Archive for the ‘web 2.0’ Category

ニューヨーク・アプリ・コンテスト

Friday, March 26th, 2010

オバマ政権が推進しているOpen Government Initiativeは、そのコンセプトが地方政府に広がりつつある。ニューヨーク市は、一番積極的にオープン・ガバメント政策を推進している。また、以前にもレポートしたが、サンフランシスコ市も、このイニシアティブを積極的に展開している。

ニューヨーク市の政策

ニューヨーク市長であるMichael Bloomberg (マイケル・ブルームバーグ) は、01年に市長に当選し、05年に再選され、09年に再度再選を果たし、現在三期目を勤めている。Bloombergは、よく知られているように、株式情報配信会社であるBloombergの創設者であり、企業経営の手腕を生かしてニューヨーク市政を行い、その実績は高く評価されている。Bloombergは、情報技術を幅広く活用して、市民、企業、観光客に、迅速なサービスを提供している。

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Bloombergは、オバマ政権が推進しているOpen Government Initiativeに賛同して、その仕組みをニューヨーク市に適用している。オバマ政権が、連邦政府のデータをData.govで公開しているように、Bloombergは、市のデータを「NYC DataMine」 (NYCデータマイン) というサイト (上のスクリーンショット、出展: The City of New York) で公開している。このサイトには、ニューヨーク市の30の部門が所有しているデータが登録されている。NYC DataMineで公開されているデータ形式は、マシン・リーダブルで、ソフトウェアから読み込んで使うことを前提としている。公開されているデータは、Raw DataとGeographic Dataに分かれており、だれで自由にアクセスすることができる。

BigApps Competition

Bloombergは、NYC DataMineで公開しているデータを有効に活用する目的で、「NYC BigApps Competition」という、アプリケーションのコンペを実施した。市は大量の情報を公開しているものの、市民はこれら情報にアクセスする手段が限られており、情報が有効に活用されていないのが現状である。このため、 Bloombergは、市民や企業にアプリケーション開発を促し、市が公開している情報を、分かり易い形で、市民や企業や観光客に提示することを目指した。コンペは09年10月に開始され、一般からの投票や審査員の審査を経て、先月10年2月に入賞者が決定した。コンペは5つの部門に分かれており、Best Overall Application (総合部門) 一位には「WayFinder NYC」 (ウェイ・ファインダーNYC) が選ばれ五千ドルの賞金を獲得した。

WayFinder NYC機能概要

これは、WayFinderMobile.comが開発した、ニューヨーク地下鉄とPATH (パス・トレイン、ニューヨーク市とニュージャージーを結ぶ列車) の駅を表示するAndroid向けアプリケーションである。(下のスクリーンショット、出展: WayFinderMobile.com)  WayFinder NYCは、Augmented Reality (拡張現実) 技術を使い、Androidを搭載したスマートフォンのファインダーから街並を見ると、地下鉄駅の位置を写真上にインポーズする仕組みである。写真イメージ上に、駅名と路線番号が表示される。利用者はスマートフォンのファインダーを見ながら、左右にパンすると、近くの駅を見つけられ、上にティルトすると、遠くの駅を見つけることができる。また、スマートフォンを地面に向けると、Google Mapsが表示され、目的の駅にタッチすると道順が示される。

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上のスクリーン・ショットでは、目の前0.4マイルのところにAtlantic Ave駅とPacific St駅があり、左方向1.4マイルのところにBergen St駅があることを示している。駅名の下の数字は路線番号である。WayFinder NYCは、前述のNYC DataMineの中の「Path Station Locations」というデータを参照している。これは、shapefile (地理データ) 形式で、Information Technology and Telecommunications部門が作成した、駅の位置を示すデータである。WayFinder NYCは、一般市民が利用できなかったデータを、スマートフォンを通して、分かり易いかたちで提供している。

