Archive for the ‘モバイル’ Category

Androidの「Now on Tap」は便利!ユーザーインターフェイスとしての人工知能がその秘密

Friday, December 4th, 2015

Googleは2015年10月、最新基本ソフトAndroid 6.0 “Marshmallow”のリリースを開始した。Marshmallowは大幅に機能アップし、その中でもインテリジェントな検索機能「Now on Tap」は素晴らしい。ホームボタンを長押しすると、知りたい情報がカード形式で表示される。この背後で人工知能が稼働し、利用者の疑問を先読みし、その回答を表示する。

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インテリジェントな情報検索

「Now on Tap」はアプリ内のインテリジェント機能として位置づけられ、ホームボタンを長押しすると、表示されている頁を検索する。検索結果はGoogle Nowカードとして表示される。例えば、Facebookに投稿された記事を読んでいる時に、知らない言葉に出会ったら、Now on Tapを使う。上の写真がその事例で、FacebookでHillary Clintonが投稿した記事を読んでいるところ (左側)。この記事は「Rosa Parks」について述べているが、誰だかわからない。その際には、ホームボタンを長押しすると、三枚のカードが表示される (中央)。一番下の「Rosa Parks」カードにこの人物に関する情報が表示される。更に、カード下部のアイコンにタッチすると、そのサイトにジャンプする。Google アイコンにタッチすると、Google Appが開き、ここにRosa Parksの詳細情報がKnowledge Graph形式で示される(右側)。これを読むと、Parksは黒人女性の活動家で、黒人の人権を主張して戦ったことが分かる。今までは、Facebookを離れ、検索アプリを開いて情報を検索したが、Now on Tapではそのまま必要な情報にジャンプできる。

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アーティストの評価を読む

音楽ストリーミング「Spotify」で音楽を聞くときも、Now on Tapはとても便利。アーティストの評判や最近の話題に瞬時にアクセスできる。上の写真はSpotifyの新曲ページ「New Releases」を閲覧している様子 (左側)。この中で「The Vamps」というグループが気になるが、どんなバンドなのか知らない。ここでホームボタンを長押しすると、掲載されているアーティストのカードが登場する (中央)。この中で二段目が「The Vamps」カードで、英国大手新聞社Guardianのアイコンにタッチする。そうすると、ニュースアプリが立ち上がり、Vampsに関するレビュー記事を読むことができる (右側)。これによると、Vampsは英国の音楽グループで、その存在感を確立するために苦闘しているとある。音楽を聞きながらアーティストについての理解が深まる。

メールを読みアクションを取る

Now on Tapは受信メールで威力を発揮する。受信メールを読んでいる時に、Now on Tapを使うと、知らない情報を教えてくれ、次のアクションを素早く取れる。下の写真はその事例で、受信メールを読んでいる時に、Now on Tapを起動した様子。

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メールは、「SpectreをCinema 16に見にいこう」という内容 (左端)。Now on Tapは内容を理解し、「Century Cinema 16」、「Spectre」、「Create calendar event」の三枚のカードを表示した (左から二番目)。Now on Tapは、Spectreとは映画であると認識し、カードに関連リンクを表示した。ここでYouTubeアイコンにタッチすると、映画の予告編を見ることができる (左から三番目) 。また、Now on Tapは、Cinema 16は映画館であると理解し、映画館の情報を表示。ここで映画館の場所や上映時間をチェックできる。更に、Now on Tapは予定表カード「Create calendar event」を表示した。このカードにタッチすると、カレンダーアプリが起動し、映画の予定を登録できる (右端)。Now on Tapは情報検索に加え、次に必要な操作を先回りして示し、アプリを離れないでタスクを完遂できる。

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音声で入力するオプション

しかし、Now on Tapは、こちらが探している情報のカードを表示しない時もある。上の写真はその事例で、レストラン予約アプリ「OpenTable」でメニューを確認している様子 (左側)。メニューの「Spanakotiropita」について知りたいのが、Now on Tapはこのカードを提示しない(中央)。このような場合は、Now on Tapの画面で、知りたい単語を音声で入力する。具体的には、「Ok, Google, Spanakotiropita」と語ると、Googleの検索結果が表示される(右側)。これはギリシャ料理で、ほうれん草を挟んだパイであることが分かる。

