Archive for June, 2009

パーソナル・アシスタント (SemTech 09より)

Saturday, June 27th, 2009

g112a_siriセマンティック技術のカンファレンスである「2009 Semantic Technology Conference」 (通称SemTech、セムテック) が、カリフォルニア州サンノゼで開催された。SemTechは、毎年、フェアモント・ホテルを会場として開催され、民間企業だけでなく、大学や研究機関からの参加者も多く、学術的色彩の濃いカンファレンスである。

 

セマンティック技術動向概観

今年のSemTechの特徴は、ずばり、セマンティック技術で利益を上げることができる製品が、登場してきたことである。セマンティック技術は、次世代ウェブや検索サービスの基盤技術として期待を集めてきたが、長い間、研究テーマに留まっていた。二年前くらいから、この流れが変わり始めた。昨年は、セマンティック技術が、研究段階から一歩前進して、利用者が、そのメリットを実感できる製品やサービスが登場した。その代表が、Twine (トゥワイン) という、インテリジェントなブログである。Twineが、ブログの内容を理解して、読者に関連記事や同じ嗜好のブロガーを紹介してくれる。

 

今年は、ここからもう一段階進んで、セマンティック技術を活用した、売れる製品が登場してきた。その一つが、次に紹介するツールで、セマンティック技術を使い、人間に近い機能を提供している。他にも、「Semantic Ads」といわれる、セマンティック技術を広告配信に応用した技術が登場している。更に、「Semantic Mobile」といわれる、インテリジェントな携帯電話が議論された。これらはソフトウェアやウェブ・サービスとして、有償で販売されており、セマンティック技術が、事業に貢献できる兆しが出てきた。

 

基調講演より

今年のSemTechで一番興味深い話題が、Siri (シリ) という企業の創設者であるTom Gruber (トム・グルーバー) による、「The Game Changer: Siri, a Virtual Personal Assistant」 という基調講演であった。Siriは、アメリカで最大規模の人工知能研究プロジェクトであった、CALO Project (ケイロー・プロジェクト) からスピンオフした企業である。CALO Projectは、アメリカ国防省配下のDARPA (国防高等研究計画局) からの予算で、「Office Assistant」 (人工知能を使ったオフィス生産性向上ツール) などの研究を行なってきた。GruberはCALO Projectでの研究に従事しており、研究成果を民生向けに応用し、「Siri」(下の写真、出展: Siri) を開発した。

 

 

Siri機能概要

基調講演では、Gruberが、Siri実機のデモとビデオで、製品の紹介を行なった。(このカンファレンスとは別に、SiriのデモをYouTubeで見ることができる: http://www.youtube.com/watch?v=E0m0OBIIekA)   Siriは、上の写真のとおり、iPhoneに実装されたアプリケーションで、文字通り、バーチャルな個人秘書として機能する。Siriへの入力は音声で行い、それに対してSiriは、上の写真のとおり、吹き出しの中にテキストで回答する。基調講演で、Gruberが、Siriに、「Angels & Demonsを見たい」、と語りかけると、Siriは、近くの映画館で上映されている、Angels & Demonsの上映時間を示してくれる。

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(上の写真はAngels & Demonsの概要と上映時間を表示している、出展:YouTube)

 

ちょうど人が人に語りかけるように質問すると、近くの映画館で上映されている映画を表示する。Siriは、音声認識だけでなく、現在の時間と場所を認識しており、利用者が欲している情報を抽出して表示する。利用者は、いちいち場所や時間を細かく指示する必要は無く、Siriが機転を利かせて、必要な情報だけを表示する。同じように、Gruberが、金曜日の夜に、家の近くでレストランの予約をしたいと言えば、Siriが候補レストランの一覧表を示した。Siriは、利用者の自宅住所と、レストランの好みを把握している。また、Gruberが、サンノゼからロスアンジェルス行きの、次のフライトを尋ねると、Siriが、フライト情報をGoogle Maps上に表示してくれる。Siriはウェブサイトの中でフライトの検索を行い、その結果を表示する。一言言うだけで、必要な答えが返ってきて、人間と対話しているかのように思えた。

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(上の写真はサンフランシスコからシカゴまでのフライト情報を表示している様子、出展:YouTube)

 