サンフランシスコ市のオープン政策

サンフランシスコ市長であるGavin Newsom (ギャビン・ニューサム) は、09年10月に、「Open Data」と題するExecutive Directive (市長令) を発行した。この中でNewsomは、サンフランシスコ市のデータを一般に公開することを宣言し、これを利用して市民の間でイノベーションが生まれることを期待していると述べている。Newsomは、DataSF.orgのサイトに、サンフランシスコ市の各部門で所有しているデータを公開している。現在、9の部門から119のデータセットが公開されている。

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このデータを利用して、Elbatrop Ltdは、「SF Trees」 (上のスクリーンショット、出展:Apple) という、通りに植えてある樹木の種別を判別するアプリケーションを開発した。利用者は、サンフランシスコ市内の樹木の位置情報 (住所やGPSデータ) を入力 (左の画面、HaightとAshburyの交差点と入力) すると、樹木の名前 (右の画面、Pyrus、ナシの一種) が表示される。SF Treesは、App Storeで99セントで販売されている。

考察

不況のため税収が落ち込み、アメリカの地方政府が財政難に陥っている。このような時期に、予算を増やして住民サービスを拡充することは不可能である。そこで市は、市の最大のリソースである住民の頭脳を使って、住みやすい街づくりを始めている。住民側は、ボランティア活動だけでなく、これをビジネス・チャンスと捉えて、積極的に参加している。ニューヨークとサンフランシスコで先行事例が出始めたが、この波が全米でどう波及していくのか、注目する必要がある。

オープン・ガバメント最新動向

Friday, March 12th, 2010

オバマ大統領が就任して一年余り経過するが、国民の支持率は大きく低下している。景気は最悪期を脱して、回復基調にあるものの、雇用情勢が改善されず、苦戦している。医療保険改革法案では、野党共和党の全面的な抵抗で、窮地に立たされている。一年前の「Yes, We Can」が遠い過去のことのように感じられる。

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Open Government Initiative概要

支持率とは裏腹に、オバマ政権は、IT政策においては、着実に実績を上げている。以前にレポートした通り、オバマ大統領は就任直後に、「Transparency and Open Government」というメモランダムを発表し、アメリカ政府を前例の無いほどオープンにすると宣言した。オバマ大統領のこの指針は、Open Government Initiativeと呼ばれている。この指針は三つの柱から構成され、それぞれ、透明性、国民参画、共同作業である。透明性とは、政府のデータを公開して、国民に分かり易い形で提示すること。国民参画と共同作業は、政府の施策に、国民の参加と協力を求めることである。データを公開して、アメリカ最大のリソースである国民の知恵を活用して、より良い社会を建設することを目指している。

Recovery.gov概要

このイニシアティブに沿って、ウェブサイトが開設され、機能強化が実施されている。その中で、国民最大の関心事である、景気対策法予算の執行状態を公開したのがRecovery.gov (上のスクリーンショット、出展:Recovery.gov) というサイトである。Recovery.govは、景気対策法の元で実施されているプロジェクトの、予算執行状況を表示したサイトである。このサイトでは、予算執行状況を分かり易い形で開示することと、予算の不正や無駄を発見し報告することを目的としている。ホームページでは、プロジェクト合計で1990億ドルの予算があり、この中で現在570億ドルの予算が使われ、直近の四半期で59万人の雇用が生まれたことを示している。

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更に、地図をドリルダウンしていくと、特定地域での予算執行状態を見ることができる。上のスクリーンショット (出展:Recovery.gov)は、カリフォルニア州マウンテンビューにおける、景気対策法により予算が割り当てられたプロジェクトを、地図上にプロットしている。プロジェクトは、Contract (契約)、Grant (助成金)、Loan (貸付) に分かれて色分けされている。そして、円印をクリックすると、プロジェクトの内容を見ることができる。上のスクリーンショットの中央部のボックスがそれで、SETI Institute (地球外知的生命体探査を行なっている機関) が597,600ドルの助成金を獲得し、これにより3.11人の雇用が生まれたことを示している。