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Now on Tapの仕組み

Marshmallowは「Assistant」という機能を導入し、アプリを使う新しい方式を始めた。具体的には、ホームボタンを長押しするか、キーフレーズを音声で入力すると、ウインドウが開く。このウインドウで、閲覧しているページに関連するアクションを実行する。この方式の一つが、デバイスにインストールしているアプリとの連携である。

利用者が「Source App」でホームボタンを長押しすると、「Assistant App」が起動し、カード上で利用者がアアクションを取る構造となる。これに従って、「Destination App」が起動して一連の処理が完結する。上の写真がこの一連の流れを示している。ここでは、Source Appは写真アプリ「Instagram」で、川の流れの写真が掲載されている (左側)。Assistant AppはGoogle Nowとなる (中央)。現在は、Assistant Appに登録されているのはGoogle Nowだけである。カードに表示されたGoogleアイコンにタッチすると、Knowledge Graphが表示される (右側)。この場合Destination Appは「Google App」で、検索エンジンが起動する。

Assistant Appはシステムが提供する「Assist API」を使って開発する。このAPIで、Source Appのテキスト及びイメージをコピーし、Destination Appに送信するなどの処理を定義する。また、Source Appは特別な変更は必要ないが、Destination Appは事前に登録しておく必要がある。

AIがUIとなる

Now on TapはGoogle Nowの拡張機能として捉えることができる。そもそもGoogle Nowとは、利用者に関する情報を解析し、求めている情報を先回りして提示する機能を指す。具体的には、利用者のコンテクストを理解し、利用者に回答を提示し、利用者に次のアクションを促す。

Now on Tapはこの一連のアクションを瞬時に提供することを目的に開発された。いま使っているアプリから離れることなく、必要な情報を表示し、次のアクションを取ることができる。構造としては、スマホアプリの上位レイヤーで機能し、Now on Tapが新しいユーザーインターフェイスを構成する。Now on Tapの背後では、自然言語解析など、人工知能が幅広く使われている。ヒトとマシンの関係は、クールなデザインに加え、これからは人工知能がユーザーインターフェイスの重要な部分を担う。

Googleが通信キャリア事業をスタート、LTEとWiFiを統合し生活空間が単一の通信網となる

Friday, July 17th, 2015

Googleが通信キャリア事業に乗り出した。このサービスは「Project Fi」と呼ばれ、MVNO (仮想移動体通信事業者) 方式でネットワーク・インフラを提供する。低価格でサービスを提供するだけでなく、通信キャリアが提供する機能を根本から改良する。スマホの理想形「Nexus」を開発したように、ネットワークのあるべき姿を探求する。米国でProject Fiがスタートし、通信キャリア市場を揺さぶっている。

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近未来の通信網

Googleは2015年6月から、米国で「Project Fi」を始動した。Googleはこのプロジェクトを試験的に展開するとし、地域ごとに人数を限定してサービスを始めた。このため、プロジェクトへの参加は、Googleから招待状が必要となる。筆者も申し込みをしていたが、やっと招待状を受け取り、Project Fiを使い始めた。サポート対象デバイスはNexus 6で、Project Fi専用SIMカード (上の写真) を挿入して利用する。SIMカードはクリップ止めされており、これを使ってスロットを開ける。

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実際に使ってみると、Project Fiは近未来の通信網と言っても過言ではない。LTEやWiFiなど、異なるネットワーク間で、最適な通信網を選択し、サービスを途切れなく利用できる。屋内では、通話やテキストメッセージは、WiFi経由でやり取りする。屋外に出ると、Googleの移動体ネットワーク「Fi Network」に接続される。

ロックスクリーン左上にFi Networkと表示され、Project Fiのネットワークを利用していることを確認できる (上の写真左側)。また、ネットワークの設定や使用状況などは専用アプリ「Project Fi」を使う (上の写真右側)。Network FiはSprintとT-Mobile USの4G LTEを利用している。この意味でMVNOであるが、単に通信網を利用するだけでなく、Fi Networkは両者のうち電波強度の強いネットワークに接続する。

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WiFiとLETでシームレスな通信

印象的なのは、ネットワーク間で途切れなくサービスを利用できることだ。自宅でWiFi経由で電話している時、屋外に出るとネットワークがLTEに切り替わる。通話は途切れることなく、シームレスにハンドオーバーされる (上の写真左側)。屋内でWiFiを使って通話している時は「Calling via Home-7392」と表示される (Home-7392は筆者宅のWiFi)。屋外では「Fi Network」と表示され、Googleの通信網を利用していることが分かる。(上の写真の事例では表示されていない。) Fi Networkと表示されるだけで、背後でSprintとT-Mobileのうち、どちらのネットワークが使われているかは示されない。屋外でWiFiホットスポットがあれば、自動的にここに接続される。

