Archive for September, 2012

モバイル決済と販促キャンペーン

Friday, September 28th, 2012

スマートフォンを使ったカード決済では、ベンチャー企業からユニークなサービスが登場している。Boston (マサチューセッツ州) に拠点を置くSCVNGR (スカベンジャー) という企業は、LevelUpというモバイル決済技術を開発し、San Francisco地区でもサービスが始まった。

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LevelUpでのカード決済方式

LevelUpはスマートフォンを使ったカード決済サービスである。クレジットカードやデビットカードをQRコードに変換してスマートフォンに登録し、これを専用リーダで読み込んで、カード決済を行なう方式である。上の写真 (出展:SCVNGR) は、iPhone (左側) に表示したQRコードをリーダ (LevelUp Terminal、右側) で読み込んでいる様子である。リーダの読取機構には、LG製のAndroidスマートフォン (右奥の黒い部分) が使われている。消費者は事前にLevelUpアプリをスマートフォンにダウンロードしておく。次に、使用するクレジットカード又はデビットカードを撮影し、カード番号などをLevelUpに登録する。カードは、前述の通り、QRコードとして登録され、アプリ初期画面に、そのQRコードが表示される。下のスクリーンショット (以下出展はいずれもVentureClef) 左側が登録したQRコードで、支払いの際にこの画面をリーダにかざす。(スクリーンショットではQRコード中心部を削除している。) また、LevelUpアプリのPlacesページ (同右側) には、近所でこのサービスを使える店舗が表示される。希望のカラムにタッチすると、店舗の場所や特売情報が表示される。

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LevelUpでサンドイッチを買ってみた

スタンフォード大学の前にある、学生に人気のVillage Cheese Houseというデリで、LevelUpを使ってサンドイッチを買った。注文を済ませ支払いをする際に、iPhoneでLevelUpアプリを起動して、上述のQRコードを表示した。QRコードをレジの横に備え付けてある、LevelUp Terminal (下の写真の緑色の部分) にかざすと、コードが読み取られ決済が完了した。

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LevelUp Terminalは透明で水色をしており、決済処理が完了すると、写真の通り緑色に変わり、処理のプロセスが分かる。カード決済の領収書は、登録しているメールアドレスに送信される。レジのスタッフに話を聞くと、LevelUpで支払いする人は多いとのこと。Village Cheese Houseは学生街のデリ (下の写真) で、LevelUpは学生に人気のサービスであることが窺える。

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ユニークなビジネスモデル

LevelUpの特徴は、カード決済の手数料 (Swipe Fee) が無料であること。店舗側はリーダも無料で使え、カード決済に関しては費用は発生しない。この代わりにLevelUpは、店舗側から消費者向け値引き (Credit) の40%を手数料として徴収する。下のスクリーンショットがCreditを示している。左側はPlacesのページに、Village Cheese Houseの広告が表示されている様子である。この広告には、消費者が買い物すると、初回は2ドル引きとなると記されている。同右側は、買い物をするとポイントが貯まる仕組みで、50ドル買い物をすると、5ドル割り引きとなり、あと42.01ドルで到達できるとグラフで示されている。消費者はポイントを貯めてCreditでの値引きを目指し、店舗側はこのCreditの40%を手数料としてLevelUpに支払う仕組みである。これらはLevelUpが提供する集客プログラムで、前者はAcquisition Campaign (新規顧客獲得キャンペーン) で、後者はLoyalty Campaign (リピート顧客獲得キャンペーン) と呼ばれている。このほかにも、LevelUpは、閑散期に顧客を呼び込むキャンペーンなどを提供している。カードレス・モバイル決済技術自体はコモディティとなりつつあり、市場は決済技術を基盤とした集客サービスに向かいつつあることを、LevelUpは示している。LevelUpは、Deutsche Telekomのベンチャー部門であるT-Ventureから投資を受け、同社の米国キャリアであるT-Mobileがインフラを提供している。また、Googleのベンチャー・キャピタル部門であるGoogle VenturesもLevelUpに出資している。

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トレンド

市場では様々な方式のモバイル決済サービスが登場している。GoogleからはスマートフォンのNFC機能を使ったGoogle Walletがクラウド・ベースのサービスとして展開を開始した。AppleはPassbookという、プリペイド・カードを収納する機能を提供している。ベンチャー企業のSquareは、消費者のスマートフォンと店舗のPOSシステムが交信し、カードレスで支払いができるサービスを展開している。日本市場ではNFC技術を活用したおサイフケータイが定着しているが、アメリカ市場では新技術の登場が相次いでいる。カードレス・モバイル決済市場が大きく動き始めた。

