれだけの利用者が影響を受けるかを推定。更に、利用者に特典を与えることで混雑緩和を目指すインセンティブプログラムも提供している。

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シンガポールで利用されている

Urban Enginesは新興国を中心に導入が始まっている。シンガポール政府はUrban Enginesを導入し、電車の混雑緩和を目指している。運輸を管轄するLand Transport Authorityは運行管理に加え、「Travel Smart Rewards」という名称で、インセンティブプログラムを展開。利用者は搭乗パス (Cepas Card) を利用し、ピーク時前後の時間帯で電車に乗るとポイントを貰える。上の写真がポイント制度で、ピーク時前後 (シェイドの時間帯) に登場すると、通常の3倍から6倍のポイントが貰える。ピーク時の乗客を前後に分散させることが狙い。取得したポイントはキャッシュバックとして、Cepas Cardに還元される。企業もこのプログラムを支援しており、上記に加え、社員に割増ポイントを与えている会社もある。

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スタンフォード大学での研究成果を商用化

Urban Enginesはスタンフォード大学の研究成果を商用化したもの。創業者の一人Balaji Prabhakarは、スタンフォード大学で交通ネットワークの研究に従事。Prabhakarは「Behavioral Economics」というモデルで、人間心理に訴え、通勤時の混雑を緩和する手法を研究。具体的には、「Congestion and Parking Relief Incentives」というシステムを開発し、オフピーク時間帯に通勤すると褒賞を与え、交通渋滞を緩和する効果を検証した。この結果、少ない褒賞で大きな効果があることが分かり、この研究を元にUrban Enginesを創設。現在もこのシステムは稼働しており、専用アプリ「My Beats」 (上の写真) で利用されている。

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人口増加にどう立ち向かうか

Urban Enginesは前述の通り、新興国を中心に導入が始まっている。ブラジルのサンパウロでは、World Bankと共同で、バスの運行管理を行っている (上の写真、イメージ)。アメリカではコロンビア特別区において、電車の運行管理に利用されている。世界の人口は2050年までに90億人になると言われている。増え続ける人口に対応するため、新興国では輸送システム増強が喫緊の課題となっている。輸送量を増強するなどハード面での対応に加え、Urban Enginesのソフト面でのアプローチが評価されてきた。Urban Enginesが目指しているのは、インフラが整っていない国々での輸送力強化にあり、今後、新興国を中心に大きな需要が見込まれる。日本ではSuicaで生成されたデータの解析が進んでおり、Urban Enginesの手法は特に目新しいものではない。日本の高度なインフラ技術輸出の他に、新興国向けには、Suicaデータ解析技術が、混雑緩和に貢献するのかもしれない。

Googleとの関係が深い

Urban EnginesはGoogleとのつながりが強い企業である。Urban Engines創業者の一人Shiva Shivakumarは、Googleでエンジニアリング部門の副社長を歴任。同氏は、AdSenseやSearch Applianceの開発に携わった。また、Urban Enginesへは、Google Venturesだけでなく、元CEOのEric Schmidtも投資を行っている。Urban Enginesは、Googleのコア技術であるデータ解析を都市交通の解析に応用したもので、Googleの注目度の高さが窺える。冒頭のGoogle Y設立の提案と共に、Googleは社会インフラ整備事業に向って動き始めた。

シリコンバレーの若い起業家が開発した宅配サービス、運輸大手に利便性で挑戦

Wednesday, May 14th, 2014

シリコンバレーの若い起業家たちから斬新なアイディアが生まれている。最近では、インターネット上のお洒落なサービスより、リアル社会と結びついた生活に直結したサービスが増えてきた。生まれたての技術を、人気アクセラレーター500 Startupsのイベントからレポートする。

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イノベーション発生の場所

500 Startupsはマウンテンビュー (カリフォルニア州) に拠点を置く、ベンチャーキャピタルである。500 Startupsは、投資を行うだけでなく、インキュベーターとして起業家育成に力を注いでおり、アクセラレーターと区分される。アクセラレーターという名称が示唆しているように、起業家たちは短期間 (3-6か月) での製品開発が求められ、完成したプロトタイプを投資家の前で披露する。このイベントはDemo Dayと呼ばれ、5月8日、Microsoftシリコンバレーキャンパスで開催された (上の写真、出典は断りが無い限りVentureClef)。