通話だけでなく、データ通信でも自動でネットワークが切り替わる。自宅のWiFiでGoogleの音楽ストリーミング「Play Music」を聞きながら、自動車で屋外に出るとFi Networkに切り替わる。音楽は途切れることなくシームレスに続き、ドライブしながら好みの曲を楽しめる。今まではWiFi域外に出ると、エラーメッセージが表示され、再度接続する必要があった。WiFiとLTEの壁が取り払われ、生活空間全てが単一のネットワークになった感覚だ。どこでも継続して電話やインターネットを使え、生活が格段に便利になったと感じる。

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消費者に優しい料金体系

もう一つの魅力は消費者に優しい料金だ。料金体系はシンプルで、基本料金とデータ料金の組み合わせで構成される。基本料金は月額20ドルで、ここに、通話、テキストなどが含まれる (上の写真、The Fi basicsの部分)。データ通信は月額10ドル/GBとなる。例えば2GBで契約すると月額20ドルとなる(上の写真)。制限量まで使っていない場合は、翌月分の料金から差し引かれる、良心的な料金体系となっている。Project Fiを使い始め、電話料金が半額になった。

ネットワークでイノベーションを興す

革新的なネットワークを低価格で提供するが、Googleの狙いはどこにあるのか、興味深い発言がある。Android部門などの責任者Sundar Pichaiは、Project Fiについての見解を表明した。Googleは基本ソフト (Android) とデバイス (Nexus) だけでなく、ネットワークを含めた統合システムで、技術開発を進める必要がある。個々のネットワークでは技術進化が停滞しているが、包括的なネットワーク環境ではイノベーションが起こると期待を寄せている。

通信キャリアとの関係にも言及した。Project Fiは限定的なプロジェクトで、VerizonやAT&Tなど、既存キャリアと競合することは無い。SprintとT-Mobileはネットワーク回線をGoogleに卸し、空回線を有効利用できる。これにより、ユーザ数が減少し収入は減るかもしれないが、利益率が改善し、収益は増えると期待している。

既存キャリアへの圧力

米国の消費者は低価格で先進的なサービスを使うことができるとして、一様にProject Fiを評価している。つまり、Project Fiが新しい基準となり、VerizonやAT&Tを値下げや新サービス開発に向かわせる可能性を秘めている。Project Fiが黒船となり、米国のキャリア市場が大きく変わろうとしている。

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既に米国キャリアの中で、Project Fi方式を模したサービスが登場した。ノースカロライナ州に拠点を置くRepublic Wirelessは、MVNO方式のキャリアでProject Fiと類似のサービスを導入した。通信はWiFi経由で行い、WiFi環境がない場合は携帯電話回線を利用する。両者の間でシームレスな移行はできないが、有料サービスを最小限に留める仕組みとなる。料金体系でProject Fiの方式を模している。基本料金 (通話とテキストとWiFi) は月額10ドルで、データ通信 (1GB) は月額15ドルとなる (上の写真)。未使用の部分は翌月に払い戻しを受ける仕組みとなっている。Project Fi方式が米国市場で普及し始めた。

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Googleの狙い

モバイル環境でイノベーションが起こり、便利な機能が登場し、通信価格が下がれば、利用者数の増加につながる。これは消費者にとってのメリットであり、同時に、これがGoogleの狙いでもある。より多くの人がインターネットにアクセスすれば、Googleサービス利用者が増え、広告収入などが増える。

Googleは一貫してこの手法を展開しており、Project Fi以外に、高速ブロードバンド「Google Fiber」の前例がある。Google Fiberの最大転送速度は1Gbpsで、主要都市で施設が進んでいる。大手ケーブル会社Comcastはこれに対抗するため、Google Fiberの二倍の性能を持つ「Gigabit Pro」の施設を始める。15年以上無風状態であった米国のブロードバンド市場が、Google Fiberの登場で一気に動き出した。

地球規模では、Googleは気球インターネット「Project Loon」の開発を急いでいる (上の写真)。アフリカや南米など、インターネット環境が整っていない地域に、気球からブロードバンドサービスを展開する。地域住民の社会インフラを提供するとともに、インタネット利用者を増やし、Googleサービスの利用者を増やす狙いがある。