Squareカードレス・モバイル決済

Friday, September 21st, 2012

Squareはスマートフォンでクレジットカードを読み込み、決済するサービスを提供しており、小規模店舗で急速に採用が進んでいる。Squareは、2012年8月、Starbucksと提携することを発表し、大規模店舗での導入が始まろうとしている。StarbucksはPay with Squareというアプリを使って、カードレス・モバイル決済を提供する計画である。これにより、7千のStarbucks店舗で、カードレスで支払いができる。サービス開始は2012年秋からの予定である。

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Pay with Squareでの支払い

Pay with Squareとは、Squareが提供しているスマートフォン向けのアプリである。消費者はPay with SquareというアプリをiPhoneなどにインストールして、カードレスで買い物ができる。Pay with Squareは、小売店舗のPOSシステムと交信し、消費者はカードを出さないで支払いができる。消費者は事前にPay with Squareに、氏名、クレジットカード番号、暗証番号、写真などを登録しておく。店舗において支払いを行なう際は、次ぎの手順となる。これは、John’s Cafeというコーヒーショップにて、Pay with Squareを使って支払いをしている様子である。店内で注文を済ませ、支払いをする際に、Pay with Squareアプリを起動し、この店の店舗カード (上のスクリーンショット左側、出展はいずれもVentureClef) を選択する。この画面中段のOpen Tab to Payという緑色のボタンを右にスライドすると、アプリは店舗に設置されているPOSシステムと交信を始める。Pay with Square画面には、登録している写真と名前が表示 (同右側) され、これを店舗スタッフに見せて決済を受ける。

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店舗のPOSシステムはiPadで構成され、ここではSquare Registerというアプリが起動している。店舗側は、iPad上のSquare Registerアプリで、売上アイテムや金額を入力する。支払い方法の画面に進むと、ここに顧客の氏名と顔写真が表示 (上の写真左側) される。店舗側は顧客のiPhone画面を見て、氏名と顔写真を確認し、iPad画面下部の水色のボタンにタッチすれば決済処理が完了する。店舗側はレシートを発行する代わりに、こちらのiPhoneに売上内容を送信 (同右側) する。Pay with Squareでの決済は、クレジットカードを出す必要がなく、アプリを起動するだけで完了し、スマートに買い物ができる。Pay by Squareは、高度なハードウェア機構を必要とせず、アプリで簡単に買い物ができる仕組みである。Pay by Squareは、Apple Passbookとは異なり、クレジット・カードの決済を行なうサービスで、両社は異なるアプローチを取っている。

Apple版おサイフケータイ

Friday, September 21st, 2012

AppleはiOS6の新機能として、Passbookのサービスを開始した。Passbookとは、プリペイドカードやチケットを収納するおサイフ・アプリである。ここに、プリペイドカード、会員カード、航空券、チケットなどを入れておき、店舗での支払いや飛行機搭乗時に、カードを提示する仕組みである。

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Passbookを使ってみると

上のスクリーンショット (出展:Apple) がPassbookである。左側がPassbookアプリを開いたところで、ここに様々なカードを収納しておく。上から三番目のStarbucksカードにタッチすると、右側のプリペイドカードが表示される。店舗での会計で、このバーコードを読み取り、支払いを行なう。Passbookは位置や時間を把握し、利用者の位置や時間に関連したカードを、ロック・スクリーンに表示する。実際にこのPassbookを、Walgreensというドラッグ・ストアーで使ってみた (下のスクリーンショット、出展:VentureClef)。店舗に到着すると、iPhoneのロック・スクリーンに、Walgreens会員カードのメッセージが表示され、アイコンをスライドして、カードを開くよう記載されている (左側)。この指示に従って、アイコンをスライドすると、Walgreensの会員カードであるBalance Rewardsカードが表示される (右側)。店舗で会計の際に、レジのスタッフに会員カードを提示し、リーダでバーコードを読み取る。これで買い物金額に応じてポイントが貯まることになる。iPhoneには130本程のアプリをインストールしている。店舗での会計の際に、この中から該当するアプリを探し、会員カードを開くのは、手間がかかる作業である。Passbookに会員カードを登録しておくと、ロック・スクリーンからアプリを開くことができ、とても快適である。

