Archive for the ‘adtech’ Category

AIが人に感動を与える、心に響く広告メッセージはアルゴリズムが生成する

Thursday, July 28th, 2016

AIが生成する文章は機械的で、意味は分かるがそれ以上のものではない。いま、AIは単に文章を書くだけではなく、人の心に響くメッセージを創ることができるようになった。人間のコピーライターの想像力を上回るとの意見も聞かれる。この技術を広告に応用すると、商品の売り上げが伸びる。医療機関はAIが生成するメッセージで効果的な治療法を研究している。男性が女性をデートに誘うときのメッセージの書き方をAIが指南する。米国大統領選挙では、有権者を駆り立てるメッセージをAIで生成しているに違いない。

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アルゴリズムで人の心に響くコンテンツを生成

この技術を開発しているのはNew Yorkに拠点を置くPersadoというベンチャー企業だ。機械学習や自然言語処理の技術を使って、消費者に行動を促すメッセージを生成する。このシステムは「Cognitive Content Platform」と呼ばれ、アルゴリズムが人の心に響くコンテンツを生成する。ウェブサイトやメールなどのキャンペーンメッセージを生成する時に利用する。既に多くの企業で使われ、人間が生成したメッセージに比べPersadoで生成すると、コンバージョン率 (商品を購入する率) が平均で49.5%向上したとの統計データがある。Persadoは人間以上に魅力的なメッセージを創作する。

旅行会社のキャンペーンメッセージ

Persadoはこの機能を「Persado Enterprise」と「Persado Go」として商品化している。Persado Enterpriseはフルスペックのプラットフォームで、Persado Goはその簡易版となる。Persadoを使って電子メール、ウェブページ、Facebook記事、広告メッセージを生成する。例えば、旅行会社がキャンペーンメッセージを生成すると次のようになる。旅行会社のウェブサイトで「期間限定の格安フライト、予約は今だ」との見出しをよく目にする。これに対しPersadoがタイトルを生成すると、「自分のご褒美に最高の旅行を、さあ出発しよう」となる。後者のほうが親しみを抱かせる表現と思えるが、Persadoは統計手法に沿ってメッセージを生成している。Persadoは膨大な数の事例から学習し、コンバージョン率が上がる文字列を生成する。

データベースと機械学習

この背後にはマーケティングメッセージに関する大規模なデータベース (先頭の写真) や機械学習で強化されたアルゴリズムがある。Persadoはマーケッティングで使われる言葉やフレーズを解析し、これらの重みや関係を定義する。言葉は三つのカテゴリーに分類される。「Descriptive」は記述言語を意味し、製品の説明文章がこのカテゴリーになる。「Emotional」は消費者の感情に訴える言語を意味する。「Functional」はボタンを押すなどナビゲーションに関する記述を表す。

過去のキャンペーンで使われたメッセージサンプルを収集し、それらをPersadoで編集し、繰り返しその効果を検証した。つまり、Persadoで生成したメッセージの効果を測定し、機械学習の手法でその機能を上げていく。その結果、感情に訴えるメッセージが消費者からのレスポンスを大きく向上させることが分かった。上述のEmotionalに区分される言葉を有効に組み合わせる手法で人の心を揺さぶるメッセージを生成する。

感情に訴える言葉とは

Emotionalに区分される言葉はEmotional Languageと呼ばれツリー構造で分類される。大きくはPositiveとNegativeに分類され、その下に小分類が続く。Positiveの下には、「Joy」、「Achievement」、 「Encourage」などがある。この分類は「Ontology of Emotion」と呼ばれ、語彙の意味と他の語彙との関係を示し25万語から構成される。Persadoは定義されたEmotional   Languageを使ってコンテンツを生成する。言葉のパズルを解くように言葉を組み合わせてメッセージを生成する。下のグラフはEmotional Languageの解析結果で、ポジティブな言葉でも、その効果は大きく異なる。「Exclusivity」は大きくプラスに作用するが、「Excitement」は反対に大きくマイナスに作用する。Persadoは膨大な数のベンチャーマークを通し、解析結果を把握し、文字列を最適化していく。