Project Fiの日本への影響

前述の通り、Project Fiの背後では、SprintとT-Mobileの通信網が使われている。T-Mobile最高経営責任者John Legereは、Project Fi向けにネットワークを供給し、新技術が展開されることにを全面的にサポートしている。

一方、Sprint親会社SoftBankの孫正義社長は、Project Fiへの参加に躊躇したとも言われている。Sprintは多くのMVNOに回線を卸しているが、Googleに対しては懐疑的なポジションを取っている。この理由は明らかにされていないが、Googleが通信キャリア事業に参入し、Sprintと競合することを避けたいという思惑があったと推察される。

しかし、Google向けに通信網を提供したのは、Project Fiの手法を学び、日本で類似サービスを展開する意図があるのかもしれない。SoftBankが直接手掛けないとしても、日本のMVNOはProject Fiから学ぶところは少なくない。モバイルサービスは完成形ではなく、まだまだ大きく進化できる余地があることをProject Fiは示している。

モバイル決済事業で激動の予兆!Googleは「Android Pay」で”おサイフケータイ”に再挑戦

Friday, March 13th, 2015

「Google Wallet」で苦戦しているGoogleは、モバイル決済基盤「Android Pay」を投入し、“おサイフケータイ”事業の再構築を目指す。モバイル決済基盤とは分かりにくいコンセプトであるが、Android PayはGoogle Walletというアプリを稼働させるプラットフォームとして機能する。Google Walletだけでなく、他社が開発した決済アプリを稼働させるのが狙いだ。Apple Payという巨人に対抗するため、Samsung Payを含め、Android陣営の力を結集することを狙っている。更に、ここでフィンテック (FinTech) イノベーションが起きることを期待している。激動が予想されるGoogleのモバイル決済戦略をレポートする。

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モバイル決済基盤とフィンテック

Googleの上級副社長Sundar Pichaiは、バルセロナで開催されたWorld Mobile Congressで、モバイル決済基盤「Android Pay」を開発していることを明らかにした (上の写真)。この模様はMobile World Liveで放送された。Android Payは噂が先行していたが、今回初めてその一端が明らかになった。詳細については、開発者会議Google I/Oで発表される予定。

Android Payは、Google Walletとは異なり、モバイル決済基盤で、Android OSで稼働するアプリに、決済機能を提供する。Google Walletは、Android Payで稼働する、一つのアプリとして位置づけられる。具体的には、アプリはAndroid Payが提供するAPIを使い、決済機能を利用できる。Android Payがアプリの背後で、NFC (Near Field Communication) 通信、セキュアーな通信 (トークンを使った通信)、更に、将来は指紋認証による本人確認を行う。つまり、Android Payを使うと、誰でも簡単に”おサイフケータイ”を開発し、事業を始めることができる。決済アプリ開発の敷居がぐんと下がり、フィンテックと呼ばれる斬新なモバイル決済サービスが登場すると期待されている。

Samsung Payとの関係は複雑

Samsungは、同じ会場で前日に、「Samsung Pay」を発表している。これはGoogle Walletと正面からぶつかり、Googleの対応が注目されていた。Pichaiはこの発表に関し、Samsung PayはGoogleのタイムラインと異なるスケジュールで進んでいる、と述べている。具体的な内容には言及しなかったが、Samsung PayもAndroid PayのAPIを使うことができることを意味している。つまり、Samsung PayをAndroid Payで稼働する一つのアプリとして位置づけ、Googleのコントロール配下に置きたい、という意図がうかがえる。Googleとしては、Android陣営内で内輪争いをするのではなく、リソースを共有し、理路整然とおサイフケータイ事業を展開することを目指している。

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Apple Payが”黒船”になった

Google Walletは2011年にサービスが始まったが、利用者数は伸びなかった。しかし、Apple Payの登場で米国市場が一変した。Apple Payが決済方式のスタンダートとなり、それに伴い、Google Walletの人気が出てきた。Google Walletの処理金額が50%増加したと言われている。Apple Payが米国モバイル決済市場の”黒船”になった。

Apple Payを使うためにiPhone 6を購入する人も多いと言われている。店舗により普及率が異なるが、健康食品スーパーマーケット「Whole Foods」(上の写真) では、カード決済の20%がApple Payという統計がある。サービス開始当初はApple Payで支払いをすると珍しがられたが、今では普通の光景になった。レジでiPhoneを手に持っていると、「Apple Payですね」と言って、会計処理をしてくれる。Google Walletではこのような現象は起こらなかったが、Appleの影響力の甚大さを改めて認識した。

