Archive for March, 2007

米大統領選挙戦を変えるビデオ

Friday, March 30th, 2007


今週、ユーチューブ・ビデオ大賞(YouTube Video Awards)が発表[1]された。映画のアカデミー賞に倣って、2006年に投稿されたビデオの中で、優秀な作品を選ぶというものである。今年から始まった賞で、七つのカテゴリーに分かれており、ユーチューブ・コミュニティーが大賞を決定するというものである。この中で「Most Creative」大賞を受賞したのは下記のOKGo作「Here It Goes Again」である。

 

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Most Creative大賞受賞作品であるOKGo作「Here It Goes Again」 (出展:YouTube)

 

これは、トレーニングジムに設置されているトレッドミルで、四人の男性がパフォーマンスをするというものである。テレビのニュースでも大きく取り上げられ、全米の注目を集めるところとなった。しかし、実際に見てみたが、クリエイティブであるが、大賞を受賞するほどの価値があるとは思えなかった。ユーチューブにはたくさん面白いビデオが投稿されているのに、なぜこのような平凡な作品が大賞に選ばれたのか、おおいに疑問の残る選考であった。

 

Vote Differentの投げかけた波紋

ユーチューブ・ビデオ大賞と同時に、米国社会の注目を奪ったビデオに、米大統領候補であるヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)をパロディーにしたビデオがある。このビデオは「Vote Different[2]というタイトルでユーチューブに投稿され、すでに290万回以上視聴されている大人気の作品である。これは、あの有名な1984年のアップル・コマーシャルをマッシュアップしたものである。アップルが「Big Brother」という既存コンピューター勢力を崩壊し、新しい時代を切り開くというストーリーで、女性が走ってきて映画のスクリーンにハンマーを投げるシーンは、多くの人の視覚に焼きついている。今回は、ヒラリー・クリントンが既成勢力で、これを大統領候補のバラック・オバマ(Barak Obama)が打ち破るというストーリーである。非常によくできたビデオで、メッセージもさることながら、画面にひきつけられてしまう。

 

誰が何の目的で製作したのか

このビデオのクレジットでは「BarakObama.com」となっており、オバマ陣営が大統領選挙戦でクリントン陣営の攻撃を目的に製作されたものとの憶測が流れた。しかし、当のオバマ氏はニュース・インタビューで、「自分の陣営では、このようなビデオを製作するほどの技術はない」と否定している。その後騒ぎが大きくなり、このビデオの製作者である「ParkRidge47」という人物が、自身のブログ[3]の中で、本名がPhil De Vellisであり、このビデオを製作した経緯を語っている。Vellisは「Blue State Digitalというマーケティング会社に勤めており、オバマ候補の選挙活動ビデオの製作に携わっていた」ことを明らかにした。Vellis自身も、「オバマ候補の応援者で、オバマ候補が政治を変えることを期待している」と述べている。クリントン候補については、「有権者との対話という政治手法が不誠実で、既成政治勢力であると認識している」としている。Vellisはビデオで「古い政治マシンは、もはや権力を手にすることはできないことを主張した」としている。

 

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Vote Different」でのクリントン候補の「既成政治勢力」イメージ (出展:YouTube)

 

Vellisのブログの中でショッキングなメッセージは、「一市民が選挙プロセスに影響を与えることができることを証明したかった」としており、実際に、そうなりつつあることである。「Vote Different」はテレビニュースで大きく取り上げられ、全米での大統領選挙戦の話題を独占している。またこのビデオは完成度が高く、視聴者を引き付ける魅力を持っている。1984年にマッキントッシュが多くの利用者を引き付けたように、このビデオは民主党員だけでなく、幅広く全米の有権者をオバマ候補に引き付けている。クリントン候補の映像が「Big Brother」とぴったり重なり、視覚的なインパクトは甚大である。Vellisは、更に、「このビデオは自分単独の意図で製作し、オバマ陣営や会社とは何の関係がない」ことを述べ、「混乱を防ぐために現職を辞職した」ことを明らかにしている。