更に、予算の概要には、大学生が行なっている探査研究を継続するためで、予算消化率は50%未満であると記載されている。Recovery.govのサイトで、国民は、景気対策法に基づくプロジェクトの概要や、予算の使われ方について理解することができる。更に、国民は、そのプロジェクトに問題があると判断すると、「Complaint Form」というページから、問題点を指摘することができる。巨額の税金が景気回復に充てられており、国民は、個別プロジェクトのレベルまで、監視できる仕組みとなっている。

Apps for Healthy Kidsというコンペ

各省庁では、オープン・ガバメントに向かって活動を展開している。U.S. Department of Agriculture (米国農務省、USDA) は、「The Apps for Healthy Kids」という名称のコンペを開始した。(下のスクリーンショット、出展: U.S. Department of Agriculture)   これは、9歳から12歳までの子供 (これをTweensと呼んでいる) の肥満を防止するためのキャンペーンである。ソフトウェア開発者が、肥満防止のためのユニークなアプリケーションを開発し、審査員や一般参加者が、その内容を評価するというコンペである。

コンペ参加者は、Data.gov (連邦政府が公開しているデータのポータル) に掲載されている、「USDA Nutrition Dataset」というデータを利用して、ゲームやツールのアプリケーションを開発する。USDA Nutrition Datasetは、食品に含まれているカロリー量を示したデータベースで、一日のカロリー摂取許容量の計算等で使用される。コンペは、一昨日 (3月10日) にスタートし、審査結果は8月14日に発表され、最優秀賞には1万ドルの賞金が支払われる。審査員には、Mark Pincus (Zynga CEO) やSteve Wozniak (Apple共同創設者) が名を連ねている。

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考察

Michelle Obamaは、現在、「Let’s Move! 」というキャンペーンで、子供の肥満を防止するために活動中である。Let’s Move! では、家庭や学校での食生活を改善し、定期的に運動を行うという教育活動である。Apps for Healthy Kidsは、このキャンペーンの一環として、政府が公開しているデータを利用して、ゲームやツールでこれを推進している。また、Michelle Obamaは、ホワイトハウスの芝生を野菜畑に転換して、食生活改善のための啓蒙活動を展開していることでも有名である。オバマ政権は、連邦政府の情報を公開することで、政治や経済対策の動きを可視化して、国民に分かり易い形で情報を提示している。これにより、国民の頭脳という、国家で最大のリソースを活用することを目指している。民主党と共和党の全面対立で、議会はこう着状態にあるが、オバマ大統領のIT政策は、着実に進んでおり、「Change」を実感することができる。

モバイル・インターネット定量分析

Friday, November 20th, 2009

Web 2.0 Summitでは、Morgan Stanley (モルガン・スタンレー) の証券アナリストである、Mary Meeker (マリー・ミーカー) が、「Economy + Internet Trends」と題して、今年の経済動向とインターネット動向について講演を行なった。 (下の写真、出展:O’Reilly Media) この講演の模様については、ここ (http://www.web2summit.com/web2009/public/schedule/detail/9176) で見ることができる。

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講演概要

Meekerは、毎年、インターネット動向について講演を行なっており、市場動向を把握する上で、重要なデータ・ポイントとなっている。Meekerは、上述の通り、証券アナリストで、インターネット市場で起こっている様々な出来事を、定量的な手法で解析している。この分析を通して、我々が日々の生活で直感的に感じている点を、数字やグラフで確認することができる。また反対に、数字で解析すると、日々の印象とは異なった方向に、インターネットが進んでいることもある。このレポートでは、Meekerの「Economy + Internet Trends」中から、今年のインターネット動向のポイントを紹介する。

「Economy + Internet Trends」は二部構成になっていて、前半が経済動向で、後半がインターネット動向である。Meekerの前半部分の結論は、経済は失業率が高いというリスクはあるものの、企業のEPS (一株利益)、インテルの収益、全世界のテクノロジー企業の収益が急速に回復しており、また、IPO (株式公開) 件数・金額とも増えており、景気は底を打って回復しているというものである。特に、テクノロジー分野においては、景気は飛躍的に良くなっていると分析している。

