Archive for the ‘ロボット’ Category

Uberはシリコンバレーに人工知能研究所を設立、次世代AIで自動運転技術のブレークスルーを狙う

Friday, December 30th, 2016

UberはAIベンチャーを買収し、人工知能研究所を設立することを発表した。研究所はSan Franciscoに設立し、次世代AI技術を開発する。研究成果を自動運転車に適用し、人間のようにスマートに運転できるクルマを開発する。更に、この成果を航空機やロボットに応用することも計画され、UberはAI研究を本格的に推進する。

出典: Uber

Uber AI Labsを設立

Uberは2016年12月5日、San FranciscoにAI研究所「Uber AI Labs」を設立することを発表した。あわせて、AIベンチャー「Geometric Intelligence」の買収を明らかにした。AI研究所はDeep Learning (深層学習) とMachine Learning (機械学習) を中心テーマとして研究開発を進める。買収したGeometric Intelligenceの研究員15名が研究所の構成メンバーとなる。所長には同社CEOのGary Marcusが就任する。

Geometric Intelligenceとは

Uberが買収したGeometric Intelligenceだが、その実態は殆ど知られていない。同社はMarcusらにより設立され、論文などは発表されておらずステルスモードで研究が進んでいる。一方、Marcusは業界の著名人で、講演などでGeometric Intelligenceの一端を紹介している。それによると、同社は少ないデータでアルゴリズムを教育できるDeep Learning技法を開発している。

少ないデータでイメージを認識

Deep Learningでオブジェクトを判定できるようになるには、大量の写真を読み込みアルゴリズムを教育する必要がある。これに対しGeometric Intelligenceは、人間が物を認識するように、少ないデータでイメージを判定できるアルゴリズムを開発している。少量データは「Sparse Data」と呼ばれ、Deep Learning研究の主要テーマになっている。

自動運転車開発の課題

MarcusはDeep Learningで自動運転車アルゴリズムを開発する際の問題点を挙げている。自動運転車開発ではクルマは遭遇するすべてのケースを学習する必要がある。このため、雨や雪の日の走行環境が必要で、天気のいいカリフォルニア州を離れ、別の地域での走行試験が必要となる。クルマやドローンやロボットを含む自律システムの開発ではアルゴリズム教育のためのデータが最大のネックとなる。Geometric Intelligenceは少量データでアルゴリズムを教育し、開発期間を大幅に短縮することを目標にしている。

ハイブリッドAIを開発する

更に、この研究所の最大の特徴はハイブリッドAIを開発することにある。Geometric IntelligenceはDeep Learningだけではなく従来型AIを開発している。具体的にはBayesian Model (階層構造での統計技法) やProbabilistic Model (確率分布の統計技法) などの研究を進めている。これらはMachine Learningの根幹技法で幅広く使われている。しかし、Deep Learningの登場で影が薄れ人気がなくなっているのも事実。

出典: Gary Marcus

ルールベースと統計手法を組み合わせる

Geometric Intelligenceはこれら従来モデルを改良し、Deep Learningと組み合わせて使う技法を開発する。これをハイブリッドAIと呼び、ルールベースの学習モデル (Machine Learning) と統計手法の学習モデル (Deep Learning) を組み合わせたアプローチを取る。多くの自動運転車ベンチャーがアルゴリズムをDeep Learningだけで実装するのに対し、Uber AI Labsは幅広い技法をミックスして使う。

Deep Learningは行き詰る

この背後にはMarcusのAIに対する際立った考え方がある。MarcusはNew York Universityの教授で心理学が専門。MarcusはDeep Learningは行き詰ると主張する。その理由はDeep Learningの教育には大量のデータが必要で、適用できる分野が限られるためである。実社会では常に大量データが揃っているわけではない。特に、言語解析と自動運転車でこの問題が顕著になるとMarcusは指摘する。(上の写真はMarcusのホームページ。Marcusは心理学、言語学、生物学の観点からヒトのインテリジェンスに迫る。)

ハイブリッドAIで構成する自動運転技術

このハイブリッドAIで自動運転アルゴリズムを構成する。ハイブリッド型の学習モデルでは、画像認識にはDeep Learningを使い、少ないデータでアルゴリズムを教育する。運転テクニックについてはルールベースの学習モデルを使う。運転テクニックは汎用的な運転ルールだけでなく、地域に特有な運転ルールなどを学習する。例えば、San FranciscoとPittsburghでは運転マナーが異なるが、ルールベースの学習モデルがこれを吸収する。Geometric IntelligenceはDeep Learningに特化するのではなく、複数の学習手法を組み合わせて使う点に特徴がある。

出典: Uber

Self-Driving Uberの試験営業を開始

Uberはこれに先立ち2015年2月、自動運転車開発センター「Uber Advanced Technologies Center」をPittsburgh設立した。Carnegie Mellon Universityと共同で、自動運転技術とマップ作製技術を開発している。Uberは同5月からPittsburgh で自動運転車の試験営業を始めた。自動走行するUberは「Self-Driving Uber」と呼ばれ、客を乗せて試験営業を展開している (上の写真)。同12月にはSan FranciscoでSelf-Driving Uberの営業試験を始めた。しかし、カリフォルニア州から運行停止命令を受け、Uberの試験営業は中止に追い込まれた。このため、Uberは試験場所をアリゾナ州に移し、2017年早々から試験営業を始めるとしている。

