Archive for June, 2007

iPhoneとオープンソース

Friday, June 29th, 2007


今日は待ちに待ったアップルiPhoneの販売開始日である。NBCニュースは、ニューヨークのアップルストアー前で、野宿しながら順番を待っていた人々が、黒色のTシャツに身を包んだアップル社員に拍手されながら店内に入場する光景を報道した。CNBCニュースでは、パロアルトのアップルストアーにトラックが到着し、iPhoneを搭載したパレットが店内に運び込まれる様子を紹介した。今日は、テレビやウェブやブログはiPhoneの記事一色で、iPhoneの人気の強さを再認識させられた。

 

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Palo AltoUniversity Avenue沿いにあるApple Storeに展示されているiPhoneのモックアップ。ここにSteve Jobsが登場し、ハイプが一段と盛り上がった。   (出展:Jun Seita)

 

オープンソース新ライセンスの発表

今日は、余り話題にならなかったが、フリーソフトウェア財団 (The Free Software Foundation) GPL (GNU General Public License) 第三版 (GPL v3) を発表[1]した日でもある。アップルiPhoneとフリーソフトウェア財団の発表が、6月の最終営業日に、たまたま重なってしまったのではなく、フリーソフトウェア財団が、わざわざiPhone発売開始時刻 (午後6) の三時間前にGPL v3の発表をぶつけた。このことは、オープンソースのライセンス形態とiPhoneのビジネスモデルに重大な問題があることを示している。

 

Tivoizationという問題

この問題はTivoization (ティーボアイゼーション:ティーボ化) と呼ばれている。TiVo (ティーボ) とは米国で普及しているデジタル・ビデオ・レコーダ (DVR) で、テレビ番組をディスクに記録し、後でそれを再生して利用する。TiVoという家電製品の中には、リナックスやその他オープンソースが組み込まれており、改定前のライセンス契約であるGPL v2が適用されている。TiVo利用者は、GPL v2で規定しているCopyleftの条項にしたがって、ソースコードを閲覧したり、それを改造する権利を有している。つまり、利用者には、TiVoに内臓されているリナックスなどを閲覧し、改造する権利が付与されている。

 

一方で、TiVo側としては、ソースコードを閲覧するのはいいとしても、利用者が勝手に製品の中身を改造して、TiVoの亜流を作られては困るというポジションである。このため、TiVoGPL v2のライセンス契約に遵守しながら、利用者がTiVoの亜流を作るのを防ぐ方式を考案した。これは、ハードウェアが実行時にコードのシグナチャーを確認して、改造されているバイナリーについては、TiVoで動作させない仕組みである。この仕掛けを、フリーソフトウェア財団の代表であるリチャード・ストールマン (Richard Stallman) Tivoizationと命名した。

 

 

GPL解釈の相違

フリーソフトウェア財団は、今日発表したGPL v3で、このTivoizationを禁止した。GPL v3で、法の抜け穴を潜るような行為は禁止されたが、そもそもTivoizationの解釈を巡っては様々な意見があり、業界のコンセンサスは取れていない。リナックスの生みの親であるリーナス・トーバルズ (Linus Torvalds) は、この条項に反対で、ウェブサイトなどで「利用者が家電製品を改造するのは不適当である」と主張している。トーバルズが解釈するGPLの精神とは、「利用者はソースコードを閲覧したり、改造する権利を有するが、それを特定のハードウェアで実行する権利までは持ち合わせていない」とし、「改造したソフトウェアをTiVo以外のハードウェアで実行すればいい」と主張している。GPL v3草案に対するヒアリングの過程で、Tivoization禁止条項に関し、トーバルズを含み、賛否両論が議論されたが、今日発表された最終版では、Tivoizationは禁止されることとなった。

 