今回のDemo Dayは第八期生の発表イベントで、29社が最新技術をステージ上でアピールした。起業家の平均年齢は20代半ばで、若い視点から開発された製品が数多く登場した。これら製品は市場で評価を受け、認められたものだけが生き残るという厳しい現実が待っている。これとは裏腹に、Demo Dayは大学の文化祭のようで、お祭り騒ぎでイベントが進行した。過去にはこのステージから、有望な新興企業が全米にデビューしている。

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物流サービスへの挑戦

Demo Dayでは、物流サービスに関する新技術の登場が相次いだ。Doormanという新興企業は、サンフランシスコに拠点を置き、消費者向け宅配サービスを開発している。消費者がEコマースサイトで購入した商品を、顧客の指定時間に配送するサービスである。昼間家を不在にしている人は、配達時間を帰宅後に指定することで、商品を受け取ることができる。日本では当たり前のサービスであるが、アメリカでは配達時間を指定できるサービスは殆どない。不在の時に配達されたパッケージをしばしばUSPS (アメリカ郵便局) に受け取りに行くが、長い列で待たされ、とにかく不便極まりない。

宅配のラストマイルを担う

Doorman共同創設者Zander Adellがステージ上でサービスの仕組みを解説した (上の写真) 。Doormanは宅配サービスのラストマイルに位置している。Doorman利用方法は次の通りである。

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消費者はEコマースサイトで買い物をし通常通り支払い手続きを行う。その際、商品配送先を自宅ではなく、Doorman集配所を指定する。私のケースでは上の写真左側の住所を指定する。商品は輸送会社によりDoorman集配所に配送され、ここからDoormanが自宅に配達する仕組みとなる。

Doorman集配所に商品が届くと、消費者のスマホにメッセージが送信され、Doormanからの配送スケジュールを設定する (上の写真右側)。この画面で配達日と時間帯を指定する。配達時間は午後6時から深夜までで、二時間の枠で指定できる。(但しゴールドメンバーになると一時間の枠で指定できる。)

配達時間は利用者の帰宅後の時間帯で、日中に家を留守にしている消費者を対象にしたサービスだ。休暇などで不在の時はDoormanは30日間無料で商品を預かる。同日配送するためには午後5:30までにスケジュールを行う。パッケージの大きさは40ポンド (約20キロ) までとなっている。

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今後はEコマースサイトにインテグレーションして、商品購買の際に、直接Doormanのサービスを指定 (上の写真、出典:Doorman) できるようにする計画である。

Uberを参考にしてサービスを発案

Zander Adellともう一人の創設者であるKapil Israniから、Doorman事業概要について話を聞いた。この事業を始めるにあたり、Uberのモデルが参考になったとしている。Uberとは新方式のタクシーで、利用者はスマホ専用アプリでドライバーと直接つながり、配車などの手配を行う。Uberは運輸ネットワーク・サービスと位置付けられ、Google Venturesが大規模投資を行ったことでも話題となっている。消費者はスマホ専用アプリでUberを呼び、タクシー利用が格段に便利になった。Adellは、「Uberの便利さを宅配サービスに応用する」と述べ、「大手企業の宅配サービスは”ルート最適化”で」効率化を追求しているが、消費者にとってのメリットは小さいと説明。Adellは、Doormanは「”顧客最適化”を行い利便性を追求する」と、その構想を語った。

出足は上々

消費者は指定時間に商品を受け取ることができ、格段に利便性が向上するが、追加費用が発生する。消費者はEコマースサイトで配送料を支払い、これに加えてDoormanにも配送料 (3.99ドル / パッケージ) を支払う。このサービスはサンフランシスコで始まっており、Adellによると、Twitterなどで利用者の反応が寄せられ、評判は上々である。Doormanは生まれたてのベンチャーで、消費者が追加料金を払ってでも利便性を求めるのか、これから市場の評価を受けていくこととなる。USPSの前時代的宅配サービスに苦しんでいる消費者としては、Doormanのような新世代サービスが広がることに期待を寄せている。

