Archive for December, 2011

iPhoneで注文するサンドイッチ

Sunday, December 25th, 2011

2011年8月にSan Franciscoでハイテクなサンドイッチ・ショップが開店した。店の名前はThe Melt (ザ・メルト) で、メニューはグリルド・チーズ・サンドイッチだけである。現在はSan Francisco地区で4店舗がオープンしているが、今後五年間で全米500ヵ所に店舗を展開するとしている。

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Meltの概要と仕組み

Meltはウェブサイトでサンドイッチを注文し、クレジットカードで支払いを行ない、店舗に出向いてサンドイッチを受け取る仕組みである。ウェブサイトで注文が完了すると、iPhoneにQRコードが送信される。店舗内で、QRコードをリーダーにかざすと、調理が始まる。ウェブサイトで注文しても、いつも熱々のグリルド・チーズ・サンドイッチが食べられる仕組みである。上のスクリーンショット (出展はいずれもVentureClef) は、iPhoneでサンドイッチを注文している様子である。まずMeltのウェブサイトのメニューの中から、希望のサンドイッチを選ぶ (左側画面) 。メニューはグリルド・サンドイッチだけで、五種類のチーズから好みのものを選ぶ。単価はいずれも$5.75である。支払いはクレジットカードで行い、ウェブサイトで、氏名、カード番号、有効期限などを入力する。クレジットカードで決済が完了すると、ウェブサイトにQRコード (右側画面) が表示される。次に店舗 (下の写真、New Montgomery店) に出向き、iPhoneのブラウザーを開きQRコードを表示し、カウンターに備え付けてあるリーダーで読み取らせる。これで商品の発注が完了し、店舗スタッフはサンドイッチの調理を開始する。

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注文が完了すると、店舗奥に設置されている大型ディスプレーに、名前のイニシャル、商品名、作業状況が表示される。ディスプレーを見て、注文したサンドイッチが焼きあがると、カウンターでサンドイッチが乗ったトレイを受け取る。調理時間は約五分程度で、ちょっと固めのポテトチップスが付いてくる。The MeltはFlipビデオカメラ創業でである、Jonathan Kaplanが創業した企業である。アメリカの代表的なサンドイッチとハイテクを組み合わせたもので、大手ベンチャーキャピタルが後押しをしている。Meltはオンラインとオフラインを上手く組み合わせ、会計処理の合理化と、調理プロセスの最適化を行なっており、次世代のレストランの香りがする店舗である。上述のMeltはSan Francisco Museum of Modern Artの直ぐ近くにある。美術館を訪問した際に、館内の高くて混んでいるカフェでランチをする代わりに、チーズがとろけているMeltのサンドイッチがお勧めである。

カードレス・モバイル決済

Sunday, December 25th, 2011

今年ベンチャー・キャピタルが注目した技術に、モバイル・ペイメントがある。モバイル・ペイメントとは、スマートフォンなど携帯端末で金融処理を行なうことを指す。また今年は、iPhoneやiPadでクレジット・カードの決済を行なうSquare (スクェアー) が、大きくブレークした年でもある。

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Squareの機能概要

Squareはサンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業で、同名のSquareという金融サービスを開発している。Squareは、よく知られているように、iPhoneなどに専用のカードリーダを差し込んで、クレジットカードの決済を行なうアプリである。このサービスは2010年5月から始まり、今年に入り急速に普及が進み、今では一日の処理金額が400万ドルといわれている。Squareは、2011年5月に、RegisterとCard Case (上の画面、出展はいずれもVentureClef) という新サービスを投入した。Registerは店舗向けのサービスで、売り上げの会計処理をiPadで行なう。Card Caseは消費者向けのアプリで、クレジットカードを提示しないで会計ができる仕組みである。両者が対となってカードレス決済機能を提供する。消費者はiPhoneにCard Caseをダウンロードし、氏名、クレジットカード番号、暗証番号、写真などを登録しておく。次に、消費者は行きつけの店のカード (左側画面) を読み込んでおく。そして店舗に出向いて買い物をし、会計をする際に、Card Caseを起動し、登録している店舗カードにタッチする。画面右側は、J.J.’s Yogurtというヨーグルト・ショップで、店舗カードを起動したところである。次にMy Tabボタンにタッチするだけで、カードを提示しないで、会計ができる。

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上の写真はJ.J.’s Yogurtのマスターが、iPadに導入しているRegisterを使って会計している様子である。マスターはSquareを起動して、商品名や金額を入力する。次に、支払い方法の画面に進むと、顧客である宮本の氏名と顔写真が表示され、マスターは名前にタッチするだけで決済が完了する。会計処理が終了し、こちらのiPhoneからSquareサイトにログインすると、トランザクションの詳細を閲覧でき、確かに、$3.75の金額が引き落とされている。Card Caseでの決済では、このようにクレジットカードを出す必要がなく、iPhoneアプリを起動するだけで決済が完了し、スマートに買い物ができる。こちらのCard Caseと店舗のRegisterが交信して処理を行なう仕組みであるが、いとも簡単に処理が完了し、不思議な感じではある。カードをサイフから出すのと、iPhoneのCard Caseを起動するだけの違いであるが、アプリで買い物できる点がクールである。