Self-Driving Uberを無人走行させることが最終ゴール

Self-Driving Uberは自動で走行するがドライバーが搭乗し、システムが対応できない時は運転を代わる。クルマがドライバーの支援なしで走れる距離は限られており、頻繁にドライバーの割り込みが必要となる。San FranciscoではSelf-Driving Uberは横断歩道を赤信号で横切ったことがニュースで大きく報道された。このため、Self-Driving Uberの試験営業は時期尚早ではという疑問の声も聞かれる。Self-Driving Uberの自動運転技術は完成度が低いと専門家は指摘する。Uber AI Labsの使命は自動運転技術を飛躍的に進化させることにあり、Self-Driving Uberを無人走行させることが最終ゴールとなる。

出典: Uber

ロジスティックからAI・ロボティックス企業に

UberはAI研究所の成果を自動運転技術だけでなく飛行機やロボットなどにも応用する。Uberは2016年10月、オンデマンドで利用する航空輸送サービス「Uber Elevate」を発表している。Uber Elevateはパイロットが登場しない航空機で、空飛ぶSelf-Driving Uberとして位置づけられる。(上の写真、Uber Elevate はSan FranciscoとSan Joseの間70キロを15分で結ぶ計画。価格は129ドルとUberXと同じレベル。) また、Uberはロボットについては具体的な製品を発表していないが、登場は間近とみられている。UberはロジスティックスからAI・ロボティックスに大きく舵を切り、2017年は企業形態が大きく変わろうとしている。

家全体が人工知能で覆われる、Amazon Echoで創るスマートホーム

Thursday, September 1st, 2016

AIスピーカー「Amazon Echo」はデバイスからAIクラウドに進化した。音声で家電を操作でき、近未来のスマートホームを創りだす。屋外ではウエアラブルがEchoとして機能し、音声でデバイスを操作できる。生活空間全体がAIで覆われる。Echoは我々に言葉の重要性を気付かせてくれた。ボイスファーストの設計思想がAmazon Echoの大ヒットに繋がった。

ハードウェアからボイスクラウドに

Amazon EchoはAIを駆使した音声認識スピーカー (上の写真) で、キーボードは無く言葉で操作する。EchoはAmazonのヒット商品で、2015年末までに300万台が出荷された。今ではEchoの他に、普及モデルの「Echo Dot」と「Tap」が加わり、製品ラインが拡充された。Amazonのビジネスモデルも進化を続け、ハードウェアからAIを活用した音声サービスに向かっている。Amazon Echoの音声機能を一般に公開し、企業がボイスクラウドで独自のサービスを構築する。

Echoで稼働する音声アプリ

この音声サービスは「Alexa」と呼ばれ、企業はこの機能を使いAmazon Echoで稼働する音声アプリを開発する。この音声アプリは「Skill」と呼ばれる。Skillはアプリストアーに相当する「Alexa App」に掲載され、今では1500本が稼働している (下の写真)。気に入ったSkillを読み込みEchoで利用する。Amazonが開発したSkillは同名の「Alexa」と呼ばれ、Echoに組み込まれている。

Alexaの基本機能

毎日の生活でAmazon Echoを使っているが、今では家族の一員となった。EchoでAlexaを呼び出し、ニュースを聞くのが基本パターンである。Echoに対して「Alexa, what’s in the news?」と尋ねると、最新のニュースを話してくれる。Echoは常に周囲の声を聞いているので、「Alexa」と言えばそれに続く指示を理解する。その他に、音楽を再生したり、情報を検索できる。Echoと対話できるので、人間と話しているような気分になる。

音声操作のスマートホーム

Amazon Echoで一番便利だと感じるのが家電を音声で操作する機能だ。スマートライト「Philips Hue」を使っているが (下の写真、左がハブで右がLEDライト)、これを言葉で操作できる。HueはLEDライトに通信機能 (ZigBee) を内蔵しており専用アプリで操作する。オンオフの操作やライトの輝度や色を変えることができる。これをEchoと連携すると音声で操作できる。「Alexa, turn on the light」と指示すると、Alexaは「Okay」と答えライトを点灯する。「Alexa, dim the light」と言えば明かりを絞ってくれる。部屋が近未来の居住空間に変身する。

Apple HomeKitとの連携

Philips HueはAppleのスマートホーム「HomeKit」からも利用できる。専用アプリでSiriと連携することで音声操作ができる (下の写真)。Siriに「Turn off the light」と言えば、ライトを消灯する。Apple WatchのSiriを使うこともできる。

実際に使ってみるとAppleとAmazonの製品コンセプトは決定的に異なることが分かる。Siriの場合はiPhoneを取り出してホームボタンを押す操作が必要となる。Apple Watchではクラウンを長押しする。それ以上に、そもそも家族のメンバーがiPhoneやApple Watchを持ってなくては操作できない。Echoであれば誰でも操作でき、スマートホームのハブとして機能する。HomeKitは個人が操作することを念頭に設計されているが、Amazon Echoは家族みんなが使える構造になっている。

空調やガレージドアとの連携

Echoをサーモスタット「Nest」と接続すると音声で空調の温度を調整できる。「Alexa, set the living room to 72 degrees」と指示すると温度を華氏72度に設定する。ガレージドア開閉装置「Garagio」をEchoとリンクすると音声でドアの開閉ができる。帰宅してEchoに「Alexa, tell Garagio to close my door」と指示すればガレージドアが閉まる。住居の中でEchoの守備範囲が広がっている。

