Archive for December, 2009

Avatar

Friday, December 25th, 2009

先週、3D映画として前評判が高かった、Avatar (アバター) が封切られた。Avatarは、Pandora (パンドラ) という惑星で展開される、SFファンタジー映画で、James Cameron (ジェームス・キャメロン) 監督の最新作である。Avatarの映像はフューチャー・ショッキングで、映画が確実に、次の時代に踏み込んだのを感じた。Avatarの映像の60%はコンピュータで生成されており、映画製作には最新の情報技術が使われている。今回は、映画製作技術や3Dビジネスの動向に焦点をあててレポートする。

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Avatar概要

Avatarは、封切前にテレビで頻繁に紹介されたため、映画館は満席であった。映画館では、RealD (リアルディー) のロゴの入った偏光メガネを手渡され、これをかけて映画を観た。多くの映画館では、3Dプロジェクション・システムとして、このRealDの技術を使っている。Avatarは、地球人とPandoraの住人Na’vi (ナヴィ) とのラブストーリーであり、アドベンチャーである。上の写真はヒロインのNeytiri (ネイティリ) で、このイメージはコンピュータで生成されたものである。(出展:20th Century Fox) 映画が始まると、地球からPandoraに向かう宇宙船の内部のシーンが三次元で登場した。三次元空間を、無重力でさ迷う様子が映しだされたが、画像を三次元に感じたのはこの辺りまでで、いつの間にか、映画の中に埋没していた。

完成度の高いコンピュータ・グラフィックスで、リアルとバーチャルな世界の見分けが付かず、Pandoraでは色彩豊かな輝く世界が広がった。舞台の中心であるPandoraの原始林の様子は、すべてコンピュータ・グラフィックスである。前述のNaytiriを含むPandoraの住人は、すべてコンピュータ・グラフィックスである。Neytiriが、Ikranという巨大な鳥に乗って、崖を急降下するシーンでは、画面の中に落ちていく感触を味わった。この映画は2時間40分の大作であるが、あっという間に終わり、映画終了と供に、館内で大きな歓声が沸きあがった。大歓声が表しているように、観客のハートを掴む映画であった。スリリングで手に汗握るが、後味爽やかな映画でもあった。

Avatar製作の背景

Avatarを観て、映像を三次元に感じたのではなく、映像がごくごく自然に感じられた。いつも見慣れている、自然な感触であった。反対に、エンディング・クレジットは二次元で表示され、多くの名前が、シルバー・スクリーンに張り付いて、スクロールしていった。いつもこんな平たい世界で映画を観ていたのかと、そのギャップに驚かされた。Avatar封切前には、Cameron監督が多くのテレビ番組に登場し、PRを兼ねて映画の紹介を行なった。その中で、CBSの人気番組である「60 Minutes」では、Morley SaferがCameron監督に、インタビューを行なった。この中で、Cameron監督が映画製作のビジョンや撮影方法を紹介し、映画がどのように製作されたのかを解説した。

この番組はCBSのウェブサイト (http://www.cbsnews.com/video/watch/?id=5737218n) に掲載されている。インタビューの中で、Cameron監督は、この映画の構想を長い間暖めてきたが、映画製作のためのコンピュータ技術が整ったため、製作に踏み切ったと述べている。この映画は3Dであり、また、俳優の演技とコンピュータ・グラフィックスを融合させた構成となっている。

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Avatar撮影技術

映画は3000のシーンから構成され、それぞれがコンピュータ・グラフィックスで処理されている。映画の撮影はFusion Camera (フュージョン・カメラ) という、Cameron監督らが開発したステレオ・カメラが使用されている。(上の写真、Cameron監督が抱えているカメラ、出展:CBS)  Fusion Cameraは、3ality (スリーアリティ) と同様に、二つのカメラを対にした構造で、左右の目で見たイメージを撮影する。この撮影は、ロスアンジェルス空港の北側に位置するPlaya Vista (プラヤ・ビスタ)という街で行なわれた。上の写真の通り、俳優はグリーン・スクリーンを背景に、モックアップを使って演技を行い、このシーンをFusion Cameraで撮影した。