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クリック率とコンバージョン率が大きく増える

Persadoの効果は多くのキャンペーンで実証されている。下の写真はAmerican Expressのバナー広告の事例で、上段が一般的に利用されるコンテンツで、下段はそれをPersadoを使って改良したもの。Persadoがキャッチコピーを創ると、消費者のクリック率はほぼ三倍に増えた。そして、コンバージョン率はほぼ2.5倍となった。一見すると両者の間に大きな違いはないが、ベンチマークではこのように大きく差がついた。「Ends Soon」という言葉が危機感をあおり、消費者に購買を促すように思えるが、Persadoはその理由までは解明できないとしている。ここが現在のAIの力の限界でもある。

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病院と患者が効果的にコミュニケーションする手法

Persadoは広告キャンペーンだけでなく、幅広い分野で新しい使い方を開発している。その一つがデジタル・ヘルスケアーで、病院と患者が効果的にコミュニケーションする手法を開発している。オバマケアーが目指しているように、医療機関は患者を治療するだけでなく、疾患に関し標準的な治療プロセスを確立し、治療効果を上げ、コストを下げる方向に進んでいる。

この手法は「Clinical Pathway」と呼ばれ、糖尿病や高血圧患者の治療でトライアルが始まっている。医師は患者に治療のための指導をするが、いかに患者を納得させるかでPersadoの技術を活用する。患者がオンラインサイトで食事の指導を受けるときに活用する。どのような言葉の並びが患者を説得し、実際の行動につながるかの研究をしている。

例えば、患者に薬を飲むことを促すメッセージとして「4時半になりました、処方した薬を飲みましょう」が一般的である。これに対してPersadoは、「チャールズさん薬を飲んでください。家族はあなたを必要としています。」というメッセージを生成する。患者を恣意的に誘導するのではなく、健康な生活を促すためにはどう記述すべきかの研究が続いている。

ウェアラブルに表示するメッセージ

医療に関連する分野にQuantified Selfがある。これは消費者がウエアラブルなどで身体のデータを収集し、それを健康な生活を送るために活用しようとする動きである。Persadoを健康な生活を送るために利用する。Apple Watchなどのウエアラブルに健康管理のメッセージが表示されるが、消費者の多くはこれを好意的に受け止めていない。ディスプレイに「立ち上がる時間です」とメッセージが表示されるが、それに従って行動を起こす人は多くはない。これに対し、Persadoは利用者のモティベーションを高めるメッセージはどうあるべきかを研究している。

消費者に支払いを督促する方法

金融機関もPersadoに関心を寄せている。日々のトランザクションに関するメッセージをPersadoで生成する。衛星ラジオSirius XMは、利用者に料金を遅延なく支払うことを伝えるメッセージを開発している。料金の支払いが遅れると、電気会社からは「電気を止める」と脅かされ、これを快く思っていない消費者も少なくない。カード会社からは「忙しいのは理解できる」と同情され、少しは気分が楽になる。消費者に支払いを督促するにはどんな文字列が最適なのか、PersadoはAmerican Expressと開発を進めている。

男性が女性を誘うときのメッセージ

米国では交際相手を見つけるためデートアプリが幅広く使われている。日本の出会い系サイトのように危険なアプリもあるが、その多くは相手を探すための重要なツールとして社会生活に定着している。Tinderのように若者に爆発的に広まったアプリもある。Persadoはデートアプリの機能として、男性が女性を誘うときのメッセージをアドバイスする。女性に対して、「今夜出かけませんか?」というのはダメで、「今日は出かけるには素晴らしい日ですね?」と言うように指南する。どれだけ効果があるのかベンチマーク結果は公表されていないが、Persadoの新しい活用モデルとして期待が集まっている。