スマートフォン向け仮想化技術

Friday, December 16th, 2011

仮想化技術がスマートフォンに適用され、安全に業務を遂行できる仕組みが登場している。2011年10月に、VMwareはVerizon Wirelessと共同で、Horizon Mobile (ホライゾン・モバイル) という名称で、Androidスマートフォンの仮想化技術を発表した。

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Horizon Mobileの機能概要

Horizon Mobileは、仮想化技術により、スマートフォン内で二つのAndroid OSを稼動させ、業務・個人スペースを構築するものである。これにより、社員は一台のスマートフォンで、業務を安全に遂行でき、かつ、従来どおり私用でデバイスを使うことができる。Horizon MobileはVerizonから出荷される予定で、ハンドセットはLGが製造している。また、Samsungもこのプロジェクトに参加しており、製品出荷を行なう予定である。上の写真 (出展はいずれもVMware, Inc.) は、Horizon Mobileを操作している様子である。左側画面が利用者のホーム・スクリーンで、ここに個人で使用しているゲームなどのアプリがインストールされている。スクリーン中央右側のWork Phoneアイコンにタッチすると、業務スペースのホーム・スクリーンに移動する。その際には四桁の暗証番号の入力 (右側画面) が求められる。下の写真は業務スペースで操作している様子である。左側画面は業務スペースのホーム・スクリーンで、ここに業務で使うアプリがインストールされている。右側画面はこの中でメール・アプリを開いたところで、企業内のメール・サーバにアクセスして、メールを閲覧している様子である。

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VMwareはスマートフォン管理機能についても提供している。IT管理者は、社員の個人使用のスマートフォンに、業務スペースを構築することで、このシステムを構築する。IT管理者は、業務スペースのイメージ・ファイル (Android OS、設定、アプリなどを含んだファイル) を、社員のスマートフォンに配信して、デバイスをプロビジョニングする。

トレンド

Horizon Mobileはこのように、個人スペース向けのAndroid OSが稼動しているデバイスに、業務スペース向けのAndroid OSをインストールし、スマートフォン上での二つのOSを稼動させる仮想化技術で構成されている。OSを分けることで業務を安全に遂行できる仕組みとなっている。デスクトップ仮想化技術のアイディアをスマートフォンに応用したものである。スマートフォンのプロセッサーが高速化していく中で、仮想化技術が今後の重要なトレンドを形成する。

スマートフォン・スペース分割

Friday, December 16th, 2011

個人のスマートフォンがアメリカ企業内に流れ込み、IT管理者はスマートフォンで安全に業務を遂行できるよう求められている。以前にもレポートしたが、ニューヨークに拠点を置くEnterproid (エンタープロイド) というベンチャー企業は、スマートフォンを分割し、業務・私用スペースを生成する技術で、この要請に応えている。

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Divideというソフトウェア

スマートフォンを分割する技術はDivideというアプリで、Android Marketから提供されている。DivideはAndroidスマートフォンのスペースを分割するアプリで、一台のデバイスを業務と私用で使うことができる。上の写真 (出展:Enterproid) 左側は、Samsung Galaxy Nexusのホーム・スクリーンで、この私用スペースにおいて、利用者はアプリをダウンロードして自由に使うことができる。この画面上部を下方向にスライドすると、業務スペースに遷移する。その際に認証画面で暗証番号を入力し、業務画面(右側) に移る。業務画面では仕事で使うアプリがプレ・インストールされ、この業務スペースで仕事を遂行する。業務スペースにインストールされているアプリは、ブラウザー、メール、住所録、カレンダーなどである。これらはDivide向けの専用アプリで、生成されるデータは、暗号化して格納される。私用スペースにダウンロードしているアプリからは、アクセスできない構造となっている。またIT管理者は、Divide専用ウェブサイトから、社員のスマートフォンの管理・運用を行い、グループごとにポリシーを設定することができる。デバイスを紛失した際には、遠隔操作で画面をロックしたりデータを消去できる。

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トレンド

上述の市場の要請に応え、AT&Tは2011年10月に、Enterproid DivideをAT&T Toggle (タグル) というブランドでサービス (上のスクリーンショット、出展:AT&T) を開始した。利用者はAndroid MarketからToggleをダウンロードして使用し、企業のIT管理者はAT&Tクラウドにアクセスして、デバイスの管理を行う。AT&Tは企業におけるAndroidスマートフォンやタブレットを安全に活用したいという需要に応えてこのサービスを開始したとしている。Enterproidは、今年のDEMO Springでデビューした企業で、2011年10月には、Google Venturesなどから$11Mの投資を受けている。いま大手キャリアは、スマートフォンで安全に業務が行なえる技術を求めている。