Avatar撮影での新しい試みは、俳優の顔の表情をカメラでキャプチャーして、コンピュータに入力する方式である。俳優は小型カメラが実装されているヘッドギアを装着し、カメラが俳優の表情を撮影する。俳優の顔には複数の緑色のドットが書き込まれており、この動きをカメラで捉え、表情を正確に再現する。このデータを入力して、Pandoraの住人であるNa’viの顔の表情を、コンピュータ・グラフィックスで構成する。下の写真 (出展:CBS) は、Naytiriの役を演じている、Zoe Saldaña (ゾーイ・サルダナ) の顔の表情を、小型カメラでキャプチャーしている様子である。このデータを元に構成したNeytiriの顔の表情が、前頁の写真である。コンピュータ・グラフィックスであるが、人間と同じくらい表情が豊かで自然である。

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また、俳優はボディースーツを着て演技を行い、カメラはボディースーツに描かれているマークを捕らえ、演技をキャプチャーした。これは、従来と同じ方式で、俳優の体の動きを、コンピュータ・グラフィックスに変換する方式である。

Avatar編集技術

前述の通り、俳優はモックアップを使って、演技を行なう。Neytiriが、Ikranという巨大な鳥に乗って、空を駆け巡るシーンの撮影では、Saldañaが鳥のモックアップに跨って演技をした。そのシーンを、前述のFusion Cameraで撮影する。撮影と同時に、Cameron監督は、モニターで俳優の演技をモックアップではなく、コンピュータ・グラフィックで生成したIkranの上で見ることができる。これは、Augmented Reality (拡張現実) 技術を使い、リアルタイムで、低解像度の背景シーンをインポーズする。Cameron監督は、実際の映画で上映するシーンを、リアルタイムで観ることができる。(下の写真はSam Worthington (サム・ワーシントン) が演じるJake Sully (ジェイク・サリー) がIkranに跨っているシーン、出展:20th Century Fox)

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Cameron監督は、カメラで撮影した映像をコンピュータで処理する部分が、最大の難所であったと述べている。この処理は、Weta Digitalという企業が、ニュージーランドで行なった。Weta Digitalは、撮影した俳優の演技を入力として、コンピュータ・グラフィックスで、体や顔の映像を生成した。Cameron監督によると、コンピュータ・グラフィックスによる顔の表情が、アニメではなくリアルでなくては、映画として成り立たないと述べている。また、Pandoraのシーンはすべてコンピュータ・グラフィックスで、木や草や花や生物などはすべてコンピュータで生成されている。(下は発光する植物の中を泳いでいる場面、出展:20th Century Fox)

3Dビジネス動向

アメリカにおいてここ近年3D映画が登場して、小さな成功を重ねてきている。2008年は、公開された映画の3%が3D映画で、収入の10%がこれら3D映画から上がっており、来年は24本の3D映画が予定されている。当初、ハリウッドで作成された3D映画が、広く受け入れられなかった理由は、3D効果の使い方にあるという見方が主流である。ハリウッドは、観客の目を惹くための「特撮」効果として3Dを使用したが、観客の評判は良くなかった。Avatarでは、3D撮影で、観客に特撮ではなく、「自然」な映像を提供している。Avatarが成功すれば、それに関連する産業である、テレビ、ゲーム、ケーブル、再生機などの分野で3D事業への道筋が見えてくる。SonyがFIFAワールドカップの試合を3Dで中継することを表明しており、テレビにおいてはHDから3Dへの展開が目の前に迫っている。

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考察

Pandoraの基地内の指令所で、JakeがNa’viの拠点を地図上で示すシーンが登場する。この地図は三次元で表示され、山や谷や森の様子が、空間上に立体的に表示された。このシーンは、将来、Google MapsやGoogle Earthが3Dで表示されることを示唆している。Google Street Viewも3Dとなれば、プライバシーの問題はあるが、利用者としてはより臨場感を味わえる。ステレオ・カメラが消費者向けに販売されれば、YouTube はHDから3Dに進化することになる。Avatarは映画だけでなく、テレビやインターネットが大きく変わる可能性を秘めている。最後に、映画の感想を一言で纏めると、Avatarを観ると、もう今までの平らな世界には戻れない、というのが実感である。