大きな構想があるのか

Doormanは便利な宅配サービスだけなのか、それとも大きな構想を抱いているのか、Adellの話しを聞いて疑問が頭をよぎった。Uberの価値は、便利なタクシーだけでなく、タクシーと乗客と目的地のデータを解析し、運輸ネットワークを最適化するアルゴリズムにあると言われている。GoogleがUberに大規模投資を行ったのは、このアルゴリズムが目的であるとも言われている。Doormanの利用者数が増えると、利用者の住所や時間や嗜好と宅配サービスで膨大なデータが集まる。それをビッグデータ解析することで、”顧客最適化”した宅配ネットワークが可能となる。更に、Doormanのビジネスモデルについても多くの展開方法がある。単独で事業展開するのか、それとも、大手宅配企業のプレミアムサービスとしてプラグインするのか、選択肢は少なくない。Adellはこれらについては何も触れなかったが、Doormanは将来性を感じさせる新興企業である。

伸縮するセンサーを皮膚に貼り健康管理、スマホ認証技術にも応用

Friday, November 8th, 2013

デジタル・ヘルスで斬新なセンサー技術の登場が相次いでいる。その中で皮膚に貼り付けるセンサーが話題になっている。これは「BioStamp」という名称で、バンドエイドのように皮膚に貼り付けて、身体の状況をモニターする (下の写真) 。BioStampは伸縮する電子回路でセンサーを構成し、MC10というベンチャー企業が開発している。

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様々なセンサーを伸縮電子回路に実装

MC10はCambridge (マサチュセッツ州) に拠点を置き、伸縮する電子回路をセンシング技術に応用している。MC10が開発している技術は、デジタル・ヘルス、医療機器、スポーツの分野で利用されている。BioStampはデジタル・ヘルス向け技術で、利用者はBioStampを皮膚に貼り、身体の状況をリアルタイムでモニターする。BioStampが収集するデータは、脈拍数、体温、紫外線吸収量、脳の活動などである。収集されたデータは、スマートフォン経由でクラウドに送信され、解析が行われる。

BioStamp回路構成は下の写真の通りで、ECG(心電図)センサー、EEG/EMG(脳波/筋電図)センサー、温度センサー、ひずみゲージを搭載している。ECGセンサーは不整脈など心臓の慢性疾患などを検出する。EEG/EMGセンサーは脳波を測定し、脳・神経の活動やストレス状況を把握する。EEG/EMGセンサーは、また、筋肉の活動を検知し、リハビリテーションなどで利用する。温度センサーは体温を測定する。

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MC10は上記以外にもセンサーを開発しており、Skin Hydration & Fitnessセンサーは発汗量や皮膚の状態を把握する。UV & SPFセンサーは紫外線吸収量を計測する。BioStamp最新モデルは、シールを貼る形式から、電子回路を皮膚にスタンプする方式に進化した。この上からコーティング・スプレイを吹きかけ、防水仕様で二週間使用できる。BioStampは開発中で、五年以内に出荷され、価格は10ドルの予定である。

Motorolaがスマホ認証技術として利用

BioStampはデジタル・ヘルス向けの技術であるが、Motorola MobilityはBioStampを認証技術に応用する研究を開始した。これは同社が明らかにしたもので、BioStampを皮膚に貼り付け、スマートフォンのユーザ認証を行う。詳細は明らかにされていないが、スマートフォンのNFC機構を利用し、BioStampの生体情報を読み込み、認証する方式と思われる。他に、Proteusというセンサーを使った認証方式も検討されている。Proteusはピルの中に超小型センサーが埋め込まれ、人がピルを飲み込んで身体の状態をモニターする。スマホ認証のために、センサーを貼り、ピルを飲み込む訳にはいかないので、どのような利用法を考えているのか、検証結果が待たれる。

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医療機器やスポーツ用品として出荷

MC10の伸縮するセンサー技術は医療機器で使われている。MedtronicはSan Franciscoに拠点を置く医療機器メーカで、この技術をカテーテルに応用している。上の写真がその事例で、カテーテルの気球状部分にセンサーを搭載し、患者の状態をモニターする。医師は収集したデータを元に処置を進めていく。他に、手術中にセンサーを直接心臓に貼り付け、術後の患者の様態を監視する方式も開発されている。

