Archive for January, 2008

SunのMySQL買収

Friday, January 18th, 2008


本日 (116) サン・マイクロシステムズ (Sun Microsystems) は、MySQL10億ドルで買収することを発表した。業界ではMySQLは、近々、株式公開するとの見方が有力であった。レッドハット (Red Hat) と同様に、上場し独立会社として事業を拡大する道を選ぶと予想されていた。しかし、この予想に反して、サン・マイクロシステムズ配下で、オープンソース事業を展開するオプションを選んだ。

 

MySQLの位置付け

サン・マイクロシステムズのCEO兼社長である、ジョナサン・シュワルツ (Jonathan Schwartz) はブログ[1]で、MySQLを買収する背景についての説明している。シュワルツは、MySQLの市場におけるポジションを次のように分析している。新興企業のCIOは、会社のITシステムを構築する際に、「無償オープンソース以外のソフトウェアの導入を禁止」している。一方で、大企業のCIOは、「有償保守サポートが提供されないソフトウェアの導入を禁止」している。

 

つまり、MySQLは市場で「ユニークな位置」に置かれており、新興企業の多くはコスト面を重視し、オープンソースであるMySQLを採用している。このような背景で、MySQLは巨大な市場を形成しており、過去10年間余りで1億回のダウンロードが行われ、名実ともに世界で一番人気のあるデータベースとなった。その一方で、一般企業は、オープンソースの導入は奨励しているものの、その保守サポートに懸念を抱いている。導入費用を抑えることができるのはいいとしても、その信頼性や問題が発生したときの対応で大きな不安を抱いている。

 

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Jonathan Schwartzはブログの中で、買収の目的は、MySQLのシンボルであるイルカが高く飛べるように、Sun Microsystemsが手助けをすることであると述べている。 (出展: Jonathan’s Blog)

 

MySQL買収の目的

このような背景から、シュワルツはMySQL買収の目的を、「サン・マイクロシステムズがフォーチュン500企業として、グローバルな市場で、ミッション・クリティカルな保守サポートを提供」するためとしている。つまり、一般企業がオープンソースを導入する際に最大の問題となる、ソフトウェアで問題が発生したときに、誰が責任を持って対応するのかという疑問に、サン・マイクロシステムズは、オープンソース企業を買収することで応えている。

 

また、シュワルツはMySQLをサン・マイクロシステムズの製品向けに改良してきたことを明らかにしている。例えば、DTraceというトラブル・シューティングのためのソフトウェア・ツールは、Solaris 10に搭載されているが、DTraceMySQLや関連ソフトウェアで正常に稼動するように改良している。つまり、MySQLがサン・マイクロシステムズの最新技術を活用して、高性能で稼動できるように改善している。これにより、サン・マイクロシステムズは、他社製品との差別ができ、サン・マイクロシステムズのサーバー拡販につながることを目標にしている。

 

サン・マイクロシステムズとオープンソース

サン・マイクロシステムズはユニックス・サーバーで事業を拡大し、インターネット・ブームに乗り、「The Network is the Computer (ネットワークがコンピューターを形成する) という有名なキャッチコピーで、急成長を遂げた。しかし、バブル崩壊後はチープ革命のあおりを受けて事業は急速に悪化したが、サン・マイクロシステムズの創業者であるスコット・マクニーリ (Scott McNealy) は路線の変更を行わず、毎年大規模な赤字を計上し続けた。

 

シュワルツがCEOに就任してから、サン・マイクロシステムズは、急速にオープン・システムに路線を変更した。最大のイベントはJavaSolarisをオープンソースとしたことである。これ以前にも、サン・マイクロシステムズは、オープンソースへの投資を行い、オープンオフィス (OpenOffice) や、ネットビーンズ (NetBeans) を世に出している。この背景には、シュワルツはマクニーリとは異なり、ウェブを中心とする社会では、ハードウェア事業よりオープンソースを素材とするシステム事業にビジネス・チャンスを見出している。それを象徴する事例としてSun Fire X4500 がある。Sun Fire X4500はオープンソースで構成された業界初のストレージ・サーバーで、価格性能比を武器に市場を広げている。ハードウェア製品にオープンソースを取り入れるなど、オープンソースでの事業構築が顕著になってきた。