インターネット動向について

一番気になる、今年のインターネット動向については、Meekerは、モバイル・インターネットが予想以上のペースで伸びているとしている。モバイル・インターネットとは、スマートフォンを中心とした、携帯端末からインターネットへのアクセス形態を指す。従来型の、パソコンからのインターネットへのアクセスは、デスクトップ・インターネットと呼んでいる。今年は、デスクトップ・インターネットから、モバイル・インターネットに急速にシフトしていると分析している。更に、Meekerは、このモバイル・インターネット動向を構成する、八つの特徴を示している。

Meekerは、第一番目の特徴として、モバイル・インターネットの市場規模を指摘している。コンピュータ技術は、汎用機、ミニコン、パソコン、デスクトップ・インターネットへと進化し、いまモバイル・インターネットに進んでいる。技術サイクルがひとつ進むと、マシンの数は10倍となってきた。汎用機は100万台出荷され、ミニコンではこれが1,000万台に、パソコンでは1億台となった。今では、インターネットに接続されているデスクトップと携帯電話の台数は10億台となり、2010年にはモバイル機器の台数が100億台となると予想している。モバイル機器とは、携帯電話、スマートフォン、タブレット、ゲーム機などで、インターネットに接続される各種機器を示している。

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Meekerは、モバイル・インターネット利用者数は、予測を上回るペースで進むと予測している。これを従来型のインターネットと比較すると、その違いが鮮明となる。製品出荷開始から8四半期における、Apple (iPhone + iTouch) 利用者数は、最初にISPサービスを開始したAOLの利用者数の八倍にあたるとしている。(上のグラフ、緑色の線がApple、オレンジ色の線がAOL、出展:Morgan Stanley) モバイル・インターネット利用者数の伸び率は、デスクトップ・インターネット利用者数を遥かに上まり進行している。

Apple iPhoneのインパクト

モバイル・インターネットの第二の特徴は、Apple iPhoneの出荷台数である。消費者向けテクノロジー機器の出荷台数を比較すると、出荷開始10四半期で、Apple (iPhone + iTouch) はNintendo WII、Nintendo DS、Sony PSPを抜いてトップになっており、テクノロジー製品としては破格の伸び率を示している。そして、短期的にはAppleのエコシステム (iPhone、iTouch、iTunes、サービスなど) の成長が市場の予測を上回ると見ている。しかし、長期的にはオープン・モバイル (Androidなど) や、キャリアのネットワーク性能問題がApple成長の足枷となると見ている。(キャリアのネットワーク性能問題については、来週のレポートで報告予定。)

第三の特徴として、モバイル・ソーシャルネットを指摘している。ソーシャル・ネットワークの機能拡張と、モバイル・インターネットの性能強化により、携帯端末向けのソーシャル・ネットワークが、次世代の通信基盤になるとしている。携帯端末がクラウドにアクセスして、様々な機能を利用する形態となると指摘している。更に、第四の特徴としては、日本の携帯電話市場を分析し、事業の中心が携帯端末の回線接続から、オンライン・ショッピング、有料サービス、広告事業にシフトするとしている。この有料サービスとは、オンライン・バンキングなど、ショッピング以外の有料サービスを指している。その他の特徴として、米国・欧州キャリアの苦戦を指摘している。これが前述のネットワーク性能問題で、全世界の携帯電話データ通信量は、2013年までに66倍(08年比) となるとしている。欧米のキャリアは、爆発的に増え続けるデータ通信量への対応を迫られている。

考察

厳しい不況から立ち直ろうとしているいま、インターネットはデスクトップからモバイルに遷移している。このトレンドの起爆剤となったのがApple iPhoneである。Apple iPhoneが市場に与えた影響は、日々の生活実感として認識していたが、アナリストによる定量的な分析により、それが確認できた。先のレポートの通り、O’Reillyはこれを、ウェブ・スクエアードと呼び、携帯端末上の集合知と定義している。日本での先行事例が示しているように、モバイル・インターネットで新しい事業を興すべく、多くの企業が急ピッチで準備を進めている。