Echoでピザを注文する

Alexa Appに便利なSkillが増えてきた。よく利用するのがピザを注文する「Domino’s」というSkillだ。Echoに「Alexa, ask Domino’s to place my Easy Order」と言うだけでピザを注文できる。Echoは料金と配送時間を告げ、これに「Yes」と答えるだけで焼き立てのピザが届く (下の写真)。ただ、Echoでピザの種類などを指定することはできないため、事前にDomino’sのサイトで好みのメニュー「Easy Order」を指定しておく。これでけで驚くほど簡単に出前を注文できる。

Amazon Voice Service

Amazonは前述の音声サービスAlexaに加え、新たな会話サービス「Amazon Voice Service (AVS)」の提供を始めた。この機能をデバイスに組み込むことで、Echoのような製品を作ることができる。AlexaはEchoなどAmazon製品で稼働するアプリを開発するために利用される。これに対して、AVSはハードウェア製品にAmazon音声サービスを組み込むために利用される。Amazonのビジネスはデバイスから音声サービスに向かっている。

スマートウォッチに音声サービスを組み込む

ベンチャー企業からAVSを組み込んだ製品が登場している。Omate Riseはスタンドアロンで稼働するスマートウォッチを開発している (下の写真)。スマホは必要なく単独で稼働する。3G/Bluetooth/WiFiを搭載し新世代のウエアラブルとして注目されている。Omate Riseで電話、音声検索、音声メモ、ナビゲーション、音楽再生ができ、フィットネストラッカーとしても使われる。Omate RiseはAVSを統合し200以上のSkillをスマートウォッチで使うことができる。Omate RiseがEchoとなり、屋外でもAlexaを使うことができる。

マシンが利用者の感情を理解する

AmazonはAlexaが利用者の感情を理解する機能を開発している。話し方のトーンで利用者がどう感じているのかを把握する。使い方としては、利用者の意図が伝わらなくてイライラしていることをAlexaは声のトーンから把握する。そうするとAlexaは利用者に申し訳なさそうに謝罪する。Machine Learningの手法で声に含まれている感情を高精度に把握する。マシンが利用者の心の動きに沿った対応をする。

ボイスファースト

Amazon Echoの最大の特徴は入力モードは音声だけであること。ボイスファーストのコンセプトで製品が開発され、クールなSkillが続々登場している。マシン操作で音声がいかに重要であるかをAlexaは再認識させてくれた。特にスマートホームの操作では音声が決定的に重要なインターフェイスになる。Amazon Echoの大ヒットを追って、GoogleはAIアシスタント「Google Home」を開発している。AppleはAIスピーカー「Apple Home」を開発していると噂されている。

AIクラウドでの音声サービス

音声認識の精度だけで比較するとGoogleがAmazonを上回る。しかし、人間のように会話する能力はAmazonが上回る。小さな女の子が遊びに来てEchoと話をしたが、スピーカーが人間のように話をするので気味悪がって近づかなくなった。小さな子供への対策が必要かもしれないが、これからはボイスクラウドが大きなビジネスとなる。ロボットやチャットボットなどと同様に、AIの進化が音声サービス機能を急速に向上させている。

無人で走行するクルマはできるのか、 Google自動運転車開発最大の危機

Sunday, August 14th, 2016

Google自動運転車開発の総責任者Chris Urmsonは2016年8月、会社を離れた。ここ最近プロジェクトのキーマンが相次いでGoogleを離れており、トップのUrmsonが去ることで自動運転車開発は大きな打撃を受けた。辞任の背後には自動運転車の製品化で意見の相違があるとされる。Google自動運転車開発は最大の危機に直面した。

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UrmsonがGoogleを離れる

UrmsonはニュースサイトMediumに記事を投稿しGoogleを離れることを明らかにした。記事の中で自動運転技術開発を振り返り、Urmsonの開発思想を改めて明らかにした。Urmsonはカーネギメロン大学で研究者として自動運転技術の開発に携わってきた。2009年、Googleに加わり自動運転技術の開発に貢献してきた。2013年にプロジェクト創設者 Sebastian ThrunがGoogleを離れると、Urmsonが開発チームのトップとして開発をけん引した。(上の写真は博物館に展示されているGoogle自動運転車。)

Urmsonは記事のなかで自動運転車開発を選んだ理由を述べている。自身や仲間があえてこの開発に打ち込む理由は、人間が運転するより安全なクルマをつくり交通事故を減らすこと述べている。一方、Urmsonはプロジェクトを去る理由については何も語っていない。また、これからの計画についても白紙だとしている。しかし、今頃はAppleやUberなどからオファーを受けていることは確実で、自動車メーカーの力関係が変わる可能性を含んでいる。

自動車メーカーとの提携は進まない

Google自動運転車部門はUrmsonが組織の顔となっていたが、この部門のトップはJohn Krafcikである。Googleは2015年9月、最高経営責任者としてKrafcikを採用した。KrafcikはHyundaiの社長などを歴任した自動車業界のベテランで、Googleでは自動車メーカーとの提携を主務としている。Urmsonは技術開発の総責任者として役割を分担してきた。

2016年1月、GoogleはFordと提携して自動運転車事業を進めるとの報道があった。しかし、両社からは何も発表は無く、提携協議は難航しているとの見方が広がった。その後、Fordは自動運転車開発を強化するとの報道があり、両社の提携は難しいとみられている。

