Archive for October, 2010

イメージ・インテリジェンス (DEMO Fall 10より)

Thursday, October 28th, 2010

IQ Engines (アイキュー・エンジンズ) は、Berkeley (カリフォルニア州) に拠点を置くベンチャー企業で、iPhoneで撮影した写真が、何であるかを教えてくれる技術を開発している。DEMO Fall 2010において、同社のブースにて、ソフトウェア開発責任者であるHuy Nguyen (ヒュイ・ヌエン) が、iPhoneを使ってIQ Enginesのデモをしながら、製品を紹介してくれた。

IQ Engines概要

IQ Enginesを製品化したものは、oMoby (オモビー) というiPhoneアプリケーションとして公開されている。利用者は、iPhoneでoMobyを起動し、写真撮影したイメージを、サーバに送信すると、oMobyは、写真撮影されたイメージが何であるかを答えてくれる。下の画面 (出展:IQ Engines) がその事例で、iPhoneで写真撮影した清涼飲料容器のイメージ (左側) に対して、oMobyはそれがDiet Cokeであると回答 (右側) している。

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更に、Diet Cokeのアイテムをクリックすると、その詳細情報が表示される。併せて、Office Depotにて、Diet Coke Classic四ケースを13.59ドルで販売していると、広告メッセージが表示される。Nguyenは、この仕組みについて、「IQ Enginesは、撮影したイメージを、ライブラリーに格納しているイメージと比較して、それが何であるか認識する。もしイメージが、ライブラリーに無い場合は、クラウドソーシングを利用する。」と、動作概要を解説してくれた。クラウドソーシングとは、撮影されたイメージに対して、人間がマニュアルでその属性を判定する作業である。マニュアルでタギングされたイメージは、ライブラリーに追加され、IQ Enginesは学習を重ね知識を増やしていく。

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Nguyenは、iPhoneを使って、oMobyのデモを実演しながら、その仕組みを解説してくれた。ブースでスタッフが食べていたスナック菓子Doritosのパッケージ (上の写真左側、出展:Frito Lay) を写真撮影して、IQ Enginesに送信した。IQ Enginesは、即座に、「Doritos」であると、検索結果を表示した。この処理は、パッケージに印字されている名前を読み取っているのかと質問すると、Nguyenは、パッケージに書かれている名前を手で覆って写真撮影したが、IQ Enginesは、正解を返してきた。IQ Enginesは、OCR (Optical Character Recognition) ではなく、イメージ検索をしていることが分かった。次に、Nguyenは、その場で名刺の裏に、手書きで顔の絵 (上の写真右側、出展:VentureClef) を描き、それをIQ Enginesに送信した。IQ Enginesは、イメージを認識できず、上述のクラウドソーシングで、「Face Drawing」と回答した。このイメージは、IQ Enginesのライブラリーにはなく、人がマニュアルで判定する作業を経て回答された。

IQ Enginesのビジネスモデル

IQ Enginesは、oMobyというアプリケーションを無償で提供しており、誰でも自由に使え、IQ Enginesの機能をベンチマークできる。また、前述の通り、oMobyは主要ブランドのマーケッティング媒体としても利用されている。この他に、IQ Enginesは、IQ EnginesのAPI (Application Program Interface) を有償で公開している。

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IQ EnginesのAPIを使うには、まず、利用者登録をして、サイトにログインする。次に、検索する写真をIQ Enginesのサーバに送信する。因みに、私が撮影した写真の中から、上のイメージ (サンフランシスコ駅に停車しているCaltrain) を、IQ Enginesのサーバに送信すると、サーバから写真下段のレスポンスが返ってきた。ここに、「”labels”: “Train”」との記述があり、この写真は「列車」であると正しく判定した。企業はこのAPIを使って、様々なアプリケーションを開発することができる。例えば、会社のウェブサイトに掲載されている写真に、このAPIを使って、ラベルをつけることができる。写真に正しくタギングしておけば、検索エンジンがこれらイメージを正しくインデクシングできる。これにより、検索エンジン最適化を行なうことができ、また、Google AdSenseを使って広告を掲載する際には、最適な広告メッセージが配信されることになる。因みに、API使用料金は、100イメージ/日までは無料で、これを超えると7セント/イメージとなる。