Siriの仕組み

Siriは、音声認識技術を使いながら、ウェブ上で公開されているAPIを統合して、サービスを提供するアーキテクチャとなっている。前述の、映画上演時間を調べるためには、「Fandango」という映画サイトのAPIを利用している。我々人間がFandangoを利用して、近くの映画館での上映時間を調べるのと同じように、SiriがAPIを使って調べている。Siriが、利用者の質問を解析し、日時、場所、映画タイトルをFandangoに送信し、その結果をiPhone上に表示するという仕組みである。レストラン検索では「OpenTable」のAPIを使い、フライト検索では「FlightStats」のAPIを使っている。利用しているサイトの数は80以上あり、これらのサービスを組み合わせて、利用者に情報を提供している。Siriは、ウェブ・サービスの巨大なマッシュアップを構成し、それを分かり易い形で、利用者に提示しているシステムであるといえる。

 

なぜ使い易いのか

Gruberは、講演の中で、Siriを、人間にとって使い易くするためには、会話が重要であると強調した。Siriに音声入力できるだけでなく、Siriが入力情報を確認したり、追加情報を求めるなど、双方向会話でコミュニケーションが進行する。これにより、Siriが、最終的に表示する情報の絞込みを行い、利用者が求めている情報だけを提示することができる。ここも人間との会話のように、足らない情報があれば聞き、曖昧な情報があれば確認する、というプロセスを踏んでいる。このプロセスで、音声認識や機械学習など、セマンティック技術が使われている。

 

また、Gruberは、Siriは、情報検索ではなく、タスク実行エンジンであると強調した。家の近くのレストランを探すために、Googleの検索ボックスにキーワードをタイプするのではなく、Siriは、レストランを探して、予約まで実行することを目的としている。Googleの目的は、情報を得ることであるが、Siriの目的は、予約を完遂することである。そしてこれらのタスクを実行できるのは、利用者がどこにいて、いま何時であるかなど、利用者のコンテキストを把握しているためであると説明した。但し、現在のSiriでは、レストランの予約や映画館のチケット購入などに限られているが、将来は、フライトやホテルの予約など、その範囲を広げていくとしている。

 

考察

基調講演でのSiriのデモを見て、人間とマシンが、会話を通して、双方向コミュニケーションで、処理が進む様子は、衝撃的な光景であった。Siriが、人間のように振舞う様子は、新鮮な驚きであった。更に、Siri のインフラにiPhoneが使われており、iPhoneが、人間とマシンの標準インターフェイスになりつつあるのを感じた。Siriは、既存のウェブサービスを統合して、人間に便利なサービスを提供する仕組みである。そのサービスの提示において、iPhoneの人間に優しい機能が大いに活用されている。

 

一方で、Siriが扱うことのできるタスクは、全方位の処理ではなく、特定のセグメントに特化した処理である。上述のとおり、現在では、映画の予約、レストランの予約、フライトの検索などに限られている。Siriが、個人の株式ポートフォリオを分析して、E*Tradeで株式を自動で売買することはできない。また、Siriが、利用者の出張スケジュールを理解して、飛行機、レンタカー、ホテルの予約など、一連の処理を行なうことはできない。

 

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かつてAppleは、Knowledge Navigator (上の写真、出展:Mediawiki) という未来構想を公開した。Knowledge Navigatorは、一日のスケジュール管理から、学術論文の検索まで、人間のアシスタントと同じ働きをするツール、という構想である。Gruberは、基調講演の冒頭で、Siriは、Knowledge Navigatorではないと前置きして説明に入った。Knowledge Navigatorという最終ゴールまでの道のりは長いが、一歩近づいたように感じた。Appleが提唱したKnowledge Navigator構想に、Apple iPhoneで向かっていくのを見ると、技術進化の方向が浮かんでくる。

食文化の改善と低炭素社会 (Green:Net 09より)

Friday, June 19th, 2009

カリフォルニア州サンフランシスコで開催された、「Green:Net 09」 (グリーンネット 09) からの最後のレポートは、会場参加者が選んだ、最も人気を集めた企業を紹介する。カンファレンスのStartup Launchpadというセッションで、新興企業がエコ社会に向けて最新の技術やサービスを紹介し、出席者が携帯電話で人気投票を行い、FarmsReach (ファームズ・リーチ) という会社が最優秀賞に選ばれた。