 

ユーチューブと大統領選挙戦

ユーチューブは、良くも悪くも、米国大統領選挙運動のありかたを変えている。2004年の大統領選挙戦では、テレビというメディアでの戦いで、それにブログという新興メディアが影響を及ぼしてきた。しかしブログという性格上、その影響の範囲は、ブログ読者であるインテリジェントな層に限られていた。今度の大統領選挙戦では、ユーチューブに投稿されたビデオが、幅広い層に影響を与えつつある。インターネット・ビデオがテレビに迫る影響力を示しつつある。インターネットでの映像の影響は直接的で、ブログを丹念に読む代わりに、映像としてそのまま視覚に訴えてくる。インターネットでは、User Generated Content(利用者製作のコンテンツ)が氾濫しているが、今年のキーワードはUser Generated Political Ad(利用者製作の政治キャンペーン)になってきた。

 

その一方、インターネットでのビデオ放送について、規制をすべきだという意見も台頭している。テレビでの選挙放送は公正を期すために、連邦通信委員会(FCC)がルールを設けているが、インターネットでの政見放送については何も規制がない。このままでは、各陣営が対抗候補の誹謗中傷を繰り返す無法地帯が生まれる可能性があると懸念されている。ビデオ製作が簡単にできるようになり、ユーチューブのようなインターネット・ビデオが政治を変える時代になってきた。ユーチューブ・ビデオ大賞では、失望が大きかったが、「Vote Different」ではその影響の重大さに驚いた。またもインターネットが時代の一ページを塗り替えつつある。




[1] YouTube, Inc., YouTube Video Awards, http://www.youtube.com/ytawards

[2] ParkRidge47, 3/5/2007, http://www.youtube.com/watch?v=6h3G-lMZxjo

[3] Phil De Vellis, 3/21/2007, http://www.huffingtonpost.com/phil-de-vellis-aka-parkridge/i-made-the-vote-differen_b_43989.html

グーグルで新技術が生まれる理由

Saturday, March 10th, 2007

Building 43の二階の一番奥のあたりが、グーグル創業者のオフィスである。ついでに、Larry Pageのオフィスを見せてもらった。Larry Pageは不在で、ドアは閉まっていたが、グーグル「役員室」の雰囲気は味わえた。他のオフィスとは変わらない、シンプルな造りで、オフィスの前は「遊び場」になっており、カーペットの上にビーンバッグ (豆上の物を詰めた簡易ソファー) が置かれていた。

ビルの外に出て、友人に、グーグルでの仕事環境について尋ねた。友人は、もともとベンチャー企業の創業者で、会社がアマゾンに買収されたため、ベイエリアからシアトルに移り、アマゾンに勤務していた。このたび、アマゾンからグーグルに移り、ロスアルトスに戻ってきた。

友人によると、アマゾンではノルマに追われる、通常のIT企業であった。しかしグーグルは活動の範囲が広い、自由な会社であると表現している。有名になったように、労働時間の20%を個人が選ぶプロジェクトにあてることができるとしている。

確かに、キャンパスに足を踏み入れた瞬間に、普通のIT企業とは異なる何かを感じた。違和感があるが、何か特定できないままに、キャンパスを歩いていると、ここは大学と雰囲気が似ていることに気づいた。大学ののびのびとした研究環境によく似ている。

これが、新しいものを生み出す土壌になっているのかと思いながら、キャンパスを歩いて出口に向かっていた。

グーグルのキャンパスでは、犬と一緒に歩いている社員をたくさん見た。その中で、飼い主が落としたリード () を、飼い主の命令で、犬が拾ってくわえて歩くシーンを目撃した。

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この写真がそうで、賢い顔をした犬が、リードをくわえて主人と散歩しているところである。

今回のグーグル・キャンパス・ツアーで印象に残ったのは、この自由な空気である。また、一番感銘を受けたのは、カフェテリアの料理の美味しさであった。このカフェテリアには、また来てみたいと思いながら、駐車場に向かった。

