Archive for February, 2009

スマート・ホーム

Friday, February 27th, 2009

オバマ大統領は、2月17日に、景気対策法案 (Stimulus Bill) の署名を、コロラド州デンバーで行なった。景気対策法案署名セレモニーの前に、オバマ大統領とバイデン副大統領は、Denver Museum of Nature and Scienceの屋上に設置されている、太陽電池の視察を行なった。(下の写真、出展:Rocky Mountain News)。この太陽電池は、コロラド州ボールダーに拠点を置くNamaste Solar (ナマステイ・ソーラー) という会社が製造したもので、同社CEOのBlake Jones (ブレイク・ジョーンズ、写真左側の人物) が案内している模様である。この模様が夕方のテレビ・ニュースで報道され、コロラド州のクリーン・エネルギーへの取り組みが、全米から注目されることになった。

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SmartGridCity

このボールダーは、別名、「SmartGridCity」 (スマート・グリッド・シティー) と呼ばれており、アメリカで最初にSmart Gridの適用を開始した街である。ボールダーは、州都デンバーから、北に車で30分程度走った所にあり、ロッキー山脈の裾野に位置する、清楚な街である。ここには、University of Colorado at Boulder (コロラド大学ボールダー校) やNational Center for Atmospheric Research (NCAR、アメリカ大気研究センター) などがあり、アカデミックな街でもある。特に、NCARでは早くから、地球温暖化問題解明のために、スーパーコンピューターを使ってGlobal Climate Model (全球気候モデル、地球全体の気候シミュレーション) を行なってきた。この研究成果が、地球温暖化の進行を裏付けるデータとなっている。

このような背景で、コロラド州などに電力を供給しているXcel Energy (エクセル・エナジー) は、ボールダーをモデル都市に選んで、08年3月から1億ドルの予算で、Smart Gridのプロジェクトを開始し、その試験運転が始まっている。その中で注目を集めているのが、「Chancellor’s Residence」(大学総長の家、次頁の写真、出展:University of Colorado at Boulder) と呼ばれる住居である。この家には実際に、コロラド大学ボールダー校総長であるBud Peterson (バド・ピーターソン) 家族が住んでおり、Smart Gridが施設されている。Chancellor’s Residenceには、Smart Gridと交信するためのコントローラ等が設置され、この家が「Smart Home」 (スマート・ホーム) のショーケースとなっている。Chancellor’s Residenceの詳細は、Xcel Energyのウェブページ[1]に掲載されている。

Smart Home

Smart Homeとは、Smart Gridに接続された、インテリジェントな家屋のことである。Chancellor’s Residenceには、前述の通り、Xcel Energyから電力の供給を受けている。Xcel Energyは、家の外壁にSmart Meterを設置し、この装置で電力消費量を計測し、そのデータをXcel Energyに送信している。Chancellor’s Residenceの場合には、機械室にコントローラが設置され、この装置で家屋の電力消費量を制御するとともに、収集したデータをXcel Energyに送信する。

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Chancellor’s Residenceには、四箇所に空調温度を調整するサーモスタットが取り付けられている。このサーモスタットは、Smart Gridと接続されており、温度設定をインターネット経由でリモートで行なうことができる。利用者は、Xcel Energyのウェブサイトにアクセスして、温度設定のほかに、電気使用量や二酸化炭素排出量をリアルタイムでモニターできる。また、乾燥機などの家電製品と連携して、稼動させる時間帯やスケジュールを設定できる。電力消費量がピークのときは、価格の高い電力の使用を控えて、電気代が安い時間帯に家電製品を運転するという設定が可能となる。電力会社としても、電力送電の平準化ができ、電力グリッドへの負荷を減らすことができる。