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Google Wallet苦戦の理由

Google Walletが市場に受け入れられなかった理由は多々ある。最大の理由は通信キャリアとの関係で、これが事業展開の障害となってきた。通信キャリア三社 (Verizon、AT&T、T-Mobile) は、ジョイントベンチャー「Softcard」(当初の名前はISIS) を立ち上げ、モバイル決済事業を目指した。Google Walletと正面から競合する関係にあった。

このため、通信キャリアは販売するスマートフォンに、Google Walletをプレロードすることを受け入れなかった。更に、通信キャリアは、Google Walletの機能を技術的に制限した。具体的には、Google Walletで決済する時には、セキュアーエレメントに格納しているカード情報を、決済システムに送る必要がある。通信キャリアはこの通信を遮断して、Google Wallet事業を制限した。(セキュアーエレメントは通信キャリアのSIMカードにある。)

筆者はVerizonから購入したスマホで、Google Walletを使ってきた (上の写真)。サービス開始当初は使えたが、途中から使えなくなった。Googleから説明は無かったが、この時点でセキュアーエレメントの通信がブロックされたと思われる。信頼性が第一の決済サービスで、方式の変更は利用者に不安を抱かせる。Google Walletのブランドイメージが大きく低下した。

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通信キャリアを迂回する方式

Googleは通信キャリアに依存しない方式を模索した。その結果、Googleはセキュアーエレメントのカード情報を送信する代わりに、これをソフトウェアでエミュレーションする方式に変更した。この方式はHost Card Emulation (HCE)と呼ばれ、セキュアーエレメントをクラウド上に構築する方式である。HCEは、カード情報をクラウドに保存し、決済処理の際に情報をスマホに読み込み、NFCリーダーに送信する。セキュアーエレメントを使わないので、通信キャリアが通信をブロックすることはできない。

これに先立ち、Googleは2013年10月、Android 4.4 (KitKat) の発表で、OSにHCE機構を搭載することを明らかにした。HCEはOSの追加機能として実装された。KitKat以降のNFC搭載スマートフォンで、Google Walletの”おサイフケータイ”機能を使うことができる。

今ではGoogle Walletは、クラウド・ワレットとしての機能も充実している (上の写真)。店舗での買い物だけでなく、オンラインショッピングの支払いもできる。Google Walletに入出金が纏められ、家計簿としても利用価値がある (左側)。また、いま流行の送金機能もあり、アプリから簡単にお金を送ることができる (右側)。

カード会社もHCE方式を推進

一方、カード会社もセキュアーエレメントを使わないHCE方式を積極的に推進している。昨年2月、MasterCardとVisaは、HCE方式での決済サービスを提供すると発表した。MasterCardはこれを「Cloud Based Payments」と呼び、米国を含む世界15カ国でプロジェクトを展開している。カード会社としては、HCE方式を採用することで、パートナー企業が簡単に”おサイフケータイ”システムを構築でき、モバイル決済事業が拡大するという目論見がある。カード会社のお墨付きで、HCE方式が世界の主流になる可能性も出てきた。

通信キャリアとの和解

技術的な側面だけでなく、Googleと通信キャリアの関係が大きく前進した。Googleは今年2月、Softcardから技術や知的財産を買い取ることに合意した。Softcardは2010年にジョイントベンチャーを設立し、システム開発を始めたが、開発は難航した。2012年にサービス開始にこぎつけたが、その普及は芳しくなかった。Softcardはサービス停止を決定し、上述の通り、Googleが資産や事業を継ぐ形式となった。

この和解により、通信キャリア三社は、Google Wallet事業に全面的に協力することを表明。販売するスマートフォンにGoogle Walletをプレインストールし、Googleはこれ対し料金を払うとしている。また、Google検索に連動する広告手数料を上げるとも言われており、通信キャリアは広告収入増加が見込まれる。一方、GoogleはGoogle Walletで生成されるデータを解析し、広告コンバージョン率を上げ、引いては広告収入向上を目指している。

Android Pay経済圏が出現するか

Googleは大きな障害をクリアーし、Google Wallet事業を再構築する環境が整った。今回は単におサイフケータイ事業だけでなく、パートナー企業がモバイル決済サービスを展開するのを支援する。まず、Samsung Payがこの基盤を利用するのかが注目される。HTCやLGも独自のモバイル決済事業を展開する道が開けてくる。ベンチャー企業からは、クールなモバイル決済アプリが誕生するかもしれない。Android Payはフィンテックのインキュベーターとなる可能性を秘めている。