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FarmReachというスタートアップ

FarmsReachのCEOであるLana Holmes (レイナ・ホームズ) が、そのサービス概要を紹介した。FarmsReachは、レストランと地元農家を仲介するサービスを、ウェブで提供している。農家はFarmsReachのサイトに出店し、ここで農作物を販売する。買い手であるレストランは、FarmsReachのサイトで、必要な食材を検索して、購入するというプロセスとなる。上のグラフィックス (出展: FarmsReach) は、買い手であるレストランが、FarmsReachにアクセスしたところである。レストランは、必要とする食材 (ここではアスパラガス) と購買日を入力して検索し、その生産者や価格を見ることができる。また、レストランからの距離を指定し、地元で取れた農作物を購入することができる。注文した食材は、レストランまで配送してもらうか、又は、近くのFarmers Market (ファーマーズ・マーケット、地元農家で構成する特設市場) で受け取ることができる。

地元農家向けの機能

販売者側の農家は、前述のとおり、FarmsReachに出店し、販売する農作物の種類と、その販売日を入力する。生産者は農作物の配送オプションとして、レストランまで配送するのか、近くのFarmers Marketで手渡すのかを指定する。これで、出展準備が完了で、FarmsReachは、注文が入れば、農作物の種類と収穫日を農家に連絡する。そして、配送日の当日には、農家に配送リストを送付し、農家はこれに従って配送する。農家は、農作物をレストラン側に手渡した際に、請求書を発行する仕組みとなる。

非常にシンプルな仕組みであるが、この方式が注目を集めている背景には、現在の食料配給システムが、大きな問題を抱えているためである。現在、多くのレストランは、調理で使う食材を、大手配送会社に纏めて注文している。季節はずれの食材であっても、また、急な注文であっても、大手配送会社は、全米に跨っている配送ネットワークで、迅速に対応してくれる。この配送ネットワークで独占的なポジションを占めているのが、Sysco (シスコ) という食料配送企業である。

同社の配給ネットワークで、農作物がアメリカ国内で長距離輸送されて、レストランや消費者の手元に届くことになる。これがフードマイレージの問題で、輸送の過程で大量の二酸化炭素が排出されるだけでなく、品質や鮮度も犠牲になっている。この問題の解決を目指しているのが、FarmsReachである。小規模農家を束ねて、便利なツールを提供することで、柔軟な配送ネットワークを構築しようとするものである。地元で収穫した農作物を地元のレストランで使ってもらうことで、輸送距離を減らすだけでなく、美味しい旬の食材を提供することを目指している。このネットワークを使って、小規模農家が農業を持続可能な事業として運営できることを目指している。

カリフォルニア・クイジーン

よく知られているように、地元で取れた旬の食材を使って、美味しくて健康的な料理を提供しようという運動は、カリフォルニア州バークレーで起こった。カリフォルニア大学バークレー校の卒業生である、Alice Waters (アリス・ウォーターズ) は、大学のすぐ近くに、Chez Panisse (シェ・パニース) というレストランを1971年にオープンした。ここがカリフォルニア・クイジーンの発祥の地となり、このブームが広がっていった。今でもこのレストランの人気は衰えず、地元で取れた旬の素材を使い、料理はシンプルであるが、その美味しさは格別である。

昨年11月、大統領選挙直後に、Watersは当選したばかりのオバマ大統領宛に、公開書簡を送った。この手紙の中で、Watersは、ホワイトハウスの庭の一部を野菜畑にすることを提案した。Watersは、地元で取れた旬の食材を使って、低価格で、健康的な食生活を啓蒙しており、この提案に至った。この提案は早速採用され、今年2月に、Michelle Obamaが、近くの小学生から招待した生徒と一緒に、芝生を野菜畑に耕すシーンが、テレビで報道された。(次の写真、出展: Daily Kos) オバマ大統領がホワイトハウスで、野菜畑を造ることを決めた理由は、アメリカの子供たちに対して、正しい食生活のメッセージを送ることだとしている。地元でとれた旬の野菜や果物を食べれば、美味しいだけでなく、健康にもいいことを、アメリカ国内で広めたいとしている。

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考察

環境問題がクローズアップされることに伴って、食生活の不健全さも浮き上がってきた。アメリカが低炭素社会に向かって進んでいるときに、地元で取れた食材の重要性が再認識されてきた。FarmsReachは、ここに市場を見出しているだけでなく、アメリカの食文化の改良と小規模農家の育成を目指している。あまりインターネット技術に長けていない、地元農家対して、簡単な操作で農作物を販売できるようにしている。

