Archive for August, 2010

アメリカ連邦政府のクラウド戦略

Friday, August 27th, 2010

オバマ大統領は、アメリカの景気の回復のペースが遅く、人気が低迷している。「Jobless Recovery」といわれている通り、雇用情勢が一向に改善しなくて、オバマ政権の経済チームは、苦戦を強いられている。オバマ大統領の景気対策法 (American Recovery and Reinvestment Act of 2009) は、規模が充分でないという議論や、GDP浮揚の効果はあるが、雇用の促進に直結していないなど、その効果を疑問視する声も少なくない。様々な議論があるものの、景気対策法の執行状況を克明に公開しているのが、Recovery.govというウェブサイト (下のスクリーンショット) である。このサイトで景気対策法に基づく、プロジェクト進捗状況、予算執行状況、新規雇用人数等を公開している。

g171a_federal_cloud

クラウドへの移行

このRecovery.govは、今年5月に、アマゾン・クラウド (Amazon Web Services) 上に移行され、ここで運用されている。今までに、アメリカ連邦政府のプロジェクトを、試験的にアマゾン・クラウドで運用するケースはあったが、大規模な本番システムをアマゾン・クラウドで運用するのは、Recovery.govが最初のケースである。連邦政府のクラウドへの対応は、歩みが速くはなかったが、Recovery.govのクラウドへの移行で、各省庁においてクラウドへの流れが加速しそうな状況である。

アメリカ連邦政府のCIOであるVivek Kundra (ヴィヴェキ・カンドラ) は、Open Government Initiativeのブログの中で、Recovery.govをクラウドに移行したことについて説明している。以前にもレポートした通り、Kundraは、オバマ大統領の下で、Open Government Initiativeを推進し、連邦政府の情報公開を進めている人物である。Kundraは、ブログの中で、Recovery.govをクラウドに移行した理由は、連邦政府の無駄を省き、機能していないシステムを廃止するプログラムの一環であると説明している。クラウドに移行することで、今後一年半で$750,000の予算削減になるとしている。また、クラウドに移行することで、ダウンタイムが大幅に短縮され、システムを安定して稼動させることができるとしている。

クラウドへの移行と安全性

Recovery.govを、クラウドに移行するプロジェクトは、同サイトの責任者であるRecovery Accountability and Transparency Boardが推進した。この委員会は、実際のシステム移行作業を、Smartronix (スマートロニクス) という企業に委託して実行した。Smartronixは、Hollywood  (メリーランド州) に拠点を置く、軍事システムを中心としたシステム・インテグレータである。Smartronixは、様々なクラウドの評価を実施し、今年4月に、Recovery.govのクラウド・インフラとして、Amazon Elastic Compute Cloud (EC2) を選定した。そして今後は、Smartronixが、Recovery.gov向けに、クラウド・インフラの運用管理を実施することとなる。

Recovery.govが、クラウドに移行する最初のケースであり、政府内で安全性の問題が議論となった。委員会の会長であるEarl Devaney (アール・ディベイニー) は、クラウドの効用だけでなく、その安全性について、ウェブページで解説している。Devaneyによると、Amazon EC2で稼動しているRecovery.govが、ハッカーからの攻撃を受けて、データを改造された場合は、五分間以内でデータを復元できるとしている。また、Amazonとの契約で、Recovery.govを運用するサーバはすべて、アメリカ国内に設置されていることを明らかにしている。Recovery.govが取り扱うデータそのものは、機密情報ではないが、システムのセキュリティー対策には万全を期している。

クラウドの安全対策基準

Recovery.govをクラウドに移行するために、Federal Information Security Management Act (FISMA) と呼ばれる法令に準拠する必要があった。FISMAは、2002年に制定された法令で、連邦政府の情報システムのセキュリティーを担保することを目的としている。Recovery.govをAmazon EC2に移行するために、FISMAに沿って、運用上のセキュリティー問題の検証や、運用手順の制定などが実施された。Recovery.govが、クラウドに移行する最初のケースであり、このプロジェクトがクラウドの安全性を検証した最初のモデルとなった。今後、各省庁のシステムをクラウドに移行する場合は、同じプロセスを繰り返すのは無駄であり、新しい基準が制定された。