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大統領選挙で有権者の心を掴む

選挙で有権者に配信するメッセージの生成でPersadoが使われる。選挙戦はSNSやメールやメッセージングなど、デジタルの戦いになっている。有権者に集会などキャンペーン活動に参加を促すためにPersadoが使われる。また、ボランティア活動への参加者を募るためにも利用される。Persadoはどのような言葉の配列が効果を上げるのか、その結果を検証している。米国では両党から大統領候補が出そろい、本格的な選挙戦が始まった。それぞれの陣営が有権者に配信するメッセージをAIで作成している可能性は否定できない。(上の写真:民主党全国大会はHillary Clintonを大統領候補に指名して本日幕を閉じた。)

AIがコピーライターの職を奪う

米国市場の大きな流れは、テキストをマニュアルで作成する方式から、アルゴリズムで生成する方式に変わってきたこと。更に、Persadoのように、アルゴリズムがコピーライターより効果的なメッセージを生成するようになったこと。市場では再び、AIがコピーライターの職を奪うとの危機感が広がっている。一方、Persadoはあくまで人間の創作活動を支援するツールに過ぎないという意見もある。人間が書いた文章をPersadoがブラッシュアップする。我々がスペルチェッカーを使うように、これからはワードプロセッサーで書いた文章をPersadoが添削する。どちらももっともな意見であるが、AIは着実に我々の仕事に迫っているように感じる。

言葉をエンジニアリングする企業

Persadoの手法は、Behavioral MarketingなのかPsychologyなのか議論が続いている。前者は消費者の挙動に応じた広告手法を意味する。いわゆるターゲッティング広告でゴルフのニュースを見ると、ゴルフ製品の広告が表示されるという方式である。後者は心理学で、消費者の心情を理解して広告を配信する手法を指す。メッセージを受信した消費者はどう感じているのかについてはPersadoは把握していない。ただ、Persadoは消費者が特定のメッセージを受信すると、それにどう反応するかを経験的に掴んでいる。Persadoは両者の境界領域にある会社として位置づけられる。また、Persadoは言葉をエンジニアリングする企業とも定義できる。

行動ターゲッティング広告 (1) (Ad:Tech 09より)

Friday, May 15th, 2009

カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたAd:Tech (アドテック) には、広告関連技術を開発している多くのベンチャー企業が参加していた。その中で、Behavioral Targeting (行動ターゲッティング) の手法で広告技術を提供している企業も少なくなかった。

 

AdBriteというベンチャー企業

AdBrite (アドブライト) は、サンフランシスコを拠点として、広告ネットワークを運営している企業である。AdBriteは、広告ネットワークの上で、広告主が的を絞って広告メッセージを表示する、行動ターゲッティングという手法を提供している。広告ターゲッティングとは、利用者の嗜好を把握して、利用者が感心を持っているであろう広告を表示する技術である。例えば、旅行を趣味としている人に対しては、ヨーロッパ腺の割引航空券の広告を、バナーで表示するなどの手法である。個人に特化した広告技術であり、この手法でコンバージョン率の向上を目指している。

 

AdBriteのブースで、営業担当のTommy Burton (トミー・バートン) から、AdBriteの機能について、パソコンやカタログを見ながら説明を聞いた。AdBriteは、行動ターゲッティング方式の広告で、最大級のネットワークを運営している。Burtonは、「AdBriteの特徴は、行動ターゲティングをはじめ、様々なターゲッティング技術を採用していることである」と説明してくれた。行動ターゲッティング以外に、AdBriteは、「利用者の地域や性別・年齢に最適な広告、また、ウェブサイトのコンテンツにマッチした広告を表示する」と説明した。多くのウェブサイトでは、行動ターゲッティング技法を単独で採用するのではなく、複数のターゲッティング技法を複合して、最適な広告表示を行なうのが主流である。更に、Burtonによると、AdBriteは「Open Targeting Exchangeという広告プラットフォームで、ソフトウェア企業が様々なターゲッティング機能を提供している」と説明した。つまり、AdBrite一社で全ての技術を開発するのではなく、システムのAPIを公開して、それぞれ得意な企業がターゲッティング技術をAdBriteに提供している。