Holmesによると、今後は地元農家が畑から、iPhoneでサイトにアクセスできるようにするとしている。食文化という人間にとって一番基礎となる部分を、時代を遡り、Alice Watersが提唱し、Michelle Obamaに継承されていこうとしている。FarmsReachは女性創設者であるMelanie Cheng (メラニー・チェング) と、前述の女性CEOであるLana HolmesがIT面からこれを支えている。女性のセンスとパワーで、アメリカ食文化の改善と低炭素社会が、着実に進もうとしている。

スマート・アプライアンス (DEMO 09より)

Friday, June 12th, 2009

少し前のカンファレンスであるが、3月1日から三日間、カリフォルニア州パームデザートでDEMO 09が開催された。DEMO 09におけるDemoBeat (デモ・ビート) というセッションでは、Googleをはじめ、省エネ技術を提供している企業が新技術を紹介した。その中で、Tendril Networks (テンドリル・ネットワークス) というベンチャー企業は、スマート・アプライアンス構築のための製品を紹介した。

 

PG&Eのスマート・メーター 

前回紹介したとおり、PG&Eは2011年までに、電気とガスのスマート・メーター980万個を設置すべく工事を進めている。PG&Eによると、スマート・メーターが設置されると、消費者は、電気とガスの消費量の詳細データにアクセスできるとしている。電気については時間ごとの、ガスについては日ごとの消費量が分かるとしている。現在は、月別の電力・ガス消費量を示すに留まっており、大きな前進である。PG&E側としては、毎月、各家庭を回って検針する必要性がなくなり、消費者に負担をかけなくて済むとしている。また、将来計画として、変動価格体系の導入や、停電箇所の検知機能を導入するとしている。PG&Eは、消費者が詳細な電気・ガス使用量を把握することで、省エネが進むと締めくくっている。

 

Tendrilという企業 

PG&Eの利用者からすると、スマート・メーターが導入されることで、家の中の電力管理が自動化され、スマート・ホームが実現できると期待していた。しかし、それはもう少し先の話で、当面は、家全体の時間ごとの電力消費量を、インターネットで閲覧できる機能に留まる。このギャップを埋めるために、簡単な装置で、スマート・メーターが導入された家庭を、スマート・ホームにアップグレードするベンチャー企業が登場している。そのひとつが、コロラド州ボールダーに拠点を置くTendril Networksというベンチャー企業である。DemoBeatにおいて、CEOであるAdrian Tuck (エイドリアン・タック) が、製品概要について説明した。

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Tendril製品概要

Tendrilは、家庭内に設置されている電化製品の消費電力をモニターし、最適の条件で使用することで、省エネを推進する機器とサービスを提供している。まず、Voltという箱型の機器 (上の写真左側、出展はいずれもTendril Networks) を家庭のコンセントに差し込む。そして、冷蔵庫とか洗濯物乾燥機などの電化製品のプラグをVoltに差し込み、Volt経由で電源を取る。Voltは、接続されている電化製品専属のスマート・メーターとなり、消費電力を監視する。これら計測したデータは、内蔵されているZigBee発信機で、Insightというディスプレー (上の写真右側) に送信する。利用者はInsightを室内に設置しておき、消費電力をリアルタイムで監視する。

 

更に、Voltからのデータを、Transportというアクセス・ポイントを経由して、Tendrilのセンターに送信することもできる。Tendrilは、家庭内の電化製品の消費電力のログを蓄積するサービスを提供している。利用者は家庭のパソコンから、インターネット経由でセンターにアクセスして、消費電力を閲覧したり、電力使用量を制御することもできる。更に、これらの機能を、Apple iPhoneで行なうことができる。下のスクリーンショットは、iPhoneの画面の一部で、現在の電気使用量をモニターしているところである。

 g110b_tendril

 