前述の、連邦政府CIOであるKundraは、Cloud Computing Advisory Councilという諮問委員会を設立し、ここでセキュリティー専門家により、クラウドに関するセキュリティー・プログラム、Federal Risk and Authorization Management Program  (FedRAMP) を制定した。FedRAMPとは、各省庁がシステムをクラウドに移行する際に、セキュリティー要件の設定や、購買可能なクラウド企業を登録するプログラムである。各省庁が導入するクラウドを、すべて検証するのではなく、事前に承認したベンダーを定めておこうという試みである。対象となるシステムは、アウトソース・システムや、省庁間を跨る大型システムであるが、最初はクラウドに限定して、このプログラムを運用している。FedRAMPの制定により、政府内でクラウド導入の手続きが簡素化され、クラウドの普及が進むとみられている。

g171b_federal_cloud

クラウドの開発

連邦政府は、Amazon Web Servicesのようなパブリック・クラウドの利用だけでなく、自らプライベート・クラウドの開発も行っている。NASAは、オープンソースを利用して、独自のクラウド・システムであるNebula (ネビュラ) を開発中である。Nebulaは、コンテナー型のデータセンター (上の写真、出展:NASA) に実装するクラウドとして開発されている。コンテナー型のデータセンターとは、トラックで使用するコンテナーに、システムを高密度に実装したデータセンターである。Nebulaは、Federal Cloud Computing技術開発のテストベッドとして開発され、2011年の完成を目指している。アメリカ連邦政府のクラウドへの取り組みは、歩みがゆっくりであったが、今年に入り大きく動き始めた。

Facebook位置情報サービス

Friday, August 20th, 2010

Facebookは、今週の水曜日に、カリフォルニア州パロアルトの本社キャンパスにて、Facebook Placesという製品の発表を行った。製品発表イベントでは、創設者であるMark Zuckerberg (マーク・ザッカーバーグ) やFacebook Places開発責任者が、新サービスのコンセプトや機能を紹介した。製品発表イベントの模様はfacebook live (http://fbapps.livestream.com/facebooklive/) に掲載されている。

Facebook Places概要

Facebook Placesは会員の位置情報を表示するサービスである。Facebook上で、自分が何処にいるかのを発信し、友人が何処にいるかのを把握できる。また、Check In機能で、特定の場所にチェックインすることができる。操作はシンプルで、Apple iPhoneにFacebookアプリケーションをダウンロードして起動すると、下の画面左側 (出展:VentureClef) が表示される。

g170a_facebook_places

この画面はいつものFacebookホーム・スクリーンであるが、この中央にPlacesアイコンが追加された。このPlacesアイコンにタッチすると、Facebook Placesが起動し、上の画面右側 (出展:Facebook) が表示される。これは、利用者の近辺に誰がいるのかを、表示している様子である。最上部のNearbyの欄に、近くにいる友人の名前 (Ben Gertzfield) と、その人物がいる場所 (Facebook HQ) を表示する。Elsewhereの欄には、その他の友人の名前とその場所を表示する。このように、Facebook Placesを使うと、友人が何処にいるのかを把握できる。利用者本人は、自分の位置情報を公開することに同意し、Check Inする毎に、システムがその位置情報を発信する仕組みである。

g170b_facebook_places

このCheck Inとは、現在地近辺の特定の場所に、チェックインする機能である。チェックインとは少し馴染みの薄い機能であるが、利用者がその場所に来たことを登録する機能である。イメージとしては、皇居における新年一般参賀で記帳する感覚である。ただし、対象は厳かな場所だけではなく、レストラン、バー、アパート、学校、イベント会場など、身の回りにあるすべての場所である。前述の友人リスト画面のCheck Inボタンを押すと、上の画面左側 (以下出展はVentureClef) のように、現在地近辺にある施設の一覧が表示される。その中から自分がいる場所にタッチすると、上の画面右側が表示される。ここでは、Baskin-Robbins というアイスクリーム・ショップを選択した様子である。そして画面下部のCheck Inボタンを押すとチェックイン完了である。その際に、コメントを記入することもできるし、また一緒にいる友人を登録することもできる。Facebook Placesの機能はこれだけで、シンプルな構造である。

Facebook Placesの活用方法

Facebook Placesを使って何ができるのかであるが、前述の発表イベントにおいて、Facebookはこのサービスの設計思想について触れた。Facebook Placesの目的は、自分の周りに、どんな友人がいるのかを把握することである。例えば、遠方から友人が出張で来ていれば、連絡を取って会うことができる。今までのコミュニケーションは、バーチャルな世界で行われてきたが、Facebook Placesを使うことで、リアルの世界でも友人との交流を深めることができる。また、レストランで食事した際に、Check In機能を使って、その印象を書き込む。その後、友人がそのレストランを訪れた際に、そのメモを見つけて、食事した内容やお勧めの料理を読むことができる。更に、20数年後には、子供が、お父さんがお母さんにプロポーズした場所を発見するかもしれないとしている。