三次元イメージ製作技術 (NewTeeVee Liveより)

Friday, December 18th, 2009

次世代テレビのあり方について議論するカンファレンスであるNewTeeVee Live (ニューTVライブ) で、参加者に一番アピールしたのが、3Dテレビのデモであった。日本では、3Dテレビの製品発表や展示が行なわれ、3Dテレビが身近な存在になっているようであるが、アメリカにおいては、まだまだ遠い存在である。

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3Dコンテンツ

カンファレンスでは、3ality Digital (スリーアリティ・ディジタル) というベンチャー企業が、3D番組をテレビで上映し、参加者の関心を集めた。3ality Digitalは、ハリウッド近郊のBurbank (バーバンク) で、三次元のハイビジョン・デジタル映画製作技術を開発している会社である。3alityは、フットボールやコンサートなど、ライブ・イベントを三次元で撮影する技術を中心に開発している。カンファレンスにおいては、NewTeeVee’s Next Big Thingというセッションで、3ality Digital副社長のAngela Gyetvan (アンジェラ・ゲットバン) が、三次元コンテンツを紹介した。

ステージ上に大型スクリーンのテレビを設置して、3ality Digital技術で作成した、三次元コンテンツを放送した。参加者には、事前にメガネが手渡され、これをかけてテレビを見た。テレビでは「U2 3D」という、U2のコンサートが再生され、立体的な映像が浮かび上がった。(上の写真、出展:3ality Digital)  番組が始まると、テレビを設置してあるステージが延びてきて、すぐ目の前にせり出し、そこでU2のコンサートが行なわれているように見えた。演奏中に、Bonoが、歌いながら右手を差し出すと、手が体に触れたように感じた。デモが終了すると、参加者から大きな拍手が沸きあがり、カンファレンスで一番人気のデモとなった。

3ality Digital概要

U2 3D の製作では、前述の通り、3alityの技術が使われている。3alityが提供する技術は、三次元撮影のためのカメラ (3Flex Camera、下の写真、出展:3ality Digital) や、撮影した三次元イメージを編集するソフトウェアである。このカメラは、通称ステレオ・カメラと呼ばれ、二台のSony製のカメラが搭載され、それぞれが人間の左右の目でみたイメージを録画する。

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他に、三次元イメージ編集ソフトウェア、三次元イメージ放送技術など、3ality Digitalは、三次元ビデオ作製に必要な一式の技術やサービスを提供している。

アメリカにおいて、3ality Digitalが一躍有名になったのは、今年2月に行なわれたスーパーボールで、3Dコマーシャルを放送したことによる。スーパーボールでのコマーシャルが、フットボールと肩を並べるほど人気で、企業は高額な予算を投じて、消費者の気を惹くクリエイティブを製作する。PepciCoは、3ality Digital技術を使って、SoBeという清涼飲料水のコマーシャルを作成した。SoBeのロゴとなっているトカゲがダンスするという内容である。視聴者は、赤と青のフィルターが掛かったメガネをかけてコマーシャルを見ると、イメージが立体的に見えるという仕組みである。

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RealDという企業

前述の、U2 3Dは、もともと3D映画として撮影され、昨年初頭に、主要な映画館に配給され上映された。映画館においては、この三次元コンテンツを映写する技術として、RealD (リアル・ディー) という技術が使われている。RealDは、ビバリーヒルズ (Beverly Hills) に拠点を置く企業で、映画館や企業向けに、三次元プロジェクション技術を提供している。この技術を提供している企業には、他に、音響技術で有名なドルビー (Dolby Laboratories) があるが、RealDは全米の1500の映画館で導入されており、業界のトップベンダーである。