トレンド

IQ Enginesは、University of California at DavisとUniversity of California at Berkeleyの、共同研究プロジェクトとしてスタートした。両校の神経科学者とコンピュータ科学者が、共同で、人間が物を見て、イメージを覚え、後日、それを思い出す過程を、コンピュータで再現することを目標に研究を開始した。08年に会社を設立し、National Science Foundation (アメリカ国立科学財団) やNational Institute of Health (アメリカ国立衛生研究所) などから$1Mの基金を得ている。

この分野では多くの企業が研究開発を行なっている。Googleの研究部門であるGoogle Mobile Labsは、スマートフォンで撮影した写真イメージを検索するサービスを提供している。このサービスはGoogle Gogglesと呼ばれ、利用者は、スマートフォンで撮影した写真イメージを、検索エンジンに送信し、検索エンジンは、撮影されたオブジェクトが何であるかを回答する。利用者は、美術館で絵画の写真撮影を行い、Google Gogglesはその絵について解説したり、名所旧跡の写真からその場所についての説明をするサービスである。大変便利な機能であるが、正解率は三割程度と、精度に大きな課題を抱えている。写真を正しく認識する技術はまだまだ未開の領域で、Googleやベンチャー企業で技術開発が続けられている。

ソーシャル・クーポン (DEMO Fall 10より)

Friday, October 8th, 2010

ベンチャー企業が最新技術を実演するDEMO Fall 2010は、先月、カリフォルア州サンタクララのHyatt Regencyで開催された。DEMO主催者がMatt Marshall (マット・マーシャル) になってから、新しいスタイルのアジェンダが定着してきた。ステージ上でのデモによる新技術の紹介に加え、業界著名人とのインタビューで、最新の技術トレンドが議論された。

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Grouponという企業

「One-on-One with Andrew Mason」というセッションでは、Groupon (グルーポン) 創設者のAndrew Mason (アンドリュー・メイソン) が、インタビュー形式で、企業概要や事業成功のポイントなどについて語った。(上の写真左側がAndrew Masonで、右側は司会者のOwen Thomas、出展:DEMO) Grouponとは、いまアメリカで大人気のソーシャル・クーポンである。ソーシャル・クーポンとは、購入者が口コミで購入者を募る、クーポンである。Masonは、この方式を、Collective Buying (集団購入) のクーポンと定義している。Grouponは、会員登録しておけば、毎朝、特定地域の特売情報 (Today’s Deal) が、メールで配信される。下のスクリーンショット (出展はいずれもGroupon, Inc.) はその事例で、Barracudaというレストランの特売情報を、今朝、メールで受信したところである。レストランの30ドルの食事券が、15ドルで購買できるクーポンである。食事券が半額になり大変にお買い得であるが、この特売が成立するためには、2日と13時間以内に30人がこのクーポンを購買することという条件が付いている。このため、このクーポンを購入した人は、この条件を満たすために、FacebookやTwitterを使って友人に、このクーポンの購入を勧誘することになる。このように口コミでクーポンの購入が進むので、ソーシャル・クーポンと呼ばれている。(このケースでは、既に456人が購買しており、このディールは成立済である。)

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クーポンの購買は、Grouponのウェブサイトで行い、クレジットカードで決済する。利用者は、成立したクーポンを印刷して、レストランに持参して、そこで割引を受ける。Grouponが対象とするクーポンは、レストラン以外にも、衣料品、エステ、ヘアーカット、化粧品、嗜好品、市内観光、スポーツなど、多岐に亘っている。会員が登録している地域 (上の事例ではSan Francisco地区) の特売情報を、一日一件、受け取ることができ、それらは値引率が50%以上と、魅力的である。

Grouponのインパクト

Grouponは、08年11月に、シカゴで事業を開始し、いまでは、アメリカ・カナダの109の都市でサービスを展開している。また、Grouponは、ヨーロッパ、ロシア、日本の企業を買収し、それぞれのブランド名で事業を展開している。アメリカでは、昨年末に、大手メディアが一斉にGrouponについて報道し、これを機に人気が急上昇した。私も、NBCの朝の人気番組「Today」を観て、Grouponを知った。Masonによると、Grouponは、今年8月に、大手衣料小売店であるGAP (ギャップ) のクーポン(下のスクリーンショット) を全米で販売した。50ドルの商品を25ドルで購買できるクーポンで、45万枚を販売し、1,100万ドルの売り上げがあったと、説明した。このクーポンのインパクトは大きく、近所の小型店舗ではなく、ナショナル・ブランドが、Grouponを活用して大きな効果をあげたことで、一躍注目を集めた。