ウェブ・スクエアード

Saturday, November 7th, 2009

毎年サンフランシスコにおいて、ウェブ技術の最新動向を議論するカンファレンスである、Web 2.0 Summitが開催される。今年も、ウェブ技術の第一人者が招待され、最新技術や将来動向が議論された。カンファレンスでの議論の模様はウェブサイト(http://www.web2summit.com/web2009/)に掲載されているビデオで見ることができ、ここから今年のウェブ技術動向を考察する。

Web 2.0からWeb2に進化

今年のウェブ技術動向のキーワードは、Web2 (ウェブ・スクエアード) である。Web 2.0 Summitに先立ち、Web 2.0という言葉の命名者であるTim O’Reillyは、「Web Squared: Web 2.0 Five Years On」 (ウェブ・スクエアード:Web 2.0の五年間を振り返り) というタイトルの白書を公開した。この白書の中で、ウェブ・スクエアードという新しいコンセプトを紹介している。昨年のWeb 2.0 Summitは、「Web Meets World」(ウェブが実社会と交わる) というテーマで、ウェブ技術が議論された。今年は、これをもう一歩進めて、Web 2.0 + World をウェブ・スクエアードと命名した。ウェブ・スクエアードとは、ウェブが実社会と交わる技術と定義され、デスクトップだけでなくスマートフォンを含む、日々の生活における拡大ウェブ技術を示している。ウェブ技術はWeb 2.0から、Web 3.0ではなく、Web2に進化するとしている。

Web 2.0を振り返ると

白書では、五年前にO’Reillyが命名したWeb 2.0という現象を振り返り、それを検証するとともに、ウェブ・スクエアードにどのように展開されるかを解説している。O’Reillyは、Web 2.0の“2.0”はソフトウェアの版数ではなく、ドットコム・バブル崩壊後に来る“次”のウェブという意味であると、その由来を解説している。更に、Web 2.0の本質はCollective Intelligence (集合知) であると述べている。Collective Intelligenceとは、利用者がウェブから情報を得るだけでなく、ウィキペディアのように、利用者がウェブに知識をインプットし、コミュニティーが新しい価値を創造する動きである。

これに対して、ウェブ・スクエアードでは、人間が知識をインプットするだけではなく、センサーが計測した様々な情報をシステムにインプットする。センサー・ネットワークから構成されるCollective Intelligenceであるとしている。白書ではこのように、ウェブ技術は、人間だけでなく、様々な機器と連携することで、進化するとしている。そして、このトレンドの切欠が、様々なセンサーを搭載しているスマートフォンであるとしている。スマートフォンの爆発的な普及が、ウェブ・スクエアードという現象を引き起こしたことになる。

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ウェブ・スクエアードの事例

白書では、登場し始めたウェブ・スクエアードの事例を、紹介している。その代表が、「Google Mobile App」 (上のグラフィックス、出展:Apple) という、iPhone向けのアプリケーションである。このアプリケーションは、キーワードをタイプする代わりに、音声入力でグーグル検索を行う機能を提供する。ただこれだけの機能であるが、これがウェブ・スクエアードの事例である。スマートフォンでの音声認識技術は、iPhoneではなく、サーバ側に搭載されている。音声認識の対象は検索キーワードで、頻繁に使われる言葉を中心に、ボキャブラリーが増える。つまり、頻繁に使われることで、賢くなっていく。センサー・ネットワークからインプットされた情報で、インテリジェンスが増していくことを示している。アプリケーションを起動して、「Pizza」 (ピッツァ) と質問すると、今いる近辺のピザ・レストランを検索結果に表示する。ピサの斜塔のPisa (ピザ) ではなく、食べ物のピッツァで、しかも現在地に一番近いレストランをトップに表示する。また、前述の通り、音声認識はグーグル側のサーバで行い、クラウド・コンピューティングが、スマートフォンまで降りてきた事例でもある。このように、iPhoneという実生活で一番身近にあるセンサーを利用したシステムがウェブ・スクエアードであり、この形態が社会に広がっている。