RealDは、映画館に設置されているプロジェクターに、特殊装置を装着して3D映画を上映するシステムを提供している。3D映画は、右目と左目のイメージから構成され、シネマ・サーバーがこれらのイメージを、デジタル・プロジェクターに交互に送信する。RealDは、プロジェクターの前に、Z Screenと呼ばれる偏光装置を装着し、左右のイメージと同期を取って、円偏光 (Circular Polarization) をかける。観客は偏光メガネ (Polarized Glasses) をかけて、投射されるイメージを、左右の目で交互に見ることで、三次元画像が生成される。上の写真 (出展:RealD) がその装置で、レンズが見えている部分がデジタル・プロジェクターで、その前の四角い枠がZ Screenである。

3D映画コンテンツ

RealDは、既存のデジタル・プロジェクターに装置を付加することで、簡単に3D映画を上映できることから、多くの映画館で導入が進んでいる。それと並行して、3D映画の製作も進み始めている。2007年には、Walt Disney Pictures製作の「Meet the Robinsons」が公開され話題を呼んだ。またDreamworksは、「Monsters vs. Aliens」を皮切りに、すべての映画を3Dで製作すると表明している。

ちょうど今日、3D映画として前評判が高い、Avatar (アバター) が封切られた。Avatarは、James Cameron (ジェームス・キャメロン) 監督の最新作で、Pandora (パンドラ) という星で展開される、SFファンタジー映画である。この映画がRealDの技術を使って三次元でプロジェクションされる。3D映画は色々と観てきたが、Avatarは別格で、フューチャー・ショックを受けた。同時に、映画のあり方が、大きく変わりつつあるのを感じた。Avatarで使われているコンピュータ技術や、3D映画市場動向については、次回のレポートで報告する。

三次元入力 (NewTeeVee Liveより)

Friday, December 11th, 2009

先月、サンフランシスコにおいて、NewTeeVee Live (ニューTVライブ) という、次世代テレビについてのカンファレンスが開催された。カンファレンスの副題は、Television Reinvented (テレビ再発明) で、インターネット社会におけるテレビ技術について議論された。

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NewTeeVee Liveの概要

カンファレンスは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMission Bay Conference Center (上の写真、出展:University of California, San Francisco) を会場として開催された。このキャンパスは、サンフランシスコ・ジャイアンツの拠点であるAT&T Parkのすぐ南側に新設され、バイオ・クラスターの一角を担い、バイオ・テクノロジー研究の拠点となっている。このモダンでかつ質実な会議場で、次世代テレビ技術について、議論された。

NewTeeVee Liveは、上述の通り、インターネット時代において、テレビの役割を再び検証しようという目的で始まり、今年で三回目を迎える。今年のテーマは、「TV Everywhere」として、テレビ番組をテレビやパソコンで見るだけでなく、生活の中で急速に広がりつつある携帯端末で、場所の制約無しに視聴できる技術が紹介された。カンファレンスは、パネル・ディスカッションを中心に進行し、マイクロソフトやシスコなどの大企業から、ベンチャー企業などが招待され、最新技術が質疑応答の形式で紹介され、議論された。また、ビデオコンテンツを配信する側である、YouTubeやCBS Interactiveなどが、ネットワークの観点から、次世代ビデオ・サービスを紹介した。

Canestaというベンチャー企業

カンファレンスのデモで、一番印象的だったのが、Canesta (カネスタ) というベンチャー企業が提供している、三次元入力技術であった。三次元入力とは、利用者が身振りや手振りで、テレビなどの電子機器を制御する方式のことを指す。下の写真 (出展:Canesta Inc.) のように、テレビのリモート・コントロールを使う代わりに、利用者が手振りでテレビを操作する方式である。

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カンファレンスでは、CanestaのCEOであるJames Spare (ジェームス・スペアー) が、Next Big Thingというセッションで、ビデオでのデモを交えながら、その概要を紹介した。デモでは、Canestaの技術を使って、実際にテレビを操作している様子が実演された。テレビを見ている男性が、手を右から左に振ると、テレビ画面が左側にスクロールした。(上の写真は、その様子で、さながらAir iPhoneという感じであった。) テレビ画面をスクロールしながら、見たいチャネルになると、手を前に押し出すと、そのチャネルが選択される。テレビの音量を調整するときは、手で円を書くように回し、右回転でボリューム・アップ、左回転でボリューム・ダウンとなる。最初に、テレビの電源を入れるときは、片手でバイバイするように振る。