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Groupon成功の秘密

Masonとのインタビューを聞いて、Grouponが如何に消費者の心を掴んだかを纏めると、次のようになる。Masonによると、顧客を引き付けているのは、情報技術ではなく、Grouponが作成するクリエイティブとディールの内容であるとしている。Groupon社内では70人のスタッフが、魅力あるクリエイティブを作成している。Grouponのデザインは卓越しており、日々目にするクーポンとは別物で、高級デーパートのカタログを見ているような感覚である。上述のBarracudaは、開店したばかりの日本食レストランである。Mountain Viewダウンタウンにある、普通のレストランであるが、Grouponで紹介されると、華やかな雰囲気を醸し出す。上述のGAPのGrouponは、そのデザインが優れていて、そのイメージを今でも鮮明に覚えている。メールボックスに受信するスパムは、読むことなく消去するが、Grouponについては、毎朝見るのを楽しみにしている。一回限りのディールなので、緊張感も伴う。一方で、Grouponは、特定地域で一日一回だけのクーポンで、スケーラビリティの問題を抱えている。Masonによると、現在、クーポン発行を希望している店舗のバックログが35,000社あるとしている。会場から、Grouponの将来計画についての質問がでたが、Masonはこれに対して、GrouponのPersonalization (個人化) を行なっていると答えた。Personalizationとは、会員の購買履歴、場所、性別などを元に、その会員に最適なディールを配信する方式で、その運用を始めたと説明した。この方式がスケーラビリティ問題を解決するための手段ともなる。

考察

司会者のThomasは、Grouponがシカゴで誕生したことに、ポイントがあると指摘した。シリコンバレーのベンチャー企業は、余りにも、情報技術に偏向して事業を構築するため、Grouponのような手作業に依存するモデルは、誕生しなかったであろうと述べた。ウェブ技術だけでなく、魅力的なクリエイティブや、小売店舗とのディールの作成など、リアルとバーチャルな世界の最適なバランスが、Groupon事業成功の鍵であるといえる。一方で、いま、Grouponに類似したサービスが、雨後の竹の子のように登場している。Grouponが如何に差別化していくかのか、事業は第二ラウンドに差し掛かった。

映画「ソーシャル・ネットワーク」

Friday, October 1st, 2010

今日、Facebook誕生を描いた映画「The Social Network」が封切られた。この映画は、Facebook創設者であるMark Zuckerberg (マーク・ザッカーバーグ) が、会社を設立するまでの、裏切り、苦悩、成功を描いたものである。映画は、双子の兄弟であるWinklevoss (ウインクルボス) から、ソーシャル・ネットワークのアイディアを盗用したとして訴訟され、その供述シーンを中心に展開される。予想外に見ごたえがあり、余韻の残る映画であった。

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映画の概要

The Social Networkは、Ben Mezrich (ベン・メズリック) の著書「The Accidental Billionaires」を元にした映画で、Facebook誕生のドラマを描いている。監督はDavid Fincher (デヴィッド・フィンチャー) で、脚本はAaron Sorkin (アーロン・ソーキン) が手掛けている。Mark ZuckerbergはJesse Eisenberg (ジェシー・アイゼンバーグ、上の写真、出展:Columbia Pictures) が演じ、天才で、邪悪な主人公の性格を、上手く表現している。Sorkinは、ホワイトハウスを描いたテレビ番組「The West Wing」の脚本を手掛けて人気を博し、この映画もすばやい展開で、物語が進行していく。

映画はいきなり、ハーバード大学近くのバーで、Zuckerbergとガールフレンドが、激しく会話しているシーンから始まる。Zuckerbergがふられて、部屋に戻り、パソコンに向かってプログラムを書き、Facemash (フェイスマッシュ) が誕生する。Facemashは、Hot or Not (好きか嫌いか) といわれるもので、女子学生の顔写真を二枚並べ、学生が人気投票をするウェブサイトである。Zackerbergは、大学のコンピュータ・システムに侵入して、女子学生の顔写真を集めた。Facemashは、最初の4時間で22,000件のアクセスがあり、ネットワークがバンクするほどの人気となった。03年10月のことであった。大学は、Zuckerbergをプライバシー盗用などで、六ヶ月間の謹慎処分とした。

