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自動車の次は宇宙産業が構造変革、Deep Learningを使った衛星画像解析が巨大ビジネスに

Friday, February 19th, 2016

自動車の次は宇宙産業が激変している。Elon Muskが創業した宇宙輸送会社SpaceXはロケットブースターを再利用することで、衛星打ち上げコストを劇的に下げた。Googleは超小型衛星をクラスターで運用するベンチャーSkybox Imagingを買収し衛星ビジネスに乗り出した。NASAは主力衛星で撮影した画像を全て公開するオープンデータ方針を打ち出した。衛星画像の数が幾何級数的に増え続け、Deep Learningを使った解析ビジネスに注目が集まっている。

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国立研究所からスピンアウト

San Franciscoで開催されたカンファレンス「RE.WORK Deep Learning Summit」で (上の写真)、最新の人工知能の技法や応用事例が紹介された。この場でも宇宙産業とDeep Learningの繋がりが話題となった。ニューメキシコ州に拠点を置くベンチャー企業Descartes Labsは、大規模なニューラルネットワークで衛星画像の解析を行う技術を開発している。共同創業者であるSteven Brumbyは「Seeing the Earth from the Cloud」と題して、衛星画像をDeep Learningで解析する技法やビジネスのトレンドを解説した。

Descartes LabsはLos Alamos国立研究所からスピンアウトした企業で、7年間にわたり大規模なニューラルネットワークの研究を重ねてきた。Los Alamos国立研究所は第二次世界大戦当時、原子爆弾を開発したことでよく知られている。その後はスーパーコンピューター研究で世界をリードしてきた。近年は、スパコンクラスのニューラルネットワークで大規模データを解析する技法を研究している。

作物の収穫量を予測

Descartes Labsは衛星画像から有意な情報を取り出す技術を開発している。対象は全ての衛星画像で、そこからFeature Extraction (対象オブジェクトの摘出) を実行する。衛星画像から特定の作物を取り出すことをシステムに教育し、過去10年間の衛星画像に適応する。抽出した作物に対し統計モデルを適用することで、実際の収穫量を予測する。具体的には、衛星画像から農場で栽培されているコーンを取り出し、その年の収穫量を予測する。この情報は政府機関や投資銀行などに提供され、政策決定や投資判断などで活用される。

衛星画像を解析する

Brumbyは作物の収穫量を予測するシステムの概要について言及した。衛星画像処理のアプリケーションを開発するには、データを集約したり、データを浄化する前準備が必要となる。データ量がペタバイトになると、これらの処理も技能を要す。具体的には、衛星画像から雲を取り除くアルゴリズムを開発しクリーンなデータを使う。ちなみに、1972年当時はイメージを処理できる計算能力が十分でなかったため、衛星から受信した画像データはフィルムの形で収められ、冷蔵庫にいれて保存したとのこと。1972年はNASAが衛星を使ったリモートセンシングを本格的に始めた年にあたる。

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Deep Learningが人間の予想精度を上回る

次に、洗浄されたデータを使い、リモートセンシング技術とDeep Learningの手法で作物生育状況のマップを作製する。入力データは衛星で撮影した可視光画像と赤外線画像で、スペクトラム、位置情報、時間情報をベースとしたDeep Learningで特定の作物を抽出する。この際、USDA (米国農務省) が発行している作物収穫量データを使う。これが収穫量のGround Truth (基準量) となり、このデータを使ってシステムを教育する。

上の写真が解析結果で、2015年のコーンの収穫量を予想したもの。2014年との比較をマップに示している。色付けされている部分でコーンが作付されている。水色の部分は前年と比較して収穫量が増えたことを示す。反対に、赤色の部分は減ったことを示す。2014年はコーン豊作の年で、2015年は赤色が目立つ。この解析で、郡や州ごとのコーン作付面積、単位面積当たりの収穫量、全収穫量がわかる。作物収穫量の予測ではBloombergが発行する情報が幅広く使われている。2015年はDescartes Labsがこれに先立ちコーンの収穫予想量を公表した。前述のUSDAも収穫前に作物の収穫量の予測を公表するが、Descartes Labsの予測精度がこれを大幅に上回った。農場を巡回し実際に作物を見て収穫量を予測する人間より、アルゴリズムの技量が上回ることを示している。

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米国政府のオープンデータ政策

このような衛星事業をベンチャー企業が手掛けることができる背景には、米国政府のオープンデータ政策がある。NASAは所有している全ての衛星画像データを無償で公開したのだ。オバマ政権は2009年からオープンデータ政策を推進し、民間企業が政府のデータを活用することで、イノベーションを起こすことを目指した。NASAのオープンデータはこの流れに沿ったプログラムで、人工衛星で撮影した画像の公開に踏み切った。

その一つが人工衛星の草分け的存在であるLandsatを使ったプログラムである。Landsatに搭載されたセンサーが収集した地表のデータを公開した。このプログラムは1972年に始まり、八世代の衛星で地表をセンシングした。現在はLandsat 7とLandsat 8からセンシングデータが送られている。開始当時から現在までの衛星画像データはNASAのサイトの他に、USGS (米国地質調査所) やAmazon AWSで公開されている。上の写真はUSGSが公開している衛星画像のごく一部で、1985年12月にLandsatが東京を撮影したもので、羽田空港などが写っている。企業や個人はこれら画像データを使って新規事業を立ち上げることができる。

衛星ビジネスが転機を迎える

人工衛星ビジネスが大きな転換期を迎えている。今までは人工衛星を使うためには、その打ち上げコストは5億ドルと言われている。この市場のトップを走るDigitalGlobeは人工衛星製造と打ち上げコストを含め7億5千万ドルかかると公表している。これに対してSpaceXは、ロケットブースターを再利用するため、衛星打ち上げコストは6100万ドルと公表している。更に、ペイロードへの搭載重量も増えるため、衛星打ち上げコストは1/100になる。(SpaceX Falcon 9のケースでは、ペイロード1キロ当たりの打ち上げコストは4,700ドルとなる。)

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更に、衛星は大規模で高価な構成から「Constellation」と呼ばれる構成に移ってる。Constellationとは数多くの超小型衛星 (CubeSatと呼ばれる) を連動して運用する方式を指す。この市場のトップはSan Franciscoに拠点を置くベンチャー企業Planet Labsで最大規模のConstellationを形成する。超小型衛星「Dove」 (上の写真) を28台を連動して運用し、「Flock 1」というConstellationを構成する。GoogleはSkybox Imagingを買収しこれを追っている。

人工衛星ビジネスは打ち上げコストと衛星製造コストが劇的に低下し衛星の数が急増している。このためリモートセンシングで収集されるデータ量は増え続け、2020年には現在の50倍となるといわれている。リモートセンシングで収集したデータからDeep Learningの技法を使い情報を引き出す事業に大きな期待が集まっている。応用分野は国防だけでなく、株式や先物取引、都市計画、カーナビや自動運転、環境保全、保険査定、市場調査、サプライチェインなど、幅広い分野が対象になる。Deep Learningは宇宙産業を次の狙いとしている。