発電電力の販売

Chancellor’s Residenceの屋根の上には、太陽電池が設置されており、ここで6KWhの発電をしている。Smart Homeでは、この太陽電池をプラグ・アンド・プレイでSmart Gridに接続することができる。上述のウェブサイトで、太陽電池で発電した電力量をモニターし、余剰の電力をXcel Energyに販売することができる。これからは、各家庭で太陽電池や風力タービンで、クリーンなエネルギーを生成する家庭が増えてくる。これら余剰エネルギーを電力会社が買い取り、発電所の容量を補うこととなる。更に、各家庭では、電力源の選択が可能となってくる。家庭において、すこし割高であるが100%クリーンな電気を購入したり、そのとき最安値の電気を購入するという選択が可能となる。

Chancellor’s Residenceでは、Ford Escape製のPlug-in Hybrid Electric Vehicle (プラグイン・ハイブリッド電気自動車、略してPHEV (フィヴ)) に乗っている。PHEVは家庭の120ボルトの電源から、専用コンセントで充電する。家に帰ったら、専用コンセントをPHEVに差し込むが、充電するのは電気代が安くなる夜間の電力を利用する。このPHEV充電のスケジュールも、前述のXcel Energyのウェブサイト経由で行なう。更に、PHEVに余剰電力があれば、これを電力会社に販売することもできる。

考察

Chancellor’s Residenceが、現在の電力グリッドがSmart Gridにアップグレードされるとどうなるかという、未来像を示している。利用者は、Smart Gridがもたらすメリットを実感できる。電力会社としても、初期投資がかかるものの、運用コストの削減と地球温暖化防止に寄与できる。Chancellor’s Residenceを含むSmart Grid全体の制御を司っているのが、GridPoint社が開発したソフトウェアである。このソフトウェアは、電力会社向けの製品で、電力会社からの電力送電制御と各家庭での電力管理を行なう。1960年代に銀行システムがオンライン化に向かったように、いま電力グリッドがオンライン化に向かっている。これからは、電力グリッド上でのソフトウェアの役割が大きくなり、業種専門のシステムインテグレータが必要となってきた。Smart GridでIT企業の出番となってきた。


[1] Chancellor’s Residence:, http://smartgridcity.xcelenergy.com/media/pdf/CUSmartHouseBrochure.pdf (PDFファイル)

スマート・グリッド

Thursday, February 5th, 2009

百年に一度といわれる不況の中で、Amazon.comやsalesforce.comなどインターネット企業は、堅調に売り上げを伸ばしている。IT企業の中では、IBMが大きく業績を伸ばしており、一人勝ちの状況となってきた。いまIBMは、スマート・グリッド (Smart Grid) と呼ばれる、インテリジェントな電力ネットワーク事業で、更にビジネスを拡大しようとしている。

Palmisanoのインタビュー

2月3日に、CNBC放送のClosing Bell (クロージング・ベル) というテレビ番組の中で、IBM会長兼CEOである、Samuel Palmisano (サミュエル・パルミザノ) とのインタビューが放送された。番組の司会者であるMaria Bartiromo (マリア・バーチュロモ) が、オバマ大統領との会見を終えたばかりのPalmisanoに、オバマ大統領やIBMの業績について質問する、という形式で番組が進行した。Palmisanoのオバマ大統領についての評価は、オバマ大統領は企業の意見をしっかり聞いて、積極的に企業コミュニティと交流する、というものであった。

IBMの08年度の業績は、大幅な増収増益で、不況の中で株価も上がっている。このような背景で、BartiromoがPalmisanoに、セクターごとの業績について質問した。これに対してPalmisanoは、一番業績がいいのは官公庁市場で、アメリカだけでなく全世界でこの傾向があるとした。IBMの売り上げの20%を占める金融市場については、ビジネスは好調で、売り上げは下がるどころか、伸びているとしている。Palmisanoは、金融機関はこの危機を乗り切るために、コスト削減の手段として、ITによるイノベーションを目指している、と分析している。売り上げが明らかに落ちでいるのは、自動車製造部門と小売業部門で、消費者の購買動向を直接反映している。一番興味深かったのは、逆境のなかで、なぜIBMの業績が好調であるのかを説明したくだりである。Palmisanoによると、IBMの中核事業は社会のインフラ整備で、電気・ガス・水道等と同様に、バンキングシステムなど、社会の中枢システムを構築する事業を行なっており、この部分は不況の影響を受けにくいと分析している。

