Archive for April, 2008

グーグルの広告事業が減速か

Friday, April 25th, 2008


インターネット市場調査会社であるcomScore (コムスコアー) は、グーグルの有料広告クリック (Paid Clicks) 数が減少に転じたことを発表し、グーグル広告事業の成長にブレーキがかかって来たことを警告してきた。

 

comScoreの発表

comScoreはオンライン及びオフライン市場の調査会社である。comScoreは、検索エンジン市場統計でしばしば引用される通り、インターネット市場調査で定評のある会社である。comScoreは検索エンジンと連動して動く有料広告の市場動向について定期的に発表している。この有料広告とは、検索結果ページの上部や右側に表示されるテキスト広告のことを示す。表示された有料広告を利用者がクリックすることで、検索エンジン企業の収入が決まり、有料広告クリック数が企業の業績を予測する上で重要な指標となる。

 

comScoreは今年229日にグーグルの有料広告クリック率が連続して減少していることをブログの中で発表[1]し、市場に動揺が走った。サブプライム問題で、アメリカ企業が景気後退で喘いでいるところに、このニュースが届いた。優良企業であるグーグルさえも、景気後退の流れに抗することができないとの観測から、グーグル株が売られ、大きく値を下げた。comScoreの統計によると、グーグル検索結果のページに表示される有料広告を、利用者がクリックする率が081月度には前月度に比べ8%も低下した (下図の黄色の折れ線グラフ) というものである。更に検索結果に表示される有料広告の登場率も同じく8%低下した (青色の折れ線グラフ) (出展: comScore)

 

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ウォール・ストリートの反応

comScoreはグーグルの有料広告クリック率が二期連続して低下していることで、利用者が有料広告を見なくなり、購買意欲が減退していると推測した。この統計データをもとに、市場ではグーグルの08年度第一四半期の業績が低迷し、景気後退がグーグルの広告事業にまで押し寄せているとの見方が広まった。またcomScore415日に、グーグルの08年度第一四半期の有料広告クリック率は前四半期から9.3%低下していると発表した。いよいよグーグルの業績不振が顕著になってきた。

 

この発表を受けて、ウォール・ストリート・ジャーナルは、417日に、「グーグル検索広告事業が景気の影響を受けたのか」と題する記事[2]を掲載した。同誌がこの日に記事を流したのは、この日の午後4時にグーグルの決算発表が予定されており、その結果を先取りしたものである。この記事では、comScoreの統計データを引用して、「グーグル株価が急落している原因が今日の決算発表で明らかになる」、という論調であった。メディアだけでなく、ウォールストリートのアナリストも、一様に、グーグルの成長が鈍化していると予測していた。

 

グーグルの決算発表

417日に行なわれたグーグルの決算発表では、市場の予測とは反対に、08年度第一四半期の業績は大きく伸びていた。一株あたりの純利益 (EPS) は、4.84ドルと前年同期 (3.68ドル) から32%伸び、また、前期 (4.43ドル) から9%伸びている。更に、市場が驚いたのは、グーグルのEPSがアナリストの予測 (4.52ドル) を大幅に上回っていたことである。問題の有料広告クリック率については、決算発表の場で、グーグルのCFOであるGeorge Reyes (ジョージ・レイズ) が、「08年第一四半期には前期より4%伸びている」と説明している。決算発表のカンファレンス・コールの内容は「Google, Inc Q1 2008 Earnings Call Transcript[3]」として公開されている。今回はメディアもアナリストもグーグルの業績予測を完全に読み違えた。

 

なぜ業績予測を間違えたのか

comScoreはグーグルの有料広告クリック率が9.3%低下しているとの統計データを発表し、グーグルは4%伸びていると発表した。この違いはどこから生じるのか。そもそもcomScoreの統計データは米国市場が対象で、グーグルのデータは全世界が対象である。グーグルは米国市場の有料広告クリック数を公表しておらず、グーグルCEOのエリック・シュミットは、カンファレンス・コールの中で「米国での有料広告事業は健全に推移している」と述べるに留まっている。グーグルは発表の中で、今期始めて米国以外の地域での売り上げが米国を上回ったと公表しており、海外市場の伸びが業績を押し上げたことを示唆している。

 

カンファレンス・コールの中で、シティ・グループのMark Mahaney (マーク・マハニー) が、「グーグルの有料広告クリック率の伸びが低下している理由は」と質問する場面がある。前述の通り、有料広告クリック率は4%伸びているものの、以前のような大きな伸びが見られない。この質問に対して、エリック・シュミット は、「有料広告の品質を改善したため」と回答している。つまり、利用者が求めている広告を的確に表示することで、利用者は少ないクリック数で目的の情報を得られることになる。更に、クリック単価が上昇し、クリック率が低下しても利益が上がると説明している。アナリストがグーグルの業績を読み違えた理由は、comScoreのデータはグーグル事業の一部しか反映しておらず、かつ、クリック単価の上昇分を考慮していなかったためである。

 

グーグルは成長を続けているのか

市場が混乱した理由はcomScore に押し付けられ、comScore が悪者になった一週間であった。comScoreは米国に200万人のモニターを抱え、この集団でインターネット動向の統計を取っている。comScoreは業績予測は読み違えたが、米国での有料広告クリック率が減速している事実は否定されていない。最大の関心事は、グーグルの事業は成長しているのか、特に、米国での成長は続いているのかである。米国有料広告クリック率の推移については、グーグルがデータを公表していないため、謎のままである。米国での有料広告事業の成長のスピードが鈍化したのを、海外市場が補っていると見るのが順当なのか。グーグルは謎の多い企業であるが、またもう一つ謎が増えた。