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行動ターゲッティングの実例: AdBriteで広告を購入する際に、広告主は上のスクリーンショット (出展: AdBrite) のように、広告を掲載するカテゴリーを選択できる。

 

考察

Googleは08年3月に、広告配信サービス会社であるDoubleClickを買収し、この技術を使って、今年3月から行動ターゲッティング広告をスタートした。Googleは、利用者のウェブ閲覧履歴をクッキーに格納し、利用者の嗜好を把握する。そして、Google広告ネットワーク上で、利用者に最適な広告を表示する。つまり、Googleは従来のAdWordsとAdSenseに加えて、行動ターゲッティング技術で、多角的に広告表示を最適化している。行動ターゲッティング技術は、特殊な技術ではなく、広告表示において必須オプションとなってきた。

行動ターゲッティング広告 (2) (Ad:Tech 09より)

Friday, May 15th, 2009

eXelate (エクセレイト) という会社は、イスラエルのベンチャー企業で、行動ターゲッティング領域でユニークなビジネスを展開している。eXelateは、自ら行動ターゲッティングの手法で広告配信を行なうのではなく、広告ネットワーク企業に、行動ターゲッティング基礎データを販売する事業を展開している。eXelateのブースにおいて、Chief Technology OfficerであるElad Efraim (イラッド・エフレイム) から、eXelateの機能について説明を受けた。

 

eXelateのビジネス手法

行動ターゲッティングでは、利用者の嗜好に沿った広告を表示するのであるが、その基礎データを如何に収集するかが鍵になる。Efraimによると、「利用者データについては、ソーシャル・ネットワークから収集する」と説明してくれた。eXelateが、ソーシャル・ネットワークを運用している訳ではないので、「これらデータをソーシャル・ネットワーク運用者から購入する」と説明してくれた。Efraimは、購入したデータの使用方法について、「英語版Facebookを使っているスペイン人会員に、スペイン語で広告を掲載することで、クリック・スルー率が三倍から五倍に向上した」と、その使い方と効果を説明してくれた。Facebook会員のように、個人のプロフィールが入力され、個人の行動がログされ、また、個人の購買活動まで追跡しているサイトでは、個人データには様々な情報が詰まっている。

 

この他にも、多くのウェブサイトで、個人情報を収集している。Efraimは、具体的な名前は出さなかったが、便利な旅行サイトなどが使われてる。例えばKayak (カヤック) という航空運賃検索サイトがそのひとつである。Kayakは、様々な航空運賃サイトの中から、最安値のフライトを探してくれる、とても便利なサイトである。アメリカで旅行する人は、必ずお世話になっているサイトである。利用者がKayakにアクセスするとクッキーが生成される。利用者は出発地、目的地、日付、クラスなどを入力すると、これら入力情報が個人情報として収集される。先のFacebookと同様に、利用者データが売買され、当該利用者は、航空券を購買する意図のある見込み顧客として登録される。このデータを購入した広告ネットワークは、この利用者がアクセスしたサイトに、航空券の広告バナーを表示するという仕組みである。

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利用者としては、自分が知らない間に、個人データが売買されるとは、あまりいい心持はしない。行動ターゲッティングでは、広告表示最適化と個人のプライバシー保護が常に表裏一体である。eXelateはこの問題に対して、収集されたデータを利用できないよう、利用者が設定する機能を設けている。(上のスクリーンショットで左下のボタンを選定、出展: eXelate) 反対に、利用者は、積極的に自分が好みの分野を指定して、最適な広告表示をしてもらう機能も搭載している。(スクリーンショット中央部分。) 行動ターゲッティング技術は、プライバシー保護を行ないながら個人情報を操作するという、微妙なバランスの上で成立している。

