Archive for April, 2013

小型人工衛星を操作するベンチャー・ビジネス

Tuesday, April 30th, 2013

【進化するエンタープライズ・モバイル (2)】 先週に引き続き、企業向けモバイルの最新動向を、DEMO Mobileカンファレンスからレポートする。今週は、小型人工衛星を打ち上げ、その制御を一般に公開しているビジネスを考察する。

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センサーを搭載した小型人工衛星

この事業を行っているのは、NanoSatisfi (ナノ・サティスファイ) という、San Francisco (カリフォルニア州) に拠点を置くベンチャー企業で、小型人工衛星を開発し、その制御を個人や企業に開放している。NanoSatisfiが開発している小型人工衛星は、ArduSat (オーデュサット) という名称で、外観は上の写真の通りである。大きさはほぼ10センチ四方で、重さは1.3Kgである。ArduSatは、多数のセンサーを搭載し、地上からこれらを操作して、様々な実験を行うことができる。ArduSatが搭載しているセンサーは、加速度計、ジャイロスコープ、ガイガー・カウンター、放射温度計、カメラなどである。カメラは解像度が1.3Mピクセル、焦点距離が6ミリ、画角が60度で、想定される飛行高度から400km四方の撮影ができる。搭載されたセンサーはPayload Board (下の構成図の青色のボード) で制御される。このボードはArduinoというコントローラで構成され、上述のセンサーやカメラを制御する。Arduinoはオープンソース・ハードウェアで、開発コミュニティで幅広く利用されている。

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個人や企業が宇宙開発に参加

NanoSatisfiはArduSatを制御するアプリ   (Apps In Orbit) を開発している。このアプリはPayload Boardと連携し、ArduSatに搭載したセンサーを操作し、各種実験を行う。一般利用者は、開発されたアプリを使って、ArduSatを操作することができる。また、NanoSatisfiは開発環境を公開しており、利用者が独自のアプリを開発することもできる。宇宙開発に関心のある個人や企業や大学は、NanoSatisfiのサイトでアプリを開発して利用する。利用者は専用サイト (ArduSat Control Center ) で登録を行い、ここでアプリ開発から試験までを行う。アプリ開発が完了すると、この専用サイトから飛行中のArduSatに命令を送信し、センサーやカメラの操作を行う。利用者はArduSatの位置をモニターし、観測データをダウンロードする。ダウンロードしたデータや写真などを解析して、ミッションを遂行する手順となる。

ArduSatプログラムへの日本企業の参加

NanoSatisfiは、ArduSatの利用方法について、様々なアイディアを提案している。その一つが教育で、分光器を使って太陽光を観察したり、衛星から地上の写真撮影を行い、地上の形状を認識するなどの教育プログラムを示している。また、放射線量を測定し、それがどこからやって来るのかを分析するプログラムや、カメラや分光器を使って地上の雲を観測し、個人が天気予報を行うプログラムなど、学校向けの教育プログラムを提案している。

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NanoSatisfiのCEOであるPeter Platzerは、DEMO Mobileカンファレンス (上の写真) でプロトタイプを手にして、ArduSatの機能を説明した。後日、Platzerから、NanoSatisfiの事業計画やロードマップなどを聞いた。Platzerは、ArduSatのプラットフォームはオープンであり、日本企業や技術者の参加を呼びかけた。Platzerは、「日本企業がスポンサーとなり、1万人の学生に、ArduSatを操作する機会を提供できる」と、企業が学校教育に貢献する方式を紹介した。また、「高性能センサーを開発している日本企業が、このプロジェクトに参加して、製品をArduSatに搭載することで、日本の技術力を世界に示すことができる」とも説明した。NanoSatisfiは、ArduSat二機を、2013年8月に、打ち上げる予定である。Platzerは、「ArduSat二機は、日本のロケットであるH-IIBのペイロード (こうのとり4号機) によりISS (国際宇宙ステーション) に運搬される」と、打ち上げ計画を説明した。ArduSatは、「ISSからロボットアームにより、軌道上に放出される」手順となる。その後は、こうのとり5号機、更に、アメリカの民間ロケットであるSpaceXによりISSに輸送される計画である。

