Archive for March, 2008

GPSでのコラボレーション

Friday, March 21st, 2008


ウェブ技術がパソコンから携帯端末に移ってきた。自動車に搭載するGPS (Global Positioning System) に双方向通信機能をつけて、リアルタイムでの渋滞情報やウェブ検索機能を提供するベンチャー企業が登場した。

 

Dash Navigationという企業

ダッシュ・ナビゲーション (Dash Navigation) はカリフォルニア州サニーベールに拠点を置くベンチャー企業で、ヤフー本社のすぐ近くでGPSを開発している企業である。通常のGPSに携帯電話の通信機能を搭載して、双方向通信できるGPSである「Dash Express (ダッシュ・イクスプレス) を開発している。

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上の写真はDash Expressの外観で、この本体装置にアダプターを装着して、自動車のフロントグラスに吸盤で固定して使用する。(出展: Dash Navigation) Dash Expressはモニター上に表示する地図上に、リアルタイムで渋滞情報を表示する。ダッシュ・ナビゲーションは、渋滞情報をInrix (インリックス) 社から購入して利用している。Inrixは渋滞情報を、輸送会社の車輌 (トラックやタクシーなど) からリアルタイムに取得するとともに、道路に設置されているセンサーからもデータを取得する。 ダッシュ・ナビゲーションは、更に、自動車に搭載されているDash Expressから匿名で自動車の位置と進行速度情報を受信する。この生のデータとInrixから取得したデータを重ね併せて、道路の渋滞情報を判定する。

 

Dash Expressの機能

この渋滞情報を表示したのが左の写真で、赤色が渋滞している箇所を示しており、黄色が速度が落ちているところ、また、緑色が順調に流れているところを示している。ちょうどグーグル・マップスで「Traffic」のボタンをオンにすると、マップ上に渋滞情報を表示するのと同じ表示方式である。更に、Dash Expressは、渋滞箇所に対して迂回経路3本を示してくれる。また、渋滞の状況が変わると、迂回経路もダイナミックに変わり、これをアラートとして送信する。Dash Expressは利用者のコラボレーションで正確な渋滞情報を作成する次世代のGPSであるといえる。

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Dash Expressはウェブ・ブラウザーとしても機能し、GPS上でキーワード検索などができる。上の写真はレストランを検索している画面である。(出展: Dash Navigation) 検索キーワードに「Dim Sum(飲茶) と入力すれば、現在位置の近くにある飲茶の店を紹介してくれる。検索結果は現在位置からの距離でソートされ、近い順に表示される。検索エンジンとしてはヤフーの検索サービスを利用しており、検索キーワードの入力は、Dash Expressのスクリーンからソフトキーボードを使って行なう。

 

自動車上でのウェブ機能

Dash Expressはこの他にもウェブとの連携機能である「MyDash (マイダッシュ) というサービスを提供している。利用者はMyDashのサイトにアクセスし、道路情報を入手する。この情報を「send to car」機能で自動車に搭載しているGPSに送信する。

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上のスクリーンは自動車に搭載されているDash Expressから情報にアクセスする画面である。(出展: Dash Navigation) Great local pizza」はヤフー検索エンジンで近所のピザ・レストランを検索した結果にアクセスするボタンである。また「LA Yoga」は、ロスアンジェルスのヨガについての情報をRSSフィードで受信し、他の利用者が推薦するヨガ情報を閲覧し、その場所を訪問することができる。また「Gas prices」は、ガソリンスタンドの位置とガソリン価格を表示する機能である。表示結果を価格順にソートすることで、近所にある安いガソリンスタンドを探すのに便利な機能である。ガソリン1ガロンの価格が4ドルと高騰しているなか、うれしい機能である。

 

通信機能の実装

ダッシュ・ナビゲーションのもう一つのユニークな点は、GPSに実装している通信機能にオープンソース携帯電話を採用している点である。以前にレポート[1]したオープンモコ (OpenMoko) の通信基盤を利用している。オープンモコはオープンソース・ソフトウェアを採用した携帯電話であるだけでなく、それをオープンソースとして公開している。利用者は独自のソフトウェアをオープンモコ基盤に構築できる。