情報の影

白書では、ウェブ・スクエアードのひとつの側面が、Information Shadow (情報の影) であるとしている。情報の影とは、リアルの社会のオブジェクトが、バーチャルな社会に影をつくるという意味である。そして、バーチャルな世界の影を、我々は、センサーを通して見ることができる。その実例が、Layar (レイヤー) によるAugmented Reality (拡張現実) である。Layarはオランダの企業で、スマートフォン向けに、同名のLayarという拡張現実のアプリケーションを開発している。下の写真 (出展:Layar) がその事例で、スマートフォンのカメラを通して街の景色を見ると、そこに主要な建造物の説明が付加されるというものである。付加される説明は、銀行名やATMがある場所の表示、また、アパートなど不動産の空室情報である。このように、スマートフォントいうセンサーを通して、建造物というオブジェクトを見ると、その内容説明という影を、バーチャルな世界に投影してくれる。これがウェブ・スクエアードの一面であるとしている。

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考察

本日、Verizonはアンドロイド搭載スマートフォンであるDroid (ドロイド) の販売を開始した。アメリカで最大の携帯電話会社が、アンドロイドをサポートすることで、iPhoneとの競合が鮮明になった。日本は携帯電話先進国であるが、アメリカではスマートフォンが、予想以上のスピードで市場に入ってきた。このような背景で、ウェブ・スクエアードが登場した。ウェブ・スクエアードの意味を、敢えて一言で表現すれば、スマートフォンでのウェブ技術ということになる。Web 2.0はデスクトップでのウェブ技術であったが、ウェブ・スクエアードは、モバイル版Web 2.0と呼んでも大きく外れてはいない。Web 2.0は人々の暮らしを劇的に変えたが、ビジネスとしての成功事例は多くは無かった。これに対して、ウェブ・スクエアードは、如何に社会生活に貢献できるか、また、事業として成り立つかに、大きな期待が集まっている。

ニュース予測証券市場 (DEMO 08より)

Saturday, March 8th, 2008

カリフォルニア州パームデザートで開かれたDEMO 08には、欧米を中心に77のベンチャー企業が集い、最新のテクノロジーが実演された。ここに参加するベンチャー企業は、ユニークなアイディアで聴衆の関心を引き付けるだけでなく、いち早く流行の技術を取り入れているため、今年の技術動向を見る上で大変に参考になる。

Hubdubというベンチャー企業

アメリカ大統領選挙の年に登場したベンチャー企業に「Hubdub (ハブダブ) という会社がある。Hubdubは昨年11月にイギリス・エジンバラで起業し、現在四人で運営している典型的なガレージ企業である。今年1月にサイトを公開し、現在急速に会員数を増やしている企業である。Hubdubは証券取引所の要領で、ニュース結果予想に投資する場を提供している。

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Hubdubはサイトに様々な質問を掲載しており、これに対して会員がその将来を予想して投資する仕組みである。上記は「Who will the 2008 Democratic candidate for President be?(誰が民主党の大統領候補になるか?) という質問に対して、その投資途中経過を示している。会員は「Barak Obama」や「Hillary Clinton」などの選択肢から大統領候補者に選ばれると思われる人をクリックし、投資金額を指定するというものである。会員は入会するとH$1,000を貰え、これを元手に投資をして資産を増やしていく。また会員がこれらの質問を投稿することができる。Hubdub市場においては、オバマ株が61%と、クリントン株の39%を大きく引き離している。