三次元入力の仕組み

Canestaは、三次元入力を行なうための、センサー技術を開発している会社である。この技術は、半導体チップ (製品名はCanestaVision Chip) に実装され提供されている。このセンサーは、カメラから被写体までの距離を正確に測定し、撮影しているオブジェクトを三次元で認識することができる。センサーには、赤外線光源が搭載されており、半導体チップは、反射波の位相を読み取り、距離を測定する仕組みとなる。つまり、厚みのある人間の手と、紙に印刷された手を区別できる。そして、認識した人間の手のイメージを追跡することで、利用者が行なう様々な手振りを読み取り、それをコマンドに置き換えて、テレビの操作を行なう。Canestaが開発しているのは、この半導体センサーの部分だけであり、センサー情報を読み込んで、それをコマンドに置き換える部分は、GestureTek (ゼスチャーテック) という企業が開発したソフトウェアを利用している。上述のデモには、このGestureTekの技術が使われている。

三次元入力の応用分野

Spareは、この技術は既に日立で採用されており、手振りで操作するテレビが開発されていると紹介した。(昨年、幕張メッセで開催されたCEATECにおいて、そのデモが行なわれている。) また、三次元入力技術を積極的に開発しているのがマイクロソフトである。マイクロソフトは、Canestaとは別のセンサー技術を使って、次世代のゲーム機を開発している。現行のXbox 360に続く機種で、この研究はProject Natal (プロジェクト・ナタール) と呼ばれている。

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Project Natalは、利用者の動きを検出し、コントローラー無しでゲーム機を操作するシステムである。サッカー・ゲームの場面では、利用者は、モニターの前で、身振りでゲームを展開する。(上の写真、出展:Microsoft) 利用者の体や手足の動きをNatalが認識し、ゲーム内のアバターが同じ動きをする。利用者がボールをキックすれば (上の写真左側)、画面内のアバターが、ボールをキックする。そしてゴールキーパー (上の写真右側) が、体を屈めてボールをキャッチする。

考察

Canestaの技術は、元々、自動車に搭載するセンサーとして開発され、安全走行を手助けするツールとして製品化された。その後、応用範囲が広がり、三次元入力のための要素技術として、利用され始めた。テレビやゲーム機以外にも、様々な応用形態が開発されている。パソコンでは、マウスの代わりに、手振りで操作する方式がデモされている。少しばかり近未来の雰囲気を味わったデモであった。

Google Chrome OS

Saturday, December 5th, 2009

グーグルは、今年7月に、Google Chrome OS (クロム OS) を発表して、市場に波紋を投げかけたが、その実態は明らかにされていなかった。グーグルは、先々週、記者会見の席でChrome OSを公開し、その概要が明らかになった。

Chrome OSの概要

Chrome OSを一言で表現すれば、「Chrome OS = Chrome」ということになる。Chromeとはグーグルが提供しているブラウザーで、Chrome OSは、ブラウザーをOSに仕立てたものである。下のスクリーンショット (出展はいずれもGoogle) は、Chrome OSの画面である。一見すると、Chromeブラウザーの初期画面に見えるが、良く見ると最上部のタブの構成が、Chromeブラウザーとは少し異なる。大きめのタブと小さめのタブから構成されている。最上部右半分の、大きめのタブがChromeブラウザーのタブで、ここでいつものウェブページを表示する。下の画面は、ブラウザー機能で、New Tabをクリックしたところである。

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一方で、最上部左半分の小さめなタブは、Chrome OSのアプリケーションを起動するタブである。Chrome OSでアプリケーションという際は、ウェブ・アプリケーションを示している。Windows上でソフトウェアを起動させる、従来型のアプリケーションとは異なる。下のグラフィックスは、アプリケーションの中で、Gmailのタブをクリックして、Gmailを起動したところである。アプリケーションを起動するというよりは、Gmailのサービスにアクセスしたというほうが実態に近い。Chrome OSのアプリケーションには、Gmailのほかに、Google Calendar (カレンダー)、Google Docs (文書作成)、YouTube (ビデオ閲覧)、Hulu (テレビ番組閲覧)、Lala (音楽視聴)、Books (デジタル書籍)、Chess (チェス・ゲーム) などが揃っている。