 

さらにオープンモコは、今月、携帯電話のハードウェア製造データであるCADデータもオープンソースとして公開を始めた。ダッシュ・ナビゲーションはCADデータを利用して、オープンモコのパッケージングを改造し、自動車に搭載するGPSの形状にあうように変更して搭載している。オープンモコはオープンソース・ソフトウェアでのイノベーションだけでなく、ハードウェアでも機器製造ベンダーに大きな影響を与え始めた。

 

トレンド

自宅からサンフランシスコに出張する際には、渋滞情報にアクセスするために、Apple iPhoneでグーグル・マップスを見てルートを決定している。グーグル・マップスの渋滞情報表示は少し遅延があり、渋滞表示がない箇所で急に渋滞に巻き込まれることもある。Dash Expressで機能と情報鮮度が大幅に向上する。販売価格は599.99ドル+月額10.99ドルで、来週327日からの販売開始となる。自動車のIT化は急速に進んでおり、ウェブでのコラボレーションを語るとき、パソコンや携帯電話に加えて、これからは車載GPSが重要なクライアントとなる。




[1] オープンソース携帯電話, Venture Weekly Brief, 8/10/2007

株投資のソーシャル・ネットワーク

Friday, March 14th, 2008


アメリカ株式市場はリセッションの最中にあり、今日は、ニューヨーク連邦準備銀行 (Federal Reserve Bank of New York) JPモルガン・チェース (JPMorgan Chase) が、大手証券会社であるベアー・スターンズ (Bear Stearns) に対し、緊急の融資枠を設定したと発表した。しかし、ベアー・スターンズ株価は47%急落し、$29.91で取引を終えた。サブプライム・ローンに起因する景気後退で、証券市場は低迷しているものの、オンライン・トレーディングで新しい技術が登場している。

 

Zeccoという株式投資サイト

Zecco (ジッコ) 2006年にサービスを開始した、株式のオンライン・トレーディング・サイトである。イートレード証券 (eTrade) と同じように、安いコミッションを売り物に、株式などの取引をインターネットで行なうサービスである。Zeccoが注目されたのは、株取引のコミッションをゼロに設定したことである。正確には、運用資産が2,500ドル以上ある会員に対し、一月あたり最初の10取引について、コミッションを無料にするというものである。

 

Zeccoはコミッションを無料にするだけではなく、ウェブ技術を活用して、様々な新サービスを投入している。その中で、いま流行のソーシャル・ネットワーク機能をオンライン・トレーディングに取り入れたサービスを開始した。このサービスを一言で表現すると、株取引に関する個人情報を公開し、他の会員の株取引情報を参考に、投資を行うというものである。株取引という機密情報にソーシャル・ネットワーク機能を取り入れたもので、少し危ない雰囲気が漂うサービスであるが、今後どう進展していくのか気になるサイトでもある。

 

Zeccoソーシャル・ネットワーク

Zeccoに入会すると、フェイスブック (Facebook) などのソーシャル・ネットワークと同じように、個人のプロフィールの記載を求められる。個人のフルネーム、都市名、生年月日などの基本情報から、投資に関する情報を入力していく。投資戦略 (成長型、安定型、バランス型など)、投資スタイル (短期売買、長期売買など)、投資情報源、投資経験年数、好きな投資銘柄と嫌いな投資銘柄など、細かく記入することを求められる。これらの情報は、他の会員に公開するためのものであり、会員は公開情報の範囲を設定して、公開の度合いを調整できる。

 

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これは「Naren~」という会員のプロフィールで、カリフォルニア州・サニーベールに住む男性で、「成長株」を中心に「短期売買」を行なう投資家であることが分かる。「Naren~」のアクティビティも公開されており、314日にはBSC (Bear Stearns)BG (Bungle)MCF (Contango Oil and Gas)、及びSLF (Sun Life Financial) を買っていることが分かる。