現実の社会では、このチェックイン市場で、激しい戦いが展開されている。この市場での一番人気は、Foursquare (フォースクェア) で、Facebook Placesが登場する前から、チェックイン機能を展開している。また、Gowalla (ゴワラ) やYelp (イェルプ) も同様なサービスを展開しており、市場は「Check- In War」という状況である。では、利用者は何故チェックイン機能に夢中になるのか。人は、特定の場所に足跡を記したことを、世界に向かって発信することに、喜びを見出すという傾向がある。例えば、自分はAT&T Park (サンフランシスコ・ジャイアンツ球場、Foursquareで一番人気の場所) に来ていると、同僚に自慢することができる。更に、Foursquareなどは、どれだけ沢山の場所でチェックインしたかで、得点やメダルが決まる。高得点やランクの高いメダルを獲得するために、利用者はゲーム感覚で、様々な場所を訪れてチェックインを行う。

g170c_facebook_places

Facebook Placesを使ったマーケッティング

Facebookの発表イベントでは、前述のFoursquare、Gowalla、Yelpなどがパートナーとして招待され、Facebook Placesと連携した新サービスを紹介した。上の画面は、Yelpが開始した、Facebook Placesと連携したサービスである。画面左側は、YelpのCheck In機能を使って、レストランなどにチェックインした様子である。これは、現行の機能であるが、その情報がFacebook Feeds (右側の画面) に表示されるだけでなく、利用者の位置情報もアップデートされる。つまり、YelpでチェックインするとFacebookでチェックインしたことになる。このように、YelpはFacebookと競合するのではなく、Facebook Placesの機能を利用して、膨大な数のFacebook会員を対象に、バイラル・マーケッティングを展開している。Yelpは、今後、Augmented Reality (拡張現実) 技術を使って、スマートフォンで撮影した街並みの映像に、レストラン位置情報を付加するだけでなく、利用者の友人の位置情報も付加することを計画している。Yelpを筆頭に、Facebook Placesという基盤の上で、位置情報を活用した、ユニークなアプリケーションが登場し始めた。

Cloud 2 (Structure 10より)

Friday, August 13th, 2010

6月23日から24日まで、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で、Structure (ストラクチャー) という、クラウド・コンピューティングのカンファレンスが開催された。Structureは、GigaOM Network (ギガオム・ネットワーク) が主催するカンファレンスで、今年で三年目を向かえ、クラウド最新技術動向が、パネル・ディスカッション形式で議論された。クラウド業界の主要人物が集い、意見交換を通して、クラウド技術と進行方向が議論された。

g169a_cloud2

Hello, Cloud 2

カンファレンス初日に、Salesforce.comの会長及びCEOであるMarc Benioff (マーク・ベニオフ、上の写真右側、出展はいずれもGigaOM Network) が、「Hello, Cloud 2」と題する、基調講演を行った。Benioffは、Structure主催者である、Om Malik (オム・マリック、上の写真左側) との対談形式で、新世代のクラウドについて意見を展開した。Benioffは、この新世代クラウドを、Cloud 2と命名している。対談における、Benioffの論旨を纏めると、以下のようになる。

歴史を振り返ると、Salesforceは、クライアント・サーバ形式で提供されていたサービスを、オンデマンド形式で提供することで、事業を始めた。このシステム形態を、今では、Cloud 1と呼んでいる。そしてCloud 2は、Salesforceが提供している、最新のクラウドを指しており、クラウドとソーシャル・ネットワークとモバイル・アプリケーションが統合したものである。Benioffは、このカンファレンスの直前に、日本を訪問しており、Cloud 2の説明で、日本市場の動向をしばしば引用した。日本市場は急速に、クラウドに向かって進んでおり、「クラウド・コンピューティングへ、大規模なシフトが起こっている」と表現した。また、日本は、モバイル・コンピューティングの先進国であり、更に、ソーシャル・ネットワークでは、Mixiが幅広く利用されている。このように、日本は、クラウド・コンピューティングとモバイル・コンピューティングとソーシャル・ネットワークが共存しており、Cloud 2の環境が整っているとしている。その一方で、日本ではクラウドとは名ばかりの、False Cloud (偽のクラウド) も多く、注意が必要であると警告した。

