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CNN*ユーチューブ討論会

Friday, July 27th, 2007


昨日、CNNとユーチューブ (YouTube) が協賛して、民主党大統領候補者の討論会が行われた。この討論会では、各候補者への質問はユーチューブに投稿されたビデオから選ばれ、これを討論会会場の大型スクリーンに映し、司会者であるアンダーソン・クーパー (Anderson Cooper) の指示により、候補者が回答していくという手順で進められた。この新しい方式での討論会をテレビで見たが、予想以上に面白かったので、予定を変更して、その模様をレポートする。

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YouTubeに投稿されたビデオ質問に回答するかたちで討論会が進行した。討論会のログはhttp://www.youtube.com/debatesに掲載されている。共和党討論会は917日。 (出展:CNN)

 

CNNとユーチューブ

民主党や共和党の大統領候補者による討論会は、既に何回かテレビ放送されているが、今回の討論会はユーチューブとCNNのコラボレーションということで、早くから話題になっていた。討論会の前に、ユーチューブ利用者は、各候補者への質問をビデオで投稿した。ユーチューブ・サイトでは、討論会の一週間前から、ビデオによる質問を受け付けた。質問形式は自由であるが、一回の質問時間は30秒と制限された。およそ3,000本のビデオ質問が寄せられ、CNNが事前に、討論会で最適と思われる質問39個を選定し、各候補者がこれに回答するという形で討論会は進行した。

 

討論会での様々な質問

CNNはこの討論会を全米にライブで中継し、討論会を見た感想は一言で、「おもしろい」であった。どんな質問があったかを拾ってみると、その範囲は多岐にわたる。その中でも最大の関心事であるイラク戦争問題に多くの質問があてられた。「大統領に就任したらいつまでにイラクから撤兵するか?」など、米国での厭戦ムードを代表した質問があり、民主党議員の間で意見が割れた。別のビデオ質問では、質問者が星条旗の三つの星を示して、「一つ目は祖父の戦死を、二つ目は父親の戦死を、三つ目は長男の戦死を表している」と家族の事情を説明し、「次男がイラクで命を落とすことが無いようにしてほしい」とイラク戦争を早期に終結すべきと訴えた。戦争による犠牲者が広がる中、米国市民の切実な声を前に、各候補者は選挙のための受け答えではなく、一個人に向かった真実の回答を迫られる場面が一番重く記憶に残っている。

 

多岐にわたる質問の中で印象的であったのが、「米国の投票方式を標準化できませんか?私も手伝います。」というのがあった。2000年の大統領選挙において、フロリダ州の集計処理で米国の非効率な集計方式が露呈したように、米国では日本と異なり、各州が独自の方式で集計処理をする。アフガニスタンで投票集計がスムーズに運び、どうして米国ではうまくいかないのか疑問に感じていたところ、この質問を聞いて、アメリカ人も憤りを感じていることがわかり、少しは救われた気がした。

 

アメリカ社会を反映した質問

もう少し本質的な問題では、黒人議員のバラク・オバマ (Barak Obama) 候補と、女性であるヒラリー・クリントン (Hillary Clinton) 候補に向けられた質問で、「オバマ候補は充分黒人なのか?クリントン候補は充分女性なのか?」という質問では会場が沸いた。質問の意味は、オバマ候補は米国でもトップレベルの資産家であり、人種問題を議論するに値するのかという、本質的な疑問を投げかけている。これに対してオバマ候補は、「マンハッタンでは (専用リムジンではなく)タクシーを使っていると」発言し、再び会場が沸いた。更にオバマ候補は、「若者の希望が肌の色によって潰えないようにすることが私の義務である」と、人種問題に対する基本的な考えを述べた。

 