オンラインビデオ内での広告技術 (Ad:Tech 09より)

Friday, May 1st, 2009

カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたAd:Tech (アドテック) では、広告関連企業がブースを出展し、最新技術が紹介された。会場のMoscone Center West (マスコーニ・センター・ウェスト) の1階と2階が展示会場となり、Googleからベンチャー企業まで幅広い出展があった。

 

VideoClixというベンチャー企業

展示会場で目に止まった企業の中に、VideoClix (ビデオクリックス) がある。VideoClixは、カナダ・バンクバーに拠点を置くベンチャー企業で、YouTubeのようなオンライン・ビデオに対して、広告メッセージを付加するサービスを提供している。VideoClixのブースで、James Heise (ジェームス・ハイス、Business Development Director) から、VideoClixの機能について話を聞いた。

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VideoClixは、社名が示す通り、「ビデオをクリックすることで、ビデオに登場する人物や持ち物などの情報を表示する機能を提供する」と、Heiseは説明してくれた。Heiseは、ブースのパソコンからウェブサイトにアクセスして、クリック可能なビデオのデモを紹介してくれた。VideoClixのサイトには、実例がたくさん掲載されており、その一つが前のスクリーンショット (出展: VideoClix) である。このビデオは、NBCの人気番組「FRIENDS」(フレンズ) の一こまである。このビデオに登場するオブジェクトにマウスを重ねると、その説明を表示する。更に、そのオブジェクトをクリックすると、画面右側にサイドバーが現われ、追加情報とスポンサー情報を表示する。

 

前の例では、女優のJennifer Aniston (ジェニファー・アニストン) にマウスを当てると、番組の役名はRachel Green (レイチェル・グリーン) であることを表示する。更に、Anistonが着ているセーターをクリックすると、スクリーンショットの通り、そのセーターについての追加情報をサイドバーに表示する。更に、同じセーターを買いたければ、オンライン・ショッピング・サイトへのリンクを辿ることもできる。ビデオにバナー形式で広告を表示するのではなく、VideoClixは、オンライン・ビデオの中で、気に入った商品をクリックすることで、実際の購買に導く方式を提供している。

 

VideoClixの仕組み

Heiseは、クリックできるビデオの仕組みについても、説明してくれた。Heiseによると、「ビデオ製作者は、ビデオをVideoClixのサイトにアップロードするだけで、後の作業はVideoClixが行なう」と、サービスの概要を説明してくれた。具体的には、「VideoClixが、ビデオに登場するオブジェクトを自動的に認識し、区分けをする」と述べた。オブジェクトとは、ビデオに写っている、人物、衣服、持ち物、場所、物などである。システムが自動検出したオブジェクトに、人間が補足情報やグラフィックスやリンク先などを追加する作業を経て、ビデオが完成する。このビデオを、VideoClix又はビデオ製作者のネットワークに乗せて配信することになる。ビデオに登場する衣服、宝石、時計、靴などに、製品情報と購買サイトへのリンクを組み込めば、広告メッセージが出来上がる。

 

VideoClixの適用事例

Heiseによると、「VideoClixは、1999年に創業を開始した企業であるが、去年からこのサービスの提供を開始した」と、説明しくれた。このサービスは既に多くの企業で採用されている。Heiseは、「ちょうど今月からESPNがこの技術を採用した」と説明し、実際にESPNのデモを見せてくれた。

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ESPNはアメリカで最大のスポーツ・ニュース配信企業であり、ケーブルテレビやウェブで情報を発信している。ウェブサイトのなかに、ESPNDBという項目があり、ここでVideoClix技術を実装している。ESPNDBとは、スポーツに関する情報をビデオなどで配信する、スポーツ情報百科辞典のようなサイトである。ここで放送されるビデオに、VideoClixを組み込んでいる。上のスクリーンショット (出展:ESPN) の通り、ビデオに登場する選手にマウスを当てると、選手の名前が表示され、選手をクリックすると、その詳細情報、チーム情報、スポンサー情報等が、サイドバーに表示される。