Tendrilのビジネ・スモデル

Tendrilは、従来は、これらを節電のための製品として、消費者向けに販売していた。しかし、電力会社がスマート・メーターの設置を始め、家庭の消費電力情報をインターネット経由で提供するようになってきた。このため、Tendrilは、これらの製品を電力会社が設置しているスマート・メーターの付加機能として販売する方向に事業を転換しつつある。前述の通り、スマート・メーターが設置されても、個々の電化製品の電気使用量の監視や制御はできない。Tendrilは、これらの製品を電力会社が施設しているスマート・グリッドに統合して、家庭の電化製品の消費電力を電力会社からも監視でき、更に、電力会社から電化製品の消費電力をコントロールしようとするものである。例えば、夏場の電力需給が逼迫する時間帯に、消費者の了解の元に、電力会社からリモートで、家庭の冷房装置の温度を高めに設定するというような操作である。電力会社としては、ピーク時の電力使用量を抑えることができ、利用者としては、安い単価で電力を購入できるという仕組みである。

 

家電機器メーカーの方針

Tendrilは、家庭内でZigBeeのネットワークを構築し、ここに電化製品を接続して、電気消費量を監視し、電気使用量を制御して、省エネを行うシステムである。電力会社が設置を進めているスマート・メーターで、電化製品の電力消費の監視と制御ができれば理想的だが、この実装には時間がかかる。ここにTendrilなどのベンチャー企業が活躍できる市場が形成されている。一方で、GEなどの家電機器メーカーが、相次いでスマート・アプライアンス製品を発表している。GEのスマート・アプライアンスは、電化製品の運転時間を自動制御することで、節電を行なうインテリジェントな機器である。スマート・アプライアンスは、電力会社のスマート・グリッドから、電気料金情報を受信して、電気料金が安い時に運転を行い、電気料金を下げる仕組みである。例えば、洗濯物乾燥機には二台のヒーターが搭載され、電気代が安い時間帯には二台が稼動し、電気代が高い時間帯には一台だけが稼動する仕組みで、節電を行なう仕組みである。

 

考察

スマート・グリッドの施設作業が進むに連れて、スマート・グリッドに関連するエコ・システムが広がり、各方面から様々な製品が登場している。その背後にあるのが、情報通信技術で、家庭内でセンサー・ネットワークが構築されつつある。Web 3.0の次のWeb 4.0ではセンサー・ネットワークの処理であるといわれており、これが家庭内から始まるのか、情報通信技術との接点が広がっていく。 

少し前のカンファレンスであるが、31日から三日間、カリフォルニア州パームデザートでDEMO 09が開催された。DEMO 09におけるDemoBeat (デモ・ビート) というセッションでは、Googleをはじめ、省エネ技術を提供している企業が新技術を紹介した。その中で、Tendril Networks (テンドリル・ネットワークス) というベンチャー企業は、スマート・アプライアンス構築のための製品を紹介した。

 

PG&Eのスマート・メーター

前回紹介したとおり、PG&E2011年までに、電気とガスのスマート・メーター980万個を設置すべく工事を進めている。PG&Eによると、スマート・メーターが設置されると、消費者は、電気とガスの消費量の詳細データにアクセスできるとしている。電気については時間ごとの、ガスについては日ごとの消費量が分かるとしている。現在は、月別の電力・ガス消費量を示すに留まっており、大きな前進である。PG&E側としては、毎月、各家庭を回って検針する必要性がなくなり、消費者に負担をかけなくて済むとしている。また、将来計画として、変動価格体系の導入や、停電箇所の検知機能を導入するとしている。PG&Eは、消費者が詳細な電気・ガス使用量を把握することで、省エネが進むと締めくくっている。

 

Tendrilという企業

PG&Eの利用者からすると、スマート・メーターが導入されることで、家の中の電力管理が自動化され、スマート・ホームが実現できると期待していた。しかし、それはもう少し先の話で、当面は、家全体の時間ごとの電力消費量を、インターネットで閲覧できる機能に留まる。このギャップを埋めるために、簡単な装置で、スマート・メーターが導入された家庭を、スマート・ホームにアップグレードするベンチャー企業が登場している。そのひとつが、コロラド州ボールダーに拠点を置くTendril Networksというベンチャー企業である。DemoBeatにおいて、CEOであるAdrian Tuck (エイドリアン・タック) が、製品概要について説明した。

 

Tendril製品概要

Tendrilは、家庭内に設置されている電化製品の消費電力をモニターし、最適の条件で使用することで、省エネを推進する機器とサービスを提供している。まず、Voltという箱型の機器 (上の写真左側、出展はいずれもTendril Networks) を家庭のコンセントに差し込む。そして、冷蔵庫とか洗濯物乾燥機などの電化製品のプラグをVoltに差し込み、Volt経由で電源を取る。Voltは、接続されている電化製品専属のスマート・メーターとなり、消費電力を監視する。これら計測したデータは、内蔵されているZigBee発信機で、Insightというディスプレー (上の写真右側) に送信する。利用者はInsightを室内に設置しておき、消費電力をリアルタイムで監視する。