TivoizationiPhoneの関係

Tivoizationが明確に禁止されたことで、iPhoneのライセンス関連事項がグレーとなった。今日発売されたiPhoneは、Mac OS Xをベースに、Safariブラウザーを搭載しており、これら製品はオープンソースをベースに開発されている。アップルは、具体的にどのようなライセンス契約になっているかを公表していないが、フリーソフトウェア財団は発表文[2]の中で、「iPhoneGPLでライセンスを受けているが、その影響がどの程度の範囲に及ぶのか興味ある」とコメントし、iPhoneにはライセンス問題が内在していることを示唆している。フリーソフトウェア財団は、iPhoneとの同時発表が象徴しているように、アップルに、オープンソースの原点に立ち返り、改造したソフトウェアを自由にiPhoneで使用できるよう、強いメッセージを発信した。

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iPhoneOSやブラウザーはGPLで規定されたソフトウェアをベースに開発されている  (出展:Apple)

 

トレンド

GPL v316年ぶりに改定されたライセンス契約で、従来の研究開発を対象とした契約から、オープンソースでの事業を目的とした契約に様変わりし、その意義は大きい。一方、Tivoizationが示すように、業界での意見が集約する前に契約書を作り、将来に課題を残す結果となった。Tivoizationのほかにも、「ASP Loophole」の問題も抱えている。ASP Loopholeとは、オープンソースをオンデマンドで使用した際には、ソースコード公開の義務を免責されるという特権である。世界最大のオープンソース・ユーザであるグーグルは、この特権を利用して成長してきた。GPL v3ではASP Loopholeを塞ぐことはできなかった。オープンソースという民衆が汗をかいた成果を、アップルやグーグルが無償で使うだけでは不公平感が残るし、オープンソースでのイノベーションが途絶えてしまう。iPhone発売と同時に、オープンソースの最適なライセンス形態の模索が始まった。




[1] The Free Software Foundation, FSF releases the GNU General Public License, V 3, 6/29/07

[2] iPhone restricts users, GPLv3 frees them, The Free Software Foundation, 6/28/07

オープンソースは模造品か

Friday, June 15th, 2007


今年のオープンソース・ビジネス・カンファレンス (Open Source Business Conference: OSBC) はサンフランシスコのパレスホテル (Palace Hotel) を会場に開催された。OSBCは名称の通り、オープンソースの事業面に焦点をあてて議論が行われ、オープンソースの最新動向が紹介された。休憩時間には会場のあちこちで、起業家がベンチャー・キャピタリストに熱心に製品を説明する光景が見うけられ、実際、このカンファレンスを切欠に投資を受けた企業も少なくない。

 

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OSBC会場のPalace Hotel。アーチ型の天窓から太陽が射し込む明るい会議場。 (出展:Palace Hotel)

 

再びオープンソースとは

OSBC注目の基調講演は、MySQL CEOであるマーティン・ミコス (Mårten Mickos) による、「Open Source: Why Freedom Makes a Better Business Model (オープンソース:自由であることがなぜ事業を成功に導くか) であった。この講演の中で、ミコスはオープンソースとは何かを再び問い、オープンソースが如何に社会に貢献したかを説明した。MySQLという成功したオープンソース企業のCEOが、オープンソースをどう解釈しているのか、興味深い内容であった。

 

ミコスは「オープンソースでの自由は、無料 (Free) のビールではなく、言論の自由 (Freedom) である」と、言い尽くされた格言から入り、「この自由がソフトウェアだけでなくIT業界に大きな恩恵を与えた」と説明した。IT利用者が「自由」を享受している事例として、イーベイでの自由な取引や、スカイプでの自由な交信、また、ユーチューブでの自由なビデオ製作を示した。次に、なぜこの自由がオープンソース興隆に寄与しているかについて議論が進んだ。 オープンソースが成功した理由の一つがコミュニティーの貢献で、「オープンソース開発者数は、ソフトウェア企業の開発者総数の100倍である」と、集合知の威力について実数で示した。ソフトウェアをオープンにすることで、誰もが「自由」にアクセスできることで、コミュニティーが形作られ、事業として成功してきたと結論付けた。

 

