Archive for April, 2009

YouTubeとHuluの戦い (Ad:Tech 09より)

Thursday, April 23rd, 2009

今週、カリフォルニア州サンフランシスコで、Ad:Tech (アドテック) というカンファレンスが開催され出席した。Ad:Techは文字通り、広告技術についてのカンファレンスで、最新の広告技術が議論された。Googleの事業は、広告収入だけでなく、新しいビジネスモデルが登場するはず、と言われてきて久しい。YouTubeは、市場から圧倒的な支持を受けているが、事業としては成功していない。Ad:Techでは、Web 2.0といわれるウェブ・サービスで、広告収入を効果的に得るための新技術が議論された。

 

Huluというサービス

Ad:Techの中で一番興味深かったのは、Hulu (フル) のCEOであるJason Kilar (ジェイソン・カイラー) が、「Advertising’s User Revolution in the Digital Age…」 (デジタル時代における広告のユーザ革命) と題して、Huluの開発思想を紹介した基調講演であった。Huluとは、テレビ番組をインターネット放送しているウェブサイト (Hulu.com) である。Huluは、NBC UniversalとNews Corp. (FOXの親会社) のジョイント・ベンチャーである。アメリカの四大ネットワークのうち、NBCとFOXが、テレビ番組をインターネットで放送するために設立したベンチャー企業で、昨年3月からサービスを開始した。

 

Huluがサービスを開始する前には、YouTubeがビデオ共有サイトで突出したシェアを占めており、Huluは「YouTube Clone」と揶揄され、極めて評判が悪かった。しかし、Huluがサービスを開始すると、Huluは、プロが制作したテレビ番組や映画を放映するサイトであることが分かった。YouTubeのようなアマチュア・ビデオの掲載は行なわなかった。Huluは、そのデザインの良さと使い易さで、一気に人気が出て、ゼロから出発して、一年間で一気に人気サイトの四位まで上ってきた。(一位から三位は、Google、Fox Interactive、Yahooの順) YouTubeとHuluの視聴率は、大きな隔たりがあるが、Huluは急カーブで成長している。

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Huluの人気の理由

Huluがこれだけ急速に視聴率を向上したのは、色々な理由がある。最大の理由は、Huluのコンテンツが充実していることである。前述のNBCやFOXの人気番組である、「Saturday Night Live」 (上の写真、出展: Hulu) や「24」など、見たい番組が揃っていることである。この他にも、Comedy Centralが放送している人気番組「The Colbert Report」や「The Daily Show with Jon Stewart」などを見ることができる。これらの番組を無料で見ることができるが、視聴者は併せてコマーシャルも見ることになる。

 

個人的な感想としては、Huluを使って、一番印象的なのは、そのデザインの良さである。Huluは、フラッシュ・ベースの独自のビデオ・プレーヤーを提供しており、濃い灰色を背景に、ビデオがブラウザーに浮き出る形になっている。更に、「Lower Lights」ボタン (上の写真の右下のボタン) を押すと、ブラウザー全体が「消灯」され、薄暗い映画館でスクリーンを見ている感じとなる。落ち着いて番組を見ることができる。Huluが登場してからは、テレビを見るパターンが大きく変わってきた。前述の「Saturday Night Live」は、今まではTiVoに録画して、翌日に再生して見ていた。しかし今では、Huluで、気に入ったセグメントだけを選択して見るようになってきた。テレビとインターネットの融合と言われてきたが、Huluでその兆しが見えてきた。

 

Huluというサービスの開発思想

以上がHuluを、利用者の観点から見たものであるが、上述の基調講演では、Huluを設計者の観点から、その開発思想が紹介された。Kilarは講演の中で、「Huluは最初から、最も効率的に広告収入を得ることを目標」として、システムを設計したと説明した。Kilarは、YouTubeという名前は出さなかったが、「多くのシステムは、サービスの拡大を目標とし、後から広告収入構造を考える」と述べ、インターネットには、非効率な広告モデルが満ち溢れていることを指摘した。

 

Kilarが述べるところの「効率的な広告」とは、「利用者とコンテンツ所有者と広告主が明確に好きだといえるサービス」を構築することであると述べた。再度YouTubeの事例を出すと、YouTubeは利用者から絶大な支持を得ているものの、著作権問題を抱えており、アマチュア・ビデオに広告が集まらない状況にある。更に、Kilarは、Huluでの広告配信について、「広告は控えめに」表示し、「利用者が広告をコントロールできる」ことが重要だと述べた。後者の意味は、利用者が広告形式を選択できたり、放送された広告が好きか嫌いかをフィードバックできる仕組みである。また、広告主にとっては、Kilarは、「ブランドやメッセージを思い出せ」かつ「好感をもてる」ことがポイントとなると述べた。利用者の観点からすると、確かにHuluの広告は、テレビとは異なり、デザインが良くて印象に残るものが多いように感じる。

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Huluのコマーシャル (上の写真、出展:Hulu) では画面左上に、このコマーシャルが好きか嫌いかのフィードバックを行なうアイコンが登場する。

 

考察

YouTubeは、巨大なシェアを占めているが、膨大な運営経費をカバーできるだけの広告収入を得るために、苦慮している。この市場でHuluが急成長を始めており、YouTubeは、この対応にも追われている。YouTubeは、サイトに、「Shows」と「Movies」というチャネルを追加した。Showsではテレビ番組を、Moviesでは映画を掲載するものである。Hulu対抗として、プロが作成したコンテンツを放送し、ここで広告収入を得ようとする試みである。YouTubeは、放送しているビデオに、様々な方式のコマーシャルを表示している。しかし、アマチュア・ビデオからの広告収入は限られている。広告収入は、プロが作成した見ごたえのあるビデオから生まれることを、Huluが証明しつつある。ブログでは、プロとアマチュアの境界が希薄になりつつあるが、ビデオの世界では、その差は歴然としている。アマチュア・ビデオが、ビデオのロングテールのヘッドを構成するまでには、もう少し時間がかかりそうで、ここにHuluの存在意義がある。