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Passbookを使う前に、Passbookに対応しているアプリを事前にダウンロードし、これらのアプリを起動し、Passbookとのリンクを設定しておく。Passbookは現時点では10本程のアプリをサポートしている。Targetというデパートが提供しているアプリでは、PassbookにMobile Couponを格納する。買い物の際にこのクーポンに記載されている特売品を購入すると、クーポンのバーコードを提示することで割引を受けることができる。iPhone 5ではNFC機能は搭載されてなく、いわゆるおサイフケータイ機能には対応していない。Appleは、ハードウェアではなく、Passbookというアプリで、おサイフ機能を提供している。iPhoneでのモバイル決済機能に関心が集まっているが、Passbookがこれに対するAppleの解となる。

縦長画面で軽量なiPhone 5

Thursday, September 13th, 2012

Appleは、予定通り、2012年9月12日、San FranciscoにあるYerba Buena Center for the Artsで、iPhone 5 (下の写真、出展はいずれもApple Inc.) の製品発表イベントを開催した。iPhone 5は従来機種より二倍高速になり、ディスプレイは縦に8.6ミリ伸び、縦長の構成となった。ディスプレイは大きくなったが、重さは20%軽くなり、Appleの技術が結集した製品仕立てとなっている。その一方で、驚くような機能は無く、従来路線を踏襲した製品となった。

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ディスプレイ形状の大型化

イベントではCEOのTim Cookが、Apple製品販売状況を説明し、iPhone 5のイントロを行なった。イベントの様子はApple Events (http://www.apple.com/apple-events/september-2012/) で見ることができる。iPhone 5のハードウェア概要については、Phil Schiller (マーケッティング担当上級副社長) が説明した。iPhone 5のディメンジョンは、厚さが7.6ミリで、iPhone 4Sと比較して18%薄くなった。世界で一番薄いスマートフォンである。重さは112グラムで、同じく20%軽くなった。ディスプレイは4インチで、現行の3.5インチから一回り大きくなった。デバイスの幅 (58.6ミリ) は同じで、長さ(123.8ミリ) は、上述の通り、8.6ミリ長くなっている。これにより、ホーム画面に五列目のアプリ (上の写真中央) を追加することができる。ブラウザーでは表示ページの長さ伸び、読みやすくなっている。iWork (Appleのオフィス・アプリ) では表示面積が増え、仕事で活用しやすくなった。Appleは、この形状にした理由を、iPhoneを片手で持って、親指で快適に入力を行なうためである、と説明している。

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今まで固持してきたディスプレイ・サイズを変更することで、アプリは影響を受けることになる。その対策として、iPhone 5でアプリ表示方法を工夫している。現行アプリはそのままiPhone 5で実行でき、アプリを表示する際は、ディスプレイの中心に位置を合わせ、両端に黒色の背景色を追加する。アプリ開発者は、アプリをそのまま稼動させることができ、その間に、iPhone 5向けに最適化を行なうことができる。上のスクリーンショットはOpenTableアプリの事例である。左側は現行アプリで、上下に黒色の背景色が追加されている。右側はiPhone 5向けに最適化したアプリで、ディスプレイ全面にアプリが表示されている。

プロセッサと無線通信技術

iPhone 5は、最新プロセッサであるA6チップを搭載し、CPUとグラフィック性能がそれぞれ二倍になった。チップ・サイズは22%小さくなり、小さなケースに収まり、消費電力も小さくなっている。実際の性能は、Pagesアプリを起動する速度が2.1倍に、iPhotoアプリでイメージをセーブする速度は1.7倍に、Musicアプリで音楽をロードする速度は1.9倍になっている。A6チップを使うことでグラフィック性能が向上し、高品質なゲームの実行が可能となった。

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iPhone 5は最新の通信方式であるLTEをサポートしている。世界のキャリアが展開しているLTEとCDMAに対応するためには複雑な処理機構を必要とするが、iPhone 5はこれをシングル・チップに実装し、省スペースと低消費電力を実現している。LTEのダウンロード性能は100Mbpsで、家庭のWiFiよりも高速な性能を提供している。

iPhone 5の内部構造は上のグラフィックスの通りである。A6プロセッサーの下は、nano-SIMトレイで、その下がLTE通信を処理するチップと思われる。このチップはQualcomm製といわれており、シングル・チップで、上述の通り、LTEとCDMAに対応している。この背面にはフラッシュ・メモリやWiFi/Bluetoothチップなどが搭載されている。AppleはSamsung製のフラッシュ・メモリを使ってきたが、iPhone 5ではHynix製に変更した。左側はバッテリー・パックとなっている。