オープンソースの事業形態

基調講演の中で一番興味深かった点は、ミコスがオープンソースをどう定義しているかであった。オープンソース企業は試行錯誤しながら事業を展開しており、その形態はどんどん変化している。この多様なオープンソース事業形態を、ミコスは、12に分類して説明した。それぞれ、1) 寄付金で運営 (アパッチなど)2) 宣伝広告収益 (Mozilla)3) 組み込みライセンス (MySQLなど)4) コンサルテーション (Ubuntuなど)5) 保守サービス (レッドハットなど)6) 有償と無償製品 (SugarCRMなど)7) オープンとクローズドソース (EnterpriseDBなど) 8) ハードウェア販売 (Asteriskなど)9) オープンソース以外全て有料 (IBM)10) 非営利団体 (Ruby on Rails)11) 有償化に逆戻り (Borland)12) ウェブトラフィック (Yahoo)

 

オープンソースの形態は多彩であるが、ここで共通しているのが、「オープンソースはハイブリッド」であること。つまり、オープンソース事業は無償のソフトウェアを核として、その周辺に有償製品をあしらうという、無料と有償製品が混在するハイブリッド・モデルであると説明した。さらに、上記分類の中で、事業として一番有望なモデルとして、ミコスは2) 宣伝広告収益、3) 組み込みライセンス、5) 保守サービス、6)有償と無償製品の形態を挙げた。全世界でオープンソースという壮大な実験が進んでいるが、事業形態として有望なモデルの姿が見えてきた。

 

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Mårten Mickosはオープンソースの本質は革新的な「開発」と「配布」方式であり、ボランティア活動や社会主義ではないとの見方を示した (出展: MySQL AB)

 

オープンソースは単なる模造品か

ミコスの基調講演を含み、OSBCで議論された重要なテーマが、オープンソースは商用製品のコピーで終わるのかという点である。ミコスは講演の中で、オープンソースとは「革新的な開発と配布方式」であるとして、オープンソースの本質をコミュニティーでの「開発」と無償ダウンロードによる「配布」であると指摘し、この方式そのものがイノベーションであるとの解釈を示した。一方、市場では、オープンソースは商用製品の複製を低価格で販売する方式であるとの解釈が一般的である。MySQLはオラクルと同じ機能を低価格で販売することでシェアを伸ばしてきたという議論である。カンファレンスでは色々な意見が飛び交い、フォーブス (Forbes) のクエンティン・ハーディー(Quentin Hardy) は、「古代ローマの彫像は古代ギリシャの彫像の模造品であり」、「イノベーションは複製による習作から始まる」と発言し、オープンソースが成長していく過程を説明した。このあたりが市場を代表する意見で、オープンソースは習作を重ねながら完成度を上げている。

 

トレンド

それでは、オープンソースはこれから、師匠を乗り越えることができるのか。それとも、既存ソフトウェアの模造品のままでで終わるのか。オープンソースが成長を続け、手本となった商用製品を機能と性能で凌駕することができるのか。また、オープンソースは、商用製品が手の出ない新市場を築くことができるのか。オープンソースとイノベーションの関係が重要なテーマとなってきた。答えが出るまでには時間がかかるが、OSBCでその前兆が見えてきた。

 

今年は、オープンソースという革新的なフレームワークを利用して、新技術を開発するベンチャー企業が増えてきたように思える。OSBCの会場では、新生ベンチャー企業が生き生きと活躍しているのが印象に残った。OSBCの場が、オープンソースという共通項を持つベンチャー企業の新技術インキュベーターに変わりつつあるのを感じた。オープンソースという仕組みを利用して、新しいものに挑戦するという、チャレンジ精神が目立ってきた。次回からオープンソースでのイノベーションや最新動向を紹介する。

アーサー・ロック: シリコンバレーを築いた投資家

Friday, June 1st, 2007


シリコンバレーの新興企業は、ベンチャー・キャピタル (Venture Capital) という資金を利用して、新技術を生み出してきた。 この「ベンチャー・キャピタル」という言葉と手法を生み出したのが、アーサー・ロック (Arthur Rock) という人物であり、フェアチャイルドー (Fairchild Semiconductor) やインテル (Intel) など、多くの企業を育て上げた。コンピューター歴史博物館 (Computer History Museum) で、「歴史に名を残すベンチャー・キャピタリストであるアーサー・ロックとジョン・マーコフとの会話の夕べ」 と題する講演があり、ロック自身が語るベンチャー企業の歴史を聞いた。