Samsungが”おサイフケータイ”事業開始!Apple Pay追撃の奥の手を公開

Friday, February 27th, 2015

Samsungは最新モデルGalaxy 6Sの発表イベントで、モバイル決済機能「Samsung Pay」を公表した。Samsungが”おサーフケータイ”事業へ参入することが明らかになった。Samsung Payは、Apple Payを上回る機能を打ち出し、コピーではなくその独創性を強調した。この発表は、SamsungはGoogle Wallet路線には乗らず、独自サービスを展開する道を選んだことを意味する。急成長しているモバイル決済市場で、仁義なき争いが始まった。

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磁気カードリーダーで使えるおサイフケータイ

Samsungは3月2日、バルセロナで開催されたMobile World Congressで、モバイル決済サービス「Samsung Pay」を発表。一連の発表イベントはYouTubeで公開された。Samsung Payは、日本で普及しているおサイフケータイで、スマホをリーダーにかざすだけで、カード決済ができる。Samsung PayはこのNFC (Near Field Communication) 方式に加え、MST (Magnetic Secure Transmission) という新方式をサポートすることを明らかにした (上の写真)。

MST方式とは、磁気カードリーダーでおサイフケータイを使う技術を指す。スマホはカード情報を磁気カードリーダーに送信し、決済処理を開始する。スマホが磁場を生成し、あたかも磁気ストライプカードのように振る舞い、カード情報をリーダーに送る。リーダーは情報を受け取ると、カードをスワイプしたと思い、決済処理を起動する。

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使い方はおサイフケータイと同じ

Samsung Payの使い方は、基本的におサイフケータイと同じ。ディスプレイを上側にスワイプしてSamsung Payを起動。(Apple Payと異なり、アプリは自動で起動しない。) 次に指をホームボタンにあて、指紋認証で本人を確認する。今までは、指紋認証で指をスワイプしていたが、これからはiPhoneと同じように、指をあてる方式に変更された。MST方式では、スマホをカードリーダーの側面にかざして交信する (上の写真)。MST方式はSamsungが買収したLoopPayの技術を使っている。

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LoopPayの技術概要

Samsungは2015年2月、LoopPay買収を発表し、Samsung Payはこの技術を導入した。LoopPayはボストンに拠点を置く企業で、モバイル決済技術を開発し、今でも事業を継続している。「LoopPay CardCase」という名称で製品が提供され、iPhone 6やiPhone 5に装着するジャケット形状となっている (上の写真)。ジャケットに装着されているスライド式のカード (手前の写真)が、磁気カードリーダーと交信する。LoopPayとスマホはBluetoothで交信する。LoopPayを使うには専用アプリ「LoopPay」をダウンロードし、カードを登録する。店舗で支払いする際は、アプリを起動し、PINを入力し、使うカードを選択し、スマホをリーダーにかざす。若干操作手順は異なるが、決済処理技術はSamsung Payと同じ仕組みである。上の写真のように、ジャケットの中に運転免許証を入れておけば、財布を持たないで行動できる。

カード会社や大手銀行がサポート

Samsung Payは既に幅広いエコシステムを築いている。対応しているカードはMasterCard、Visa、American Express。カード発行銀行はJP Morgan Chase、Bank of America、Citi、US Bankなどが名前を連ねている。Samsung Payの強みは、上述の通り、幅広いリーダーに対応していることに加え、主要銀行が発行しているカードを使えること。Samsung Payは、Galaxy 6sとGalaxy 6s Edgeで利用でき、米国と韓国で今年夏からサービスが開始される。

モバイル決済向けセキュリティー技術

カード決済システムの観点からすると、Samsung PayはApple Pay向けに構築されたインフラをそのまま流用している。MasterCardは、Apple Payに対応するため、モバイル決済システム「MasterCard Digital Enablement Service(MDES)」を運用している。Samsung Payはこのネットワークに乗る形で展開される。MasterCardとしては、開発したモバイル決済システムを多くの企業が利用することは大歓迎である。