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Zeccoは会員の持ち株ポートフォリオや30日以内に行なった株の売買情報も公開している。これは「Naren~」が過去30日以内に行なった売買株式の一覧で、「Naren~」は311日にBSC (Bear Stearns)58.00ドルで買い、同日に61.00ドルで売っている。また、313日と14日に、BSCをそれぞれ54.00ドルと34.00ドルで買っていることも公開されている。

 

ソーシャル・ネットワーク機能

ソーシャル・ネットワーク機能をマーケティングに活用しようという試みは多くのサイトで行なわれているが、一番話題となったのがフェースブックのビーコン (Beacon) である。これは、フェースブック会員のサイト外での行動を追跡し、そこでの活動をフェースブックの友人にレポートするというものである。例えば、Blockbuster.comで映画を購入すれば、これがフェースブック友人の掲示板に掲載される。フェースブックは、購買者の友人がこれを見て、同じ映画を購入することを期待している。

 

これと同じ原理がZeccoでも採用されている。友人や他の会員が売買した株の銘柄や、保有している株の銘柄を公表することで、他の会員がこれを参考に、株の売買が促進するというものである。更に、Zeccoは色々な条件で会員を検索できる機能を提供している。例えば、カリフォルニア州に住む30歳以上の男性で、長期売買タイプで、GOOG (Google) を保有しているという条件で検索すれば、該当会員を表示してくれる。

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上はこの条件に該当する会員である「Michiel」が保有する株式を示している。ETFC (eTrade Financial) を筆頭に、CRM (Salesforce.com) APPL (Apple) 及びGOOGなどを所有していることが分かる。会員は「Michiel」が投稿しているコメントなどを参考情報として自分の投資戦略に役立てる。

 

トレンド

オンライン・トレーディングの草分けであるイートレード証券は、システムをSolarisからLinuxに置き換えて、低価格でかつ業界で最短のレスポンス時間を誇るシステムを構築した。低いコミッション率で事業を急拡大してきたが、本業から住宅ローン事業に手を染めて、サブプライムローン問題の直撃を受け苦闘している。Zeccoはこのような状況の中で、ウェブとソーシャル・ネットワーク機能を最大限に活用して、この苦境をIT技術でプラスに変えようとしている。ビーコンが引き起こしたように、ソーシャル・ネットワークは個人のプライバシー問題と表裏一体の関係にある。この問題を上手く回避し、利用者に投資に有効な情報を提供することで、売り上げの拡大を目指している。証券会社という一番信用が問われる企業が、個人情報共有という少し危険な方式で事業を展開している。アメリカ金融サービス企業の中でも異色の存在であるZeccoが、どこまで事業を拡大できるのか、実験が始まった。

ニュース予測証券市場 (DEMO 08より)

Saturday, March 8th, 2008

カリフォルニア州パームデザートで開かれたDEMO 08には、欧米を中心に77のベンチャー企業が集い、最新のテクノロジーが実演された。ここに参加するベンチャー企業は、ユニークなアイディアで聴衆の関心を引き付けるだけでなく、いち早く流行の技術を取り入れているため、今年の技術動向を見る上で大変に参考になる。

Hubdubというベンチャー企業

アメリカ大統領選挙の年に登場したベンチャー企業に「Hubdub (ハブダブ) という会社がある。Hubdubは昨年11月にイギリス・エジンバラで起業し、現在四人で運営している典型的なガレージ企業である。今年1月にサイトを公開し、現在急速に会員数を増やしている企業である。Hubdubは証券取引所の要領で、ニュース結果予想に投資する場を提供している。

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Hubdubはサイトに様々な質問を掲載しており、これに対して会員がその将来を予想して投資する仕組みである。上記は「Who will the 2008 Democratic candidate for President be?(誰が民主党の大統領候補になるか?) という質問に対して、その投資途中経過を示している。会員は「Barak Obama」や「Hillary Clinton」などの選択肢から大統領候補者に選ばれると思われる人をクリックし、投資金額を指定するというものである。会員は入会するとH$1,000を貰え、これを元手に投資をして資産を増やしていく。また会員がこれらの質問を投稿することができる。Hubdub市場においては、オバマ株が61%と、クリントン株の39%を大きく引き離している。

