Archive for November, 2007

バーチャル・アプライアンスの新しい形態

Friday, November 30th, 2007


バーチャル・アプライアンスとは、ヴィエムウェア (VMware) など仮想マシン上で、 OSからアプリケーションまでを束ねたイメージを稼動させるシステムのことを示す。バーチャル・アプライアンスが注目されている理由は、コンピューターを簡単に使うためである。利用者は、パソコン上に、OSやミドルウェアやアプリケーションをそれぞれインストールする代わりに、こららを束ねたファイルを一本インストールするだけで、完全なシステムが構築できる。このバーチャル・アプライアンスを支えているのが仮想化技術で、ヴィエムウェアなどから提供されている。ヴィエムウェアの創業者であるメンデル・ローゼンブラム (Mendel Rosenblum) は、これからのシステムはバーチャル・アプライアンスに向かうと表明しており、この分野がホットな話題となっている。

 

モカ・ファイブという企業

バーチャル・アプライアンスを提供している会社にモカ・ファイブ (moka5) というベンチャー企業がある。モカ・ファイブが提供しているバーチャル・アプライアンスはユニークで、OSからアプリケーションを束ねたファイル (「ライブPC (LivePC) という名称) だけでなく、仮想マシン (「エンジン」 (Engine) という名称) までを一つのシステムとして提供している。この「ライブPC」と「エンジン」を統合したシステムを、Windows XPの上で展開することで、究極のモバイル・コンピューティングを実現しようとしている。

 

ライブPCとエンジンはUSBメモリーやiPodに格納することができる。利用者はこれらの外部メモリー装置をパソコンに差し込むだけで、そこに自分が使っているシステムを展開することができる。例えば、リナックス上でオープンオフィスを使っている人は、このシステムを丸ごとOSからアプリケーションまでをUSBメモリーに格納し、それを出張先で、Windows XPパソコンにロードするだけで、システムを展開することができる。

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仮想マシンであるEngineに複数のLivePCを設定しておくことができる。EngineのデフォルトLivePCFearless Browser (後述) で、この他にWindowsや各種Linuxを稼動させることができる。(出展: moka5, Inc.)

 

また、そこでの作業が終了すると、USBメモリーにデータなどを格納し、借りていたパソコンから全てのシステム情報や個人データを消去して、借りる前と同じ状況に戻す。今は、出張にノートPCを持参しているが、これからはUSBメモリーだけを持ち運べばよくなる。

 

シン・クライアントの歴史

モカ・ファイブと同様なコンセプトを実現しようとした製品に、サン・マイクロシステムズ (Sun Microsystems) の「サンレイ」 (Sun Ray) がある。サンレイはLAN接続のシン・クライアントで、利用者はスマートカードを指し込むと、自分のデスクトップにアクセスできるという構造である。このため、会社において、社員は空いている端末に従業員カードを指し込めば、そこが自分のワークステーションとなる。また、家においても同様に、サンレイにカードを差し込むだけで会社と同じ環境で仕事ができるだけでなく、データは全てホストに格納されているため、機密情報の漏洩を防止できるため、注目を集めた。

 

しかし、サンレイの売れ行きは芳しくなく、今では特殊な領域で活用されるに留まっている。サンレイの問題はオフラインで使えないことと、ネットワーク経由でデータにアクセスするために、使い勝手が悪いということである。またシステム管理者からすると、クライアントだけでなく、それをホスティングするセンターも構築するため、コストと手間がかかる。この問題を解決するため、モカ・ファイブのアプローチは、システムのプロビジョニングを簡単に行えるバーチャル・アプライアンスの採用である。これにより、クライアントがネットワークで繋がっているときは勿論、オフラインであってもUSBメモリーを差し込むことで簡単にシステムを生成することで、手軽なリモート・コンピューティングを実現している。

 

モカ・ファイブの仕組み

仮想マシンである「エンジン」にはヴィエムウェアの「ヴィエムウェア・プレーヤー」 (VMware Player) を採用している。これはヴィエムウェアからフリーウェアとして提供されている製品で、だれでも無償で使うことができる。この仮想マシンに機能を追加して「エンジン」として提供している。この仮想マシンでライブPCが稼動し、数多くのライブPCが提供されている。ライブPCはモカ・ファイブが開発したものだけでなく、利用者により開発されたものがライブラリー (LivePC Library) に登録されている。利用者はアプリケーションを選定するように、必要なライブPCをダウンロードして使う。ライブPCは前述の通り、OSとその上で稼動するアプリケーションが一つのファイルに纏められている。