 

更に、Voltからのデータを、Transportというアクセス・ポイントを経由して、Tendrilのセンターに送信することもできる。Tendrilは、家庭内の電化製品の消費電力のログを蓄積するサービスを提供している。利用者は家庭のパソコンから、インターネット経由でセンターにアクセスして、消費電力を閲覧したり、電力使用量を制御することもできる。更に、これらの機能を、Apple iPhoneで行なうことができる。下のスクリーンショットは、iPhoneの画面の一部で、現在の電気使用量をモニターしているところである。

 

Tendrilのビジネ・スモデル

Tendrilは、従来は、これらを節電のための製品として、消費者向けに販売していた。しかし、電力会社がスマート・メーターの設置を始め、家庭の消費電力情報をインターネット経由で提供するようになってきた。このため、Tendrilは、これらの製品を電力会社が設置しているスマート・メーターの付加機能として販売する方向に事業を転換しつつある。前述の通り、スマート・メーターが設置されても、個々の電化製品の電気使用量の監視や制御はできない。Tendrilは、これらの製品を電力会社が施設しているスマート・グリッドに統合して、家庭の電化製品の消費電力を電力会社からも監視でき、更に、電力会社から電化製品の消費電力をコントロールしようとするものである。例えば、夏場の電力需給が逼迫する時間帯に、消費者の了解の元に、電力会社からリモートで、家庭の冷房装置の温度を高めに設定するというような操作である。電力会社としては、ピーク時の電力使用量を抑えることができ、利用者としては、安い単価で電力を購入できるという仕組みである。

 

家電機器メーカーの方針

Tendrilは、家庭内でZigBeeのネットワークを構築し、ここに電化製品を接続して、電気消費量を監視し、電気使用量を制御して、省エネを行うシステムである。電力会社が設置を進めているスマート・メーターで、電化製品の電力消費の監視と制御ができれば理想的だが、この実装には時間がかかる。ここにTendrilなどのベンチャー企業が活躍できる市場が形成されている。一方で、GEなどの家電機器メーカーが、相次いでスマート・アプライアンス製品を発表している。GEのスマート・アプライアンスは、電化製品の運転時間を自動制御することで、節電を行なうインテリジェントな機器である。スマート・アプライアンスは、電力会社のスマート・グリッドから、電気料金情報を受信して、電気料金が安い時に運転を行い、電気料金を下げる仕組みである。例えば、洗濯物乾燥機には二台のヒーターが搭載され、電気代が安い時間帯には二台が稼動し、電気代が高い時間帯には一台だけが稼動する仕組みで、節電を行なう仕組みである。

 

考察

スマート・グリッドの施設作業が進むに連れて、スマート・グリッドに関連するエコ・システムが広がり、各方面から様々な製品が登場している。その背後にあるのが、情報通信技術で、家庭内でセンサー・ネットワークが構築されつつある。Web 3.0の次のWeb 4.0ではセンサー・ネットワークの処理であるといわれており、これが家庭内から始まるのか、情報通信技術との接点が広がっていく。

電力会社の省エネ技術と政策 (Green:Net 09より)

Friday, June 5th, 2009

カリフォルニア州サンフランシスコで開催された、「Green:Net 09」 (グリーンネット 09) では、「Power Grid 2.0」というパネル・ディスカッションにおいて、Pacific Gas and Electric Company (通称PG&E) などが、スマート・グリッドの最新動向について議論を展開した。このレポートでは、この議論を参考に、PG&Eの省エネ技術とその背後にある政策について報告する。

PG&Eのオンライン・サービス

PG&Eは北カリフォルニアに電気とガスを供給している会社であり、ここシリコンバレーでは馴染みの深い会社である。PG&Eは、消費者に対して、ウェブ上で各種機能をオンラインで提供している。利用者はPG&Eのサイトで会員登録して、このサービスを使うことができる。このサービスは、単に「My Account」という名称で、月毎の電気・ガス使用量や使用料金を閲覧することができる。My Accountでは、利用者に最適な省エネの方法を紹介するサービスも提供している。