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オープンな宇宙開発

ArduSatはCubeSat (キューブサット) という規格の小型人工衛星である。CubeSatは、10センチ四方の形状で、重量が1.33Kg未満のものを1U規格と定義している。これを連ねた2U及び3U規格がある。この規格は、スタンフォード大学等が制定し、各国の大学が宇宙開発に参加できることを目指している。日本の大学も参加しており、2012年10月に、ISSからCubeSat五機が放出 (上の写真) されている。アメリカでは、SpaceXのように、民間企業が宇宙開発ビジネスに参入して、成果を上げている。ベンチャー企業も宇宙を目指しており、NanoSatisfiは、小型人工衛星をプラットフォームとする事業を模索している。ArduSatは、上述の通り、オープンソースの制御装置から構成され、開発基盤を公開している。Androidスマートフォンで、斬新なアプリが登場しているように、ArduSatという人工衛星プラットフォームで、キラー・アプリが登場するのか、宇宙開発も我々の手の届くところまで降下してきた。

新感覚のテレビ会議、iPhoneでパノラマ画面を操作

Wednesday, April 24th, 2013

【進化するエンタープライズ・モバイル (1)】

モバイル技術の進化が加速している。今回からシリーズで、「進化するエンタープライズ・モバイル」と題して、ベンチャー企業で開発が進んでいる、企業向けモバイル最新技術を、DEMO Mobileカンファレンスからレポートする。

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テレビ会議がパノラマに進化

最初は、Cupertino (カリフォルニア州) に拠点を置く、Altia Systems (アルティア・システムズ) というベンチャー企業をレポートする。Altia Systemsは、PanaCast (パナキャスト) という名称で、パノラマ映像によるテレビ会議システムを開発している。上の写真は、PanaCast Cameraという、パノラマ映像を撮影するカメラである。円盤状のデバイスに6台のカメラが埋め込まれ、200度のHDパノラマ写真を撮影する。カメラはスタンドに固定され、撮影したイメージをPanaCastクラウド経由で、会議参加者のiPhoneやiPadに送信する。

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Altia Systems CEOのAurangzeb Khanが、PanaCastによるテレビ会議で、製品概要を説明した。事前に、iPhoneに、PanaCastという専用アプリをダウンロードしておく。会議前に、Khanからテキスト・メッセージでURLを受信し、リンクにタッチすると、iPhoneでPanaCastアプリが起動し、テレビ会議に入った。上のスクリーンショットがテレビ会議を行っている様子で、画面は鮮明で、音声はiPhoneのスピーカーから出力された。

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画面をピンチするとイメージがズームアウトされ、会議室全体が表示された (上のスクリーンショット、iPhone画面の上部)。画面は6台のカメラで撮影したイメージから構成されている。見たい場所をダブル・タップすると、その画面にズームインする。画面を左右にスライドすると会議室の中を移動できる。

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上のスクリーンショットは、KhanがPanaCast Cameraを紹介している様子で、画面をスナップしてデバイス部分を拡大したところである。画面操作は快適で、左右へのスライドや、縮小・拡大操作は滑らかに行えた。上述の通り、画像は6台のカメラ・イメージを繋ぎ合わせているが、その境目は認識できなく、一枚の写真のように見えた。会議中に部屋の中を移動し、見たい場所をズームアップでき、新鮮な驚きを感じた。Skypeのように特定画面に縛られるのではなく、画面を操作して、発言者や出席者やホワイトボードなど、見たい場所に移動できるのは、自由を手に入れた心持であった。

