Archive for December, 2008

クラウド・コンピューティング・エキスポ

Monday, December 15th, 2008


カリフォルニア州サンノゼで「1st International Cloud Computing Conference & Expo (通称「クラウド・コンピューティング・エキスポ」) と題するカンファレンスが開催された。名前が示している通り、今回から始まったクラウド・コンピューティングをテーマとするカンファレンスで、フェアモント・ホテルを会場に、1119日から三日間にわたり開催された。クラウドがホットな話題となっているため、会場には多くの人が詰め掛けて、参加企業からクラウド最新技術を聞いた。

g084a_cloud.jpg

 

クラウドの定義

アメリカにおいてクラウドという言葉は過熱気味であり、このカンファレンスに出席してそれを実感した。多くの企業が自社製品をクラウドと呼び始め、クラウド製品が増殖しているだけでなく、その定義がますます混沌としてきた。その一方で、このカンファレンスを通して、クラウドという言葉の形が見えてきた。カンファレンスのセッションでは、講演者が冒頭に、クラウドとは何かという定義を行なってから説明が始まった。クラウドという曖昧なコンセプトを紹介するため、各講演者は、自分が理解しているクラウドの定義を紹介した。色々なセッションに出席して、各講演者が定義するところのクラウドを総括すると、クラウドという言葉のもつ意味は次の三階層に収束しつつある。

 

一番下の層は「Infrastructure-as-a-Service」と呼ばれ、クラウドを構成する基盤の部分(Amazon EC2IBM Blue Cloud)、及びクラウドのコア技術を含んでいる。もともとクラウドという名前が登場した当時は、この部分だけをクラウドと呼んでいた。次に中間の層は「Platform-as-a-Service」と呼ばれ、この層は開発環境(Google AppEngineForce.com)とミドルウェアを含んでいる。最後に一番上の層は「Software-as-a-Service」と呼ばれアプリケーションの層で、いわゆるSaaS(サス)である。SaaSの階層までクラウドと呼ぶのは非常に抵抗があるが、今ではこれもクラウドの一部になってきた。クラウドは、「Infrastructure-as-a-Service(インフラ層)、「Platform-as-a-Service(ミドルウェア層)、「Software-as-a-Service(アプリケーション層)の三階層を示す言葉として集約しつつある。

 

アマゾン・クラウド

このカンファレンスでは、クラウド・ブームに乗って、多くの新興企業が最新のクラウド技術を紹介した。一方で、クラウド技術を早くから開発しているアマゾンが、基調講演で、アマゾン・クラウドの開発思想とその利用形態について紹介した。この講演は、クラウドのハイプとは無縁で、しっかりとしたIT技術に裏付けられた内容で、聞き応えがあった。講演のタイトルは「A Head in the Cloud(クラウドの先頭に立って)で、CTOであるWerner Vogels (ワーナー・ボーゲルズ)によって行なわれた。(前の写真、出展:SYS-CON)

基調講演では、利用者側ではなく、提供者側からみたクラウドが紹介された。Vogelsは、ソフトウェアではなくクラウドでサービスを提供するためには、超えるべき高い山が存在するとし、この山を「The 70/30 Switch」と呼んでいる。この意味は、「ソフトウェアからクラウドに移行する作業の30%は他社との差別化を図るために費やす仕事で、残りの70%は非差別化(Undifferentiated)の仕事で、これがクラウド構築の仕事である」と説明した。クラウドでサービスを提供するためには、だれでも通らなくてはならない道で、この部分が「骨の折れる(Heavy Lifting)仕事」であると解説した。

 

この骨の折れる仕事とは、アプリケーションの負荷分散、システムの障害対策、利用者へのレスポンス時間の保障など、サービスを安定して高速に配信する技術である。Amazonは、この骨の折れる仕事を大規模な並列計算機環境に構築している。更に、これらの計算機はコモディティーで、必ず故障するという前提で、システムを構築している。そして、この障害は単独で発生するのではなく、必ず複合障害として発生するということを想定している。つまり、アマゾン・クラウドは、信頼性のきわめて悪い大規模並列計算機で、99.99%の稼働率を目指しており、講演のタイトルの通り、クラウドの先頭に立って走っている。

 

エコシステム

Vogelsは講演の中で、アマゾン・クラウドでホスティングしている事例を紹介した。ニューヨーク・タイムズが新聞記事のアーカイブをAmazon EC2上に構築していることは以前紹介したとおりであるが、Vogelsはこの他に、Indianapolis Motor Speedway (IMS)の事例を紹介した。IMSIndy 500(インディー500)などのカーレースを主催する団体で、このウェブサイト(下の写真、出展:Indianapolis Motor Speedway)Amazon EC2上に構築している。カーレースにおいては、レース当日にサーバへのアクセスが急増し、コンピュータ資源をエラスティックに運用する必要がある。このためにIMSは通常のISPからアマゾンに乗り換えたとしている。このように、トラフィックの量が急変するケースではAmazon EC2が威力を発揮するとしている。またVogelsは、アマゾン・クラウドでサポートするシステムについて、現在のRed Hatに加え、Windows Server (現在は米国のみ)Sun SolarisOracleデータベースを計画していることを明らかにした。

g084b_cloud.jpg

 

トレンド

ZDNetの記事によると、Amazonは「表で本を売り裏口でコカインを販売している」と論評している。つまりAmazonはオンライン・ショッピングの事業を装って、実はクラウド・コンピューティング事業にシフトしているという内容である。事実、アマゾンのトラフィックの量は、アマゾン・クラウドがオンライン店舗を抜いている。これからは、システム・インテグレータの役割は、Dellからサーバを買って顧客に納品する代わりに、Amazon EC2上にシステムを構築して顧客に納品することになるのか。