 

ビデオ広告市場動向

オンライン・ビデオに広告メッセージを表示する方式は、昨年からYouTubeが積極的に採用している。YouTubeは、ビデオ周辺に、Placement Targetingという方式で、コンテンツに関連する広告を掲載するだけでなく、ビデオ内に広告メッセージを掲載する様々な方式を展開している。下のスクリーンショット (出展: YouTube) は、その一例で、InVideo Adsという、ビデオ下部にテキストや動画で\広告メッセージを挿入する方式である。この事例では、ビデオで流れている音楽の説明と、AmazonやiTunesへのリンクを掲載している。

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一方で、Publicis Groupe  (パブリシス・グループ) を中心とするPool (プール) という業界団体は、オンライン・ビデオ向けに放送するコマーシャル・ビデオの標準化作業を進めている。Poolによると、テレビが登場した当初は、テレビ・コマーシャルの方式が様々であった。それを30秒と60秒という枠に統一したところ、テレビ・コマーシャルが幅広く普及したとしている。これと同様に、Poolはオンライン・ビデオ向けのコマーシャルの方式を、二つに絞り込もうとしている。

 

考察

オンライン・ビデオは、このように標準化の方向と、VideoClixやYouTubeのように多角化の方向に向かっている。オンライン・ビデオは、テレビとは異なり、IT基盤上でのサービスである。ITに携わるものとしては、ウェブ技術を駆使した、革新的な広告技術の登場を期待している。

YouTubeとHuluの戦い (Ad:Tech 09より)

Thursday, April 23rd, 2009

今週、カリフォルニア州サンフランシスコで、Ad:Tech (アドテック) というカンファレンスが開催され出席した。Ad:Techは文字通り、広告技術についてのカンファレンスで、最新の広告技術が議論された。Googleの事業は、広告収入だけでなく、新しいビジネスモデルが登場するはず、と言われてきて久しい。YouTubeは、市場から圧倒的な支持を受けているが、事業としては成功していない。Ad:Techでは、Web 2.0といわれるウェブ・サービスで、広告収入を効果的に得るための新技術が議論された。

 

Huluというサービス

Ad:Techの中で一番興味深かったのは、Hulu (フル) のCEOであるJason Kilar (ジェイソン・カイラー) が、「Advertising’s User Revolution in the Digital Age…」 (デジタル時代における広告のユーザ革命) と題して、Huluの開発思想を紹介した基調講演であった。Huluとは、テレビ番組をインターネット放送しているウェブサイト (Hulu.com) である。Huluは、NBC UniversalとNews Corp. (FOXの親会社) のジョイント・ベンチャーである。アメリカの四大ネットワークのうち、NBCとFOXが、テレビ番組をインターネットで放送するために設立したベンチャー企業で、昨年3月からサービスを開始した。

 

Huluがサービスを開始する前には、YouTubeがビデオ共有サイトで突出したシェアを占めており、Huluは「YouTube Clone」と揶揄され、極めて評判が悪かった。しかし、Huluがサービスを開始すると、Huluは、プロが制作したテレビ番組や映画を放映するサイトであることが分かった。YouTubeのようなアマチュア・ビデオの掲載は行なわなかった。Huluは、そのデザインの良さと使い易さで、一気に人気が出て、ゼロから出発して、一年間で一気に人気サイトの四位まで上ってきた。(一位から三位は、Google、Fox Interactive、Yahooの順) YouTubeとHuluの視聴率は、大きな隔たりがあるが、Huluは急カーブで成長している。