テレビ会議からセキュリティ・カメラまで

PanaCastでテレビ会議を行う前に、簡単な手順でセットアップを行う。まず、PanaCast Cameraに電源とイーサネット・ケーブルを接続する。カメラで撮影したイメージは、イーサネット経由で送信される。次にiPhone又はiPadで、デバイス上部に印刷されているURLをブラウザーに入力し、アプリをダウンロードする。これでセットアップが完了。ビデオ会議を始める時は、アプリのStart a Meetingボタンを押して、カメラ上部のQRコードを読み込む。参加者にはテキスト・メッセージなどで、URLを送信する手順となる。下の写真はPanaCast Camera背面の様子で、一番手間にに電源とイーサネット・ポートがある。右上はUSBポートで、ファームウェアのアップデートなどで使われる。

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PanaCastはセットアップが簡単で、手軽にパノラマ・ビデオ会議ができるのが特徴である。企業の会議室に、高価なテレビ会議システムを設置する代わりに、必要に応じて、PanaCastを持ち込み、テレビ会議を行うことが可能となる。会議参加者は、社内ではWiFiで、社外ではLTEなど携帯電話通信網を利用する。LTE網が整備されている日本市場では威力を発揮すると思われる。PanaCastはテレビ会議以外にも、様々な使い方が検討されている。Khanは、「PanaCastは遠隔教育やライブ・イベントのストリーミングで使われている」と説明した。更に、PanaCastをセキュリティ・カメラとして利用することも検討されている。Khanは、「PanaCastを固定カメラ及び車載カメラとして、セキュリティ分野での利用を検討している」と説明した。PanaCast本体値段は599ドルで、月額19.99ドルのサブスクリプションが必要となる。

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企業の会議方式が変わるか

PanaCastは、Kickstarter (キックスターター) で開発資金を募り、目標金額を大幅に上回る資金を調達した。Kickstarterとは、一般消費者から投資を募る、クラウド・ファンディングのサイトであり、クリエータや開発者は、Kickstarterで映画・音楽制作、IT開発など、様々なプロジェクトの資金を募る。一般消費者は、プロジェクト・サポートのため、また、リターンを得るために投資を行う。PanaCastはベンチャー・キャピタルから投資を受けているが、Kickstarterで開発資金を募ることで、コミュニティとの繋がりができたとしている。スマートフォンやタブレットを企業で活用する、エンタープライズ・モバイルの技術進化が目覚ましい。PanaCastの技術は派手ではないが、今すぐに使える実用的な技術である。企業における会議の方式が大きく変わることを予感させ、PanaCastはモバイル・ワークスタイルの次の形を提案している。

スマートフォンで音楽をミキシング

Thursday, April 18th, 2013

昨年出会ったベンチャー企業が、大きく成長を遂げた。PlayMyToneはTel Aviv (イスラエル) に拠点を置くベンチャー企業で、スマートフォンで音楽をミキシングするアプリを開発している。同社CEOのOhad Shefferは、あれから一年後、機能改良された最新版アプリを紹介してくれた。

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オリジナル・ミュージックを創るアプリ

このアプリはMixRave (ミックス・レイブ) という名称で、スマートフォンで音楽フレーズに、特殊効果音やメッセージを挿入し、簡単にオリジナル音楽を作成できる。上のスクリーンショット (出展はいずれもVentureClef) は、MixRaveで作成したオリジナル音楽である。音楽から抽出したフレーズ(上段水色のバー) の下に、トランペットの音や、犬が吠えている音などが挿入されている。これを再生すると、音楽の上に特殊音が重なり、映画の一場面のような雰囲気を醸し出す。ミキシングを作成するには、最初、カタログ・ページで、基盤となる音楽を選定する。

