Archive for September, 2009

究極のヘルプ・デスク (DEMOfall 09より)

Wednesday, September 30th, 2009

マイクロソフト・エクセルを使っていて、テーブルの行と列を入れ替える操作が分からなくて、Excel Helpを開くが、余りにも項目が多くて、回答が見つからない。ウィンドウズを含めて、ヘルプ画面を、丹念に検索して、じっくり読めば、回答はあるのだが、実際には役に立っていない。

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Kryonという企業

イスラエルに拠点を置くKryon (クライオン) というベンチャー企業は、ソフトウェアのヘルプ画面を、自動操縦の形にして提供している。DEMOfall 09では、同社のCEOで創設者である、Emma Butin (エマ・ブティン) が、Leo (リオ) というシステムのデモを行なった。Leoは、Learn (学習)、Evolve (展開)、Operate (運用) の略で、人間に代わってアプリケーションが、ソフトウェアの使い方を教えてくれる。ステージにおけるデモでは、上のスクリーンショット (出展:DEMO) の通り、マイクロソフト・エクセルを使った、ヘルプ・デスクの実演が行なわれた。エクセル・シートに記入されているデータから、パイチャートを作成する作業である。Butinらは、エクセル・シートの上で、Leoを起動して、「Pie Chart」と入力する。Leoは、これに対して、音声で、データ範囲を指定するよう、指示を出した。操作者が、データ範囲をマウスで指定して、完了ボタンを押すと、エクセル・シートの上で、マウスが自動で動き出した。マウスは、自動で、エクセルのプルダウン・メニューから、必要な機能をクリックしていき、パイチャートを完成させた。Leoがマウスを動かして、エクセルを自動操縦しながら、操作方法を教えてくれた。

Leoの事業展開

Kryonのブースにて、Dmitry Pavlov (ディミトリ・パブロフ) から、Leoの構造について、デモを見ながら話を聞いた。Leoはエクセルとは独立なソフトウェアである。Leoは、ヘルプデスクなどで頻繁に質問を受ける内容を抽出して、それらの質問に回答する形で、機能を実装している。エクセルのほかに、SAPにおける購入伝票発行の操作なども実装している。Kryonとしては、個別ソフトウェアを対象にしたLeoを販売するのではなく、この技術をシステム・インテグレータなどにライセンスする事業形態を目指している。システム・インテグレータなどが、顧客向けにシステムを構築する際に、ヘルプ画面をLeoで実装して、顧客に提供する形態である。顧客の要望を一番理解しているシステム・インテグレータが、ヘルプ画面をLeoの技術で自動運転させる仕組みである。

イスラエルのベンチャー企業

このデモに先立ち、Butinから、イスラエルのベンチャー企業について話を聞いた。Butinによると、イスラエルで優秀なベンチャー企業が生まれるのは、政府の経済政策が大きく影響しており、また、優秀な人材が国内外から集まるためであると説明してくれた。Butinは、若くてエレガントな女性であり、昨年、Kryonを創業した。ベンチャー企業における人材の豊富さを、改めて実感した。

携帯電話でテレビをクリック (DEMOfall 09より)

Wednesday, September 30th, 2009

テレビを見ていて、美味しそうなレストランが紹介され、その名前と住所を、大急ぎでメモするという経験をした人は多いはずである。最近は、iPhoneを手元に置いておいて、テレビで紹介された情報を、iPhone のNotesを開いて入力しているが、こんな努力も過去のことになりそうである。

Hand Eye Technologiesという企業

DEMOfall 09では、サンフランシスコに拠点を置く、Hand Eye Technologiesというベンチャー企業が、テレビ画面をスマートフォンに読み込むデモを行なった。ステージの上にテレビを設置して、そこで放送される番組を、スマートフォンのカメラで撮影して、その関連情報を読み込むというものである。テレビには、映画「Hellboy」(ヘルボーイ)のシーンが上映され、Hand Eye TechnologiesのCEOであるJonathan Kessler (ジョナサン・ケスラー) が、携帯電話のカメラで、テレビ画面に写っている主人公、Hellboyを撮影した。すると、携帯電話の画面に、Hellboyの映画紹介ウェブサイトが表示された。ちょうど、携帯電話が、パソコンのマウスの役割を果たし、携帯電話でテレビ画面のオブジェクトをクリックする感覚である。Kesslerは、次に、テレビで放送されている、テレビ・ショッピングの番組で、そこに表示されている電話番号を、iPhoneで撮影した。すると、iPhoneは、電話番号を読み込んで、その番号に自動で電話を発信した。今は、テレビに登場した内容をメモして、ウェブサイトで検索したり、電話番号を入力して電話を発信しているが、このシステムを使えば、この手間が省けることになる。