コネクター

iPhone 5は新方式のコネクターであるLightning (下の写真) を採用した。従来の30ピン・コネクターは2003年に登場し、iPodで採用された技術で10年間使われてきた。現在のiPhoneでは、無線通信でデータの送受信を行い、30ピン・コネクターの役割は終了した。更に、iPhone 5の形状を薄くするためには、30ピン・コネクターは大きすぎるため、これを80%小型化したLightningを開発した。コネクタの形状が変わることで、AppleはLightningコネクターを30ピン・コネクターへ接続するためのアダプターを提供している。コネクターの変更は利用者へのインパクトが大きく不評である。

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iOS6機能:Maps

iPhoneソフトウェア担当の上級副社長であるScott Faorstallが、iPhone 5で稼動するiOS6について説明した。iOS6の機能については、今年6月にWWDCで発表されており、今回はその復習となった。AppleはGoogle Mapsの使用を中止し、独自のMapsを開発した。Apple Mapsはベクター・グラフィックで拡大・縮小・回転などをスムーズに行なえる。AppleはLocal Searchについても独自技術を開発し、1億件の店舗情報をMapsに統合している。検索結果はInfo Cardで表示され、レストラン概要やYelpレビューがなど掲載される。検索結果の自動車アイコンにタッチするとTurn-by-Turn Directions (下の写真左側) が起動する。

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Turn-by-Turn Directionsでは目的地までの道順をグラフィックスと音声でナビゲーションする。地図は道路の上を飛行しているアングルから表示され、到着地までの距離や時間が表示される。また、MapsではFlyover機能 (上の写真右側) を搭載しており、街の上空を飛行することができる。この事例はSan FranciscoのTransamerica Pyramidの上空を飛行している様子である。ビルの周りを旋回したり、見るアングルを変えることができる。

iOS6機能:Passbook

Passbookとはデジタル商品券で、これらをiPhone 5に格納して利用する。Passbookのホームページには格納しているPassbookの一覧 (上の写真左側) が表示される。Starbucks Cardにタッチするとそのカード (上の写真右側) が表示され、会計の際にバーコードをスキャンして支払いを行なう。Passbookは位置と時間を認識し、該当するPassbookがロックスクリーンに表示される。利用者がサンフランシスコ空港に着くと、ユナイティッド航空の搭乗券がロックスクリーンに表示される。これをオープンして搭乗券のバーコードをゲートでスキャンして、飛行機に搭乗するというプロセスとなる。

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iPhone 5の価格は199ドル(16GB)、299ドル(32GB)、399ドル(64GB)である。iPhone 4S (16GB) は99ドルに値下げされ、iPhone 4(8GB) は無料となった。注文受付は9月14日からで、出荷開始は、米国、カナダ、英国、日本などでは、9月21日からである。その他主要国では9月28日から出荷が始まり、2012年末までには100カ国で販売を行い240のキャリアに対応する。iOS6へのアップグレードは9月19日から開始される。

考察

iPhone 5はディスプレイが大きくなり、性能が二倍になったものの、スリムになり重さは20%軽くなっている。iPhone 5には機能が高密度で実装され、完成度の高い、ハイクラスの製品となっている。一方で、消費者を驚かす機能はなく、従来路線を踏襲した形となっている。iPhone 5はそのメリットを捉えにくい製品であり、このため、iOS6やアプリで如何に便利でユニークな機能が登場するかが普及の鍵となる。アメリカ市場及びその他の市場で、消費者がiPhone 5をどのように評価するのか、興味深いところである。

Amazon Kindle Fire HDはガジェットではなくサービス

Friday, September 7th, 2012

来週のApple新製品発表を前に、スマートフォンやタブレットの発表が相次いでいる。Amazonは、9月6日、Santa Monica (カリフォルニア州) で、Kindle Fire HDの発表を行なった。Kindle Fire HDは高画質タブレットで、高機能を低価格で提供する。この他にディスプレイ機能を向上した電子書籍リーダKindle Paperwhite (下の写真、出展はいずれもAmazon.com) も発表された。発表イベントでは、CEOのJeff Bezosが、製品デモを交えて新製品を紹介した。イベント内容はYouTubeに掲載(http://www.youtube.com/watch?v=VYi1jZXz9Kg)されている。