電気自動車のサブスクリプション

Friday, December 5th, 2008


サンフランシスコで開催されたWeb 2.0 Summitでは、サミットという名前が示しているように、業界の著名人が招待され、ウェブの最新動向やトレンドが議論された。今年のテーマは「Web Meets World(ウェブが社会と交わる)で、ウェブ技術が実社会にいかに寄与すべきかが議論された。

g083a_better_place.jpg

Renault Megane (ルノー・メガーヌ) をベースとした電気自動車 (出展: Better Place)

 

Better Placeという企業

Better Place (ベタープレース) は、カリフォルニア州パロアルトに拠点を置く、クリーン・エネルギーを開発している企業である。会社のCEOは、ソフトウェア会社SAP出身のShai Agassi (シャイ・アガシ) という人物である。Better Placeは電気自動車 (Electric Vehicle) 向けに、電力グリッド・ネットワークの構築を目指している。全世界で電気自動車への需要が急速に高まっているなか、Better Placeは、電気自動車への電力供給ネットワークを構築するという壮大なな構想を進めている。

 

Better Placeは、電気自動車は、既に、ガソリンで動く自動車の性能を凌駕する技術を持っていると考えている。Better PlaceRenault-Nissan Alliance (ルノー日産連合) と、この電力ネットワークで動く電気自動車 (上の写真) の開発を開始した。鍵を握るバッテリーは、Automotive Energy Supply Corp. (ルノー日産連合と日本電気の共同出資会社) で開発されている。このバッテリーは一回の充電で100マイル (160キロ) 走行できる性能を持っている。

 

Better Placeが目指す電力ネットワーク

電気自動車を充電するには二つの方法がある。「Charge Spot(チャージ・スポット)に設置された電源で自動車を充電する方法と、「Battery Change Station(バッテリー・チェンジ・ステーション)で、消費したバッテリーを充電されているバッテリーと交換する方法である。Charge Spotは、市街地の駐車場、ショッピングセンター、道路沿いの駐車スペース (下の写真) などに設置される。自動車を駐車している間にバッテリーを充電する仕組みである。Charge Spotは、街中に数多く設置され、ここでバッテリーを充電することになる。

g083b_better_place.jpg

道路沿いに設置されているCharge Spot (白と青の支柱の部分) (出展: Better Place)

 

Battery Change Stationは市街と市街を結ぶ幹線道路沿いに設置される。Battery Change Stationでは、自動車の洗車場と同じ要領で、ドライバーは座席に座ったままで、消費したバッテリーを、充電されたバッテリーと交換する。バッテリーの走行距離は100マイルであり、市街地での走行は一つのバッテリーで充分である。一方、市街地を離れての遠乗りでは、このBattery Change Stationでバッテリーをそっくり交換してドライブを続けるという仕組みである。

 

Better Placeの環境対策

Better Placeが対象とする電気自動車は100%電気で動き、地球温暖化ガスの排出はなく、クリーンな自動車である。Better Placeが着目しているのは、太陽光発電や風力発電によるクリーンな電力の利用である。Charge Spotでは、電力グリッドから電力の供給を受ける。昼間に自動車を運転して、夕方や夜に、次の日のためにここでバッテリーを充電する。この時間帯は電力会社から供給される電力が過剰であり、余剰電力を使って安く充電する。太陽光発電や風力発電では電気の供給量が一定ではなく、大きな変化がある。この振れを吸収するために、電力グリッドに接続されている数多くの電気自動車が、巨大な電力プールとなり、電力を有効利用する。これらの制御を電気自動車に搭載されているソフトウェアが行なう。

 

Better Placeのビジネスモデル

Web 2.0 Summitでは、主催者のTim O’Reilly (ティム・オライリー) Agassiにインタビューして、事業計画の概要が議論された。インタビューの中で、AgassiBetter Placeのビジネスモデルについて、次のように説明した。Agassiは、「電気自動車の販売で、大きな間違いをした。電気自動車の販売価格は通常の車より高いが、電気代がガソリン代より安いため、 ライフでの総コストは安くなるというモデルは、市場に受け入れられなかった。そこでBetter Placeは、バッテリーのレンタルというビジネス・モデルを考案した。」と説明した。

 

自動車とバッテリーをアンバンドルして、利用者は「車体を購入し電気代を支払う」というモデルにした。つまり高額なバッテリーというハードウェアはBetter Placeに所属し、利用者はそれを借りて、電気代をBetter Placeに支払うという方式である。Agassiによると、これは「携帯電話のビジネスモデル」で、利用者は携帯電話を低価格で購入し、通信費用(セルタワーへのアクセス費用)を通信会社に支払う。Better Placeも同様に、「自動車を低価格で自動車会社から購入し、電気代(電力グリッドへのアクセス費用)だけを支払う」という方式である。気になる電気代であるが、Agassiはガソリン価格と同じレベルにするとしている。

 

サンフランシスコの取り組み

このシステムは既に、イスラエル、デンマークで導入に向けての準備が進んでおり、 オーストラリアも、先月、導入を決定した。アメリカでは1121日にサンフランシスコ、サンノゼ、オークランドの三市が、Better Placeの導入を決定した。来年からプロジェクトが開始され、2010年から建設工事が始まり、2012年から商用ベースのサービスがスタートする。総額で10億ドルの巨大なプロジェクトが始まることになる。インターネットが情報産業を一転させたように、電力グリッド・ネットワークが自動車産業を根底から変えようとしている。Better Placeは、自動車本体がコモディティーになりつつあり、その上のソフトウェアやサービスが巨大な事業になることを示唆している。このプロジェクトがベイエリアで開始されるのも偶然とはいえない。もう数年もすると、サンフランシスコの街中に、電気自動車充電のための白と青のツートンカラーの支柱が立ち並ぶことになる。