Hubdubの目的

Hubdubのサイトではニュース予測だけでなく、それに関連するニュース記事を幅広く掲載している。利用者は、受動的にニュースを読むだけでなく、投資を介して積極的にニュースから情報を摂取していく。これにより訪問者数を増やし、宣伝広告から収入を得るというのがHubdubのビジネスプランである。そのため多くの人が関心を持つ質問を掲載し、その範囲は、政治、スポーツ、エンターテイメント、ビジネス、テクノロジーと幅広くカバーしている。時節柄、今はアメリカ大統領選挙の結果を占うものに人気が集まっている。

ではHubdubの予想がどれだけの確度で当たっているかを、過去の事例から見てみる。「Will Hillary Clinton cry again by March 4th? (クリントン候補は34日の投票日までに泣くか?) という質問には95%の人がNoと答え正しく予想している。一方で、「Who will win the POPULAR vote in the March 4 Democratic Texas Primary?(34日のテキサス州の予備選挙では誰が勝つか?) という質問には56%の人がObama候補と答え外れているが、会員の予測が世論調査の結果に類似しているのが興味深い。ちなみに次の山場であるペンシルバニア州の予備選挙については、65%の人がクリントン候補が勝つと見ている。

プレディクション・マーケット

Hubdubのアイディアは新しい分けではなく、プレディクション・マーケット (Prediction Market) と呼ばれ、多くの企業や研究機関でシステムが開発されている。Hundubに類似したサービスを提供しているのが「The Industry Standard」という企業である。The Industry Standardはインターネット・バブル期に発刊された雑誌の名前であるが、今ではIDGの一部門としてテクノロジーに特化したニュースサイトとして生まれ変わっている。The Industry Standardはニュースを掲載するだけでなく、ニュースの結果を予測させるサイトも併設して運用している。「Google to buy Digg?(グーグルはDiggを買収するか?) などの質問にイエスかノーで投資をする仕組みとなっている。

ヤフーは「Buzz Game」という名称で、もう少し本格的なニュース結果予測株式市場を開いている。市場はテクノロジーを中心に色々な分野に区分けされ、そこに上場されている銘柄を売買する方式である。例えば「Browser Wars(ブラウザー戦争) という市場には、Mozilla (シンボル: MOZFF)Internet Explorer (シンボル: IE) などが上場しており、実際の株と同じように売り買いをする。利用者は登録すれば仮想の$10,000を貰え、これを元手に投資をしていく。それぞれの銘柄は売買高で値がつき、今日はMOZFF$17.80で、IE$13.13である。ヤフーの目的は株価の動向を見て、テクノロジーのトレンドを予測することである。テクノロジー株式の売買を通して、市場での流行りや廃りの風説 (Buzz) を把握しようとするもので、ひいては、検索キーワードの動向を予測しようとするものである。

現実のニュース結果予測市場

HubdubThe Industry Standardやヤフーは、仮想のお金を貰って投資をするわけで、投資のリターンも仮想のお金であり、必ずしも投資のインセンティブが高いとはいえない。そこで、実際のお金を投資してニュース結果を予測するサイトに、アイルランドのダブリンを拠点とするIntrade (イントレード) がある。主なイベントの結果予測をお金を賭けて行なもので、そのプロセスは株式取引と同じように、株券を売買する。例えばオバマ候補が大統領候補になる事象の株券は$7.36ドルで、クリントン候補の株券は$2.60と値がついている。事象が成就された際には$10.00となり、その差額 (オバマ候補だと$2,64ドル) が手に入る。

これを大学の研究課題として運営しているのがアイオワ大学の「Iowa Electronics Markets」である。ここでは研究目的に学生が自分のお金を投資して資産運用している。

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上はIowa Electronics Marketsでの株価の推移を示したグラフで、黄色がオバマ株で水色がクリントン株。スーパーチューズデイを境にオバマ株が急騰し、クリントン株が大きく根を下げたが、34日のジュニア・スーパーチューズデイでゆり戻しがあったことを示している。現在Hubdubはシンプルな機能を提供しているが、その背後には重要な技術課題が潜んでおり、これからどこまで成長するか気になる企業である。