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Chrome OSのシステム構成

Chrome OSのアプリケーションが示しているように、Chrome OSは、コンピュータがネットワークに接続されていることを前提に設計されている。アプリケーションは、すべてブラウザー上で稼動する、ウェブ・アプリケーションである。流行の言葉で表現すると、Chrome OSの機能はクラウド上に存在している。アプリケーションを起動すると、ローカルに処理が進むのではなく、クラウド上でアプリケーションが実行される。それを端的に表している事例が、Chrome OSのNotepad (メモ帳) というアプリケーションである。Notepadを起動すると、下のスクリーンショット右下の枠のように、メモ帳のパネル (小型のウィンドウ) が開き、ここに利用者はテキストを入力する。テキストを入力した後に、Google Docsというアプリケーションを開くと、作成しているメモ帳は、クラウド側に保存されているのが分かる。メモ帳で作成したデータはローカルに保存されるのではなく、クラウド側に保存される。

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ハードウェアの観点からは、Chrome OSは、ローカル・ストレージとしてSD Cardだけをサポートしている。従来型のディスク・ドライブは、サポートしていない。グーグルによると、今後は、パソコンのストレージは半導体ディスクだけになり、ディスク・ドライブは過去のものとなるとしている。利用者が、SD Cardにアクセスしたときは、前述のパネルが開き、利用者はこのパネルでファイルの内容を閲覧できる。

Chrome OSの製品コンセプト

Chrome OSは、ネットブック向けのOSとして開発されている。ネットブックの位置付けとしては、家庭における二台目のパソコンで、ネットワークに接続して使用する形態を想定している。Chrome OSはHTMLの最新版であるHTML-5を実装している。HTML-5は、オフライン・ストレージ機能をサポートしており、Chrome OSがオフラインの際にも、SD Cardにダウンロードされたビデオなどを閲覧できる。Chrome OSは、オープンソースとして開発されており、誰でも自由にダウンロードして利用することができる。Chrome OSのベースはLinuxカーネルで、ここにChromeブラウザー機能だけを搭載した構造で、非常に軽量で、高速で、安全な、使い易いシステムを目指している。Chrome OSがサポートするプロセッサーは、インテルとARMである。WindowsやLinuxなどと異なり、Chrome OSはプレ・インストールして出荷され、利用者がChrome OSをダウンロードしてインストールする利用形態は想定していない。(勿論、仮想マシン配下にダウンロードして起動することは可能である。)

考察

Google Chrome OSのコンセプトは、前述の通り、「Chrome OS = Chrome」である。Chrome OSは、ブラウザー専用OSという、ユニークな位置付けである。しかし、利用者からすると、すべての処理をクラウドで行なうことで事足りるのか、疑問が残る。ローカルなアプリケーションは動かないため、若者に人気のあるApple iTunesは使えない。YouTubeやHuluを見て、Appleが買収したLalaで音楽を聴く利用者層を想定しているが、ネットブックの価格が安くなったいま、ブラウザー機能しかないネットブックが、どれだけ売れるのかという疑問は残る。

グーグルは、Chrome OSで何を目指しているかが、一番気になるところである。Chrome OSを搭載したネットブックが市場に浸透すれば、それだけウェブ利用者が増えることになる。ウェブサイトへのアクセス数が増えれば、グーグルの事業が拡大することになる。世界中のウェブ利用者にリーチすることがグーグルの目的で、Chrome OSは、これを加速するための手段といえる。グーグルの事業モデルは、一貫して宣伝事業であり、Chrome OSを宣伝事業のツールとして捉えるのが、順当な考え方のように思える。Chome OSを搭載した製品の出荷は来年から始まり、市場が、特に若者世代が、どう反応するのか、大変気になるところである。