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Huluの人気の理由

Huluがこれだけ急速に視聴率を向上したのは、色々な理由がある。最大の理由は、Huluのコンテンツが充実していることである。前述のNBCやFOXの人気番組である、「Saturday Night Live」 (上の写真、出展: Hulu) や「24」など、見たい番組が揃っていることである。この他にも、Comedy Centralが放送している人気番組「The Colbert Report」や「The Daily Show with Jon Stewart」などを見ることができる。これらの番組を無料で見ることができるが、視聴者は併せてコマーシャルも見ることになる。

 

個人的な感想としては、Huluを使って、一番印象的なのは、そのデザインの良さである。Huluは、フラッシュ・ベースの独自のビデオ・プレーヤーを提供しており、濃い灰色を背景に、ビデオがブラウザーに浮き出る形になっている。更に、「Lower Lights」ボタン (上の写真の右下のボタン) を押すと、ブラウザー全体が「消灯」され、薄暗い映画館でスクリーンを見ている感じとなる。落ち着いて番組を見ることができる。Huluが登場してからは、テレビを見るパターンが大きく変わってきた。前述の「Saturday Night Live」は、今まではTiVoに録画して、翌日に再生して見ていた。しかし今では、Huluで、気に入ったセグメントだけを選択して見るようになってきた。テレビとインターネットの融合と言われてきたが、Huluでその兆しが見えてきた。

 

Huluというサービスの開発思想

以上がHuluを、利用者の観点から見たものであるが、上述の基調講演では、Huluを設計者の観点から、その開発思想が紹介された。Kilarは講演の中で、「Huluは最初から、最も効率的に広告収入を得ることを目標」として、システムを設計したと説明した。Kilarは、YouTubeという名前は出さなかったが、「多くのシステムは、サービスの拡大を目標とし、後から広告収入構造を考える」と述べ、インターネットには、非効率な広告モデルが満ち溢れていることを指摘した。

 

Kilarが述べるところの「効率的な広告」とは、「利用者とコンテンツ所有者と広告主が明確に好きだといえるサービス」を構築することであると述べた。再度YouTubeの事例を出すと、YouTubeは利用者から絶大な支持を得ているものの、著作権問題を抱えており、アマチュア・ビデオに広告が集まらない状況にある。更に、Kilarは、Huluでの広告配信について、「広告は控えめに」表示し、「利用者が広告をコントロールできる」ことが重要だと述べた。後者の意味は、利用者が広告形式を選択できたり、放送された広告が好きか嫌いかをフィードバックできる仕組みである。また、広告主にとっては、Kilarは、「ブランドやメッセージを思い出せ」かつ「好感をもてる」ことがポイントとなると述べた。利用者の観点からすると、確かにHuluの広告は、テレビとは異なり、デザインが良くて印象に残るものが多いように感じる。

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Huluのコマーシャル (上の写真、出展:Hulu) では画面左上に、このコマーシャルが好きか嫌いかのフィードバックを行なうアイコンが登場する。

 

考察

YouTubeは、巨大なシェアを占めているが、膨大な運営経費をカバーできるだけの広告収入を得るために、苦慮している。この市場でHuluが急成長を始めており、YouTubeは、この対応にも追われている。YouTubeは、サイトに、「Shows」と「Movies」というチャネルを追加した。Showsではテレビ番組を、Moviesでは映画を掲載するものである。Hulu対抗として、プロが作成したコンテンツを放送し、ここで広告収入を得ようとする試みである。YouTubeは、放送しているビデオに、様々な方式のコマーシャルを表示している。しかし、アマチュア・ビデオからの広告収入は限られている。広告収入は、プロが作成した見ごたえのあるビデオから生まれることを、Huluが証明しつつある。ブログでは、プロとアマチュアの境界が希薄になりつつあるが、ビデオの世界では、その差は歴然としている。アマチュア・ビデオが、ビデオのロングテールのヘッドを構成するまでには、もう少し時間がかかりそうで、ここにHuluの存在意義がある。