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ノキアのオープンソース戦略 (OSCON 2009より)

Friday, August 21st, 2009

アメリカ市場においては、Apple iPhoneを筆頭に、スマートフォンが猛烈な勢いで、携帯電話のシェアを広げている。AppleやResearch in Motion (RIM) は、スマートフォンOSの開発を、従来どおり、社内で行なっている。これに対して、Google AndroidやSymbian Foundation (シンビアン・ファウンデーション) では、スマートフォンや携帯電話OSの開発を、オープンソースの手法で行なっている。カリフォルニア州サンノゼで開催されたOpen Source Convention の展示会場でSymbian Foundationから話を聞くことができた。

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Symbian Foundation概要

Symbian Foundationは、Nokiaを中心とする、携帯電話OS開発の非営利団体である。現在使われている携帯電話OSは、Symbian OSと呼ばれ、もともと、Symbian Ltd.で開発された。Symbian Ltd.は、Nokiaを筆頭に、Ericssonなどの企業から構成される、ジョイント・ベンチャーであった。Nokiaは、08年6月に、Symbian Ltd.を買収し、これをオープンソースの団体であるSymbian Foundationに組織変更を行なった。Symbian Foundationでは、Symbian OSをベースに、これをオープンソースとしたソフトウェアである、Symbian Platformを開発している。

 

Symbian Foundationのブースにおいて、Symbian Foundation Community ManagerのBill Washburn (ビル・ウォッシュバーン) に、活動の目的を聞くことができた。ブースには、シンボルカラーである黄色のビーンバッグが置かれており、これに腰掛け、打ち合わせをしている人や、ゆっくりくつろいでいる人で、ブースは満席であった。(上の写真、出展:Symbian Foundation) このため、ブース・カウンターの前で、立ったままで、Washburnから話を聞いた。Washburnは、Symbianは、インターネットのTCP/IPになることを目指していると、説明した。この意味は、ソフトウェア開発で、通信プロトコールをいちからプログラミングする人はいなくて、誰もがTCP/IPを利用する。これと同じように、Symbianもオープンソースとして公開し、誰もが利用できる、社会基盤を構成するソフトウェアを目指していると説明した。

 

Symbian Platformとは

Symbian OSは、もともと、Psion (サイオン) が開発したPDAである、EPOCという製品のOSがベースになっている。Symbian OSは、今では全世界で50%以上のシェアを占める、最も人気のある携帯電話OSとして成長した。一方で、昨年からのスマートフォンの興隆に押されて、いまこのシェアが低下している。このため、Nokiaは、Symbian OSを、オープンソースの手法で開発する業界団体である、Symbian Foundationを立ち上げた。

 

Symbian Foundationでは、その参加メンバーが中心となって、Symbian Platformの開発を進めており、その機能を使った携帯電話が登場し始めている。Symbian Platformは、正確には、オープンソースではなく、そのソースコードには、Symbian Foundationのメンバー企業だけがアクセスすることができる。メンバー企業には、Nokiaを筆頭に、Sony Ericsson、NTT DoCoMoなど10社で構成されている。Symbian Platformは、現在は、クローズドソースであるが、Symbian Foundationはこれを、オープンソースとして公開する予定である。公開予定時期は10年4月であるとしている。Symbian Platformがオープンソースとして公開されれば、だれでも自由に、Eclipse Public Licenseで、コードを利用することができる。この時点で、正真正銘のオープンソースとなる。

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Horizonという開発環境

Symbian Foundationは、Open Source Conventionの直前に、Horizon (ホライゾン) というサービスを発表した。このサービス概要について、Symbian Foundationから、メールで受信した。この資料によると、Horizonは、Symbain Platform向けのアプリケーション開発のための、サービスを提供するサイトであるとしている。一言で、表現すると、Google Android MarketのSymbian版ということになる。正確には、Horizonは、Symbianアプリケーション開発者に、開発支援を行い、製品の販売やマーケティング支援を行なうサイトである。アプリケーション開発者は、各種開発ツールを使用でき、また、膨大な数の携帯電話機種をサポートするための、互換検証ツールを利用できる。

 

開発されたアプリケーションは、Horizonではなく、それぞれの携帯電話ベンダーや携帯電話通信サービス会社経由で販売されることになる。Nokiaのケースだと、Ovi Store by Nokiaで販売されることになる。(上の写真、出展:Nokia) Ovi (オヴィ) とは、これも一言で表現すると、Apple iTunes StoreのNokia版である。携帯電話利用者は、Oviで音楽や、ゲームや、アプリケーションを購入することができる。Horizonは、今年10月にオープンする予定である。