MC10の伸縮するセンサー技術はスポーツ用品メーカであるReebokで使われている。この製品は「Checklight」 (下の写真) という名称で、アスリートがヘッドギアとして着装し、頭部への衝撃の大きさをセンサーが測定する。センサーはヘッドギアに実装され、衝撃の強さをLEDライト (首の後ろの部分) で表示する。フットボールで脳震盪を起こし障害が残る事故が多発しており、頭部へ影響度を把握するために利用されている。他にアイスホッケー、ボクシング、スケートボードなどでも利用されている。

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Google Xとの共同研究

1兆個のセンサーが稼働する社会を目指し、そこでの技術的課題を議論する学会「TSensors Summit」では、Digital Healthというセッションが設けられ、センサーを医療システムに適用する技法が議論された。このセッションでMC10はBioStampのサンプルを示しながら、応用事例を中心に、製品概要を紹介した。BioStampを貼り身体の状況をモニターするのが、新しいライフスタイルであるとのビジョンが示された。

学会では触れられなかったが、Google研究機関Google Xが、MC10と共同で、伸縮する電子回路の研究を行っているといわれている。研究内容は公表されておらず、Motorolaとの関係も不明であるが、Googleはデジタル・ヘルスに関心を寄せているとも言われている。BioStampなどバイオ・センサーで、大量のデータが収集され、これを解析し、データの意味を把握するプロセスが鍵を握る。利用者が発症する前に、救急車が到着するなど、データ解析技術が求められる。データ解析はGoogleのコア技術で、デジタル・ヘルスが大きく展開しそうである。

Google Xプロジェクト ~ Googleブランドの自動車を開発

Friday, October 25th, 2013

先週レポートしたGoogle Moonshot (月着陸) の中心組織がGoogle Xである。Google XはGoogle研究所として機能し、1960年代の宇宙開発のように、壮大な目標に向かって研究を進めている。Google X最初のプロジェクトが自動走行車 (Self-Driving Car、下の写真) であり、この研究がGoogle X設立の切っ掛けとなった。

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自動走行技術の概要

Googleは、2009年、スタンフォード大学のSebastian Thrun教授と共同で、自動運転技術の開発を始め、翌年、Google Xを設立し、本格的な研究に着手した。Google自動走行車は、センサーでとらえた情報を人工知能の手法で解析し、安全な走行路を判定するものである。車両上部にLidar (light detection and ranging) を搭載し、レーザーにより物体との距離を測定し、車両周辺の3Dマップを作成する。車両前部と後部にRadarを搭載し、前後の物体との距離・速度を測定し、遠方の物体の位置を把握する。フロントグラスにはビデオ・カメラが設置され、信号機、道路標識、前方の車のテールライトなどを検知する。屋根のGPSアンテナで位置を把握し、四つの車輪にはPosition Estimatorが搭載され、短距離の移動を測定し、正確な位置を算定する。

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人工知能技術で走行路を判定

各種センサーから収集した情報で、自動車の位置を正確に把握できるが、どのレーンを走っているかまでは分からない。そこでLidarのイメージをGoogleの得意とするマップに重ね、どのレーンを走行し、どこに横断歩道や交差点があるかなどを把握する。このスタティックな情報に、他車、歩行者、信号表示、道路標識などダイナミックな情報を重ね合わせ、マップ (上のグラフィックス) を完成させる。これら情報を解析し、安全な走行路を判定する技術として人工知能が使われている。

実際の路上では様々なことが発生し、人工知能では実際の走行を通じた学習が安全走行の鍵となる。このため自動走行車は、San Francisco地区を中心に70万キロを走行し、学習を繰り返した。自動走行車は、山道での大型トラックとのすれ違い、市街地でお母さんがベビーカーを押しての道路横断、有料道路料金所の通過、San FranciscoのLombard Streetの曲がりくねった道の走行などを学習してきた。