2016年5月には、GoogleはFiat Chrysler Automobilesと提携し、同社のプラグインハイブリッド・ミニバン「Pacifica」をベースに自動運転車の開発を始めた。100台のPacificaに自動運転技術を実装し試験走行を実行する。最近では白色のPacificaに黒字でGoogleとプリントされた車両を見ることがあり、両社の共同開発は動き始めている。しかし、ChryslerがGoogle自動運転車を製造するなど、踏み込んだ共同開発については何も語られていない。(下の写真はシリコンバレーで走行試験を重ねるGoogle自動運転車。)

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自動車メーカーが提携を躊躇する理由

Googleは他の自動車メーカーや自動車部品サプライヤーと自動運転技術に関する提携を模索しているといわれている。Urmsonが繰り返し表明してきたように、Googleは自社でクルマを製造する計画はない。Googleはあくまで自動運転技術の開発に集中し、クルマの製造は提携企業に委託する。しかし、自動車メーカーはクルマがEVに向かう中、Googleに製品の中枢部分であるソフトウェアを押さえられると、事業の主導権が奪われるとして危機感を示している。

更に、自動車メーカーは一挙に全自動運転にジャンプすることにも難色を示している。メーカーはTesla Autopilotのような半自動運転車を投入し、その後、時間をかけて完全自動運転車に進むロードマップを描いている。これに対してGoogleは、半自動運転車はクルマとドライバーの間で制御を渡すプロトコールが難しく、危険であるとのポジションを取る。これを「Hands-off Problem」と呼び、緊急の際にドライバーがとっさに運転を代わることは危険であるとしている。これがUrmsonの開発思想であり、この基本方針の元でチームをリードしてきた。

Googleは優位性を保てるか

Googleは2007年から自動運転技術の開発を始め9年が経過した。Urmsonは自動運転車を2019年に出荷するとの見通しを示した。しかし、初期モデルは走行できる地域が限定され、時間をかけて徐々にその範囲を広げる。最終モデルは30年後になるとも述べている。開発から12年で製品が出荷されるだけでなく、その後の見通しが立っていないことを意味している。

Googleが先行していた自動運転車は開発が難航していることが明らかになった。更に、メーカーでの自動運転技術開発が進み、その差は明らかに縮まっている。また、ベンチャー企業は高度な手法で自動運転技術を開発しており、Googleの地盤沈下が鮮明になっている。Thrunがチームを率いていた時と比べ、Urmsonの世代では新技術開発の勢いが鈍ったようにも感じる。(下の写真、Google自動運転車は夜間の走行試験を始めた。)

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会社経営陣と開発部門の意見の相違

Alphabet最高経営責任者Larry Pageは自動運転車を早く事業化することを求めている。Pageは製品出荷を急ぐようUrmsonに迫ったとされる。どんなやりとりがあったのかは公表されていないが、Pageは完全自動車の完成を待てばビジネスチャンスを逃してしまうとの危機感を持っている。半自動運転車として製品化することを強く求めたのかもしれない。これに対し、Urmsonは半自動運転車は危険であるとのポジションを崩していない。この開発方針の相違が今回の辞任につながったとの見方もある。会社トップは事業化を急ぎ、開発部門は納得できる製品の開発を固辞し、両者の関係が悪化した。Urmsonの記事はこのようなやり取りを暗示している。

ロボット開発でも同じ問題

Googleのロボット開発部門「Replicant」でも同じ問題を抱えている。GoogleはBoston Dynamicsを始め有力なロボット企業を立て続けに買収した。Alphabet経営陣は短期間でビジネス化することを求め、開発グループとの関係がこじれている。ReplicantトップのAndy Rubinは会社を去り、Boston Dynamicsは売りに出されているとの報道もある。自由闊達な開発環境がGoogleの魅力であったが、Alphabetに組織変更されてからは、ビジネスとしての収益構造を厳しく問われている。

自動運転車の進化を肌で感じる

Mountain ViewでGoogle自動運転車の走行試験を毎日見ていると、運転技術の進化を肌で感じる。2015年6月、Googleは自動運転車の路上試験を開始した。当初は、自動運転車と一緒に走行すると危険を感じることが少なくなかった。信号機のない交差点で自動運転車がフリーズし、戸惑ったこともある。その当時の自動運転車は、自動車学校の構内で運転している生徒のようにぎこちない運転であった。(下の写真は試験走行を開始したころのGoogle自動運転車。)

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それから一年たつと、自動運転車の運転技術は格段に向上した。並走して危険を感じることは少なくなり、人間に例えると仮免許を取って路上教習を受けている生徒のレベルになった。この進化には目を見張るものがあるが、まだ一人で運転できる技量までには至っていない。

自動運転技術でブレークスルーはあるか

このままトレーニングを続けると自動運転車が完成するのか大きな岐路に差し掛かっている。GoogleはLidar (レーザーレーダー) と光学カメラをクルマの眼として周囲のオブジェクトを把握する。これはSensor Fusionという手法で、異なるセンサーで捉えたイメージを使い、機械学習の手法でアルゴリズムを改良する。自動運転技術の標準技法になっているが、アルゴリズムを教育するために異なる環境で走行試験を繰り返す必要がある。このため開発には長い年月を要する。

市場では完全自動運転車を開発するためには別のアプローチが必要との意見も少なくない。AIで世界のトップを走るGoogleは、自動運転車に最新の研究成果を適用すると表明している。Googleの自動運転車開発は大きく動く可能性をはらんでいる。自動運転技術でブレークスルーが生まれるのかどうか、世界が注目している。