Facebookの誕生

Zuckerbergは、その翌年、Facemashを発展させたシステムとして、TheFacebook (ザ・フェイスブック) の開発を行い、04年2月にサイトを公開した。このサイトは大人気となり、サイト公開6日後に、ZuckerbergはWinklevoss兄弟から呼び出され、アイディアを盗用したとして糾弾された。実際、Zuckerbergは、彼らのプロジェクトであるHarvardConnectionという、類似のシステム開発を手助けしていた。後に、Winklevoss兄弟らは、Zuckerbergを提訴し、映画は、弁護士と供述調書作成の場面を中心に展開する。TheFacebookの会員は、ハーバード大学だけに限られていたが、最初の一月で、学生の半数が会員となった。その後、スタンフォード大学やエール大学などに公開し、会員数が急増していく。

Zuckerbergは、04年夏に、会社を設立し、拠点をPalo Alto (カリフォルニア州) に移し、社名をFacebookに変更し、本格的に事業を開始した。Zuckerbergは、Napster創設者である、Sean Parker (ショーン・パーカー) と出会い、起業家としての様々なアドバイスを受けた。その一つが、社名からTheを取ることであった。Justin Timberlake (ジャスティン・ティンバーレイク) が、麻薬中毒のParkerを演じ、シリコンバレーの影の部分をドラマティックに演じている。

Zuckerbergの描写

Zuckerbergが、PayPal創設者であるPeter Thiel (ピーター・ティール) から、50万ドルの投資を受け、会社展開の目処がついたところで、この映画は終わる。Zuckerbergは、一貫して、ものに取り付かれたようで、高圧的で、嫌な人物として描かれている。表情は暗く、ロボットのようで、早口で喋り、女性から一番嫌われる人物として描写されている。その一方で、Zuckerbergは、並外れた才能で、素晴らしいプログラムを書くことのできる、天才としても描かれている。同時に、Zuckerbergは、金儲けではなく、純粋に技術開発に情熱を傾ける、ナードとして描写されている。ハリウッド映画は、英雄と悪者が、白黒はっきりしているが、この映画は、主人公に対する評価は、観客にゆだねられた形となっている。(個人的には、自ら人に嫌われようと努めるZuckerbergに、どこか惹かれるものがあった。)

Facebookの現在の姿

Zuckerbergは、テレビ・トークショーの中で、映画について聞かれ、この映画は観るつもりは無いと答え、更に、映画の中のZuckerbergは、実物よりドラマチックに描かれている、と答えている。実物は、もっと地味で、プログラム開発に明け暮れていたと、説明している。映画の続きとして、現在のFacebookは、Palo Altoの中の、Stanford Research Parkという、スタンフォード大学が運営している、インダストリアル・パークの一角にオフィスを構えている。ここは、スタンフォード大学が、企業にオフィスビルをリースし、新興企業を育成している場所である。Facebookのオフィスビルの前には、下の写真 (出展:ABC) のように、社名と住所の入った案内板があるだけで、ビル入り口には何も案内板はない。オフィスビルは、閑静な住宅街と隣り合っており、Zuckerbergは、このすぐ近くに、家を借りて住んでいる。

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考察

この映画は、事実を忠実に再現したドキュメンタリーではなく、史実が大きく脚色された、ドラマとして描かれている。ソーシャル・ネットワーク技術が如何に誕生し、Facebookがなぜ成功したかについては、この映画は多くを語ってはいない。一方で、Zuckerbergと周辺の人物との人間模様が、ハイピッチで描写されていている。Avatarのようなハイテク映画に傾倒している時に、映画本来の醍醐味を気付かせてくれた映画でもあった。映画を見終えて外に出ると、入り口の大きなホールが、無数の人でごった返していた。大勢の人が床に座って、ランチを食べていて、映画館の外には、長蛇の列ができていた。みんな若い人ばかりで、列に並んでいる人に尋ねてみると、Facebookからバスを連ねて、映画鑑賞に来たとのこと。駐車場には、十数台の大型バスが停まっており、今日は、映画の舞台となった社員が、映画館を占拠した形となった。