Cloud 2の概要

アメリカにおいては、Facebookが市場から絶大な支持を得ており、クラウド技術の手本となっている。Salesforceは、Facebookの機能を企業に取り込むことを目指して、Cloud 2の開発をスタートした。Cloud 1では、企業システムをAmazon形式で提供することを目指したのに対して、Cloud 2ではそれをFacebook形式で提供することを目指した。Salesforceは、今年6月に、Cloud 2を製品化した、Chatter (チャター) というシステムを発表した。Chatterは、ソーシャル・ネットワーク機能を統合した、コラボレーション・プラットフォームで、前述の通り、Facebookの機能を、企業システムに取り込んだ構造となっている。

企業における利用者は、Chatterを使えば、Facebookのインターフェイスで、業務を遂行することができる。Profileというページ (下のスクリーンショット) は、利用者のプロフィールを掲載している様子である。個人の連絡先や、仕事での専門分野などを公開している。また、Feeds (画面中央部) では、Facebookと同様に、利用者の最新情報を掲載できる。利用者が担当している商談状況を発信できるだけでなく、商談が行き詰まった際には、社内に助けを求めることができる。この画面では、John Allenが担当している、Green Dot Media社の商談状況について、進捗状況を発信している。また、Allenが、Green Dot Media社へのアプローチ方法について助言を求めると、同僚であるLaura Ashleyから、Feedの中に回答が寄せられている。Facebookののりで、社内でのコラボレーションが進むことを目指している。

g169b_cloud2

Cloud 2の特徴

クラウドのサービス基盤については、上述の通り、Cloud 1はAmazonをモデルにしており、Cloud 2ではFacebookのインターフェイスを取り入れている。利用者への情報提示方法は、Cloud 1ではTabsをクリックして情報を閲覧していたが、Cloud 2では、上述の事例の通り、Feedsに表示される。非常にシンプルな表現であるが、高度な情報技術を使っている。Feedsでは、利用者や同僚が投稿したテキスト・メッセージが掲載されるだけではなく、PowerPointのようなファイルを掲載し、その内容を閲覧できる。また、Salesforceが提供している、CRMアプリケーションから、第三社が提供しているアプリケーションまで、Feeds内で実行できる。必要な情報を、ウィンドウを遷移することなく、一つのページの上で見ることができる。また、これらの情報は、Pull (探しに行く) ではなく、Push (必要情報が配信) される。そして、画面の操作は、Cloud 1ではマウスでクリックしていたが、Cloud 2では、iPadをクライアントとして、タッチ操作で行うこともできる。Benioffは、講演の中で、iPadの機能に触れて、タッチ・インターフェイスが、モバイル・コンピューティングを加速させると強調した。iPadの登場で、今まで言われてきたモバイル・クラウドが、本格的に立ち上がる兆しをみせている。

考察

Salesforceが提唱しているCloud 2は、このように、Facebookのインターフェイスで、iPadを端末とするクラウド、と纏めることができる。ソーシャル・ネットワークの登場とともに、多くのソフトウェア企業が、ソーシャル・ネットワークの機能を、企業での生産性向上に適用することを試みた。IBMがLotus製品で、ソーシャル・ネットワーク機能を実装し、社員間でのコラボレーションの促進を目指した。ここにきて、Facebookが、ソーシャル・ネットワーク市場で圧倒的な人気を集め、Facebookのインターフェイスが、デファクト・スタンダードとなってきた。Salesforce Chatterでは、その標準仕様を採用している。Facebookが市場を独占するとともに、クラウド技術が新しい段階に進み始めた。ここ最近は、ベンチャー・キャピタルのクラウド技術に対する投資が、目立って増えてきており、クラウド市場が大きく動き始めた。

グッド・リレーションズ (SemTech 10より)

Friday, August 6th, 2010

今週は、最新のセマンティック技術を議論するカンファレンスであるSemantic Technology Conferenceから、オンライン・ショッピング・サイトにおける、セマンティック・ソリューションの最新動向を検証する。このレポート作成においては、Best Buy (ベスト・バイ、米国の大手家電量販店) のJay Myers (ジェイ・マイヤーズ) らが行った講演「Semantic Tools for More Profitable Online Commerce」を参考にした。

g168a_goodrelations

Best Buyとセマンティック技術

Best Buyは、Richfield (ミネソタ州) に本社を置き、アメリカを中心に、カナダ、ヨーロッパ、中国で、家電製品を販売する大手企業である。Best Buyは、オンライン・ショッピング・サイトとして、BestBuy.comを運用しており、商品の販売だけでなく、販売店舗利用者に対して、製品情報を提供している。消費者は、オンライン及びオフライン・ショッピングにおいて、検索エンジンを使って商品を検索し、機能や価格の比較を行っている。Best Buy店舗で買い物をする利用者の半数以上が、商品購入前に、ウェブサイトで商品情報を収集し、下調べをしている。