クルマのキラーアプリは無人タクシー!自動車産業の”インターネットバブル”が始まる

Friday, July 8th, 2016

配車サービス企業は一斉に自動運転車開発に乗り出した。無人タクシーを事業の中心に据え、公道で試験走行を始めた。消費者はクルマを買う代わりに、無人タクシーを呼んで移動する。クルマを販売する時代からRide (移動) を販売する時代に入る。無人タクシーは自動車産業にどんな影響を及ぼすのか、実態が見え始めた次世代の配車サービスをレポートする。

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Uberの自動運転試験車両

配車サービスは日本でも事業を拡大しているが、米国では日常生活でなくてはならない存在となった。配車サービス最大手Uberは2016年5月、Pittsburgh (ペンシルベニア州) で自動運転車の走行試験を始めた。試験車両はFord Fusionのハイブリッドモデルで、ここに多数のセンサーを搭載している (上の写真)。屋根の上に積んだラック最上部に複数のLidar (レーザー光センサー) を搭載している。正面に向いている円形部分はカメラと思われる。その左右と後部にカメラやレーダーなどを搭載している。更に、フロントバンパーにもLidarを搭載しているのが分かる。

この試験車両は自動運転機能に加え詳細マップを作成する機能を持つ。自動運転モードで走行する時は、専任ドライバーが運転席に座り走行状態を監視し、緊急事態には運転を取って代わる。Uberの自動運転技術は初期段階で、開発レースで先頭集団を追う展開となる。路上試験の目的は安全性の確認で、歩行者、自転車、クルマに交じり安全に走行できることに注力している。

Carnegie Mellon Universityと共同開発

Uberはこれに先立ち、2015年2月、Carnegie Mellon Universityと自動運転技術とマップ作製技術を共同で開発することを表明した。Uberは開発センター「Uber Advanced Technologies Center (Uber ATC)」を設立し、ここで大学の学部や生徒と共同で研究を進めている。対象となる分野はソフトウェア、メカニカル、ロボティックス、機械学習などである。Carnegie Mellon UniversityはStanford Universityと並び、米国の自動運転技術の礎を築いた大学である。UberがCarnegie Mellon Universityと組むことで技術開発が一気に進むとみられている。一方、Uberはその直後、大学から一挙に40名の研究員を引き抜き、アグレッシブな開発手法に批判が集まっている。

LyftはGeneral Motorsと提携

Uberを追うLyftは自動運転技術を独自に開発するのではなく、General Motorsと共同開発する道を選んだ。General Motorsは2016年1月、Lyftに5億ドル出資したことを明らかにした (下の写真)。General MotorsはLyftと共同で自動運転車による配車サービスを開発する。自動車メーカーが本格的に配車サービスに乗り出したことで注目を集めた。更に、General Motorsが開発している自動運転技術で無人タクシー事業を展開する。

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無人タクシーを公道で試験

主要メディアによると、 General MotorsとLyftはChevrolet Bolt EV (下の写真) ベースの自動運転車を開発している。この自動運転車はLyftの無人タクシーとして市場に投入される。Lyft無人タクシーは二年以内にカリフォルニア州で試験走行を始める。当初は専任ドライバーがクルマに搭乗し無人タクシー運行を支援する。無人タクシーは自動で走行し、問題が発生するとドライバーが運転を交代する。五台の車両を使い無人タクシー業務を公道で試験する。無人タクシーに乗るのをためらう消費者も多いと思われる。このため、利用者はアプリで配車されるクルマが無人タクシーかどうかを把握できる仕組みになっている。もし、無人タクシーに乗りたくなければ、オプトアウトできるオプションがある。

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無人タクシーは乗客とのコミュニケーションがカギ

無人タクシーはクルマと乗客のコミュニケーションがカギとなる。自動運転技術に加え、乗客の把握や会話技術を開発する必要がある。例えば、無人タクシーは利用者がクルマに搭乗したことを認識する仕組みが求められる。また、クルマに乗り込んできた人はアプリで配車を求めた本人なのかの確認も必要。更に、乗客が目的地をどう指定するのか、また、クルマは目的地に到着したのをどう把握するのかなど、課題は少なくない。この機能を実現するにはアプリだけでは不十分で、車両側にセンサーなどの機器や会話技術が必要となる。General Motorsが車両と自動運転技術を、Lyftが配車ネットワークを担い、手分けして無人タクシーを開発する。

General Motorsの自動運転技術

General Motorsは自動運転技術を自社で開発しているだけでなく、自動運転ベンチャー「Cruise Automation」を買収しその技術を取り入れた。買収金額は発表されていないが10億ドルと言われている。Cruise Automationはクルマに外付けする自動運転キットを販売していたが、近年はフルスタックの自動運転技術を開発している。General MotorsがCruise Automationを買収した背景には、この技術で自動運転車の開発を加速する狙いがある。Cruise Automationの40人のエンジニアは、General Motorsの自動運転開発チームに加わり、技術開発が本格的に始動した。

Uberは中国を最重要市場と位置付ける

注目される配車サービスであるが、その実態は競争が激烈で、資金力の戦いになっている。配車サービスの多くは料金を低く抑えて顧客を呼び込む。そのため事業は赤字で、それをベンチャーキャピタルからの出資金で補う構造となっている。マーケットシェアを勝ち取るために赤字覚悟で事業が進められる。Uberは北米や欧州など先進国で事業が黒字になったことを明らかにしたが、新興国では巨額の赤字を抱えている。