質問の話題は広範囲に及び、同性愛者の女性二人が、「二人の結婚を認めてもらえますか?」と問いかけ、ある男性は25セント硬貨をクローズアップで映し、「硬貨に刻まれているIn God We Trust (我ら神を信ず) をどう解釈していますか?」と質問をした。話題は地球温暖化問題に及び、雪だるまの子供を映し「この子の将来は大丈夫でしょうか?」と問いかけ、また、世界一高い医療費に苦しんでいる米国市民として、がん治療で髪の毛の抜けた女性が「治療費を保険でカバーしてほしい」と訴えた。「アル・ゴア (Al Gore) は立候補しないのか?」との質問には誰も回答しなかった。質問の最後で、「駐車違反で切符を切られたが、恩赦してもらえますか?」など、候補者が苦笑する質問も含まれていた。

 

ユーチューブが変える社会

ブッシュ政権は日本の安倍内閣を上回るほど不人気で、大統領任期半ばから、すでに話題は次期大統領選挙に集中し、現職の大統領は最近は殆どテレビに登場しなくなった。反対に、大統領選挙討論会は盛り上がり、今までも何回か討論会を見てきたが、今回のCNN*ユーチューブ討論会 (CNN*YouTube Debate) に圧倒的に引き付けられた。各候補者の回答は、今までと大きく変わるものではなかったが、質問の内容が実に多彩で、米国社会の多様性を色濃く反映している。更に、質問者は特別な人ではなく、街のどこにでもいる一般市民で、日々の生活に密着した質問がなされ、共感する部分が圧倒的に多かった。また、街中でインタビューする方式ではなく、ユーチューブという媒体を通しての質問では、質問が「作品」となっており、それ自体が面白い。かつて日本の選挙で「小泉劇場」が話題になったが、米国ではユーチューブにより「大統領選挙シアター」という雰囲気が生まれた。ユーチューブにより、大統領選挙が一気に庶民の手の届くところまで降りてきた感がある。

 

一方、この討論会で、大統領候補の政策が大きく変わったり、問題に対して深い議論が行われたわけではない。候補者がユーチューブの質問に対して一方的に回答しただけで、質問者との応酬があった訳ではない。また、ユーチューブに投稿された質問を選択するのはCNNで、インターネット文化である民衆の意見は反映されていない。多くの問題を抱えているが、CNNとユーチューブの競演はうまくいったといえる。特に、大統領選挙が市民生活と密着していることを強く感じさせる場となった。インターネット技術がまたまた米国の社会生活を変える局面を見る機会に恵まれた。

米大統領選挙戦を変えるビデオ

Friday, March 30th, 2007


今週、ユーチューブ・ビデオ大賞(YouTube Video Awards)が発表[1]された。映画のアカデミー賞に倣って、2006年に投稿されたビデオの中で、優秀な作品を選ぶというものである。今年から始まった賞で、七つのカテゴリーに分かれており、ユーチューブ・コミュニティーが大賞を決定するというものである。この中で「Most Creative」大賞を受賞したのは下記のOKGo作「Here It Goes Again」である。

 

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Most Creative大賞受賞作品であるOKGo作「Here It Goes Again」 (出展:YouTube)

 

これは、トレーニングジムに設置されているトレッドミルで、四人の男性がパフォーマンスをするというものである。テレビのニュースでも大きく取り上げられ、全米の注目を集めるところとなった。しかし、実際に見てみたが、クリエイティブであるが、大賞を受賞するほどの価値があるとは思えなかった。ユーチューブにはたくさん面白いビデオが投稿されているのに、なぜこのような平凡な作品が大賞に選ばれたのか、おおいに疑問の残る選考であった。

 

Vote Differentの投げかけた波紋

ユーチューブ・ビデオ大賞と同時に、米国社会の注目を奪ったビデオに、米大統領候補であるヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)をパロディーにしたビデオがある。このビデオは「Vote Different[2]というタイトルでユーチューブに投稿され、すでに290万回以上視聴されている大人気の作品である。これは、あの有名な1984年のアップル・コマーシャルをマッシュアップしたものである。アップルが「Big Brother」という既存コンピューター勢力を崩壊し、新しい時代を切り開くというストーリーで、女性が走ってきて映画のスクリーンにハンマーを投げるシーンは、多くの人の視覚に焼きついている。今回は、ヒラリー・クリントンが既成勢力で、これを大統領候補のバラック・オバマ(Barak Obama)が打ち破るというストーリーである。非常によくできたビデオで、メッセージもさることながら、画面にひきつけられてしまう。