米国でモバイル決済が普及してきた背後には、不正防止のためのセキュリティー技術がある。利用者がスマホにクレジットカードを登録すると、カード番号に対応したトークンが生成される。これは16ビットの番号で、スマホに格納されているカードを特定するために使われる。店舗で買い物をすると、トランザクションコード (処理毎に固有な番号) が生成され、トークンと伴に暗号化され、決済ネットワークに送信される。カード会社とカード発行銀行で、認証と決済処理が行われる。Samsung Payもこのネットワークで稼働しており、カードリーダーや経路上での、カード情報の盗聴や窃取による犯罪を防止できる。

Samsung Payの優位性

Samsungは発表イベントで、Apple Payに対する優位はMST技術であることを繰り返し強調した。Samsungは、モバイル決済の問題点をNFCリーダーの普及率だとし、米国では90%のリーダーがNFCをサポートしていないと指摘。Samsung Payはこれらリーダーに対応し、利用できる店舗が広がる。MST方式とは奇抜なアイディアで、モバイル決済への敷居が一気に下がりそうだ。

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この優位性を保てるか

一方、米国ではカード決済技術が大きく変化している。大規模なカード情報盗用事件が相次ぎ、オバマ政権はカード会社などに対し、磁気カードをEMVカード (ICカード) にアップグレードするよう指導している。これを受け、Visaなどは、今年10月としていたアップグレード期限を前倒しで実施している。米国の小売店舗はEMVリーダーの導入を急ピッチで進めている。EMVリーダーの多くはNFCリーダーも搭載しており、NFC方式でのモバイル決済環境が整ってきた。上の写真は大手ドラッグストアーの決済端末で、磁気カードリーダー (右端のスロット)、EMVカードリーダー (手前のスロット)、NFCリーダー (奥の楕円形の部分) を備えている。これが標準リーダーとなりつつある。このような環境でSamsung Payがどれだけ優位性を維持できるのか、今後の成り行きが注目されている。

技術面とは別に、Samsung Payを普及させるためには、啓蒙活動が必要かもしれない。買い物をしてカード決済する時に、いきなりスマホを磁気カードリーダーに近づけると、店員さんは驚くかもしれない。カードをスワイプすると思っていると、顧客がスマホをかざすと決済が完了する。新たな詐欺行為と疑われる可能性があり、サービスを展開する前に、MST方式をPRする必要がありそうだ。

Googleとの関係が微妙になる

GoogleはApple Payに対抗するため、Android陣営のリーダーとして、モバイル決済で巻き返しを狙っている。Googleは、敵対関係にあったモバイル決済サービス「Softcard」 (Verizon、AT&T、T-Mobileのジョイントベンチャー) の技術買収で合意に至り、Google Wallet再構築を進めている。この流れの中で、SamsungはGoogle Walletには乗らないで、独自サービスを投入した。Googleと袂を分かつだけでなく、モバイル決済事業でGoogleと正面から競合する。Samsungとしは、スマホ事業の低迷を関連サービスで補うのは、順当な戦略である。SamsungとGoogleの関係が一層微妙になっている。

日本はモバイル決済維新?

Apple Payと同様、Samsung Payも世界市場進出を視野に入れている。Google Walletは、モバイル決済事業をゼロベースで見直し、雪辱を果たそうとしている。おサイフケータイ先進国の日本であるが、これからはApple PayやSamsung Payの上陸を意識する必要がありそうだ。Google Walletも秘策を練っていると思われる。日本ではリーダーの無線通信規格が、国際標準(Type A/B) に対応してきたとも聞こえてくる。新サービスに対応する環境が整いつつあり、今はおサイフケータイ事業が大きく変わる、モバイル決済維新かもしれない。

Amazonは”Siri”搭載スピーカー「Echo」を発表、狙いはスマートホーム!?

Friday, November 7th, 2014

Amazonは音声アシスタント機能を搭載したスピーカー「Amazon Echo」を発表した。Amazon Echoはインテリジェントな家電で、音声で操作する。質問すると人間の秘書のように音声で回答する。Amazon版”Siri”をスマホではなく、家電に搭載している点に特徴がある。家電が頭脳を持ち、Amazonのスマートホーム戦略の一端が見えてきた。

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音楽を再生しニュースを聞く

Amazon Echoは円筒形スピーカーで、家の中に置いて利用する (上の写真)。Amazon Echoに語りかけ、音楽を再生し、最新ニュースを聞く。検索機能もあり、質問するとWikipediaなどを参照し回答する。Amazon Echoは常にオンの状態で、「Alexa」と呼びかけ、これらの機能を使う。