いまUberの事業開拓の中心は中国やインドなど新興国に移っている。この市場でシェアを獲得するため大規模な資金を投入し事業を展開している。特に中国では業界一位の配車サービス「Didi Chuxing (滴滴出行)」を激しく追う構造になっている。Didi Chuxingが圧倒的なシェアを占める中国市場でUberが戦いを挑んでいる。中国はUberにとって最も重要な市場で、乗客数の三分の一をこの市場に依存している。Uberは中国市場で年間10億ドルの赤字を出しているが、数年のうちに黒字化できるとの見方を示している。

General MotorsがLyftを買収か

Lyftも事業展開で大規模な赤字を出している。ベンチャーキャピタルは赤字補てんのための追加出資を嫌っているともいわれる。このためLyftは投資銀行経由でLyftを買収する企業を探している。すでに自動車メーカーなどにLyft買収の打診が行われた。Lyftは買い手を探しているのか、投資先を探しているのかは不明だが、配車サービスを続けるには大規模な資金が必要となる。General Motorsは、前述の通り、Lyftに5億ドル出資し株を10%を保有している。このため、General MotorsがLyftを買収するのではとのうわさも流れている。

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AppleはDidi Chuxingと無人タクシー開発か

Uberが注目される配車サービスであるが、上述の通り、Didi Chuxingが世界のトップを走る。Didi Chuxingは2012年に現CEOのCheng Weiらにより設立され (当初の名称はDidi Dache)、2015年に同業のKuaidi Dacheと合併し現在の形となった。400都市をカバーし、登録ドライバー数は1400万人で、一日当たりの利用回数は1100万件と言われ、中国市場を独占している。中国でDidi Chuxingが急成長している背景には、自家用車の所有台数が急速に増えていることがある。自家用車を使ったサイドビジネスが人気を集めている。

Appleは2016年5月、Didi Chuxingに10億ドル出資することを明らかにした。Appleが突然中国の配車サービス企業に出資したことで業界に衝撃が走った。様々な憶測が飛び交い、Appleはついに自動車産業に進出することを決断したともいわれている。中国でiPhone売り上げが大きく減少し、Appleは新しい事業を模索している。Appleは自動運転EVの開発を始めたといわれており、Didi Chuxingと共同で無人タクシー事業を展開する公算が深まった。

自家用車を持たなくても生活できる

UberやLyftやDidi Chuxingが配車サービス事業を大規模に展開することで、クルマを利用する形態が根本的に変わろうとしている。消費者はクルマを購入するモデルから、クルマを呼ぶモデルに変わる。実際にシリコンバレーではこの流れが始まり、若者の間ではUberを呼ぶのがクールなライフスタイルと言われている。一方、成人はUberで通勤し自家用車を所有しないライフスタイルが始まっている。Uberはこの需要に応えて通勤用のuberPOOL (乗り合いタクシー、下の写真) を始めている。低料金で通勤できることから、自家用車を持たない生活が現実になっている。

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自動車メーカーは黒子になる

自家用車を持たない生活が社会の主流になると自動車産業が激変する。消費者がクルマに乗るときは、UberやLyftなど配車サービス企業がインターフェイスになる。配車サービス企業のブランドイメージが選択の基準となり、クルマメーカーや車種は二次的な要因となる。これは航空機産業に似ている。飛行機に乗るときは、航空会社のサービスや価格を基準に利用する会社を選ぶ。飛行機の機種を基準にフライトを選択するケースは稀である。つまり、メーカーは配車サービス会社にクルマを卸す黒子に転じる。消費者に直販するケースが減り、ビジネスはB2Bが中心となる。

このためメーカーはクルマの製造だけに留まるのではなく、配車サービス事業に打ってでた。General Motorsがこの流れを象徴しており、Lyftと共同で配車サービスを始める。Toyotaは業界第一位のUberと、VWはイスラエルの配車サービス企業Gettと共同で事業を始める。今年に入りメーカーと配車サービス企業の提携が相次いでいる。

無人タクシーが走れないところをドライバーが運転する

配車サービス企業は、将来は無人タクシーが事業の中心になるとみている。ドライバーの数を減らすことで運用経費を大幅に縮小できるためである。一方、Googleによると自動運転車は運行できる範囲が限定される。どこでも走れるわけではない。最初のモデルは2019年に出荷され、自動運転車は段階的にリリースされる。クルマにとって優しい環境から製品を投入し、順次、難しい環境に拡大していくことになる。道路の観点からは、自動運転車にとってハイウェーや幹線道路の運転は比較的容易だが、市街地中心部分が一番難しい。シリコンバレーは走れるがSan Franciscoは走れないという事態も生じる。自動運転車が走行できないところを人間のドライバーが補う形で事業が始まる。ただし、ドライバーが運転するクルマは料金が高くなる。配車サービス会社は自動運転車と従来型の車両をミックスして最適のバランスで事業を展開することとなる。(下の写真はシリコンバレーで試験走行しているGoogle自動運転車。)