テレビ画面読み込みの仕組み

このシステムは、携帯電話側に、Hand Eye Interactive Technology (HIT) というソフトウェアをインストールしておく。また、テレビ番組を受信する、家庭のセットトップ・ボックスにも同じソフトウェアをインストールしておく。携帯電話とセットトップ・ボックスは、LAN又は3Gネットワークで接続する。テレビ番組の中には、HotSpotとよばれる領域を指定しておく。携帯電話のカメラが撮影したイメージを、セットトップ・ボックスに送信すると、セットトップ・ボックスが、イメージに含まれているHotSpotを認識し、HotSpotに関連する情報を、携帯電話に送信するという仕組みである。

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上の写真 (出展:Hand Eye Technologies) は、携帯電話でテレビ番組に登場する女性を撮影したところである。テレビ画面の四角の枠が、セットトップ・ボックスが認識して表示したHotSpotを示している。そして、セットトップ・ボックスは、携帯電話に、女性に関する情報を送信したところである。番組内のHotSpotについては、Video Graffitiというソフトウェアを使用して、事前に、設定しておく必要がある。Hand Eye Technologiesは、テレビ向けのインタラクティブ広告技術としての普及を目指している。テレビ視聴者の立場からすると、放送される情報を、手作業でメモする苦痛から開放され、早く実現してほしい機能である。

ソーシャル・ネットワークの原点 (DEMOfall 09より)

Friday, September 25th, 2009

DEMOfall 09では、AlphaPitch (アルファ・ピッチ) という方式が新設された。AlphaPitchは、誕生間もない技術を、ステージの下で、手短に紹介するものである。このピッチを聞いて、興味を惹かれれば、展示会場のブースで、デモを見ながら詳しく話を聞くという趣向である。

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ShareGroveという企業

AlphaPitchに登場した企業のひとつに、ShareGrove (シェア・グローブ) というベンチャー企業がある。ShareGroveは、本当の友人間でソーシャル・ネットワークを構築するサービスである。ShareGroveのブースにおいて、CEOのKent Libbey (ケント・リビー) 、CTOのAdam Wolff (アダム・ウォルフ) が、二人の間で、メッセージを交換しながら、ShareGroveの仕組みを紹介してくれた。ShareGroveは、Facebookのようなソーシャル・ネットワークであるが、最大の相違点は、ShareGroveでの友人は、本当の友人であることである。Libbeyによると、Facebookでは、一人平均120人の友人がいるが、このうち双方向でコミュニケーションしている友人の数は7人であるとしている。あとの113人は、友人として登録しているが、交信はなく、お互いのフィードを読むだけの関係である。ShareGroveは、本当の友人だけで構築するソーシャル・ネットワークで、閉じた環境で、安全にコミュニケーションを行う場である。

ShareGroveの仕組み

ブースにおいて、Libbeyが、Wolffとリアルタイムでチャットを行うシーンを紹介してくれた。(上のスクリーンショットがチャットの画面、出展:ShareGrove) Libbeyがメモを書き、そのメモに、Hotel del Coronadoの写真を追加する操作を見せてくれた。別のウィンドウにて、Googleでホテルを検索し、検索結果の写真を、ドラッグして、メモにドロップして追加した。ShareGroveは、Googleで検索を行い、その写真やビデオを簡単な操作で、友人に送信できる。最大の特徴は、友人が紹介した製品をAmazon.comで購入すると、ShareGroveはAmazon.comからコミッションを得る方式である。つまり、ShareGroveのビジネス・モデルは、商品推奨による、広告収入ということになる。この方式はWord of Mouth Marketingと呼ばれ、まさに、口コミによるマーケッティングである。Libbeyによると、検索連動広告やターゲッティング広告などと比較して、知人から商品を紹介してもらう方式が、商品購入に結びつく確率が高いとしている。

ベンチャー・キャピタル

ShareGroveに出資をしているベンチャー・キャピタルであるElm Street VenturesのRobert Bettigoleから興味深い話を聞いた。何故シリコンバレーで新技術が誕生するのかという議論となり、Bettigoleは、スタートアップでの失敗は、本人のキャリアにマイナスになるどころか、経験を積んだことでプラスになると述べた。この価値観が新技術を生む力になっていると結論付けた。最前線で投資判断を行なっている人物の言葉は、実戦の裏づけがあり、一言ごと、心に残った。