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IBMMaltaプロジェクト

Palmisanoはインタビューの中で、IBMを社会基盤整備企業と位置付け、スマート・グリッドについて言及した。スマート・グリッドとは、Palmisanoによると、次世代の電力供給ネットワークで、消費者の電力消費量をモニターすることで、電力供給量を調整し、送電電力のロスを下げることができるネットワークであるとしている。IBMはYouTubeにスマート・グリッドについてのビデオ[1]を掲載しており(上のスクリーンショット、出展: YouTube)、短時間で直感的に仕組みを理解するのに役立つ。Palmisanoは、更に、IBMがマルタ共和国 (Republic of Malta) でスマート・グリッドのプロジェクトを7千万ユーロで落札したことを明らかにした。(IBMは翌日このニュースをプレスリリース[2]として公表。) このプロジェクトは、IBMが本格的にスマート・グリッド事業へ進出する第一歩となり、マルタ共和国のほかにも、12の都市で事業を展開する計画であることを明らかにした。

オバマ政権とスマート・グリッド

スマート・グリッドについては、オバマ大統領が、Stimulus Package (経済復興プログラム) の中のClean Energy Economy (クリーン・エネルギー経済) の項目で述べている。オバマ大統領は、アメリカの電力グリッドを近代化するために投資を行い、3,000マイルの送電線を新設したり改良し、4,000万個のSmart Meter (スマート・メーター) を各家庭に設置すると述べている。オバマ大統領の指針は、ホワイトハウスのブログで読むことができる。

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また、毎週のビデオでの演説 (Weekly Address) については、ホワイトハウスのウェブサイト[3]に掲示されている。(上のスクリーンショット、出展: The White House) ブッシュ大統領の時とは大きく異なり、オバマ政権では、アメリカの政治がどこに向かっているのかを、国民に公開しており、政治がより身近なものとなってきたことを実感する。

スマート・グリッドの概要

このような政治的な追い風もあり、IBMを筆頭に、多くのスマート・グリッド企業が、製品開発を進めている。スマート・グリッドのシステム構成は、Palmisanoの説明の通り、 各家庭にSmart Meterという機器をとりつけて、電力消費量をリアルタイムに計測することから始まる。Smart Meterで読み取った情報は、有線または無線で、電力会社に送信され、電力会社は電力消費量をリアルタイムで把握し、電力ネットワークの稼動状態をモニターする。今は単一料金体系であるが、スマート・グリッドでは、需要と供給に応じて、電気料金が決まる。更に、家庭の太陽電池で発電した余剰電力を、グリッドに返送して、電力を売ることができるようになる。家庭の消費者も、リアルタイムで電力消費量を見ることができ、最適な時間に最適な量の電力を使うことで、節電が進むことになる。日中の電気料金が高いときには、洗濯物の乾燥機は運転しないで、電気料金が下がったときに、自動的にスイッチが入る、という設定も可能となる。

考察

IBMは、社会インフラ整備として、スマート・グリッドに本格的に乗り出してきた。スマート・グリッドは、Power Grid 2.0と呼ばれることもあり、クローズドであった電力ネットワークが、規格の標準化を進め、オープンとなりつつある。この市場に、多くのベンチャー企業が、ユニークな製品を投入し始めた。インターネットというオープンなネットワークが登場し、技術革新が進んだように、スマート・グリッドでイノベーションが急進しそうな兆しを見せている。次世代のGoogleは、この市場で登場するのか、気になるところである。


[1] An Exercise in Utility – IBM smart grid, http://www.youtube.com/watch?v=-gu5vis8y3I

[2] IBM to Implement 70 Million Euro Smart Grid System for Malta, http://www-03.ibm.com/press/us/en/pressrelease/26596.wss

[3] The White House Blog, http://www.whitehouse.gov/president-obama-delivers-your-weekly-address/