Watsonという名前のコンピュータ

Friday, December 9th, 2011

IBMの人工知能マシンであるWatsonについての講義が、Mountain View (カリフォルニア州) にある、Computer History Museum (下の写真、出展:VentureClef) で行なわれた。この博物館は、歴史を刻んだコンピュータを展示しているだけでなく、定期的に講演会を開催している。先月は、「A Computer Called Watson」と題して、IBMの人工知能技術が紹介された。

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IBM Jeopardy Challenge

この講演会は、IBM FellowであるDave Farrucci (デイブ・ファルーチ) とFinancial TimesのRichard Watersとの対談形式で行なわれた。よく知られているように、IBM Watsonは、アメリカの人気クイズ番組Jeopardy (ジオパディー) で、人間のチャンピオンを破り、社会に衝撃を与えた。JeopardyにおけるWatsonの挑戦は、2011年2月14日から三日間、Hawthorn (ニューヨーク州) のIBM研究所で行なわれた。IBMは研究所内に特設のJeopardyスタジオ (下の写真、出展:IBM) を設営し、ここから全米にテレビ中継された。JeopardyでWatsonは、Ken Jennings (Jeopardyの連続優勝記録保持者、写真左側) とBrad Rutter (Jeopardyの最多賞金獲得者、写真右側) に挑んだ。

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Jeopardyはアメリカの国民的クイズ番組で、人気の秘訣は質問の形式にある。質問は疑問文ではなく肯定文で表示され、ウィットに富んだ表現で、質問の意味を理解するために、幅広い知識を必要とする。質問は六つのジャンルに分かれ、歴史、文学、科学、言語、カルチャーなど幅広いトピックスから出題される。質問に正解すると表示金額を獲得し、不正解だと減額される。

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上のパネル (出展:IBM) が質問の例で、「空を飛ぶことのできる少年の名前で、精神的に未熟な人を指す」というふうに出題される。答えはPeter Pan (ピーター・パン) で、問題の意味の解釈が勝負の鍵となる。この対戦では、Watsonが僅差でJenningsを押さえ優勝した。連日テレビで観戦したが、Jeopardyの歴史に残る名勝負であった。

IBM DeepQA

Farrucciは、対談の中で、Watsonのシステム構成などを紹介した。Jeopardyのために開発された技術はDeepQAと呼ばれている。DeepQAとは人工知能の技術で、解析プロセスにおいてApache UIMA (アパッチ・ユイマ) というオープンソースを採用している。UIMAは、大量の非定型データソースから、セマンティック情報を抽出し、情報を定型化するためのフレームワークである。WatsonはPower7プロセッサーを実装し、2880コアで構成されている。このクラスター上で、UIMAは、Hadoop (並列化のためのミドルウェア) により、並列に高速処理される。

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講演会の会場には、Jeopardyのスタジオ (上の写真、出展:Computer History Museum) が用意され、実際にWatsonとの対戦が行なわれた。挑戦者はStacey Higginbotham (中央) と、Robert Walker (右側)で、司会はIBMのEric Brown (左手前) が務めた。WatsonはYorktown Heights (ニューヨーク州) からリモートで試合に参戦した。試合は、最初から最後まで、Watsonの圧倒的な強さで展開した。挑戦者だけでは太刀打ちできないので、途中から会場の聴衆が答えを叫び、手助けした。(Watsonには音声認識機能は無く、Watsonへの問題のインプットはテキストで行なわれる。聴衆からの助け舟は、Watsonには聞こえない。) 会場が大いに盛り上がる中、このクラウド・ソーシングの甲斐も無く、Watsonが圧勝した。

Watsonと人工知能

Farrucci (下の写真の左側、出展:Computer History Museum) は、Jeopardy Challengeプロジェクトの責任者で、Watsonを勝利に導いた立役者である。Farrucciは、講演の中で、IBMのDeepQAを実社会で応用する研究について述べた。IBMは、Nuance (ニュアンス) 社との共同研究を展開中で、IBMのDeepQA技術とNuance社の音声認識技術を使って、医療分野での情報抽出システムを開発している。これにより、病院の医師は、患者への治療法が正しいことを確認するために、DeepQAを利用し、関連する文献、過去の症例、最新の情報などを音声で検索することができる。Farrucciによると、医師が患者の治療で意思決定する際に、DeepQAがその判断を裏付けるデータを探してきて提示することで、医療技術を向上できるとしている。医療分野の他に、法律や金融分野への応用を計画している。

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Farrucciは対話の中で、人工知能の解釈についても触れた。Farrucciの人工知能に関する評価は現実的で、AI Winter (AI技術バブル崩壊、AI開発の失敗を受けAI開発が停止した時期を指す) について、研究者は人工知能に過大な期待を抱きすぎていると批判した。現在の人工知能技術でできることはSingle Taskで、特定分野の問題を解決することである。Watsonもそうであるし、Apple Siriも、限られたタスクを処理するよう設計されている。Watsonを実社会でどう応用するかが、現在の最大のチャレンジだと述べた。Watsonの華やかな勝利の背後には、多額の予算を投入して開発したシステムからのリターンが、厳しく求められている一面が垣間見られた。