 

誰が何の目的で製作したのか

このビデオのクレジットでは「BarakObama.com」となっており、オバマ陣営が大統領選挙戦でクリントン陣営の攻撃を目的に製作されたものとの憶測が流れた。しかし、当のオバマ氏はニュース・インタビューで、「自分の陣営では、このようなビデオを製作するほどの技術はない」と否定している。その後騒ぎが大きくなり、このビデオの製作者である「ParkRidge47」という人物が、自身のブログ[3]の中で、本名がPhil De Vellisであり、このビデオを製作した経緯を語っている。Vellisは「Blue State Digitalというマーケティング会社に勤めており、オバマ候補の選挙活動ビデオの製作に携わっていた」ことを明らかにした。Vellis自身も、「オバマ候補の応援者で、オバマ候補が政治を変えることを期待している」と述べている。クリントン候補については、「有権者との対話という政治手法が不誠実で、既成政治勢力であると認識している」としている。Vellisはビデオで「古い政治マシンは、もはや権力を手にすることはできないことを主張した」としている。

 

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Vote Different」でのクリントン候補の「既成政治勢力」イメージ (出展:YouTube)

 

Vellisのブログの中でショッキングなメッセージは、「一市民が選挙プロセスに影響を与えることができることを証明したかった」としており、実際に、そうなりつつあることである。「Vote Different」はテレビニュースで大きく取り上げられ、全米での大統領選挙戦の話題を独占している。またこのビデオは完成度が高く、視聴者を引き付ける魅力を持っている。1984年にマッキントッシュが多くの利用者を引き付けたように、このビデオは民主党員だけでなく、幅広く全米の有権者をオバマ候補に引き付けている。クリントン候補の映像が「Big Brother」とぴったり重なり、視覚的なインパクトは甚大である。Vellisは、更に、「このビデオは自分単独の意図で製作し、オバマ陣営や会社とは何の関係がない」ことを述べ、「混乱を防ぐために現職を辞職した」ことを明らかにしている。

 

ユーチューブと大統領選挙戦

ユーチューブは、良くも悪くも、米国大統領選挙運動のありかたを変えている。2004年の大統領選挙戦では、テレビというメディアでの戦いで、それにブログという新興メディアが影響を及ぼしてきた。しかしブログという性格上、その影響の範囲は、ブログ読者であるインテリジェントな層に限られていた。今度の大統領選挙戦では、ユーチューブに投稿されたビデオが、幅広い層に影響を与えつつある。インターネット・ビデオがテレビに迫る影響力を示しつつある。インターネットでの映像の影響は直接的で、ブログを丹念に読む代わりに、映像としてそのまま視覚に訴えてくる。インターネットでは、User Generated Content(利用者製作のコンテンツ)が氾濫しているが、今年のキーワードはUser Generated Political Ad(利用者製作の政治キャンペーン)になってきた。

 

その一方、インターネットでのビデオ放送について、規制をすべきだという意見も台頭している。テレビでの選挙放送は公正を期すために、連邦通信委員会(FCC)がルールを設けているが、インターネットでの政見放送については何も規制がない。このままでは、各陣営が対抗候補の誹謗中傷を繰り返す無法地帯が生まれる可能性があると懸念されている。ビデオ製作が簡単にできるようになり、ユーチューブのようなインターネット・ビデオが政治を変える時代になってきた。ユーチューブ・ビデオ大賞では、失望が大きかったが、「Vote Different」ではその影響の重大さに驚いた。またもインターネットが時代の一ページを塗り替えつつある。




[1] YouTube, Inc., YouTube Video Awards, http://www.youtube.com/ytawards

[2] ParkRidge47, 3/5/2007, http://www.youtube.com/watch?v=6h3G-lMZxjo

[3] Phil De Vellis, 3/21/2007, http://www.huffingtonpost.com/phil-de-vellis-aka-parkridge/i-made-the-vote-differen_b_43989.html