 

USBメモリーをPCに指し込んで、初期画面で「Fearless Browser」のスタートボタンをクリックするだけで、システムが立ち上がる。

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デフォルトのLivePCは「Fearless Browser」である。これは、リナックス (Gentoo) 上にブラウザー (Firefox)、メールクライアント (Thunderbird)DNS (OpenDNS) など必須ソフトウェアをバンドルしたものである。上のスクリーンショットはFearless Browserをダウンロードしている画面。必要なモジュールからダウンロードされるので、ダウンロードの途中でもスタートボタンを押すとシステムが起動する。(出展: moka5, Inc.)

 

トレンド

モカ・ファイブは元々スタンフォード大学の研究プロジェクト (Collective」という名称) で、NSFの予算でバーチャル・アプライアンスを支える基盤技術の研究を行ってきた。バーチャル・アプライアンスという言葉はこのプロジェクトで生まれた。コンピューターを如何に使いやすくするかという視点で研究が行われ、 そのメンバーが独立して現在のモカ・ファイブを設立した。現在、モカ・ファイブは、バーチャル・アプライアンスを携帯電話に展開する方式を開発している。出張先で、iPhoneにライブPCを展開して、デモを行うと言う日もそう遠くないかもしれない。

ソーシャル・ソルビング

Friday, November 23rd, 2007


検索エンジンのIT管理への適用は、その効用が認められ、応用分野が広がりつつある。この分野において、先週、「IT向けグーグル」 (Google for IT) と称するベンチャー企業が登場した。

 

パグローという検索エンジン

検索エンジンでログデータを解析するというアイディアはスプランク (Splunk) だけでなく、パグロー (Paglo) というベンチャー企業から、先進的なシステムが登場した。パグローが開発している検索システムは、グーグルの検索エンジンと同じように、データを収集するクローラーと、収集したデータを検索する検索エンジンから構成される。このクローラーは「パグロー・クローラー」 (Paglo Crawler) とよばれるソフトウェアで、利用者のシステム情報を収集する。パグロー・クローラーはオープンソースとして公開される予定で、だれでも自由にインストールして使用することができる。

 

グーグルのクローラーと同じように、最初、クローラーに収集すべき情報の場所を教える。パグロー・クローラーに、ネットワークに接続されている機器の名称とそのIPアドレスを入力する。具体的には、機器に搭載されているネットワーク・アダプター (LAN接続のためのPCIカードなど) とサブネットマスクまで含むIPアドレスを入力する。これに基づき、パグロー・クローラーは指定された機器のログ情報を収集する。更に、パグロー・クローラーは、ルーターやウインドウズなどにアクセスして各種情報を収集する。このため、これらシステムにログインするための情報 (IDやパスワードなど) を入力する。

 

システム情報の検索

パグロー・クローラーは、指定されたコンポーネントの情報を収集し、それらをパグローのデータセンターに送信する。グーグルのように収集したデータはホスト側で管理する。パグローのデータセンターでは、利用者のアカウント 「ウェブ・アカウント」 (Web Account) が設定され、利用者サイトで収集した情報はこのウェブ・アカウントに安全に送信される。パグローは、これらの情報をインデックシングして、「サーチ・インデックス」 (Search Index) に格納する。利用者はこのメタデータに対して検索を実行することになる。

 

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システム内でどれだけマイクロソフト・オフィス製品が使われているかを検索している事例。検索キーワードに「office」と入力してアドホックに検索できる。検索結果ではオフィス製品が使われている場所(機器名とIPアドレス)や具体的なアプリケーション名が示される。(出展: Paglo Labs Inc.)