Hubdubの目的

Hubdubのサイトではニュース予測だけでなく、それに関連するニュース記事を幅広く掲載している。利用者は、受動的にニュースを読むだけでなく、投資を介して積極的にニュースから情報を摂取していく。これにより訪問者数を増やし、宣伝広告から収入を得るというのがHubdubのビジネスプランである。そのため多くの人が関心を持つ質問を掲載し、その範囲は、政治、スポーツ、エンターテイメント、ビジネス、テクノロジーと幅広くカバーしている。時節柄、今はアメリカ大統領選挙の結果を占うものに人気が集まっている。

ではHubdubの予想がどれだけの確度で当たっているかを、過去の事例から見てみる。「Will Hillary Clinton cry again by March 4th? (クリントン候補は34日の投票日までに泣くか?) という質問には95%の人がNoと答え正しく予想している。一方で、「Who will win the POPULAR vote in the March 4 Democratic Texas Primary?(34日のテキサス州の予備選挙では誰が勝つか?) という質問には56%の人がObama候補と答え外れているが、会員の予測が世論調査の結果に類似しているのが興味深い。ちなみに次の山場であるペンシルバニア州の予備選挙については、65%の人がクリントン候補が勝つと見ている。

プレディクション・マーケット

Hubdubのアイディアは新しい分けではなく、プレディクション・マーケット (Prediction Market) と呼ばれ、多くの企業や研究機関でシステムが開発されている。Hundubに類似したサービスを提供しているのが「The Industry Standard」という企業である。The Industry Standardはインターネット・バブル期に発刊された雑誌の名前であるが、今ではIDGの一部門としてテクノロジーに特化したニュースサイトとして生まれ変わっている。The Industry Standardはニュースを掲載するだけでなく、ニュースの結果を予測させるサイトも併設して運用している。「Google to buy Digg?(グーグルはDiggを買収するか?) などの質問にイエスかノーで投資をする仕組みとなっている。

ヤフーは「Buzz Game」という名称で、もう少し本格的なニュース結果予測株式市場を開いている。市場はテクノロジーを中心に色々な分野に区分けされ、そこに上場されている銘柄を売買する方式である。例えば「Browser Wars(ブラウザー戦争) という市場には、Mozilla (シンボル: MOZFF)Internet Explorer (シンボル: IE) などが上場しており、実際の株と同じように売り買いをする。利用者は登録すれば仮想の$10,000を貰え、これを元手に投資をしていく。それぞれの銘柄は売買高で値がつき、今日はMOZFF$17.80で、IE$13.13である。ヤフーの目的は株価の動向を見て、テクノロジーのトレンドを予測することである。テクノロジー株式の売買を通して、市場での流行りや廃りの風説 (Buzz) を把握しようとするもので、ひいては、検索キーワードの動向を予測しようとするものである。

現実のニュース結果予測市場

HubdubThe Industry Standardやヤフーは、仮想のお金を貰って投資をするわけで、投資のリターンも仮想のお金であり、必ずしも投資のインセンティブが高いとはいえない。そこで、実際のお金を投資してニュース結果を予測するサイトに、アイルランドのダブリンを拠点とするIntrade (イントレード) がある。主なイベントの結果予測をお金を賭けて行なもので、そのプロセスは株式取引と同じように、株券を売買する。例えばオバマ候補が大統領候補になる事象の株券は$7.36ドルで、クリントン候補の株券は$2.60と値がついている。事象が成就された際には$10.00となり、その差額 (オバマ候補だと$2,64ドル) が手に入る。

これを大学の研究課題として運営しているのがアイオワ大学の「Iowa Electronics Markets」である。ここでは研究目的に学生が自分のお金を投資して資産運用している。

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上はIowa Electronics Marketsでの株価の推移を示したグラフで、黄色がオバマ株で水色がクリントン株。スーパーチューズデイを境にオバマ株が急騰し、クリントン株が大きく根を下げたが、34日のジュニア・スーパーチューズデイでゆり戻しがあったことを示している。現在Hubdubはシンプルな機能を提供しているが、その背後には重要な技術課題が潜んでおり、これからどこまで成長するか気になる企業である。