路上には判別できないオブジェクトがあり、自動走行車は、ホットドッグ形状の車を自動車と認識できなかった。道路工事でセンターラインが書き換えられたり、レーン減少への対応も必要となる。また、交通事故や緊急自動車など、動的な事象への対応も必要となる。雷雨、雪、竜巻など様々な気象条件での走行など、自動走行車は学習を繰り返し、人が運転するより安全なレベルに達したとしている。

インフラに頼らない独自技術

Google開発責任者のDave Fergusonは、自動運転技術開発目的について、時間と資源の有効活用であると述べている。アメリカにおける自動車での通勤時間は平均50分で、自動運転車の登場でこの時間を有効に使える。また、自動運転では前の車との車間距離を短くし、レーン幅も狭くできるため、より多くの車が道路を走行できる。自動運転では、車を所有することなくオンデマンドで利用できるため、駐車場が不要となる。

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自動運転技術では、車車間通信 (車同士の通信)、路車間通信 (車と信号間での通信) など様々な方式がある。アメリカでは1990年代初頭、カリフォルニア州のハイウェイで、路面に磁気マーカーを埋めて自動車走行を制御する方式 (上のグラフィックス) が実験された。この方式ではインフラ整備が自動運転車の前提になる。この方式はその後整備が進まず、Googleはインフラ整備に待ちくたびれ、独自技術で自動運転車を開発したとしている。

自動車メーカーは独自で開発を進めている

Googleは四年後を目途に自動運転技術を製品化すると表明している。一方で、大手自動車メーカーは、独自で技術開発を進めており、Googleの自動運転技術がどのように展開されるのか、予断を許さない。多くの自動車メーカーは、完全な自動走行技術を求めておらず、ドライバーの補助機能を目指している。GMはCadillac向けに「Super Cruise」という名称でこの機能を開発している。自動車は設定された速度で、前の車と車間距離を保ち、レーン中央を自動で走行する。ドライバーはハンドルやペダルから手足を離すことができる。GMはSuper Cruiseを2020年までに市販車に搭載するとしている。アメリカ運輸省は、自動運転のレベルを、Level 0からLevel 4までの五段階で定義している。これによると、Super CruiseはLevel 2 「Combined Function Automation」(複数の自動運転機能の連携) に相当する。一方、Googleの技術は、Level 3 「Limited Self-Driving Automation」 (特定条件下での自動運転技術) に該当する。Googleのアプローチは100%の自動運転技術で、Level 4 Full Self-Driving Automation (全ての工程で自動運転を行う技術) を目指している。(下の写真は視覚障害者がGoogle自動運転車を試験している様子。)

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Googleブランドの自動車をデザイン

Googleは大手自動車メーカーとの提携が難しく、独自で自動運転車を製造するとの報道もある。Reutersは、Googleはドイツ部品メーカーContinental AGと交渉を続けていると報道しており、Google仕様の自動車製造の噂をよんでいる。GoogleがNexusブランドのスマートフォンをHTCなどのメーカーに製造委託しているように、Googleブランドの自動車製造は自然な流れでもある。Googleは、製造した自動車を独自チャネルで販売するのではなく、Robo Taxiとして販売するとの見方もある。Robo Taxiとは、自動走行タクシーで、利用者はRobo Taxiに乗り、目的地まで自動走行で移動する。Fergusonの発言にある通り、自動運転車が登場すると、個人は車を所有するのではなく、必要に応じて利用する形態となる。更に、Google Venturesは、2013年8月、個人タクシー・ベンチャーであるUberに2億5千万ドルと大規模な投資をしており、Robo Taxiのストーリーも現実味を帯びてくる。

Googleは自動運転技術を武器に自動車メーカーに転身するのではなく、センサーで収集した大規模データを人工知能で解析するという手法で、軸足はしっかり情報通信技術に置いている。同時に、Googleは次世代IT企業が果たす新たな役割を暗示しているとも解釈できる。Teslaの最高経営責任者Elon Muskは、雑誌とのインタビューで、100%の自動運転技術開発は極めて困難で、「a bridge too far」 (向こう岸にとどかない橋) と表現している。自動運転技術は自動車メーカーの領域ではなく、IT企業の新たな役割であるとも読み取れる。