 

専用言語による検索

サーチ・インデックスは定型と非定型のデータベースに格納される。非定型のデータベースをアドホックに検索するだけでなく、定型のデータベースに対して、専用クエリー (PQL: Paglo Query Language) を使った複雑な検索ができる。PQLは標準のデータベース検索クエリーであるSQLに良く似ており、簡単に使うことができる。このPQLで特定のネットワーク機器のトラフィック量を検索したり、それを特定の日に絞り込んで検索することができる。また、パグローはダッシュボード機能 (Paglo Dashboard) を持っており、IT管理者はネットワークの状態や問題点、また、PQLによる検索結果をダッシュボードに表示してシステムを監視することができる。更に、ネットワーク・マップ (Network Map) を使えば、監視しているネットワークを図形で表示することができる。

 

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Paglo Dashboardにネットワーク内でのアプリケーションの稼働状況を表示した事例。左下のグラフは、アプリケーションの種別とインストール数を表示したもの。更に、PQLで開発されたクエリーのライブラリーにアクセスして、各種統計情報を表示できる。(出展: Paglo Labs Inc.)

 

検索コラボレーション

パグローはパグロー・クローラーなどをオープンソースで提供しており、利用者はこれらツールを無償で使うことができる。また、パグローは収集した情報を、パグローのサイトに格納するという、グーグルのようなオンディマンドでの検索方式を採用している。利用者は、パグローの検索サービスを無償で使うことができ、オープンソースのクローラーとあわせて、ネットワークのログ情報解析を全て無償で行える。パグローは先週スタートしたばかりの若いベンチャー企業で、まだ、そのビジネスモデルについては明らかにしていない。今後、有償サービスモデルを導入するのか、また、グーグルのように宣伝広告を導入した事業展開を行うのか、その方式は公表されていない。パグローが明らかにしているのは、このサービスにトラフィックを集めて、集団の頭脳を結集し、新しいIT管理ソリューションを生み出したいということである。

 

パグローは、この方式を「ソーシャル・ソルビング」 (Social Solving) と命名している。この方式は前述のPQLと関連し、サーチ・インデックスを検索するPQLを登録しておき、IT管理コミュニティーで共有しようという考え方である。利用者は自社ネットワークでの検索クエリーをPQLで開発し自社向けに使うだけでなく、そのクエリーをライブラリーに登録しておいて、それを他の利用者に公開するものである。ネットワーク機器構成は共通点も多いので、利用者は新たにPQLを書かなくても、登録されたライブラリーから最適なものを選択する。オープンソース方式で革新的なソフトウェアが開発されてきたように、検索クエリーにおいてもコミュニティーの頭脳を集結して、革新的なログ解析ツールを開発しようという試みである。

 

トレンド

検索エンジンをログ解析に応用する方式が注目を集めているが、それをマス・コラボレーションにより改良していこうというのが、パグローのアプローチである。この斬新なアイディアがどこまでITコミュニティーに支持されるのか。使いやすいとはいえパグロー固有仕様のPQLがどこまで広がるのか。企業のシステム構成という企業機密情報を如何に安全に扱うことができるのか。生まれたてのベンチャー企業で疑問点をたくさん抱えているが、同時に大きな期待を抱かせる企業でもある。

ログデータ検索エンジン

Friday, November 16th, 2007


検索エンジンの垂直市場への適用が進んでいる。グーグルはインターネットを広範囲に網羅する水平市場を対象とした検索エンジンで成果をあげている。テーマを問わずどんなキーワードにも対応できるグーグルも、 書籍や学術論文や特許や医療などを対象とする、垂直市場での検索エンジンに広がりつつある。特定テーマを対象とした検索エンジンは、IT分野におけるログデータの検索で、システム管理運用ツールとしてその効用が認められつつある。

 

スプランクという検索エンジン

検索エンジンをIT運用管理に適用するサービスを始めた最初のベンチャー企業にスプランク (Splunk) という会社がある。スプランクは、システムのログデータを収集し、インデックシングを行い、それに対する検索機能を提供する。IT管理者は、ログデータを検索することで、問題が発生した箇所を迅速に特定することができる。

 

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収集したログデータを「HTTP 404」というキーワードで検索した結果の一覧。最上部が検索キーワード入力カラムで、検索結果がその下に示される。これにより、ウェブページ「Not Found」というエラーが、071121日に四件発生していることがわかる。ユーザ・インターフェイスはAjaxで、とても使い心地がよい。(出展: Splunk Inc.)

 

さらにタイムスケールを変更すれば、過去に遡り問題点をトラックしたり、特定の期間に限定して問題を精査することができる。このケースでは、過去に遡ると、058月に2698件のエラーが発生している。

 

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検索したい項目にカーソルをあてると、その項目が黄色でハイライトされる。更にその項目をクリックすると、その項目で検索結果の絞込みができる。「172.26.34.223」をクリックすると、2698件のエラーの中で、このIPアドレスで過去に四回エラーが発生していることが分かる。 (出展: Splunk Inc.)