 

考察

スマートフォンの開発競争が発熱してきた。Apple iPhoneとRIM BlackBaerryがリードする市場に、Google AndroidとSymbian Foundationが、オープンソースの手法で、挑んでいる。市場シェアの統計情報が示しているように、Symbianは携帯電話OSで、勢いを失いつつある。Symbianは、前述のとおり、OSのコア技術は古く、これを最新技術に改良する必要に迫られている。いま、この改良作業を、オープンソースの手法で行なっている。但し、Symbian Foundationが、本当の意味でオープンソースとなるには、来年まで待つ必要があるが。その一方で、Nokiaは、MID (Mobile Internet Device) とよばれる、タブレット型携帯端末向けに、Maemo (マイモ) とよばれる独自のOSを開発している。MaemoのコードベースはLinuxで、オープンソースの手法で開発を行なっており、今年10月にはそのデモが予定されている。過去のしがらみがないMaemoは、Symbianとは対照的に、順調に開発が進んでいる。Nokiaは、SymbianとMaemoを、今後、どう製品化していくのか、重要な分岐点に差し掛かっている。

BeOSとHaiku (OSCON 2009より)

Friday, August 14th, 2009

カリフォルニア州サンノゼで開催されたOpen Source Convention の展示会場には、大手IT企業を筆頭に、数多くのオープンソース企業がブースを出展していた。その中で、カラフルなロゴが目立つHaiku (ハイク) という企業のブースで、Haiku User Group of Northern CaliforniaのJorge Mare (ホルヘ・マレー) に、製品概要やその背景について話を聞くことができた。 (下はHaikuデスクトップ、出展: Haiku Inc.)

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Haiku誕生の歴史 

Mareは、Haikuとは、BeOS (Be Operating System) のオープンソース版である、と説明してくれた。更に、BeOSとは、Be Inc.により開発された、パソコン向けのOSであると、その背景を説明してくれた。BeOSは、Jean-Louis Gassée (ジャン・ルイ・ガセー) の指揮の下に、開発された製品である。Gasséeは、Appleにおいて、McIntosh開発責任者として、製品開発を行なっていたが、Appleを退き、1991年に、Be Inc.を創設した。Be Inc.は、独自仕様のパソコンであるBeBoxを開発し、BeOSはBeBox向けのOSとして開発された。BeBoxには、AT&Tが開発したHobbitというプロセッサーが搭載された。BeBoxは、二千台程度しか売れなくて、ビジネスは芳しくなかった。

 

その後、BeOSはPowerPCに移植され、特に、Apple向けPowerPCプラットフォームに移植された。その当時Appleは、古くなったMac OSを改良するプロジェクト (Copland Project) を進めていた。しかし、Appleは、自社で独自にOSを書き換える方式を中止して、第三者のOSを採用することとした。そこで候補に挙がったのが、このBeOSと、Appleを出たSteve Jobsが開発していたNeXT (ネクスト) であった。最終的にNeXTが採用され、これを機会に、JobsがAppleに復帰する話は、有名である。

 

BeOSのその後 

Be Inc.は、次に、BeOSをx86プラットフォームへ移植を行い、Microsoft Windowsの代替OSとして事業を展開したが、これも大きな成功を収めることができなかった。このため、BeOSは、OSのコアの部分だけを抜き出したBeOS Personal Editionを無償で提供することとした。BeOSを、WindowsやLinuxと供に使えるようにして、利用者層の拡大を図った。更に、BeOSをインターネット・アクセスのための組込み型OSとした、BeOS for Internet Appliancesを開発した。Be Inc.は、2001年に、Palm Incに買収され、その名前が消えることとなった。その後、 Palmから分社したPalmSourceが、BeOSの技術を継承した。PalmSourceは、その後、日本のACCESSに買収され、現在は、BeOSの技術はACCESSが所有している。

 

Haikuという企業 

BeOSは、事業としては成功しなかったが、その技術は高く評価され、多くのソフトウェアが開発されてきた。BeOSが市場から消え、サポートが停止された現在では、これらの資産が宙に浮いたままの状態となっている。このため、オープンソース・コミュニティーは、再びBeOSを復活させるプロジェクトを、2001年に開始した。これはOpenBeOSとよばれ、オープンソースの手法で、BeOSと互換性のあるOSを、一から開発するプロジェクトである。OpenBeOSプロジェクトは、2004年に、Haikuという名称に変更され、現在に至っている。