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トップグループにいないと生き延びれない

配車サービス会社にとって最大の差別化要因は短時間でクルマを配車することである。最小の待ち時間でクルマを配車することが、サービス品質の原点となる。現在、Uberの配車時間は数分で、将来的には30秒にすると述べている。これを実現するには利用者数に見合ったクルマの配置が必要になる。つまり特定地域で十分な台数を確保することがサービス品質を決める。特定の都市で独占的に、又はそれに近い形でサービスを提供する必要がある。このため、配車サービス市場では多くの企業が共棲できないという特性を持つ。携帯電話ネットワーク事業に似ており、市場でトップシェアを取ることがなにより重要となる。このため、配車サービス各社は赤字覚悟でシェア獲得に全力を挙げている。

配車サービスはキラーアプリ

配車サービスはITで例えるとクラウドサービスに似ている。利用者はサーバーを買う代わりにインターネットを利用する。つまり、クルマを買う代わりにインターネットでクルマを呼ぶ。IT市場がクラウドに向かているように、自動車産業は配車サービスをキラーアプリと捉え、メーカーがクルマの製造と配車サービスを手掛けようとしている。General Motorsがこの例で、クルマの販売に加えLyftで配車サービスを展開する。一方、Uberのように配車サービスに専念する企業もあり、今後、同様なモデルが登場すると思われる。先行しているGoogleに続き、Appleも中国で巻き返しを狙っている。自動車産業はインターネットブーム前夜の勢いで、無人タクシーがクルマ社会を変えようとしている。

Tesla Autopilotが重大事故を起こす、なぜクルマは止まらなかったのか

Friday, July 1st, 2016

Tesla 自動運転機能「Autopilot」で死亡事故が発生した。Teslaはハイウェーで大型トレーラーの側面に衝突した。米国メディアは自動運転車による初めての事故として大きく報道した。米国運輸当局は事故に関し予備調査を開始する。Autopilotはなぜ目の前のトレーラーを認識できなかったのか、自動運転技術の問題点を検証する。

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ハイウェー走行中の事故

Teslaは2016年6月30日、ブログで事故の詳細を公表した。ブログやメディアによると、事故は5月7日、Williston (フロリダ州) のハイウェーで起こった。Tesla Model Sは自動運転機能「Autopilot」をオンにしてハイウェー (Florida State Road 500) を走っていた (上の写真、イメージ) 。

ハイウェーは中央分離帯で車線が区切られているが、ところどころに交差点がある (下の写真、事故現場と思われる交差点をGoogle Mapsで見た様子)。日本の高速道路のように外部と完全に遮断されているわけではなく、交差点で一般道と交わる。トレーラーは交差点で左折し (地図で左から右に横切る)、Teslaは直進しその側面に衝突した。トレーラーは車高が高く、Teslaはその下を潜り抜け400メートル走って止まった。Teslaのフロントグラスがトレーラー底部にあたり、クルマの上部が大破した。

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なぜトレーラーを認識できなかったのか

Autopilotはなぜトレーラーを認識できなかったのか、Teslaはブログで説明している。これによると、Autopilotは白く塗られたトレーラーの側面を太陽がまぶしい状態で認識できなかったとしている。また、ドライバーも同じ状態で、ブレーキを踏まなかったと説明。更に、Teslaがトレーラーの前、又は後ろに面していたら、Autopilotはブレーキをかけ、大事故を防ぐことができたとしている。

これ以上の説明はないが、Autopilotを支える自動運転技術「Mobileye」はカメラでオブジェクトを認識する。Mobileyeは明るい空を背景に横長の白いトレーラーを認識できなかったことを意味する。Mobileyeは、車両の前後は認識できるが、その側面を認識する機能はまだ備わっていないともいわれている。(下の写真はTesla Model S、カメラはフロントグラス内側に設置されている。)

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なぜレーダーが機能しなかったのか

Teslaは光学カメラだけでなくレーダーも搭載している (上の写真、エンブレム下の長方形の部分)。レーダーはクルマ前方のオブジェクトを認識し、もう一つの眼として使われる。Tesla創業者のElon MuskはTwitterでレーダーについて説明している。Teslaはレーダーを搭載しており前方の車両を認識する。しかし、事故のシーンではレーダーはトレーラーを道路標識と間違って認識したと説明。

説明はこれだけで分かりにくいが、トレーラーの車高が高いため、レーダーはこれを道路を跨って設置されている道路標識と間違って認識し、ブレーキをかけなかったことになる。ハイウェーには道路標識が高い位置に設置されているケースが少なくない (下の写真)。Autopilotはレーダーに映った横長のトレーラーを高い位置に設置されている標識だと誤認識した。

レーダーは遠くにあるオブジェクトまで検知でき、更に、ドップラーの原理を応用しオブジェクトが近づいているのか、離れているのかを認識できる。これを「doppler speed signature」と呼ぶ。しかし、トレーラーが横向きになっていると、レーダーはこれを静止したオブジェクトと判断する。路上には橋や支柱や道路標識など様々な静止オブジェクトがあり、これらとトレーラーを見分けるのが難しい。Muskの説明の通り、トレーラーは高い位置に掲示された道路標識と誤認識され、Teslaは減速しなかった。カメラもレーダーも機能しなくて事故が起こった。

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ドライバーはTeslaのファン

Teslaを運転していたのはJoshua Brownという40歳の男性で、Navy Seals (海軍特殊部隊) に属していた。これは軍隊のエリート集団で社会的な評価も高い。BrownはTeslaの大ファンで、Autopilotで運転している様子をビデオで公開している。その数は40本を超え、Autopilotへの関心の高さがうかがえる。BrownはAutopilotに関して、人並み以上に深い知識を持っていたが、事故を防ぐことはできなかった。一方で、BrownはAutopilotで走行中、パソコンで映画を見ていたのではとの報道もある。最終的には警察の事故調査結果を待たなくてはならないが、Autopilotがうまく機能してきたため、その性能を過信していたのではとの見方もある。