[1] Why Google’s surprising paid click data are less surprising, comScore, 2/29/2008

[2] Has Economy Hurt Google Search Ads?, Wall Street Journal, 4/17/2008

[3] http://seekingalpha.com/article/72846-google-inc-q1-2008-earnings-call-transcript?source=wildcard&page=-1

柔らかい携帯電話

Wednesday, April 2nd, 2008

先々週、カリフォルニア州サンノゼで開催されたvon.x (ボン・エックス) カンファレンスに出席した。von.xPulvermedia (パルバー・メディア) が主催するネットワーキングのカンファレンスで、主催者のJeff Pulver (ジェフ・パルバー) もアロハシャツ姿の気軽な雰囲気で基調講演を行なった。

ノキアのコンセプト製品

今回のカンファレンスで一番印象的だったのが、ノキア (Nokia) のシニア・プログラム・マネジャーであるVeli-Pekka Kivimaki (ベリ・ペッカ・キビマキ) による、ノキア携帯電話の将来像についての基調講演であった。

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Kivimakiは「Morph (モーフ) というノキア携帯電話コンセプト製品 (上の写真、出展: Nokia) を紹介した。Morphとは文字通り、形状を自由自在に変形させることができる携帯電話である。カンファレンス会場では大型スクリーンにMorph紹介ビデオが映しだされ、アニメーションと実物を使って、携帯電話の未来像が分かりやすく紹介された。このビデオはユーチューブにも掲載されてる。また、Morphの概要はノキアのウェブサイトThe Morph Conceptとして掲示されている。

左の写真で示されているように、Morphは二つの部分から構成されている。左側が携帯電話本体で、長方形の携帯電話を丸めてブレスレットの形にして腕に巻くことができる。右側の部分はイヤークリップで、耳に着装して使う。

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上の写真 (出展: Nokia) は、長方形の携帯電話本体を右左に広げて、三倍の大きさにしたところである。そこにはQWERTYキーボード (パソコンと同じ配列のキーボード) が埋め込まれており、即席の携帯端末となる。このキーボードはアップル・アイフォンのように、タッチスクリーンを指で操作して入力する。畳めばまた携帯電話に戻り、携帯電話の入力キーと各種操作ボタンが現れる。

Morphの機能

Morphは通信機能として、音声通信とビデオ会議機能を備えている。その他にMorphはセンサーを搭載しており、携帯型検知器としての役割を果たす。次ページの写真はMorphに搭載されている「Nanosensor(ナノセンサー、出展: Nokia) を表しており、微細な触覚で物質の化学構造を検知する。

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会場で上映されたビデオの中で、女性がMorphをリンゴに触れさせるシーンがある。これはこのリンゴに農薬などの有害化学分子が付着していないかを調べているもので、問題が無ければこのまま洗わないで食べることができる。冷凍食品に残留農薬がないか、また、牛肉のひき肉にBSDが混入していないかなどを検出できれば実用の範囲がうんと広がる。

Morphは携帯電話の表面で太陽光発電を行なう。下の写真は「Nanograss(ナノグラス、出展: Nokia) という微細な「草」で、光合成をするかのように太陽光発電を行なう。

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ここで発電した電気を高密度バッテリーに蓄えて使う。このためバッテリーの大きさが小さくなり、薄くて軽い構造となる。

更にMorphの表面は「Nanoflower(ナノフラワー) という微細な「花」で覆われており、携帯電話表面に付着する汚れを取り除いてくれる。会場で上映されたビデオで、女性が誤って蜂蜜の滴を携帯電話に落としてしまうシーンがあるが、蜂蜜が水滴のようにMorphの表面から滑り去っていった。Morphは、また、表面についた指紋なども取り除いてくれる。

Morphでのライフスタイル

Morphは、前述の通り、ブレスレットのように丸めて腕に巻いて使うことができる。腕に巻いた後は、落ちないようにロックする機構を備えている。Morphは半透明で、組み込まれている電子回路が外から透けて見える。ビデオの中で、女性がMorphのカメラで自分のハンドバックの写真を撮影し、Morphが、カメレオンのように、ハンドバックと同じ色に変色するシーンがある。携帯電話がファッションのアイテムとなり、若い世代に人気のでそうな機能である。

トレンド

いま携帯電話は大きな変革期に指しかかっている。グーグルはアンドロイド (Android) という携帯電話のソフトウェア・スタックを公開している。アンドロイドを色々な携帯電話ハードウェアに搭載して、そこでクールなアプリケーションの開発を目指している。パソコンがハードウェアとソフトウェアに「分解」されて、そこにマイクロソフトが登場したように、いま、携帯電話がハードウェアとソフトウェアに「分解」されている。グーグルは無線周波数帯Cブロック・オークションでベライゾン (Verizon Wireless) に敗れたものの、このブロックではオープン・プラットフォームが義務付けられた。サービス・プロバイダーは利用する機器に制限をつけてはならないこととなった。ベライゾンはCブロックでアンドロイドを排除できなくなった。オープン化が急速に進行する携帯電話市場で、保守本流のノキアはどう対抗していくのか。Morphのようにナノテクノロジーで差別化を図るのか。ノキアの将来を示唆する基調講演であった。




[1] Nokia Morph Concept (long), YouTube, http://www.youtube.com/watch?v=IX-gTobCJHs

[2] The Morph concept, Nokia, http://www.nokia.com/A4852062