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Mareによると、Haikuという名前にしたのは、システムのエラー・メッセージが、日本の俳句の形式で表示されるためである。英語圏においても俳句への感心は高く、英語で俳句が作られている。実際にHaikuが表示するエラー・メッセージについて、Mareから実例をもらった。(上のグラフィックス、出展: Haiku, Inc.)  どちらも、リクエストがあったウェブサイトが見つからないというエラー・メッセージである。メッセージは、三行で構成され、Spring Rain (春雨) のように、季語 (Season Word) を含んでいる。上段は、「夢破れてサイト無し…」となり、「404 Not Found」と言われるより、情緒がある。

 

Haikuプロジェクトの状況 

Mareは、Haikuプロジェクトは、ボランティアによる開発と外部からの寄付金に依存していると説明した。プロジェクトの成果はオープンソースとして公開されており、誰でもMIT/BSDライセンスで、自由に利用できる。Mareによると、Haikuの特徴は、Linuxやデスクトップ環境を利用していなくて、すべてゼロから開発していることである。これは、Haikuを統一したコンセプトで開発するためで、コードの集合体であるLinuxは、趣旨に沿っていないので採用していないとしている。市場にはWindowsやLinuxがあるのに、何故この時期に、OSを開発するのかと質問すると、Mareは、「to create a compact and efficient operating system that specifically targets personal computing」 (パソコン向けにコンパクトで効率的なOSを造るため) と応えてくれた。過去のしがらみに囚われず、技術的に優れたOSを開発するため、と解釈できる。Haikuのブースでは、モニター上にHaikuのデスクトップが表示され、プレ・アルファ版が稼動していた。

 

考察

Be Incが創設されたとき、出資者の一人が、スーパーコンピュータ設計者であるSeymour Cray (セイモアー・クレイ) である。世界最高速のコンピュータの設計者が、Be Inc.の将来性を高く評価している。この理由について、Mareは、Be Inc.の社内ニュース・アーカイブ[1]を示してくれた。Crayの着眼点を一言で纏めると、処理速度を左右するメモリー性能について、カスタムCPUよりマイクロプロセッサーを評価し、そこでOSを開発しているBe Inc.の将来に賭けた、ということになる。BeOSとCrayは、マイクロプロセッサー上でWindowsが覇権を握りつつある時に、あえて挑戦を挑んだことになる。そして、現在、WindowsやLinuxが地位を固めた時に、Haikuは、それにあえて挑んで、技術的に秀でたOSを目指している。オープンソースのカンファレンスで、時代を超えて、開発者の普遍的なチャレンジ精神に、接することができた。

 


[1] Seymour Cray , http://www.haiku-os.org/legacy-docs/benewsletter/Issue1-44.html

デスクトップ・リナックスの進化 (OSCON 2009より)

Monday, August 10th, 2009

カリフォルニア州サンノゼで開催されたOpen Source Convention の、最終日の基調講演は、Linux Foundation代表であるJim Zemlin (ジム・ゼムリン) が行なった。Zemlinは、リナックスの最新動向について、「What‘s the Deal with Linux on the Desktop?」というタイトルで、デスクトップ・リナックスに焦点をあてて、業界の動きを俯瞰した。(下の写真、出展:O’Reilly Media)

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リナックスの三つのトレンド

Zemlinは、企業向けリナックスの業界団体である、Linux Foundationの代表を務めており、リナックス技術の育成や事業の推進を、先頭に立って行なっている人物である。リナックス保護者であるZemlinが、最新動向を三つに纏めて紹介した。最初のトレンドは、各企業は不況対策として、オープンソースの採用を加速しているという事実である。調査会社からの報告書にもあるように、企業システムのコスト削減のために、リナックスを含む、オープンソースの導入が進んでいる。二番目のトレンドは、パソコンと携帯端末の融合が進んでいることである。この動きは、ITシステムの観点から特に興味深く、このレポートでは、この部分に焦点をあてて紹介する。三番目のトレンドは、消費者向けの製品で、リナックスの採用が進んでいることである。これも不況対策で、消費者向けのパソコンなどでオープンソースを採用し、低価格な製品が増えてきている。

 

パソコンと携帯端末の融合

基調講演の中で、一番興味を惹かれたのは、この部分であった。パソコンと携帯端末が融合 (Convergence) しているとは、パソコンとスマートフォンの機能と価格帯が、交わり始めたという意味である。Zemlinは、この事例として、Apple iPhone 3GSとHP Mini 1000を挙げた。iPhone 3GSは、よく知られているように、プロセッサーにARM (600MHz) を採用し、32GBのフラッシュメモリーを搭載し、3GやWiFi機能を備え、299ドルで販売されている。