Autopilotは運転補助機能

TeslaはAutopilotの機能は「public beta」で、製品出荷前の試験段階にあると繰り返し説明している。ドライバーがこの機能を起動するとメッセージが表示され、運転責任はドライバーにあると示される。Teslaはドライバーに運転中はステアリングを握ることを求めている。クルマはドライバーがステアリングを握っていることをチェックする機能があり、手放しで運転すると警告メッセージが表示される。

一方、TeslaはAutopilot導入当初は手放しで運転できることを売りにしていた。運転の全責任はドライバーにあるものの、ステアリングを握ることは求めていなかった。(下の写真は筆者がTesla Autopilotを運転している様子。その当時、ハンズフリーがAutopilotのキャッチフレーズであった。) また、Autopilotは運転を補助する機能であるが、この名称は自動運転機能を連想させ、市場にメッセージが正しく伝わっていないのも事実。更に、安全が第一のクルマで、Autopilotは製品ではなくベータと言われて戸惑う人も少なくない。

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米国運輸当局が予備調査を始める

Teslaは規定に従ってこの事故を米国運輸当局NHTSA (National Highway Traffic Safety Administration) に報告した。NHTSAはこの事故に関連し、Autopilot性能やTeslaの開発プロセスなどについて予備調査を始める。事故の原因は車両の設計に問題があるのか、又は、Autopilotが設計通り機能しなかったのかなどを調査する。自動運転補助機能による初めての死亡事故で、 NHTSAの調査結果は他の自動運転車開発に影響を及ぼす可能性を含んでいる。

今までにも事故は起きていた

実は、Tesla Autopilotの事故は今回が初めてではない。ハイウェー走行中にTeslaが路肩に停止していたバンに追突する事故があった。Autopilotで前のクルマに追随して走っていたとき、路肩に止まっているバンを避けるため、前のクルマが右にハンドルを切りすり抜けた。しかし、Autopilotは停止しているバンを認識できず追突した。ただ、渋滞のため低速で走行していたのでけが人などはいなかった。

TeslaはこれをAutopilotの制限事項としてマニュアルに記載し注意を促している。具体的には、前のクルマが車線を変え、そこに車両が止まっていると、Autopilotはこれを認識できないこともあると警告している。まさに上述のケースがこれにあたる。また高速 (時速50マイル以上) で走行しているとき、前方に車両が停止していても、Teslaはブレーキをかけないこともあるとしている。重大な制限事項であるが、これを認識しているドライバーは多くはない。また、これ以外に事故は報告されてなく、ほとんどのケースでAutopilotは正常に動作していることもうかがえる。

Teslaは車両運行データを収集

Teslaの特徴はコネクティッドカーで、車両がインターネットに接続され、運行データが収集される仕組みになっている。今回の事故に関する運行データはTeslaが収集しており、問題の特定などに活用されていると思われる。

これに先立ち、Teslaは車両のデータを収集していることを明らかにした。Tesla車両が事故を起こした際、ドライバーはクルマが急加速したためとし、過失はクルマにあると主張した。これに対してTeslaは、運行データを解析した結果、クルマは低速 (時速6マイル) で走行しているとき、アクセルが踏まれ、出力が100%になったと報告した。収集したデータを解析することで、事故の原因を科学的に解明できることが示された。これからは事故の原因を不当にクルマのせいにすることができなくなった。同時に、クルマの誤作動も克明に分かることになる。

運行データを自動運転車開発に生かす

Teslaが運行データをモニターするのは新しいビジネスにつなげるためとされる。保険会社と提携してドライバーの運転スタイルにあった自動車保険を提案することなどが計画されている。また、収集したデータを自動運転車の開発に利用する。Tesla車両が数多く走っており、走行データを大量に収集できる。豊富な運行データを解析することで走行挙動が分かり、自動運転技術開発で大きなアドバンテージとなる。

市場ではデータが収集されることに懸念の声も聞かれる。ドライバーの了解なく運行データを収集することはプライバシー損害であるとの意見もある。ただ、ドライバーが走行データをモニターされていることを認識すると、事故率が大幅に下がるという統計データもある。プライバシー保護を考慮しながら、車両の安全性を向上する運用が求められる。

米国社会は寛容な態度

Teslaをテストドライブしたとき一番戸惑ったのが、どこでAutopilotを使えるかという点だ。TeslaはAutopilotを使えるのはハイウェーだけで、一般道では使用を禁止している。しかし、実際に道路を走るとこの区分けは分かりにくい。ハイウェーでも郊外では一般道との交差点が現れる。これが今回の事故原因の一つで、ハイウェーと言っても一般道との境はあいまいだ。Autopilotがハイウェーを横切るトラフィックに対応できていない点が事故原因の主要な部分を占める。

自動運転車が重大事故を起こすと、住民から開発に対し反対運動がおこると懸念されていた。一度の事故で数年間は開発が停滞するともいわれていた。しかし、今回の事故に対し米国社会は寛容な目で見ていることが分かってきた。Autopilotへの信頼感は低下したものの、自動運転車開発に対してNoという声は上がっていない。チャレンジに対してそれを応援するアメリカの国民性が背後にあるように感じる。