 

ログ検索の活用方法

スプランクのウェブサイトでは、ダウジョーンズ、モトローラ、コダック等における活用事例が紹介されている。その中でフレッシュ・ディレクト (FreshDirect) の事例を紹介している。フレッシュ・ディレクトは、オンライン・ショッピングのサイト運用でスプランクを活用している。フレッシュ・ディレクトは、顧客からアプリケーション障害のクレームがあれば、ログデータに対してスプランクで検索を行う。アプリケーション・サーバの問題であれば「HTTP 500」をキーワードで検索をかける。 こうして問題箇所を絞り込んで、トラブルシューティングを短時間で行うことができる。更に、フレッシュ・ディレクトは、定期的に「HTTP 404」で検索を実行し、ウェブ・コンテンツのエラーを検出し、それを担当部門に連絡している。

 

ログデータのインデクシング

スプランクは、グーグルのクローラーがウェブサイトのデータを収集する方式とは異なり、各種方式でログデータを収集している。スプランクが検索対象としているコンポーネントは、ネットワーク機器 (ルーターやファイアーウォールなど)、アプリケーション・サーバやデータベースである。対象とするログデータは、「Syslog」や「SNMP(Simple Network Management Protocol) のように規格が制定されているものもあるが、その形式は様々である。スプランクは、ファイルをライブで収集したり (Tail方式)、またファイルを一括してアップロードする方式 (Batch方式)がある。

 

収集されたデータはインデックシングが行われ、検索用のメタデータに変換される。スプランクは、収集したログデータの形式を見て、過去に収集したデータ形式と比較することで、データソースの分類を行う。更に、ログデータに含まれているタイムスタンプを読み取り、時系列に整理を行う。興味深いのは、「Punctuation Patter」と呼ばれる分類方法である。Punctuation (パンクチュエーション) とは、ログデータのなかで使われる「仕切り文字」のことで、メッセージの中のフィールドを仕切る機能を持っている。

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Punctuationの事例。上記ログデータの各項目 (フィールド) は、特殊記号 (#<など)で仕切られている。この文字列の並び方は、ハードウェア機器やソフトウェアにより特徴がある。「####<_,__::__>_<*>_<*>_<*>_<*>*」という特殊文字の並びは、BEAのアプリケーションサーバである「WebLogic」が吐き出すエラー・メッセージに登場する。つまり、この文字列をキーワードに、ログデータを検索することで、WebLogicのエラー情報を検出できる。(出展: SplunkBase)

 

トレンド

スプランクは検索機能の提供に加えて、ウイキ形式のナレッジベースである「スプランク・ベース」 (SplunkBase) を運用している。ここには、IT管理者が必要とする情報がウイキ形式で蓄積されており、ITシステムの運用に活用されている。更に、スプランク・ベースには、頻繁に使う検索クエリーやプラグインがライブラリーとして登録されており、自由にダウンロードして使用することができる。スプランクのソフトウェアは無償版(インデックス量が500MB/日以下の場合) と有償版で構成されている。スプランクの特徴は、従来のログデータ解析ソフトウェアとは異なり、簡単に使え、また、コミュニティーで開発されたナレッジベースを提供している点にある。膨大なログデータから如何に意味を引き出すかという、ビジネス・インテリジェンスの部分に、ウイキ方式を取り入れているところが斬新な試みである。機会を見つけては、スプランクから話を聞いているが、そのたびごとに、会社が大きく成長している。伸び盛りのベンチャー企業である。




[1] Splunk at FreshDirect, Splunk Inc.