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Amazon Echoをリビングルームに置くと、家族全員で利用できる (上の写真)。「Alexa, play rock music」と話しかけると、Amazon Echoはロックを演奏する。Amazon Echoは7台のマイクを搭載しており、全方向からの音声を聞くことができる。音楽再生中でも、ノイズ・キャンセレーション機能で、指示を聞くことができる。Amazon Echoはスピーカー二基を下向けに搭載しており、360度の方向に音が出て、部屋全体に音楽が流れる仕組みだ。

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ショッピングリストに追加

お母さんは料理をしながらAmazon Echoを利用する (上の写真)。「Alexa, how many teaspoons are in a tablespoon?」と質問すると、Amazon Echoはテーブルスプーンはティースプーン三倍分と回答。更に、お母さんは「Alexa, set timer for eight minutes」と八分経ったら教えてと指示する。料理で両手がふさがっている時は音声インターフェイスのAmazon Echoは便利だ。

Amazon Echoはショッピングリスト機能もある。お母さんが「Alexa, add wrapping paper to shopping list」と指示すると、Amazon Echoは包装紙をショッピングリストに追加する。後日、タブレットで更新されたショッピングリストを見ながら買い物ができる。便利な機能であるが、Amazonとしてはこの機能で、オンラインストアーの販売が増えることを期待している。

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家族の一員

Amazon Echoは目覚まし時計の機能もある。起床時間になるとサウンドで知らせる (上の写真)。これに対し「Alexa, alarm off」と語りかけ目覚ましを止める。起き上がり「Alexa, give me my flash news briefing」と指示すると、Amazon Echoはニュース (NPR News) を読み上げる。AmazonはAmazon Echoが家族の一員となるストーリーを提示している。

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専用アプリから操作

Amazon EchoはスマホやタブレットとBluetoothでペアリングして利用する。Fire OS (上の写真)、Android、iOSブラウザー向けに専用アプリが提供されている。このアプリでアラームのセット、音楽再生、ショッピングリストへのアイテム追加などができる。Amazon EchoはWiFiでインターネットと接続し、家庭のコンセントから給電する。価格は199ドル (Prime会員向けには99ドル) で、販売開始は数週間以内としている。但し、購入にはAmazonからの招待状が必要。

自然言語解析が鍵となる

Amazon Echoはモノがインターネットに繋がれたInternet of Things (IoT) とも捉えることができる。利用者とのインターフェイスは自然言語で、人間の秘書のような役割を担う。この自然言語解析技術が鍵を握る。AppleはSiriを、GoogleはGoogle Nowを、MicrosoftはCortanaを展開している。Amazonはアシスタント機能ではやや出遅れた感がある。Amazonは、2012年10月、「Evi」というイギリス企業を買収した。Amazonからのコメントは無いが、Amazon Echoのアシスタント機能はEviが中心となっていると思われる。Eviは知識ベースとセマンティック検索技術をベースとしたアプリで、音声で質問すると、答えをズバリ音声で返す。Siriのように利用者の場所や時間などを把握し、インテリジェントな回答をする。

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EviはiOSやAndroid向けアプリとして提供されている。上の写真はiOS向けアプリの事例で、明日の天気 (左側) と東京時間 (右側) を質問したもので、正しく回答している。Eviはインターネット上で公開されている信頼できる情報を収集し、知識データベースを構築。更に、Eviは自然言語解析で質問の意味を理解し、最適な形式で回答する。因みに「Amazon Echoとは?」と質問すると、「音声で操作するデバイス」であるとして、製品概要を回答した。サイトへのリンクも示し、製品PRも忘れなかった。

スマートホーム事業へのステップか?

Amazon Echoはスピーカーとして機能するが、家庭内の家電と連携すると、新たな展開が生まれる。Amazon Echoからエアコンの温度調整を行い、電燈のオンオフが可能となる。つまり、スマートホームのハブとして機能する。この市場では、Appleは「HomeKit」を発表し、スマートホーム事業を始動した。Googleは傘下の「Nest Labs」でインテリジェントなサーモスタットを開発中。更にNest Labsはスマートホーム新興企業「Revolv」を買収し、開発を加速している。RevolveはGoogle Glassから音声で家電を操作するコンセプトを発表しており、インテリジェントな家電操作がトレンドとなっている。音声アシスタントや人工知能では出遅れた感があるAmazonであるが、Amazon Echoで巻き返しを図っている。