 

MySQLの目論見

この買収の最大の疑問は、なぜMySQLは自立の道を捨てて、サン・マイクロシステムズ配下に入ることを選んだのかである。かつてオラクルがMySQLを買収しようとした際には、会社もコミュニティーも全力でこれを阻止した。しかし今回は様子が異なり、サン・マイクロシステムズの一部門として、事業を拡大する道を選んだ。その背後には、サン・マイクロシステムズは、オープンソースの牽引車としての評価が定着し、事業を拡大する上で好都合な器であるとの判断が働いたものと思われる。一方で、サン・マイクロシステムズという色のついたMySQLを、今後市場がどう受け止めるか、また、データベース・サーバーとして、いかに中立性を守るかが今後の課題となる。

 

トレンド

MySQLのほかにも、今年株式公開が噂されているオープンソース企業に、イングレス (Ingres) がある。MySQLと同じデータベース企業で、業績が好調である。他に、SugarCRMも業績が好調で、株式公開が噂されている。オープンソース企業の殆どがベンチャー企業で、斬新な技術を提供するものの、ニッチな市場で事業を展開してきた。これらベンチャー企業が成長を遂げイグジットの段階に入ってきた。リナックスが通過した経路を、今年は、ミドルウェアやアプリケーションのオープンソース企業が進行中である。




[1] Helping Dolphins Fly, Jonathan’s Blog, 1/16/2008, http://blogs.sun.com/jonathan/entry/winds_of_change_are_blowing

グーグル・クラウド

Friday, January 4th, 2008

IBMのグリッド・コンピューティングである「ブルー・クラウド」 (Blue Cloud) に対して、グーグルのグリッド・コンピューティングである「グーグル・クラウド」 (Google Cloud) 2008年のキーワードになりそうである。クラウド・コンピューティングとは明確な定義はないが、ウェブ・アプリケーションを実行するインターネット上の基盤を指している。サーバーやストレージなどのコンピューター資源がネットワークを経由してグリッド状に連結している構成を指している。グリッド・コンピューティングと言えばIBMの技術が他社を大きく引き離していたが、インターネット上でのグリッドであるクラウド・コンピューティングでは、グーグルの優位性が顕著になってきた。

グーグル・データセンター

インターネット業界で謎に包まれているのが、グーグル・クラウドの構成要素であるグーグル・データセンターである。新聞記事などによると、2001年にはグーグルは8,000台のサーバーで検索サービスを運用しており、2003年には、その数が100,000台に増えたとされている。正確な数は不明だが、現在グーグルは500,000台以上のサーバーを全世界25のデータセンターで運用しているといわれている。データセンターの所在地はアイルランドを中心に、アメリカでは昨年、オレゴン州に大規模なデータセンターが開設された。

グーグルの会長兼CEOであるエリック・シュミット (Eric Schmidt) は、07年度はデータセンター開設のために20億ドル投資したと発言している。米国でのデータセンターでのIT機器への投資総額が年間1,000億ドルといわれており、グーグル一社でその2%程度を占めることになり、グーグル・データセンターの規模が如何に急速に拡大しているかを物語っている。

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オレゴン州とワシントン州の州境を流れるColumbia川に面してグーグル・データセンター二棟(写真中央とその上)が開設された。ここはThe Dallesと呼ばれる所でPortlandの西80マイルに位置する。ここはColumbia川の水力発電による豊富な電力と、ドットコム・ブームで施設されたファイバー・ケーブルによる大容量通信インフラが整っている。(出展: Google Maps)