ソーシャル・ネットワーク基盤

Friday, November 9th, 2007


フェイスブック (Facebook) 対グーグルの対決構造が鮮明になったきた。フェイスブックは急成長している強みを背景に、独自の言語でウェブ・アプリケーションを開発できる、ソーシャル・ネットワーク基盤を提供している。この方式で、利用者をサイトに括りつけようという試みである。これに対してグーグルは、先週、「オープン・ソーシャル」(OpenSocial)という、API (Application Programming Interface) を発表し、主要なソーシャル・ネットワークで共通に、ウェブ・アプリケーションを開発できる基盤を提供した。フェイスブックのように、特定サイトに利用者をロックインするのではなく、主要ソーシャル・ネットワーク間でオープンな基盤を構成するものである。

 

フェイスブックの強気な姿勢

ソーシャル・ネットワーク市場で競合が一段と厳しくなっている。この市場では、マイスペース (MySpace) がトップのシェアを占めているのだが、フェイスブックがこれを猛烈な勢いで追っている。comScoreが発表した統計情報によると、今年6月のサイト訪問者数は、マイスペースが11415万人で、フェイスブックが5217万人であるが、昨年からの増加率はマイスペースが72%で、フェイスブックが270%である。フェイスブックが急増している理由は、フェイスブックの利用者を大学生や高校生に限定していたのを、一般に開放したためである。またフェイスブックではスクリーン名でなく実名で参加するので、ビジネスマンの参加が急増している。

更に、フェイスブックは、ソーシャル・ネットワークを基盤とするアプリケーションの開発を可能とした点に特徴がある。ソーシャル・ネットワークというウェブが、仮想的なオペレーティング・システムの役割を果たし、ここで利用者は自由にアプリケーションの開発ができる。開発者は専用の言語 (Facebook Markup Language) を使い、ウェブ・アプリケーションを開発する。データベースにアクセスするには、専用のクエリー (Facebook Query Language) を使う。

 

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Facebookのライブラリーには数多くのアプリケーションが登録されており、気に入ったものを簡単に自分のサイトに追加することができる。(出展: Facebook)

 

グーグルの挑戦

フェイスブックのアプリケーションは、フェイスブックでしか使えないという制約がある。この便利なアプリケーションをマイスペースなど、他のサイトでは使うことができない。この問題に解決策を提案したのが、グーグルのオープン・ソーシャルである。オープン・ソーシャルでの開発言語は、JavascriptHTMLであり、業界標準のツールである。オープン・ソーシャルのAPIはウェブ・アプリケーション開発で参照され、ソーシャル・ネットワーク上でデータや機能にアクセスする。ソーシャル・ネットワーク (コンテナーと呼ばれている) は、これらのAPIを実装してウェブ・アプリケーションを開発し、参加サイトで共通に稼動させることができる。

 

オープン・ソーシャルには、フェイスブックを除く主要なサイトが参加しており、ウェブ・アプリケーションを特定のサイトに括りつけるのではなく、参加サイトで共通に使うことができる。グーグルのソーシャル・ネットワークであるオーカット (Orkut) で開発されたアプリケーションは、マイスペースでも使うことができる。開発者にとってみれば、一つのアプリケーションを複数のソーシャル・ネットワークで使うことができ、資産を有効に活用することができる。

 

ニングというソーシャル・ネットワーク基盤

このように、ソーシャル・ネットワークは、ウェブ・アプリケーション開発・実行基盤として、重要な意味を持つようになってきた。早くからこの重要性を認識し、ソーシャル・ネットワーク基盤を提供して会社にニング (Ning) がある。ニングは、ネットスケープの創始者であるマーク・アンドリーセン (Marc Andreessen) が始めた会社である。ニングは、利用者が自分でソーシャル・ネットワークを構築できる構造となっており、いまこのサービスの利用者が急速に伸びている。

 

利用者はこのサイトでソーシャル・ネットワークの雛形にアクセスして、これを改造することで独自のソーシャル・ネットワークを開設できる。ソーシャル・ネットワークの管理者となり、会員や友人を募り、サイトを運営していく。ニングは早くからこのサービスを提供していたが、コンテナー上でコーディングが必要で、一般利用者には敷居が高たった。今年の初頭から、これが全てマウス操作できるようになり、これがブームに火を付けた。更に、ニングはオープン・ソーシャルを採用した最初のサイトで、利用者はクリックするだけで、豊富なアプリケーションを自分のサイトに展開することができる。

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Ningはソーシャル・ネットワークの雛形を提供し、クリック&ドラッグで、配列やデザインを簡単に変えることができる。右下の枠が「Gadget」で、OpenSocialに準拠したライブラリーからウェブ・アプリケーション (Last.fm) を選択し、それをサイトに貼り付けたもの。(出展: Ning)

 