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一方で、HP Mini 1000 (上の写真、出展:HP) はネットブックといわれる、小型のラップトップである。プロセッサーはIntel Atom (1.6GHz) を採用し、32GBのフラッシュメモリーを搭載し、HP Mobile InternetというLinuxベースのOSを搭載している。価格は280ドルで、iPhone 3GSより低価格で販売されている。このように、今ではパソコンの機能と価格が、スマートフォンの領域とオーバーラップするようになってきた。この現象を、Zemlinは、パソコンと携帯端末の融合と説明している。

 

AT&Tの新しい事業形態

パソコンと携帯電話が融合し始めるなか、Zemlinは、AT&Tを事例に挙げて、パソコンの新しい事業形態について紹介した。AT&Tは、ブロードバンド・サービスの販売において、ネットブックの販売も同時に行ない始めた。AT&Tのウェブサイトでは、下のスクリーンショット (出展:AT&T) の通り、ネットブックを199.99ドルで販売している。

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利用者は、AT&Tとブロードバンド契約を結ぶときに、併せて、低価格でパソコンを購入できる仕組みである。AT&Tで電話サービス契約を結べば、iPhone 3GSを低価格で買えるのと同じ仕組みである。(値引き前のiPhone 3GS価格は600ドルと言われている。)  電話サービス契約においては、契約期間は二年間の縛りがあるが、AT&Tのブロードバンド契約も、同様に、二年間の拘束期間がある。パソコンは、Fry’s (フライズ) のようなパソコン量販店で買うだけでなく、AT&Tのようなサービス・プロバイダーから買う時代になってきた。

 

アプリケーション事業

Zemlinはアプリケーション事業についても言及した。スマートフォン向けのアプリケーションについては、Apple App Storeが市場の話題を独占している。iPhoneの販売台数が急増しているなか、iPhone向けのアプリケーションの数が急ピッチで増え続けている。App Storeは昨年7月にオープンし、登録されているアプリケーションの数は500本であった。一年後の今年7月には、その数が65,000本に増えている。アプリケーションのダウンロード回数は、15億回を超えている。App Storeでのビジネスモデルは、有償のアプリケーションが売れれば、その販売価格の30%をAppleが取り、残りの70%が開発者の手に渡る仕組みである。これをパソコン事業と比較すると、その違いが分かる。消費者が、パソコン用にアプリケーションを購入すれば、販売価格の100%が開発者の手に渡る。マイクロソフトやHPが、販売価格の30%の手数料を要求することはない。このように、アプリケーション販売において、新しい事業形態が登場した。

 

考察

この基調講演は、リナックスの最新動向がテーマであり、携帯端末でリナックスの採用が進んでいるだけでなく、デスクトップ・リナックスの機能が充実してきたことを示している。サーバサイドのリナックスと比較して、デスクトップ・リナックスは、市場から高い評価を受けているとは言えない。しかし、Intelが主導するMoblin (モブリン) や、Nokiaが開発してるMaemo (マイモ) などで、ユーザ・イクスペリエンスが充実し、デスクトップ・リナックスが進化している。そして、前述のとおり、パソコンとスマートフォンの融合が起こっている。事業形態としては、App Storeが示唆しているように、携帯端末へのコンテンツの販売が、新たな市場を形成している。ネットブックやスマートフォンがクラウドと接続され、これらクライアントへのサービスが大きな事業となりつつある。パソコンと携帯端末の機能や価格が融合し始めただけでなく、ビジネスモデルも交わり始めた。

オープン・ガバメント (OSCON 2009より)

Sunday, August 2nd, 2009

先週、7月20日から五日間、カリフォルニア州サンノゼで、Open Source Convention (通称OSCON、オスコン) が開催された。OSCONはO’Reilly Mediaが主催するオープンソースのカンファレンスで、今年で九回目を迎える。OSCONは、ここ最近はオレゴン州ポートランドで開催されていたが、今年は初めてサンノゼが会場となった。ベイエリアの住人にとっては、今年は出張する必要なく大変便利で、プログラムを多岐にわたって、じっくりと聞くことができた。

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The O’Reilly Radar

OSCONは、毎年、カンファレンス主催者であるTim O’Reilly (ティム・オライリー) による、基調講演から始まる。(上の写真、出展:

 O’Reilly Media, Inc.)  The O’Reilly Radarという名前で、O’Reillyのレーダーが捉えた、最新の技術動向を紹介するセッションである。O’Reillyは、毎年、新鮮で刺激的な話題を届けてくれる。今年のテーマは、二つに纏めることができ、スマートフォンとクラウド・コンピューティングの連携と、オープン・ガバメント (Open Government) であった。このレポートでは、オープン・ガバメントについて紹介する。

