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グリッド・オペレーティングシステム

Friday, May 23rd, 2008


クラウド・コンピューティング (Cloud Computing) という言葉がトレンディーになり、グリッド・コンピューティング (Grid Computing) という言葉が急に色あせてきた。しかし、グリッドはその役割を終えた訳ではなく、今でも重要なプロジェクトで活躍している。また、グリッドという名前がクラウドと改名され、企業システムで採用される兆しを見せている。

 

現在のグリッド・コンピューティング

グリッドといえば、地球外知的生命体探査の研究を行なっている「SETI@Home (セティ・アットホーム) が余りにも有名である。プエルトリコのArecibo Observatory (アレシボ天文台) に設置された巨大パラボラアンテナで捉えたシグナルを、家庭のパソコンをグリッド状に繋ぎ合わせたシステムで処理するというものである。このプロジェクトは、National Science Foundation (アメリカ国立科学財団) の予算削減のため、中止に追い込まれた。しかし、その後、マイクロソフト創設者の一人であるポール・アレン (Paul Allen) 2500万ドルを寄付し、研究が続行されている。

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続行されているプロジェクトでは、天文台の場所を北カリフォルニアに移し、また、一台の巨大アンテナではなく、市販の衛星テレビ用アンテナを350台接続して、高精度な電波望遠鏡を構築するものである。コモディティ・プロセッサーを大量に接続してクラウドを構成するように、コモディティ・アンテナを大量に接続して、大口径アンテナを形成している。これは「Allen Telescope Allay (アレン・テレスコープ・アレイ) と命名され、昨年10月から42台のアンテナで運用を開始している。プロジェクトの詳細や、稼動しているアンテナのライブ・ビデオについては、SETIウェブサイト[1]で見ることができる。(写真出展: SETI Institute)

 

IBMのグリッド・プロジェクト

SETI@Home以外にもグリッド・コンピューティングの応用は広がっている。先週、IBMは、ワシントン大学 (University of Washington) が、IBMの運用しているグリッドで、コメの遺伝子解析を行なうことを発表[2]した。このグリッドは「World Community Grid (ワールド・コミュニティ・グリッド) と呼ばれており、IBMが培ってきたグリッド技術を無償で提供し、家庭のパソコンを利用して、巨大なグリッドを構成するものである。SETI@Homeと同じ発想であるが、応用の対象は発展途上国の飢餓救済など、コミュニティに貢献するプロジェクトであるという特徴がある。

 

World Community Gridでは、アフリカの気候変動予測など、様々なプロジェクトが実施されているが、最新のプロジェクトは上述のとおり、ワシントン大学の「Nutritious Rice for the World (栄養価の高いコメを世界に) で、収穫量が高くかつ病気に耐性のあるコメの開発を目指している。コメは全世界で食べられているが、多くの地域で飢餓のため、毎年1000万人の人が死んでいる。食料事情を改善するには、コメの品種改良を行なうことが必要で、高性能な「Super Rice」を開発しようというものである。家庭のパソコンにソフトウェアをダウンロードし、ここでコメのタンパク質の形状を解析するプログラムの断片を実行する。数多くのパソコンで実行された結果を集約することで、大規模計算をパソコンの余剰時間で実行できる。 プロジェクトの詳細はWorld Community Gridサイト[3]に掲載されている。

 

企業向けグリッドの構築

グリッドという名前は輝きを失ってきたが、実際にはこのように、科学技術計算を中心に、今でも重要な役割を担っている。クラウド・コンピューティングの到来とともに、グリッドがクラウドと呼ばれ、また、処理内容も大きく変わりつつある。企業環境向けに、この実績のあるグリッドを簡単に導入する試みが進んでいる。その中でカリフォルニア州に拠点を置く「3tera (スリーテラ) というベンチャー企業は、企業向けのグリッド構築ツールを提供している。

 

企業向けグリッドと言う際には、計算機での処理の内容が科学技術計算ではなく、日常のトランザクション処理が中心となる。たとえば、ウェブ・ショッピングでの会計処理であったり、顧客管理処理であったりする。これらのトランザクションを企業内に分散して存在しているサーバー上で展開したり、また、アマゾンの仮想計算機であるEC2 (Elastic Compute Cloud) で展開する方式である。このため、この処理形式をトランザクション・グリッドと呼ぶこともある。

 

グリッド・オペレーティング・システム

3teraは企業内のサーバーを有機的に結合してトランザクション・グリッドを構築するツールである「AppLogic (アップロジック) を提供している。AppLogicを複数のサーバー上に導入すれば、サーバー全体を単一のシステムのように扱える、グリッド・オペレーティング・システム機能を提供している。AppLogicの特徴はその操作性にあり、利用者はグラフィカルにコンポーネントを定義し接続することでクラウドを構築できる。

 

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これはSugarCRM (シュガーCRM) を二台のサーバーで展開するクラウドを、ウェブ・ブラウザー上でインタラクティブに定義している画面である。(出展:3tera) ユーザーの入力、スイッチでの振り分け、ウェブサーバーでの処理、データベースへのアクセスなどを、システム構成図を描く要領で、実線をつなぎ合わせることで行なう。この背後では、ウェブサーバーなどの「部品」はXen (ゼン) 仮想マシンで動く独立したアプライアンスとなっており、AppLogicはこれら部品の定義とプロセス・フローの設定を行なう。企業がクラウドを導入する事例はまだ限られているが、AppLogicのような操作性の高いツールの登場で、企業内クラウド構築への敷居が低くなってきた。




[1] http://www.seti.org/seti/projects/ata/index.php

[2] IBM World Community Grid “Supercomputer” to Tackle Rice Crisis , 5/15/2008, http://www-03.ibm.com/press/us/en/pressrelease/24202.wss

[3] Nutritious Rice for the World , http://www.worldcommunitygrid.org/projects_showcase/rice/viewRiceMain.do