プラスチック・スピーカー (DEMOfall 09より)

Friday, September 25th, 2009

今週、カリフォルニア州サンディエゴにおいて、DEMOfall 09が開催された。今回のカンファレンスは、前回と比べて、出展企業数が増えた。56社が最新技術のデモを行い、14社がAlphaPitch (アルファ・ピッチ) と称して、開発して間もない、生まれたての技術を紹介した。DEMOfall 09の特徴は、すぐにビジネスに結びつく技術が主流を占めたことである。景気サイクルに関連するのか、流行の技術を追っただけの奇抜な製品は、陰を潜めたように感じた。

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EMO Labsという企業

DEMOfall 09の消費者部門最優秀賞を受賞したのがEmo Labsという企業である。Emo Labsは、マサチュセッツ州ウォルサムに拠点を置き、プラスチック板でスピーカーを開発している企業である。Emo Labsのブースで、Business Development担当副社長のAllan Evelyn (アラン・イブリン) に、製品やその仕組みについて話を聞いた。ブースには、大型の薄型テレビが設置されており、この表面にプラスチック製のスピーカーが装着されていた。その構成は上のグラフィックス (出展:EMO Labs) の通りで、テレビ画面の前面にプラスチック板を装着し、このプラスチック板がスピーカーになるという仕組みである。プラスチック板は、下敷きくらいの厚さ (正確には0.5ミリ) で、この板を両側から押すことで、音を出すという構造である。プラスチック板の左右両端にモーターが装着されており、モーターがプラスチック板を押すことで、板に振動を起こし、音を出す仕組みである。プラスチック板の上下中央部が固定されており、左右2チャンネルのスピーカーが構成される。このプラスチック板は完全に透明で、スピーカーを通してテレビ番組を見ることになる。

Evelynによると、テレビが薄型になるに連れて、スピーカーが小型化され、音質が悪くなる問題を抱えている。これを解決するために、このプラスチック・スピーカーが誕生した。実際に音を聞いてみたが、テレビの音質と遜色はないし、特に低音部がしっかり再現されているように感じた。スピーカー外観は、多くの人が触ったためか、少し歪みがあった。これを除くと、スピーカーを通して、鮮明なテレビ画像を見ることができた。振動している様子は肉眼では見ることができなかった。プラスチック板から、鮮明な音を聞き、実に不思議な感覚でテレビを見た。スピーカーは、テレビだけでなく、デスクトップやラップトップ・コンピュータに応用できる。スクリーンが薄くなるにつれて、このZero Footprintのスピーカーが威力を発揮する。

シニア・パワー

蛇足であるが、DEMOでは、年輩層の活躍が目立った。Evelynは60台と見受けられるが、実に溌剌と楽しそうに説明してくれた。DEMOのステージでは、年輩の創業者が、最新技術を紹介するシーンが目立った。ベンチャー企業を立ち上げるのは、若者の特権ではなく、年輩層でも充分に行えるということも、デモされた。

デジタル書籍リーダー (下)

Friday, September 18th, 2009

Project Gutenberg (プロジェクト・グーテンベルグ) とは、ボランティアーによる、デジタル書籍製作のプロジェクトである。このプロジェクトは、時代を遡り、1971年に、Michael Hart (マイケル・ハート) により創設された。このプロジェクトは、著作権が消滅した書籍を読み取り、デジタル書籍のライブラリーを構築し、文学や文化を幅広く共有しようとするものである。

 

Project Gutenberg概要

Project Gutenbergが、デジタル書籍製作の最初のプロジェクトで、ほぼ40年前に、Google Book Searchのコンセプトを、手作業で始めた。スキャナーやテキスト変換ソフトウェアが登場するまでは、書籍の内容を人間が手作業で入力していた。

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今では、Project Gutenbergは、28,000冊のデジタル書籍を有している。プロジェクトは現在も進行しており、毎週50冊のペースで、デジタル書籍が誕生している。上のスクリーンショットは、Project Gutenbergのライブラリーに登録されている「Alice’s Adventures in Wonderland」 (不思議の国のアリス) の一部で、利用者はこれらのデジタル書籍に自由にアクセスして、読むことができる。これらデジタル書籍は、パブリック・ドメインのコンテンツとして公開されており、先週レポートしたWattpad (ワットパッド) のような第三者が、自由に再配布することができる。