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シリコンバレーの歴史を作ったベンチャー・キャピタリスト Arthur Rock (出展:Harvard Business School)

フェアチャイルド・セミコンダクター

ロックはベンチャー・キャピタリストの草分けであり、1926年にニューヨーク州ロチェスター (Rochester) に生まれた。ロックがこの道を進む切欠となったのが、フェアチャイルド・セミコンダクターとの関わりである。 ロックはハーバード・ビジネス・スクール卒業後、ウォール街のヘイデン・ストーン社 (Hayden Stone & Co.) で証券アナリストとして働いていた。ロックは講演の中で、自身がフェアチャイルドに手を染めるようになった経緯を、「ユージーン・クライナー (Eugene Kleiner) の父親がヘイデン・ストーン社に手紙を出した」ことに端を発したと説明した。クライナーという人物は、ノーベル物理学賞を受賞したウイリアム・ショックレー (William Shockley) 率いるショックレ半導体研究所 (Shockley Semiconductor Laboratories)にいたが、「仕事に大きな不満を抱えており、仲間と新会社設立を計画」していた。

この新会社が後のフェアチャイルド・セミコンダクターであり、クライナーを含む会社設立の8人は、ショックレーから「八人の裏切り者 (Traitorous Eight) と呼ばれ歴史に名を刻んでいる。この新会社設立の資金を募ったのがロックで、フェアチャイルド・カメラ&インスツルメント (Fairchild Camera and Instrument) 150万ドルの資金を提供した。 そして1957年、パロアルトで、フェアチャイルド・セミコンダクターが事業を開始した。投資家のシャーマン・フェアチャイルドは (Sherman Fairchild)は、父親の遺産を相続し、IBMの筆頭株主であり、航空写真など多くの事業に投資をしていた。フェアチャイルド・セミコンダクターで、シリコン集積回路という革新的な事業が立ち上がり、ロックはベンチャー・キャピタリストとして名を知られるようになった。

ベンチャーキャピタリストとして出発

ロックはその後1960年に設立されたTeledyne (テレダイン) への投資に関わった。技術企業の集合体であるテレダインは、ロックの投資から歴史が始まった。これを契機に、ロックは1961年にサンフランシスコに移り、ここでトーマス・デービス (Thomas Davis)と「デービス&ロック (Davis & Rock)」投資会社を設立した。 サンフランシスコに事業拠点を移した後、ロックは、マックス・パレブスキー (Max Palevsky) により設立されたサイエンティフィック・データ・システムズ (Scientific Data Systems: SDS)に投資を行った。 SDSは科学技術計算を専門とするコンピューター企業で、その後、ゼロックス (Xerox) に高値で買収されることになる。 ロックは買収後その理由を知ることになり、「当時IBMはコピー事業に参入することを目論んでおり、ゼロックスはこの対抗策として、コンピューター事業に進出するためにSDSを買収した」とディールの真相を説明した。ゼロックスはSDSを、科学技術計算から、IBM対抗のビジネス計算事業に、方向転換を図ったがうまくいかず、この事業は失敗に終わった。

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Traitorous Eight」; KleinerRockとの出会いの切欠を作る。Noyceが集積回路を考案。Mooreがムーアの法則を提唱。 (出展:Fairchild Semiconductor)

インテルからアップルに投資

1968年には、ロバート・ノイス (Robert Noyce)、ゴードン・ムーア (Gordon Moore)、アンディー・グローブ (Andy Grove) が、インテルを創設する。このときの資金調達にロックが指名され、半日で250万ドルを募ったことが、ベンチャー・キャピタル界での武勇伝となっている。ロックによると、「資金調達のため準備したのは、二ページにダブルスペースでタイプした資料」だけであったとの説明を聞いて、会場から一斉に笑いと拍手が起こった。ロックの先見性に多くの投資家が信頼を置き、大量の資金が集まる状況であった。時代は進み、1978年に、ロックはアップルに投資をしているが、そのときは様子が違い、ロックは「スティーブ・ジョブズ (Steve Jobs) に会った時、アップルの将来性はない」と判断したと述べた。ジョブズには「惹かれるところはなかった」と語り、ロックが育ててきた企業の世代交代が進んでいることを現している。しかしそれでもアップルに投資したのは、「サンノゼで開かれたホームブリュー・コンピューター展示会 (Homebrew Computer Show)で、アップル・ブースが黒山の人だかりであったため」と説明した。時代は急速に新しい世代に移りつつある。