グーグル社員の働き振りをみて

Wednesday, March 7th, 2007

グーグルのオフィスの構造は、各社員がキュービクルに入るのではなく、少し大きめのキュービクルに六人くらいの社員が一緒に入る構造となっている。

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ここも写真撮影は禁止されているので、第三者 (Kunal Kundaje) の写真を借用する。グーグルは社員間のコミュニケーションを奨励しているのか、働いている様子をみると、一つのモニターを複数人で見ながら、話し合っている光景が目に付いた。

ちょうど、グーグルがユーチューブを買収した後で、オフィスにはすでにユーチューブのロゴの入った名札が、空きのキュービクルに取り付けられていた。

グーグルでは優秀なエンジニアが個人個人単独で仕事をしているのかと思っていたが、日本風にグループで作業をしていたのは以外であった。

グーグルのオフィスに入る

Sunday, March 4th, 2007

ランチの後はグーグルの中を案内してもらった。カフェテリアの建物 (Building 40) の目の前が、グーグル・キャンパス (Googleplexと呼ばれている) の中でも中心のオフィスであるBuilding 43に入った。

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Building 43にはLarry PageSergey Brinのオフィスがある。またグーグルのスポークス・ウーマンになりつつある、Marissa Mayerもこのビルにオフィスがある。

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Building 43に入るといきなり「SpaceShipOne」の模型が吹き抜けのロビーの天井に展示されている。(出展: Laughing Squid) 屋内は撮影禁止であるため、ここでは第三者の写真を借用する。グーグル創設者の宇宙への関心を示している。

このオフィスのモチーフは「改造倉庫」で、今まで倉庫として使っていたビルを、オフィスに改造したイメージを表している。天井に大型の配管が通っているなど、倉庫を改造したモダンなオフィスという演出である。

コンピュータの未来を予測する

Friday, March 2nd, 2007


米国セキュリティ業界最大のカンファレンスであるRSA  Conference 2007がサンフランシスコのMoscone Center (マスコーニ・センター)で開催された。基調講演にはマイクロソフト会長のBill Gates (ビル・ゲイツ)、オラクル会長のLarry Ellison(ラリー・エリソン)、また、元米国国務省長官のColin Powell(コリン・パウエル)など著名人が名前を連ね、メディアも注目するカンファレンスとなった。オラクルはセキュリティ企業を買収し、新戦略を発表するのではとの噂もあったが、Ellisonは基調講演を欠席するというハプニングがあった。マスコミの話題には上らなかったが、私が一番期待していた基調講演は、Ray Kurzweil(レイ・カーツワイル)の「Singularity」(特異点)で、その期待は裏切られなかった。

 

Ray Kurzweilが示す未来

Kurzweilは米国を代表する研究者で、ITを中心にテクノロジーの未来を予測する未来学の研究に従事している。Kurzweilの手法は、正確な技術に元ずく精度の高い未来予想ということで高い評価を受けている。一方で、Kurzweilは「現代版の旧約聖書預言者」と揶揄されることもあり、評価は分かれている。Kurzweilは視覚障害者のためにテキストを音声に変換する装置を開発している。最近は、遺伝子工学(Genetics)、ナノテクノロジ(Nanotechnology)、及びロボット工学(Robotics)の研究に従事し、これら「GNR技術」がもたらす恩恵とともに、その危険性について啓蒙活動を行っている。Kurzweilは「The Singularity is Near」(特異点はすぐ近く)という本で、人類は2045年までに特異点に到達すると予測しマスコミの話題となった。特異点とは、科学技術進化の速度が指数関数的に増加するため、「人類の歴史というネットが破れる点」を表している。

 