トレンド

マイクロソフトは、フェイスブックに24千万ドル投資して、その株式の1.6%を手に入れた。フェイスブックという急成長を遂げているサイトで、その閉鎖性を利用して宣伝広告収入を狙っている。一方、グーグルは、オープン・ソーシャルという共通基盤を提案し、ソーシャル・ネットワークをオープンにしている。グーグルとしては、フェイスブックのような閉鎖社会が登場すると、宣伝収入の道が閉ざされるため、このような手段にでた。ニングにとっては渡りに船で、利用者が使えるアプリケーションが増えて好都合である。これから、マイスペース対フェイスブックの首位争いに混じり、ニングが別のアングルから戦いに挑み、複雑な展開となっていく。




アーバン・チャレンジ

Wednesday, November 7th, 2007


米国では、ナスカー (NASCAR) に代表されるように、自動車レースが盛んであり、多くのファンを引き付けている。ナスカーは、欧州を中心とするフォーミュラ・ワンの優雅な走りとは異なり、クラッシュ・シーンや派手なパフォーマンスでレースを盛り上げている。こんなお国柄ではあるが、113日に 、ドライバーが搭乗しない自動車レースが、クラッシュ・シーンもなく安全に行われた。

 

アーバン・チャンレンジという自動車レース

この自動車レースは、米国国防省配下のDARPA (Defense Advanced Research Projects Agency) が主催するもので、「アーバン・チャンレンジ」 (Urban  Challenge) と命名されている。アーバン・チャンレンジは、市街地において無人の自動車が、道路法規に従って、安全に走行することを競うレースである。レース会場は、ロサンジェルス北部のビクタービル (Victorville) というところにある軍事施設で行われた。ここは、軍が使用していた住宅街で、米国の典型的な郊外都市の町並みである。

 

この会場において、予選を勝ち抜いた11台の自動車により、60マイルのコースを6時間以内で走行するレースが開催された。設定されたコースでは、カリフォルニア州の道路交通法に従い、定められたルートを規定の操作を行って走行し、その走行時間と安全性で得点が算出される。規定の操作には、ストップ・サインで停車して安全を確認して進行したり、左折や右折で別の道路に合流したり、また、駐車場では白線内に駐車するなど、日常使う運転技術が盛り込まれている。この自動車レースがインターネットで実況中継され、その安全性に、手に汗をして観戦した。

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アーバン・チャレンジの優勝チームはCarnegie Mellon大学のTartan Racing。レースカーはChevrolet Tahoeを使用し、車体には各種センサーが搭載されている。(出展: Popular Mechanics)

 

レースの状況

レースは、市街地において、自動車が日常使われる状況で行われた。アーバン・チャレンジでは、レースカーだけでなく一般車両50台も走行させ、道路を走る他の車両に混じって競技を行い、実戦に近い形での制御技術が試された。レースカーは道路の右車線をスムーズに走行し、カーブでは滑らかに曲がっていく。交差点では、他の車線にいる自動車を認識し、順序を守って発進していく。カメラがアップになり、運転席は無人で、自動的にハンドルが切られていくのを見ると、自動車制御技術の進歩を実感する。

 

その一方で、狭い道路では対向車とのすれ違いができず立ち往生するシーンがあったり、民家の軒先にトラックが侵入し、玄関の柱の直前で停車するなど、危険なシーンもあった。このような重大な違反を犯した車は、退場処分となり、その場で失格となった。それでレースを完走したのは、参加11台のうち6台であった。また、レースでは最高速度が時速30マイルに制限されているため、のろのろ運転でのレースであった。ちょうど、日本の自動車学校における、技能教習を見ているようであった。つまり、アーバン・チャレンジでは、自動車のインテリジェンスが、仮運転免許前の人間のレベルに達しているともいえ、自動運転技術は実用化に近づきつつある。

 

アーバン・チャンレンジの目的

DARPAは国防省の研究機関であり、イラク戦争など戦闘地で、無人の車両を投入することを目的に、このプロジェクトを開始した。このプロジェクトは1988年から開始され、無人運転車両の開発を、民間企業に開発委託してきた。しかし、10年以上にわたり5億ドルを投じたが、プロジェクトの成果は上がらなかった。このため、DARPAは、2003年から、民間と大学から参加を募り、自動車レースというかたちで技術開発を展開してきた。

 