オープンソース・ビデオ基盤

Wednesday, April 1st, 2009

先週、カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたOpen Source Business Conference (OSBC) に出席した。OSBCは、毎年、Palace Hotelを会場に開催され、企業のCEOやCIOなど経営者を対象に、オープンソースで如何に事業を構築するかという観点から、新技術の紹介やパネル・ディスカッションが行なわれる。

 

Kalturaというベンチャー企業

今年のOSBCで一番印象深かった企業がKaltura (カルチュラ) というベンチャー企業である。OSBCのセッションで、Kaltura の会長兼CEOのRon Yekutiel (ロン・イェクティエル) とCTOのShay David (シェイ・デビッド) がKalturaを紹介した。Kalturaはビデオ配信ソフトウェアを、オープンソースの方式で提供している企業である。Kalturaが提供しているソフトウェアは「Kaltura Widget」 (カルチュラ・ウィジェット) という名称で、ビデオ配信システムの構成部品となる。Kaltura Widgetには、ビデオ読み込み、ビデオ放送、ビデオ編集、ビデオ配信、ビデオ上での広告配信、ビデオ運用管理のための部品が用意されている。

 

Kalturaの適用事例

Yekutielらは、Kalturaは著名なサイトで運用が始まっているとし、その事例としてWikipediaを紹介した。KalturaとWikimedia Foundation (Wikipedia運用団体) は、WikipediaにKalturaを実装するプロジェクトを進めている。Wikipediaは、利用者が自由に編纂できる百科辞典であり、ここにKalturaを組み込むことで、テキストだけでなく、ビデオをも自由に編纂しようとする試みである。この実例をWikimaniaに見ることができる。WikimaniaとはWikimedia Foundationが主催するカンファレンスである。WikimaniaにはKalturaで作成されたビデオ・メッセージ (下の写真、出展:Wikimania) が掲載されている。

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このビデオをクリックするとカンファレンスを支えたITスタッフの活躍を、スライドショーで見ることができる。更に「Remix this video」という、右下のボタンをクリックすると、ビデオの編集画面 (下の写真、出展:Wikimania) に移る。

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この編集画面で、利用者は自由に、ビデオ・クリップを組み合わせ、サウンド・トラックに好みの音楽を載せて、新しいビデオを作製できる。利用者はビデオを見るだけでなく、その場で編集することができる。Wikipediaで利用者が記事を投稿し、編纂することで、巨大な百科辞典を創りあげた。Kalturaは、ビデオをリミックスすることで、集合知によるビジュアルな文化を築くことを狙っている。

インターネット・テレビ市場

OSBC会場のKalturaのブースで、Yekutiel から、Kalturaが目指している方向について、詳しく話を聞いた。YouTubeが圧倒的なシェアを占めているインターネット・ビデオ市場は、いま、大きく変わろうとしている。Yekutielによると、「YouTubeは見るだけで編集ができない一方通行であり、これはVideo 1.0の世代である」とし、「Kalturaは、読み書きできるビデオ基盤で、Video 2.0の世代である」と説明した。更に、動きが急なのは、メディア企業がインターネットでテレビ番組や映画を放映する、インターネット・テレビ市場である。四大ネットワークをはじめ多くのテレビ局が、インターネットで番組の放送を本格化してきた。Yekutielは、「インターネットでのテレビ番組配信においては、独自のシステムを組み上げたり、Brightcove (ブライトコーブ) など配信専門企業に委託をしているが、この費用が重荷になっている」と解説した。このように、Kalturaが目指している市場は、リミックスできる機能を武器に、インターネット・テレビ配信ネットワークである、と纏めることができる。

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既にこの市場でもKalturaの適用が始まっている。NBC放送は人気テレビ番組である「Heroes」 (ヒーローズ) をインターネットで配信しているだけでなく、Kalturaを利用して、利用者がHeroesのビデオ・クリップをリミックスして、独自のストーリーを構築するサービスを開始した。Metacafe (メタカフェ) というビデオ共有サイトで、この機能を実装している (前の写真、出展:Metacafe)。ここでHeoresのテレビ番組を見るだけでなく、ビデオを編集すれば、Heroesを自分の嗜好に合わせてリメークできる。(下の写真、出展:Metacafe)

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考察

ビデオ配信というプロプライエタリーな世界が急速にオープン化されつつある。Kaltura は、ビデオ配信プロトコールの標準化だけでなく、ビデオ配信ソフトウェアをオープンソースとして公開することで、イノベーションが生まれると期待している。現在は、YouTubeなどが、独自技術でビデオ配信ネットワークを構築している。これからは、テレビ局やシステム・インテグレータが、Kalturaという優秀な部品を組み合わせて、ビデオ配信ネットワークを構成する方向に進もうとしている。つまり、ビデオ配信という基礎サービスは、既存部品を活用すればよく、ビデオ配信企業に求められているのは、ネットワーク上でのキラー・アプリケーションである。Apacheが登場してウェブサイトが急増したように、Kalturaの登場でビデオ配信市場が活性化する勢いを見せている。YouTubeは絶大な人気を保っているが、Kalturaは次世代のYouTubeの登場を予感させる企業である。