投資の判断は何か

今回の講演で一番惹かれた点は、ロックがシリコンバレーを形作ったベンチャー企業の生い立ちを披露する点ではなく、ロックがベンチャー企業とどういう姿勢で向かい合ってきたかという点である。つまり、ロックがベンチャー・キャピタリストとして活躍する背後にある、ロックの思想や投資への考え方である。講演会進行役のジョン・マーコフ (John Markoff) がロックに、「投資する際の決めては何か」と質問し、それに対しロックは、「自分は技術屋ではないので技術のことは分からない。その代わり、人物を見て投資を決定する」と説明した。この発言にロックの思想が凝縮している。

ロックの説明は続き、人物のどこを見て判断するのかというと、「技術的に誠実であること (Technically Honest)」と述べた。これはどういう意味かというと、起業家は「技術をありのままに理解する必要がある」としている。「市場での技術を正確に把握し」、さらに、「自分が開発している技術を過大評価することなく、冷静に評価できる能力が必要である」と述べている。技術者が開発している製品にほれ込むことは大切だが、盲目になるのではなく、「問題点を冷静に掴み、それを解決していく能力が必要である」としている。

さらに、ロックは、「戦略は戦術に必ず負ける」を持論にしている。起業家にとっては、アイディアや事業戦略は必要であるが、最後に必要なことは、目の前にある問題を早く解決する戦術である。米国社会では、ビジネス・スクールで企業戦略を教え込まれるが、大企業と異なりベンチャー企業では、毎日生きるか死ぬかの境界線上にあり、これを切り抜けて成長するため、「今日の問題を如何に解決するかという即効性が重要である」としている。

新技術かキャピタルゲインか

マーコフの「インターネットバブルをどう評価するか」という質問に対し、ロックは「投資家は事業を育てるために存在する」と、彼の信念を述べた。ロックが新興企業に投資をするのは、キャピタル・ゲインを得ることが目的であるが、最終的なゴールは「若い企業を成長させるための手助けをすることである」と述べた。これは、新興企業の経営者にも当てはまり、ロックの投資判断の重要な要素となる。だれもが金持ちになりたくて事業を起こすが、究極の目的が、新しいものを生み出すことであるのか、キャピタル・ゲインであるのかで大きく異なる。新興企業の経営者が、独自の技術で新製品を創り出すことに喜びを感じているか、事業成功による報酬に幸せを感じるのかで、企業の舵取りも異なってくる。ロックによると、「投資対象に選ぶ経営者は必ず前者のタイプであり、キャピタル・ゲインを目指す経営者には決して投資しない」と説明した。

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講演会会場のComputer History MuseumSilicon Graphicsの元本社ビルが博物館に生まれ変わった。ここで著名人によるLectureが行われていることを教えてもらい参加。 (出展:Google Maps StreetView)

人の能力に投資

インターネット・バブル期には後者のタイプの経営者が、金銭的なリターンを目指してベンチャー企業を起こしてきた。そしてバブルがはじけた。ロックの講演を聞いて、歴史を変える技術が生まれるのは、芸術家が偉大な作品を発表するのに似ていると感じた。ベンチャー企業で革新的な技術が登場し、製品になるのは、その技術にのめり込んで、寝食を忘れて開発に没頭する姿が浮かび上がる。この人間に秘められたパワーが全開し、幸運が重なって、ベンチャー企業として成功する。キャピタル・ゲインを目的とした中途半端な根性では、世の中を変える新技術は生まれない。ロックの信念である、「投資対象は技術ではなく人である」という言葉は、ハイテク産業の地シリコンバレーでは意外な感があるが、人間に秘められた大きな能力に期待していることを示している。ロックの講演から、ベンチャー・キャピタル投資だけに留まらない、普遍的な教訓を教わり、イノベーションの源泉を垣間見た。