 

Project Gutenbergは、オープンソースのコミュニティと同じように、ボランティアが運営する団体である。スキャンされたデジタル書籍の査読についても、インターネット上で、ボランティアが行なっている。また、Project Gutenbergのウェブサイトは、University of North Carolina at Chapel Hill (ノース・キャロライナ大学チャペル・ヒル校) のibiblio (アイビブリオ) でホスティングされている。ibiblioは、書籍だけでなく、音楽、歴史、芸術、政治、文化、オープンソース・ソフトウェアなど、幅広い分野で、デジタル・ライブラリーを構築している。ibiblioは、Microsoft等が設立した、Open Content Allianceのメンバーである。

 

New York Timesリーダー

デジタル書籍のリーダーに加えて、新聞や雑誌のリーダーも数多く登場している。その中で、New York Timesは、Apple iPhone向けに、「NY Times」というリーダーを、先月公開した。NY Timesは、デジタル書籍リーダーと同じように、New York Times新聞記事を読むツールである。iPhone上で、新聞記事を、手軽に読むことができる。NY Timesを起動すると、最新ニュースや、人気記事 (下のスクリーン・ショット左側、出展:Apple) が表示される。その中から、希望の記事をタップすると、その内容が表示される。(下のスクリーンショット右側)  利用者は、指でページをスクロールしながら、記事を読んでいく仕組みである。一度読み込んだ記事については、オフラインで読むことができる。

ただこれだけの機能であるが、使ってみると、以外に便利である。このアプリケーションが登場するまでは、New York Timesの記事については、iPhoneのブラウザーから読んでいた。技術的には、どの新聞記事でも読むことができるが、ウェブページのローディングに時間がかかるだけでなく、ページを更新するごとに、フォントの大きさを調整する手間がかかる。このため、iPhoneでNew York Timesの記事を読むことは、現実的ではなかった。NY Timesアプリケーションの登場で、直感的な操作で、記事が瞬時にダウンロードされ、フォントサイズを調整する必要なく、記事を快適に読めるようになった。

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Appleの対応

NY Timesの登場により、iPhone上で、New York Timesを、快適に読めるようになり、生活スタイルが大きく変わってきた。仕事に関連する記事は、従来どおり、デスクトップで読むが、日常生活に関する記事は、iPhoneで読むことが多くなった。旅行、政治、スポーツ、芸術関連記事や書評などを、ソファーに横になってiPhoneで読むことが、生活のパターンとなってきた。鳩山内閣誕生の記事もNew York Timesで読み、NY Timesのお陰で、最近は新聞を読む時間が増えてきた。ライフスタイルが変わりつつあるのを実感している。

 

一方で、iPhone製造メーカーのAppleは、デジタル書籍について、ほとんど態度を明らかにしていない。先週、New York Timesの「In Q&A, Steve Jobs Snipes at Amazon and Praises Ice Cream」という記事の中で、Steve Jobsが、デジタル書籍リーダーについて、「Amazon Kindleのような専用端末は、将来、汎用端末にとって代わられることになる」と述べている。Kindleを300ドル出して買わなくても、汎用端末の上で、デジタル書籍リーダー・アプリケーションを動かせば、安上がりで同じ機能を提供できる、という意味である。この汎用端末とは、何かがポイントとなるが、現在では、iPhoneを指しているように思える。更に、Appleは、iPodを大型にした形状の、Apple Tabletを開発していると噂されている。Jobsの発言の真意を推測すると、Appleはデジタル書籍の市場に、Apple Tabletで参入するというメッセージとも受け取れる。本や新聞や雑誌は、Apple iTunes Storeからダウンロードして読む、ということになるかもしれない。

 

考察

Amazon Kindle、Sony Reader、COOL-ER eReaderと、デジタル書籍専用端末が相次いで市場に投入されている。それと同時に、iPhoneやスマートフォン向けに、様々なデジタル書籍リーダーが登場している。デジタル書籍リーダーは、専用機と汎用機の戦いの構図が鮮明になってきた。アプローチは異なるが、デジタル書籍、新聞、雑誌などをコンテンツとする、新しいビジネスが急速に注目を集めてきた。Google Book Searchは、集団訴訟を引き起こしただけでなく、デジタル書籍ビジネスを活性化させている。日本では、早くから携帯電話で本を読むサービスが登場しているが、アメリカにおいても、デジタル書籍コンテンツの急増とともに、この事業が注目を集めてきた。