Archive for January, 2009

リミックス・カルチャー

Saturday, January 10th, 2009

カリフォルニア州マウンテンビューにあるComputer History Museumでは、著名人を講師とする講演会 (Speaker Series[1]) が定期的に開催されている。先月は、Stanford Law School (スタンフォード大学・法科大学院) のLawrence Lessig (ローレンス・レシッグ) 教授 (下の写真、出展: lessig.org) が講演を行なった。

 g085a_lessig.jpg

(Lessig教授の写真は、このサイトにたくさん掲載されているが、白黒写真がLessig教授の、真摯なイメージと一番マッチする。)

 

機会あるごとにLessig教授の講演を聞いているが、今回は10月に出版された著書「Remix – Making Art and Commerce Thrive in the Hybrid Economy」(リミックス – ハイブリッド経済で芸術と事業を活性化する方法) と同じ題目で、リミックス・カルチャー (Remix Culture) についての講演であった。講演が終わった時にはスタンディング・オベーションで、しばらく拍手が鳴り止まなかった。Lessig教授の手法の特徴は、インターネットという法体系が未成熟な領域で、学問ではなく、現実的な解を生み出しているところにある。しかし、講演を聞いて心を打たれるのは、Lessig教授の使命感である。Lessig教授は、インターネット上での自由な創作活動を守るため、活動を続けている。

 

著作権とクリエイティブ・コモンズ 

この講演を聞いた時は、Lessig教授はスタンフォード大学の教授であったが、12月にHarvard Law School (ハーバード大学・法科大学院) に移り、古巣に戻った形となった。Lessig教授は、Creative Commons (クリエイティブ・コモンズ) の創設者として特に有名である。Creative Commonsとは、著作権を、インターネット時代に適合するように、改良した権利概念である。講演の中で、Lessig教授は、著作権は20世紀の遺物でデジタル時代にはそぐわない、と持論を展開した。

 

Lessig教授は、著作権が制定された当時は、Read-Only Culture (読み出し専用文化) で、著作権は書籍などアナログ媒体に記載されたコンテンツの権利関係を規定している、と説明した。インターネットの登場により、世の中はRead/Write Culture (読み書き両用文化) に様変わりした。ブログがその例で、利用者はブログを読むだけでなく、ブログにコメントを書くこともできるようになった。インターネット上で読み書きできる構造が、リミックス・カルチャーを生んだと説明が続いた。

 

リミックス・カルチャーとは 

Lessig教授は、リミックスの事例として、「Read My Lips」と題するビデオを上演した。このビデオはGoogle Videoで見ることができる[2]。ビデオでは、ブッシュ大統領とブレア元首相のビデオ・クリップを繋ぎ合わせて、ここにLionel Richie (ライオネル・リッチー) の「Endless Love」という歌を、張り合わせたのもである。題名の通り、歌の歌詞とブッシュ大統領の唇の動きが同期し、思わず笑ってしまうコミカルなビデオである。Lessig教授が、しばしば引用するリミックスの例であるが、他人のビデオや音楽の断片をコピーして、それを編集することで、異なる作品を作り出すことを、リミックスと呼んでいる。

 g085b_lessig.jpg

 

Lessig教授は、他にも「Dipdive」[3] (ディップダイブ) という例を紹介した。(上の写真、出展: YouTube)   このビデオは、アメリカ大統領候補者選びの頂点であるSuper Tuesdayを前に、オバマ・サポーターがYouTubeに掲載した、キャンペー・ビデオである。Dipdiveは、音楽家のWill.i.am (ウィル・アイ・アム、本名William James Adams) がプロデュースした、ミュージック・ビデオ・コラージュである。オバマ候補の演説に、ギターやボーカルをリミックスしたものである。オバマ候補の演説の、テンポと音程が音楽にマッチして、印象深いビデオとなっている。ビデオの中で、オバマ候補の演説が、ギターのコードと供に進行し、オバマ候補の主張が、荘厳で緊迫感に満ちたトーンで伝わってくる。このビデオを見て、オバマ候補に投票した人は、少なくはないはずである。

 

リミックス時代の著作権

Lessig教授は、これらのリミックスは、現行著作権法によると違法行為とされ、若者たちの創造の芽が失われているとし、インターネット時代に即した、法体系が必要であると提唱した。インターネット上には、二つの経済圏が構築されており、それぞれを「Commercial Economies」(商用経済)と「Sharing Economies」(共有経済) と呼んだ。Commercial Economiesは、アマゾンなどに代表される商業活動である。一方、Sharing Economiesは、ウイキペディアに代表される、非営利団体による無償サービスである。Lessig教授は、この中間に「The Hybrid」(ハイブリッド経済) が誕生していると指摘した。The Hybridとは、優秀なアマチュアが、YouTubeなどで小遣いを稼ぐことができる経済圏を指している。The Hybridで、リミックスにより新文化が誕生しており、現行著作権法では、これらの創作物は違法となる。Lessig教授は、若者の間で生まれつつあるリミックス・カルチャーを守るために、著作権法改定の運動を進めていると締めくくった。

 

考察

The Hybridは、芸術の世界だけでなく、 ソフトウェア業界でも広がりつつある。若い世代が開発した、Voiceroute (ボイスラウト) というソフトウェアは、有名なオープンソースをリミックスしたものである。若いエンジニアたちは、これが当たり前の手法であり、相応の値段をつけて販売している。大人たちもそのことに気付き始めた。オープンソースが無償である限り、創造性の源泉は長くは続かないと。Sun Microsystemsに買収されたMySQLは、エンタープライズ版を開発し、追加機能に見合った金額を徴収している。Lessig教授の講演で、インターネット文化は成長を続け、時代はまた一つ進んだことを感じた。

 


[1] http://www.computerhistory.org/events/index.php?id=1226358478

[2] http://video.google.com/videoplay?docid=-8845429906560840314

[3] http://www.youtube.com/watch?v=2fZHou18Cdk