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MixRaveはクラウド上の人気音楽を掲示し、利用者は好みの音楽を選ぶことができる。上のスクリーンショットは、イスラエルの人気ロック・グループであるEatlizのFireを選択した様子である。音楽は、イントロ、コーラス、ミッドに分けて表示され、希望のセクションを選択する。次に、選んだフレーズに対して、特殊効果音を付加する。下のスクリーンショットがその様子で、Fireのミッドの部分が、最上部 (Track 1、水色の部分) に表示されている。その下のTrack 2と3に対して、特殊効果音を追加していく。特殊効果音は最下部に表示され、ピアノや鳥のさえずりなどのアイコンで示され、これらを指でドラッグして挿入する。マイクのアイコンにタッチすると、音声を入力できる。ミキシングが完了すると、最上部のスクリーンショットが完成する。

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完成したミキシングをFacebookに公開して、友人と共有することができる。これをベースに、他の利用者が、Facebook上で再度ミキシングを行なうこともできる。完成したミキシングをアプリに保存すると、Feedの中に登録され、MixRave会員と共有できる。更に、スマートフォンの着メロに登録する機能があり、電話着信時にオリジナル音楽が流れることになる。Creative Commonsを創設したLawrence Lessig教授は、インターネットはミキシングの時代であるとしているが、このアプリがそれを代表している。こんな堅い話は別として、MixRaveはオリジナル音楽を簡単に作れる便利なアプリである。中でも、着メロ機能が気に入っており、上述のEatliz・Fireのアレンジを着メロとして使っている。

利用者の感情を表現できるボタン

Thursday, April 18th, 2013

利用者の感情を表現できる機能の登場が相次いでいる。B-Sm@rk (ビー・スマーク) は、Dublin (アイルランド) に拠点を置くベンチャー企業で、利用者がウェブサイトに掲載されている記事や写真に対して、自分が抱いている感情を表現するボタンを提供している 。

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感情表現のパレットとセマンティック技術

このツールはMySmark (マイ・スマーク) という名称で、ブラウザーのプラグインとして実装される。上のスクリーンショット (出展はいずれもVentureClef) がその事例で、USA Todayの記事を読み、読者が記事に対して、どんな感情を抱いているのかを表現できる。ポップアップ画面にRose of Emotions (感情の薔薇) と呼ばれるパレットが表示され、33の感情が示される。利用者は記事を読んだ時に抱いた感情を、花弁をクリックして選択する。上の事例では、Joy (楽しみ) という感情を選択したところで、この情報が利用者のMySmarkページに登録される。また、TwitterやFacebookにも掲載することができ、記事と記事に対する感情を友人と共有できる。記事全体だけでなく、特定の写真や文章についてもこの操作を行える。MySmarkは、収集した情報から利用者の嗜好を抽出し、ブランド向けのプロモーションで利用するとしている。Facebookでは、Likeボタンという二次元の情報を処理するが、MySmarkは33次元の情報を処理し、利用者の嗜好を高度に解析することができる。感情を表現する言語としてはEmotion Markup Language (EML) がある。EMLは、W3CのEmotion Incubator Groupにより定義された言語で、感情という情報を処理することができる。EMLにより、利用者の意見や感情を集約し、コンピュータで処理することが可能となる。一方、EMLは、市場で普及が進まないのも事実である。B-Sm@rk CEOのNicola Farronatoによると、「EMLは重要な言語であるが、仕様が複雑で実装が難しいため、MySmarkでは自社開発した技術を実装している」と説明した。MySmarkは独自技術で、感情というタグを機械で処理し、そこから有益な情報を抽出している。

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Facebookは、今月から、コメントを投稿する際に、今の感情をタグできる機能 (上のスクリーンショット) の提供を始めた。アイコンを選択して、コメントと共に、いま楽しいのか、悲しいのか、感情を表現できるようになった。絵文字でコメントに付随する感情を補完する方式で、Facebookの中で使われ始めた。GoogleはGmailで絵文字をサポートしており、日本で生まれた絵文字文化が、アメリカで受け入れられている。利用者は自分の感情表現の手段を求めており、ベンチャー企業であるB-Sm@rkは、いち早くMySmarkでこの要請に応え、大手企業がこれに追随している格好となっている。