11月10日に、サンフランシスコにおいて、オンライン・ビデオの最新技術を議論する、NewTeeVee (ニュー・ティーヴィー) というカンファレンスが開催された。カンファレンスでは、FoxやCNBCなどのメディア企業と、GoogleやTwitterなどのIT企業が、プレゼンテーションやパネル・ディスカッション形式で、最近技術を議論した。
Huluの最新動向
カンファレンスの基調講演では、Hulu (フル) のCEOであるJason Kilar (ジェイソン・カイラー) が、広告技術を中心に、サービス概要や市場動向を紹介した。Huluは、テレビ番組や映画をストリーミングするサービスを展開している企業であるが、YouTubeとは異なるアプローチで、事業として成功を重ねており、その企業戦略が業界で注目されている。YouTubeは、アマチュア・ビデオの共有サービスを中心としているが、Huluはプロが製作したビデオに特化した、ウェブサイトのテレビ局として事業を展開している。
Huluは、テレビ番組や映画を、NBC、Fox、ABCのほかに、PBS、USA Network、Bravoなどの、パートナー企業から供給を受けている。Huluが配信するテレビ番組や映画では、同時に、コマーシャルも放送される。利用者は、テレビを見るときと同様に、無料で番組を見ることができるが、コマーシャルも見ることになる。Huluは、メディア企業と、広告収入をシェアする形式で、事業を運営している。今年6月からは、Hulu Plusという有料サービスが始まった。利用者は、月額7.99ドルの料金で、コンテンツをiPad (上の写真、出展はいずれもHulu)、ゲーム機、テレビで見ることができる。また、コンテンツは、現行の内容を拡充した形式となっている。因みに、Hulu Plusは有償であるが、コマーシャルが表示される。
Huluの広告技術
基調講演で、Kilarは、Huluの業績を支えている広告技術に力点を置いて、最新のサービスを紹介した。
Huluはストリーミング・ビデオ広告を様々な方式で提供している。上のスクリーンショットは、一番標準的な形式 で、Instream Video Adと呼ばれ、番組が始まる前に30秒間、広告ビデオが放送される。他に、Branded Slateと呼ばれる形式では、番組が始まる前に5秒間、商品のスティル・イメージが表示される。これらの方式に加え、Kilarは、視聴者が好みの広告を選択できる方式を紹介した。その中で、Ad Selectorという方式では、下のスクリーンショットの通り、利用者が好みの広告ビデオを選ぶことができる。この事例では、Chevrolet Cruze、Ford Focus、Toyota Corollaの三車種の中から、Chooseボタンを押して、見たい広告を選択できる。
また、下のスクリーンショットは、Branded Entertainment Selectorという方式で、広告表示形式を視聴者が選択できる。この事例はPhiladelphia Cream Cheeseの広告で、視聴者が広告表示形式 (番組の前に長い広告を一回だけ表示するか、番組中に短い広告を複数回表示するか) を選択できる。
この他に、Ad Tailorという方式は、広告主が視聴者に質問を投げかける形式である。例えば、自動車の購入計画について、今後六ヶ月以内に購入計画はあるか、という質問を表示し、視聴者は三択形式で、ボタンを押して回答する。Kilarは、テレビでの広告とは異なり、Huluは視聴者を巻き込んで、視聴者の反応を把握して、視聴者の関心を惹く広告を配信できる点を強調した。
オンライン・ビデオ市場
Kilarは、このように視聴者とのインタラクションを通じて、広告配信の最適化を行なうことで、ケーブルテレビなどでの広告配信と比較して、大きな効果を挙げていると説明した。具体的には、Huluの収入は、08年が2,500万ドル、09年が1億800万ドル、10年の予測は2億4,000万ドルであり、07年に創業してから、急速に業績を伸ばしていることを、質疑応答のセッションで明らかにした。この発言を裏付けるように、comScoreから、オンライン・ビデオへの広告配信数の統計データが発表されているが、Huluは首位を占めている。アメリカにおける10年10月度のビデオ広告配信件数において、Huluの広告配信数が10億件を突破して、他のサイトを大きく引き離している。因みに、YouTubeを運営するGoogleは、オンライン・ビデオ配信件数では、他社を引き離しトップであるが、広告配信件数においては、第十位に甘んじている。
トレンド
カンファレンスでの共通テーマは「Cord Cutting」であった。これは文字通り、コードの切断を意味しており、このコードとはケーブルテレビを筆頭とする、Pay TV (有償テレビ) を指している。今年から、アメリカでは、ケーブルテレビを解約して、ウェブ・ビデオに切り替える家庭が増えてきた。テレビをインターネットに接続して、Huluのようなビデオを配信するサイトにアクセスして、無料でテレビ番組や映画を観る形態である。ケーブルテレビの最大手であるComcastは、今年に入り加入者数が減少していることは認めているが、その理由は不況のためであるとしている。Comcastによると、ケーブルテレビを解約した視聴者は、地デジに乗り換えているのであって、ウェブ・テレビに移っている訳ではないとしている。Cord Cuttingの結論は出ていないが、市場ではYouTubeやHuluへのアクセス数が急増し、Apple TVが売れて、Google TVが発売開始となっている。アメリカの家庭では、明らかに、テレビを観る形態が大きく変わり、ウェブ・テレビが家庭のリビングルームに入ってきた。