グーグルの新しいビジネス

グーグルは全世界に瞬時に検索結果を送信できる巨大なクラウドを築いている。グーグル・クラウドは、検索サービスのために開発されたものであるが、この基盤を利用して新しい事業も誕生している。その一つが「グーグル・アップス」(Google Apps)である。グーグル・アップスは「ジーメール」や「グーグル・ドックス」 (Google Docs) などのサービスをバンドルしたもので、企業向けに年額50ドルで提供している。マイクロソフトがオフィス製品としてソフトウェアで提供しているのに対して、グーグルは中堅企業向けにこれらをオンラインで提供している。このサービスは、いわゆるオンデマンド・コンピューティングで、企業側でソフトウェアを導入する代わりに、すべてグーグルのウェブサービスを使うというものである。グーグル・アップスは、中堅企業だけでなく大企業での採用も始まっており、今後はアプリケーションの数も増え、グーグルは本格的にオンデマンド事業に踏み込んできそうな勢いである。

スーパーコンピューターの新定義

グーグルの検索サービスやオンデマンド事業を支えているのが、グーグル・クラウドである。最近はグーグル・クラウドがスーパーコンピューターと呼ばれることが多くなった。そもそもスーパーコンピューターとは、IBMブルージーン (Blue Gene) のように、一台のシステムに数十万台のプロセッサーを搭載し、それを高速のインターコネクトで連結し、一つのアプリケーションを高速で処理するシステムのことを指していた。アプリケーションは主に科学技術計算で、地球温暖化のメカニズム解明などに貢献してきた。

一方、グーグルは全世界のウェブサイトからデータを収集し、それをインデクシングして検索クエリーに応えている。グーグルが収集するウェブページの数は200億ページで、そのデータ容量は400テラバイトになると言われている。この膨大なデータを処理するために、全世界に50万台のサーバーを設置して処理している。グーグルの場合には、一つのアプリケーションではなく、膨大な数の検索クエリーに、短時間で応答することが求められる。これは大規模なトランザクション処理で、グーグル・グリッドは「トランザクション・グリッド」(Transaction Grid) とも呼ばれている。グーグル・グリッドの特徴は、安価なx86サーバーをラックに搭載して、それを市販のネットワークで結合していることである。並列処理基盤として厳しい条件の下で、ソフトウェアの工夫により、膨大なデータを処理している。この地球規模のデータセンターがインターネット時代のスーパーコンピューターと呼ばれている。

トレンド

シュミットはしばしばグーグル・クラウドは汎用機であると説明している。かつてIBM汎用機に端末からアクセスしていたように、今では利用者はパソコンからインターネット経由で検索サービスにアクセスする。グーグル・クラウドはダウンサイジングを遡り、中央集中型のコンピューティング・モデルを提供していることになる。ただし、今回のモデルはインターネットという「オープン・スタンダード」を介し、汎用機の代わりにx86サーバーのクラスターにアクセスすることになるが。

このモデルを目指しているのはグーグルだけでなく、マイクロソフトも、ソフトウェア販売の妨げにならないよう配慮しながら、データセンター構築を急速に進めている。マイクロソフトはロシア・イルクーツク (Irkutsk) 10,000台のサーバーを稼動させるデータセンターの構築を目指していると言われている。また、アマゾンは既にエラスティック・コンピュート・クラウド (Elastic Compute Cloud) で、規模は小さいものの一歩先行している。

IT事業がソフトウェア販売からオンデマンドに向かうにつれて、これを支える基盤であるクラウド・コンピューティングの規模が勝敗を分ける鍵となりそうである。中小企業という自家発電所がその運用を停止して、グーグル・クラウドという情報発電所で電力を購入するモデルに移りつつある。IBM10年以上前から、情報サービスを電力のように提供するユティリティー・コンピューティングを目指してきたが、このコンセプトはグーグル・クラウドという名称で現実味を帯びてきた。