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家庭で使っている電化製品などの情報を入力すると、使用分野毎の電気ガス使用状況を表示してくれる。(上のスクリーンショット右側、出展はいずれもPG&E) この使用状況に対して、どうすれば節約できるかを「Saving Opportunities」としてリストしてくれる。(上のスクリーンショット左側) 室内照明で、白熱灯を蛍光ランプに取り替えると、年間120ドルの節約ができるなどとアドバイスをしてくれる。シンプルな機能であるが、スマート・メーターが設置される前に、利用者は基礎情報にアクセスすることができる。

PG&Eのスマート・グリッド

PG&Eは、既に、2006年からスマート・メーターの設置作業を開始している。PG&Eは、2011年までに、電気とガスのスマート・メーター980万個の設置を完了するとしている。ここMountain Viewでは、今年12月から工事が始まり、来年11月に設置が完了する予定である。

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電気向けスマート・メーターの外観は上の写真のとおりで、既存のアナログ・メーターをそっくり置き換える形になる。スマート・メーターは、時間ごとの電力使用量を計測し、一日に一回そのデータをPG&Eのセンターに送信する。スマート・メーターで計測されたデータは、まず、近くの電柱等に設置されているリレー (次の写真) に送信され、アクセス・ポイント経由で、最終的にPG&Eのセンターに送信される。スマート・メーターとリレーとアクセス・ポイント間で、ワイアレス・メッシュが構成され、どこかのパスで障害が発生した際は、自動的に別のパスでデータが送信される仕組みとなる。アクセス・ポイントとセンターの間は携帯電話などの公衆ネットワークを使って送信する。

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PG&Eにこれらの技術を提供しているのが、Silver Spring Networksという、カリフォルニア州レッドウッド・シティーに拠点を置くベンチャー企業である。Silver Springは、累計投資金額が$150Mという、大型ベンチャー企業で、PG&Eをはじめ多くの電力会社に製品を供給している。スマート・メーター市場で一番注目を集めている企業である。

PG&Eのエネルギー政策

PG&Eは、エネルギー政策で試行錯誤を繰り返しながら、現在は、再生可能エネルギー開発やスマート・グリッドの設置を、積極的に展開している。PG&Eは、1905年に、サンフランシスコで創業した、歴史のある会社である。PG&Eは、第二次世界大戦終戦後から、発電所の建設を大規模に行なってきた。しかし、1990年代の半ばに制定された、電力市場規制緩和で、その多くの発電施設を民間企業に売却した。PG&Eは、自ら発電するのではなく、Enronなど民間企業から電力を購入し、それを消費者に配電する企業となった。

しかしこのモデルは上手く機能しなくて、2000年頃から、カリフォルニアで電力不足が顕著になってきた。これは、Enronなどの電力供給会社が、電力供給量を意図的に制限したためだといわれている。Enronなどの価格操作で、PG&Eなど電力会社は、高い値段で電力を調達し、それを従来どおりの固定価格で消費者に配給した。このため、PG&Eは経営が行き詰まり、2001年には米連邦破産法11章の適用を行なった。その後カリフォルニア州政府の財政支援で、PG&Eは2004年に破産法から復帰した。

エネルギー政策の失敗と再挑戦

カリフォルニア州が採用した電力市場規制緩和政策は失敗で、PG&Eは自ら発電所を所有する形態に復帰しつつある。更に、PG&Eは、増え続ける電力需要や環境問題に如何に対応するかが、長年の課題である。PG&Eは、大量の設備投資で、クリーン・エネルギー開発とスマート・グリッドの建設を積極的に展開している。しかしその結果、利用者の省エネが進むと、PG&Eの電力販売量が減少し、業績の悪化につながることになる。この問題を解決するために、カリフォルニア州は、Decoupling (ディカプリング) というエネルギー政策を取っている。Decouplingとは、電力販売量と電力会社業績の関連を切り離すというアイディアである。省エネが進み、電力会社の電力販売量が減少すると、電力会社にインセンティブを与えるという仕組みである。このインセンティブは、電力販売単価を上げることで、収益を上げる仕組みである。単価上昇率は数パーセント程度であるが、これは消費者にも一定の負担を求める方式である。PG&Eのスマート・グリッドという新技術と、Decouplingという新政策が、今度はうまく行くのか、利用者としても気になるところである。