このプロジェクトは「グランド・チャンレンジ」 (Grand Challenge) と呼ばれ、2004年に最初の自動車レースが行われたが、参加した自動車は一台も完走することができなかった。2005年には、カリフォルニア州のモハビ砂漠 (Mojave Desert) を舞台に、212.4Kmのコースを会場に、レースが行われた。大学や企業がこのレースにエントリーし、40チームが一次選考を通過し、本戦に参加した。このレースでは、スタンフォード大学のスタンフォード・レーシング (Stanford Racing)が優勝した。また、参加車両40台のうち、完走できたのは5台と、過酷なレースとなった。

 

自動車の自動操縦技術

自動車の自動操縦については、古くから研究が盛んであるが、実用的な技術は登場していない。そもそも自動車の自動操縦ということ自体無理であるという意見もあり、いかにこの分野が技術的に難しいかを窺わせる。グランド・チャレンジにより、自動車の操縦技術は急速に進歩し、これを支えている要素技術が人工知能を利用したソフトウェアである。

 

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アーバン・チャレンジで準優勝したのは、Stanford 大学のStanford Racing。車両はVolkswagen Passatを使用。(写真: Stanford Racing)

 

スタンフォード・レーシングはフォルクスワーゲン・パサート (Volkswagen Passat)をベースに、自動運転装置を搭載している。車載コンピューター二台で制御を行い、ソフトウェアの指令で、ハンドル操作やギアチェンジを行う。位置情報はGPSで収集し、その補完を加速度計で行う。トンネルなどGPSの電波が届かないところは、移動距離を計測して位置を割り出す。一番鍵となる技術が、安全な道路を見出す技術である。パサートには、屋根の上にレーザー測定器とビデオカメラが搭載されており、この二つの情報を元に走行路を割り出していく。


車両に搭載されているコンピューターが認識している路面の形状。黄色がレーザー測定器での情報で、赤色がビデオカメラの範囲。(出展: PBS)

情報解析技術

レーザー測定器やビデオカメラは市販の製品で、スタンフォード・レーシングの技術はこれら情報を解析するソフトウェアに集約されている。レーザー測定器で車両前方の三次元形状を収集する。これはレーザー光線の反射を測定し物体までの距離を把握する。この形状から道路の形を把握し、この上を進むことになる。また、道路上の障害物や道路周辺のがけや溝など、危険な箇所を認識する。

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自動車が認識する形状。赤色の部分が安全な経路で緑色の部分が障害物。(出展: PBS)

 

この安全な経路の認識では人工知能の機械学習を適用している。レースの前に試験走行を繰り返し、コンピューターに安全な経路を認識させる学習をさせた。ちょうど人間が自動車教習所で運転の勉強をするように、コンピューターも学習により、運転技能が向上していく。

グーグルと自動車制御技術

グーグルは、前回に引き続き、アーバン・チャレンジでもスタンフォード・レーシングのスポンサーを行っている。 更にグーグルは、スタンフォード大学より、情報解析技術の一部のライセンスを受けることを発表している。この技術を使うことでグーグルは、写真撮影した画像から、三次元作図を行うことができるようになる。これにより、写真から仮想的な街を形成することができ、グーグル・アースなどへの応用が検討されている。また、スタンフォード・レーシングを指揮してきたセバスチャン・サーン (Sebastian Thrun) は、グーグルでパートタイムで働いており、グーグルと自動運転技術は密接な関係となっている。

 

トレンド

スタンフォード・レーシングが使用したパサートには、センサーやそれを処理するコンピューターが搭載されているほか、コンピューターが車両を操作する「インターフェイス・ボックス」が搭載されている。いわゆる「フライ・バイ・ワイアー」(Fly-by-Wire) という制御方式である。コンピューターからの信号を、インターフェイス・ボックス経由で車両に送り、ハンドルの回転、ギアチェンジ、アクセルやブレーキ操作を行う。これはちょうど、ソフトウェアがUSB端子から周辺装置にアクセスする形態と似ており、ソフトウェアが決められたインターフェイスに沿って、ハードウェアを操作する。これからは、自動車の車両部分がどんどんコモディティーになり、それを制御するソフトウェアの部分に価値がシフトする兆しを見せている。グーグルの検索エンジンと車両制御ソフトウェアは、人工知能という点で共通項があり、グーグルはこの領域に大きな関心を寄せている。グーグルは、携帯電話の次は自動車を狙っているのか、米国の自動車産業が大きく変わる可能性を秘めている。