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バランスの取れたハードウェア

新製品は三つのモデルから構成され、それぞれ、Kindle Fire HD 7″ (7インチ、16/32GB)、Kindle Fire HD 8.9″  (8.9インチ、16/32GB)、Kindle Fire HD 8.9″ 4G (8.9インチ、32/16GB、4G LTE) である。従来の7インチ・モデルに加えて、8.9インチ・モデル (下の写真) が登場した。価格はKindle Fire HD 7″ (16GB) が199ドルに設定されており、旧機種と同じ値段で、機能が向上した新機種を購入できる。発表イベントでBezosが強調した点が、ハードウェア性能のバランスである。タブレットがSDからHDになると、コンテンツ容量が増加し、それに対応できるハードウェア機構が必要となる。コンテンツがHDになるとファイル・サイズは、ゲームは1.4GB (SD比で三倍)、雑誌は110MB (同二倍)、映画は3.0GB (同三倍) となる。このためプロセッサ性能を強化し、TIのOMAP4470 (1.5GHz・デュアルコア、8.9インチ・モデル向け) を採用し、その性能はTegra 3を50%上回る。

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Kindle Fire HDは、無線通信技術が大きく改良されている。Kindle Fire HDは、WiFi周波数帯として、従来の2.4GHzに加え、利用者が少ない5.0GHzに対応している。アンテナは二本搭載し、ソフトウェアが最適なアンテナを選択する。無線通信技術ではMIMO (multiple-input and multiple-output) を採用し、障害物が多い環境で高速通信を可能としている。その結果、Kindle Fire HDの通信性能をiPad 3と比較すると41%高速である。この他に、Kindle Fire HDは、デュアル・ステレオ・スピーカを搭載し、Dolby Digital Plus方式に対応している。これにより、ヘッドフォン無しで、高品質なサウンドを楽しむことができる。

ソフトウェアの機能強化

Kindle Fire HDの基本ソフトは、Ice Cream Sandwich (Android 4.0) をベースに開発されている。利用者はAmazon Appstore for Androidからアプリをダウンロードして利用する。

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Kindle Fire HDは、ユニークなアプリを搭載している。Time Limits (上の写真) は、両親が子供向けに、Kindle Fire HDの使用時間を制限するアプリである。両親は、子供が読書する時は無制限でタブレットを使用できるが、ビデオ閲覧やアプリ使用では、一日30分の時間制限を設けることができる(左側)。子供がTime LimitsのモードでKindle Fire HDを使用している際は、スクリーンの背景色が青色に変わり(右側)、両親は子供が時間制限の元でタブレットを使っているのを確認できる。

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Kindle Fire HDは、HDディスプレイに高速WiFiを使って、HDビデオをストリーミングで配信する。Amazonは映画ビデオにX-Rayという機能を搭載した。上の写真がその様子で、スクリーン左上のX-Rayボタンにタッチすると、プルダウン・メニューが開き、ここに映画の中に登場する俳優の名前が表示される。希望の名前にタッチすると、プロフィールなどを閲覧できる仕組みである。X-RayはAmazon電子書籍で使われている技術で、本の中に登場する人物の解説や登場するページを示す。Amazonはこの技術を映画に応用した。

Amazonのタブレット戦略

Bezosは、イベントの冒頭で、Amazonのタブレット事業について説明した。タブレット市場では、昨年、二十数台のタブレットが登場したが、消費者に受け入れられていない。この理由は、タブレットがガジェットであるためで、消費者はサービスを求めていると説明した。消費者はタブレットを購入するのは、そこで映画を見て本を読むためである。Kindle Fire HDは、ハードウェア製品ではなく、サービスを提供するためのデバイスである。Kindle Fire向けに2200万のコンテンツが低価格で提供され、購買したコンテンツはAmazon Cloudに格納され、利用者はこれらコンテンツを様々なデバイスで楽しむことができる。つまり、Kindle Fire HDはAmazonのコンテンツを販売するための、ツールとして位置づけられている。このため、Amazonはタブレットを低価格で販売しても、コンテンツで利益を上げることができ、事業が成立する。更に、タブレットのロック・スクリーンなどに広告メッセージが表示され、広告モデルを採用したタブレットとしても注目されている。タブレット市場ではiPadが圧倒的なシェアを占めており、Androidタブレットは苦戦している。Kindle Fireはアプリが充分ではなく、iPadとの溝は広い。今回の低価格戦略で、Kindle Fire HDがどこまでタブレット市場でシェアを広げることができるか、注目が集まっている。