このためBest Buyは、これら消費者に向けて、商品データを提供することに加えて、検索エンジンなどのマシンに対しても、商品データの提供を始めた。マシンに対してデータを提供するために、セマンティック技術を導入し、ウェブページ (上のスクリーンショット、出展はいずれもBest Buy) のように、HTMLマークアップに、store name、address、geo、review dataなどのアトリビュートを付加して、ウェブページが何について記載しているかを表現している。Best Buyが導入しているセマンティック技術実装方式は、RDFaとMicroformatsである。(両者ともHTMLの中でセマンティック情報を定義するマークアップ。RDFaはW3Cが認定した書式で、Microformatsは民間団体が作成した簡易版。現在はMicroformatsが普及している。)オントロジー (言葉の体系や定義) は、GoodRelations (グッド・リレーションズ) を採用している。

g168b_goodrelations

ウェブサイトにセマンティック技術が導入されることで、商品に関する記述 (上のスクリーンショットの上部) を、検索エンジンが理解して、その検索結果 (上のスクリーンショットの下部) に、商品の評価情報 (星印など) を付加して表示する。これは、前回、Google Rich Snippetsで紹介した通りである。Best Buyは、この方式に加えて、セマンティック技術を活用した、新時代のマーケッティングを試行している。

Open Boxという再販システム

アメリカでは、消費者は購買した商品に問題があれば、いつでも返品することができる。小売量販店は、この制度の運用が、大きな負担となっている。Best Buyも例外ではなく、アメリカにおける商品返品率は27%に登っている。一方で、返品された製品を検証すると、製品に問題がない場合が85%に上るという状況である。Best BuyはOpen Boxという名称で、返品された商品で問題がないものを、安く再販する仕組みを展開している。

g168c_goodrelations

上のスクリーンショットは、返品されたSony BRAVIA XBRが、Best BuyのWillow Grove店 (フィラデルフィア州) で、$1749.00で再販されているという、Open Boxの事例である。リストプライスだと$2999.99の製品が、半額近くの値段で再販されている。消費者は、Open Boxのウェブサイトを見て、販売されている商品を確認し、その店舗に足を運んで、商品を購入することになる。この背後では、その店舗のスタッフが、返品された問題のない商品について、Open Boxのウェブサイトで、その商品についてのデータを入力する。入力する項目は、製品番号、値引きした新価格、返品された理由、セールの期間などである。これらのデータを入力して、Saveボタンを押すと、この情報がOpen Boxのウェブサイトに掲示される。このシステムは、ブログ・システムで人気のあるWordPressを使って構築されている。複雑なデータベースの構築は不要で、セマンティック技術とウェブ技術の融合で、店舗ごとに、特売情報を簡単に掲示することができるようになった。

Best Buyの将来構想

Best Buyは、導入したセマンティック技術を使って、商品マーケティングを幅広く展開しようとしている。Best Buyのウェブサイトに掲載している商品は、前述の通り、GoodRelationsというオントロジーを使っている。GoodRelationsは、Eコマースにおいて、製品、価格、会社情報などの「標準ボキャブラリー」である。そのため、Best Buyのウェブサイトは、「方言」ではなく、「標準語」で記述されている。例えば、特定の商品を示すため、Universal Product Code (バーコードなどで使われている製品コード) などが使われ、商品の種類を規定する。

このため、検索エンジンやアプリケーションで、特定製品について、サイト内だけでなく、サイトを跨って、スペックや価格の比較を精密に行うことができる。将来、Best BuyとAmazonで、特定の商品について、厳密な比較が可能となる。会社間で、商品を厳密に比較できるようになると、消費者にとっては朗報であるが、企業にとっては競争が厳しくなる。しかし、大きな流れはこの方向で、AmazonやO’Reilly Media (オンライン書籍販売) などで、セマンティック技術の導入が始まっている。セマンティック技術を実装するものの、まだ、それを利用するアプリケーションが少ないのも事実である。今後は、商品比較だけでなく、商品販売を促進する画期的なアプリケーションの登場が期待され、ここが大きなビジネス・チャンスとなっている。