 

O’Reillyは、オープン・ガバメントについて、オバマ大統領が推進しているイニシアティブで、連邦政府にオープンソースの手法を取り込んで、業務を効率化することを目指すと説明した。オバマ大統領は、就任直後、1月21日に、「Transparency and Open Government」と題するメモランダム[1]を発表した。オバマ大統領は、このメモランダムで、アメリカ政府を、前例がないほどオープンにすると宣言した。オバマ大統領が、この宣言を行なった目的は、政府をオープンにすることで、国民の信頼を得て、国民とコラボレーションすることで、効率的な政府を構築するためであると述べている。

 

イニシアティブ 

このメモランダムは、三つの柱から構成されている。一つ目は、透明性で、政府内に存在する情報を公開すること。二つ目は、国民の参画で、政府が行なう意思決定に国民が参加すること。三つ目が、共同作業で、国民が政府と共同で作業を行なうことを目指している。ここでいう情報公開とは、図書館等で過去の書類を公開するという意味ではなく、各省庁が所有しているデータを、マシン・リーダブルな形式で公開するということである。

 

情報技術の観点から解釈すると、国民がソフトウェアから、政府が公開するデータにアクセスして、データを有効利用することである。O’Reillyは、この点について、国民とのコラボレーションにより、オープンデータを使って、新しい価値を創造すると表現した。Web 2.0では、利用者の集合知でオープンソースが生まれた。いま、オープン・ガバメントというイニシアティブで、オープンデータを使って、新しいものが生まれようとしており、この動きをO’ReillyはGov 2.0と呼んだ。

 

オープンデータ

オバマ政権は、このメモランダムの内容を具体化したウェブサイトを構築している。このサイトは、Data.gov[2]という名前で、連邦政府が公開するデータのポータルとして、5月下旬から稼動を始めた。このサイトに、各省庁が公開しているデータを掲載している。現在、データの数は10万件あり、これらを項目別、又は、担当省庁別に検索することができる。データ形式は、XML、CSV/Text、KML (Keyhole Markup Language) などをサポートしている。ここに登録されているデータは様々で、国勢調査、環境問題、教育関連、価格動向、特許、地震観測など、幅広い分野のデータが揃っている。

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Data.govは、前述の通り、個人がアプリケーションを開発し、このデータを利用することを目的としている。このアプリケーションが登場し始めており、その事例として、「typologies of intellectual property[3]」 (上のスクリーンショット、出展: Richard Vijgen) がある。このアプリケーションは、Richard Vijgenという個人により開発されたもので、Data.govに登録されている特許について、特許の種類、企業、発明家などで分類して、グラフィカルに表示するものである。また、特許間の相関関係を、スター状のグラフで表示する。このアプリケーションは、United States Patent and Trademark Office (米国特許商標庁) が公開しているデータを、毎週、XMLで受信して表示している。特許検索では、キーワードを入力して、膨大な数の検索結果を読みながらの作業で、大変に時間がかかる。このアプリケーションを使うと、特許検索をグラフィカルに行え、作業が楽になる。民間人が知恵を出すと、政府が提供しているデータを、より有効に使えるという事例である。このアプリケーションは、オープンソースであり、Googleのサイトに掲載されており、誰でも自由に使うことができる。

 

考察

O’Reillyは、基調講演の最後に、オープンソースが誕生した理由について、振り返った。コミュニティは、自らの手でソフトウェアを開発し、商用ソフトウェアの束縛から解放されただけでなく、社会に貢献したと述べた。O’Reillyは、コミュニティに対して、この思想を踏襲し、オープンデータを活用するオープンソースを開発し、効率的なアメリカ政府を作ろうと、この活動への参加を呼びかけた。Googleが地図データを公開してGoogle Maps上に巨大なマッシュアップが誕生した。連邦政府には、地図データを初めとして、様々なデータがある。コミュニティーはこれらのオープンデータ上に、新しい価値を生み出すことができるのか。バーチャルな世界で実証されたWeb 2.0が、リアルの世界でGov 2.0を推進できるのか。オバマ大統領が目指す、国民とのコラボレーションは可能なのか。新しい時代の新しいコンセプトが試されている。

 


[1] Transparency and Open Government, http://www.whitehouse.gov/Open/

[2] Data.gov, http://www.data.gov/

[3] typologies of intellectual property, http://ip.typologies.org/