Ray Kurzweilの基調講演

Kurzweilは「Singularity」(特異点)というタイトルで基調講演を行った。Kurzweilはインターネットの爆発的な広がりを例に技術進化の特性を説明した。WWWが登場して以来、インターネット利用者人口は急増した。今まで静かであったインターネットが、ある日突然利用者人口が急増する現象が、技術進化の代表的なパターンであると説明した。この現象をインターネット人口と時間軸でプロットすると、1980年代はインターネット人口がほぼ横ばいで推移していたが、1990年代の後半から、急速に立ち上がるというカーブを描く。しかしインターネット人口の対数を取りグラフを描くと、下のグラフの通り、インターネット人口はほぼ直線に乗ることが分かる。

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対数軸ではインターネット人口の増加は直線的  (出展:Raymond Kurzweil)

 

ムーアの法則

Kurzweilは、「人間の目からするとインターネット人口がある日突然急増する現象も縦軸を対数で表示すると直線的な増加を示す」と説明している。この現象は一般的にムーアの法則(Moore’s Law)と呼ばれており、IT業界では余りにも有名である。ムーアの法則とはICチップの中でトランジスターの大きさが指数関数的に縮小する現象を示す。インテル会長であったゴードン・ムーア(Gordon Moore)が、ICチップの中のトランジスターの数は二年ごとに倍増することを発表し、この現象はムーアの法則と呼ばれるようになった。「今ではトランジスターの数は一年ごとに倍増しているが、ムーアの法則が示すところは、コンピュータ技術は指数関数的に進化するということである」と説明した。

 

Kurzweilは基調講演の中で、「コンピュータ技術の進化において、ムーアの法則は第五世代の技術進化を表現したもの」であり、「コンピュータが誕生した当初からこの法則が観測される」と説明した。第一世代はパンチカードで、「1890年に米国国勢調査の集計に使われ」有名になった。第二世代はリレー(継電器)で、「第二次世界大戦下、ナチスドイツのEnigma(エニグマ)という暗号化装置で作られた暗号を解読した」ことで注目を集めた。第三世代は真空管で、「米国CBS放送が大統領選挙でいち早くアイゼンハワー(Eisenhower)の当選を予測し」、コンピュータ・パワーが社会で認識される切欠となった。第四世代はトランジスターで、米国の「人工衛星打ち上げで使われ」、そして現行世代であるICチップへと続く。

 

第六世代のコンピュータへ

Kurzweilは、「各世代でコンピュータ技術が指数関数的に進化し、ムーアの法則が適用できる」とし、更に、「それぞれの世代で技術進化が壁に当たり進化が止まる」としている。歴史を振り返ると、ある技術が飽和すると、「パラダイムシフトが起こり、新技術が登場してきた」と説明した。Kurzweilは、「現在のICチップは、2019年には壁にあたり成長が止まる」と予測している。ICチップはトランジスターの大きさが指数関数的に縮小しているが、「トランジスターが原子の大きさレベルに到達すると、ここで技術進化は停止しする」と説明した。Kurzweilによると、ここで「パラダイムシフトが起こり、第六世代のコンピュータに向かう」としている。

 

Kurzweilは、「次世代のコンピュータは、三次元構造になる」と予測している。「人間の脳が三次元構造をしているように、コンピュータのプロセッサも三次元構造となり、カーボン・ナノチューブ(Carbon Nanotube)のような炭素原子が円筒の網目状に繋がった構造になる」と予測している。そのほかの候補技術としては三次元のシリコンチップ、光学コンピュータ(Optical Computing)、DNAコンピュータ、量子コンピュータ(Quantum Computer)などを挙げている。

 

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カーボンナノチューブの構成  (出展:Wikipedia)

 

Kurzweilによると「人間の脳は1,000億個のニューロンからなり、一つのニューロンは1,000個の接点を持ち、ここで毎秒200回の計算が行われている」と説明した。更に、「2023年頃には人間の頭脳に匹敵する性能のコンピュータが千ドルで手に入るようになり、2045年ころには特異点到達する」と予測している。目の前の技術を深く掘り下げることは必要不可欠であるが、時には、マクロなスケールでコンピュータを俯瞰することも必須である。講演が終わると会場の全員が立ち上がり、しばらく拍手が鳴り止まなかった。