Archive for September, 2013

監視カメラやWiFiアクセスポイントからプライバシーを守る技術

Wednesday, September 25th, 2013

アマゾン化する小売店舗(3)

小売店舗がデジタル化を進め、監視カメラから顧客の性別や年齢を読み取り、WiFiアクセスポイントからスマートフォンの個人情報を抜き取る。デジタル世代に生活している我々は、如何に個人情報を守るべきか。このレポートでは、プライバシー保護のためのユニークな技術を、それらが内包しているメッセージと共に考察する。

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顔認識を無効にするメイクアップ

ahprojects.comはBrooklyn (ニューヨーク州) に拠点を置く企業で、ビジネスや技術課題に、ユニークな視点から取り組み、組織代表のAdam Harveyは、プライバシー保護のアイディアを提案している。街中や店舗内には監視カメラが設置され、消費者の顔認識 (Face Detection) が行われている。Face Detectionとは、監視カメラで捉えた映像をソフトウェアで解析し、イメージに顔が存在するか判定する技法である。CV Dazzleというプロジェクトでは、メイクアップやヘアースタイルで、Face Detectionを回避する研究が行われた。メイクアップやヘアースタイルで、Face Detectionのロジックを無効にできるのかが試された。上の写真 (出典はいずれもahprojects.com) がその結果で、上段の女性のメイクは、Face Detectionで顔として認識されなかった。

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顔の特性を反転すると顔と判断されない

この研究ではOpenCVというオープンソースのFace Detectionソフトウェアが使われた。OpenCVはイメージ全体を部分ごとに処理し、そこに顔があるかどうかを判定する。上の写真がそのプロセスを示し、赤い箱は顔があると判定した部分で、顔が無いと判定された場所は緑の箱で示される。箱内では、更に細かい領域 (白黒の枠) で解析を行う。白黒の枠内で解析した結果をそれぞれ比較し、ここに顔の特性があるかどうかを判定する。

その結果、派手なメイクは顔の形状が強調され、Face Detectionで検知されやすくなることが分かった。Face Detectionで検知されないためには、顔の特性を「逆転」することが有効であると結論付けた。Face Detectionは、頬の部分は明るいと認識するが、それを逆転し、暗くメイクすると顔と認識されない。先頭の写真上段がこの例で、頬を黒くし、左右非対称にしている。また、目の部分は窪んで暗いが、ここを明るくすると、顔と認識されないことも分かった。

このプロジェクトの目的は学術研究の他に、プライバシー侵害に対するウイットに富んだ抗議でもある。野球選手のアイ・ブラックを思わせるメイクをしてプライバシーを守るという意味合いより、行き過ぎた技術に警鐘を鳴らしているように思われる。

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スマホから個人情報を抜かれない技

先にレポートした通り、小売店舗はWiFiアクセス・ポイントから、消費者のスマートフォンのMACアドレスを読み取り、販売促進に利用している。OFF Pocket (上の写真) はこの防衛策で、スマートフォンを電波から遮断し、デバイスへのアクセスを防ぐ技術である。OFF Pocketは小物入れの形状で、スマートフォンをポーチに入れて持ち歩く。OFF Pocketは今月から販売が開始された。第一世代のOFF Pocket (下の写真) はズボンの後ろポケットに装着され、ここにスマートフォンを入れて持ち歩いた。左側のポケットに入れればオフになり、右側だとオンの状態である。ズボンを加工する必要があるため、現在はポーチ形となった。

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Airplane Modeでも電波は出ている

OFF Pocketはメタル製布地を重ねて縫い合わせ、簡易ファラデーケージを構成している。OFF Pocketは携帯電話とWiFiの周波数帯である800MHzから2.4GHzのシグナルを遮蔽する。スマートフォンでAirplane Modeにしても、通信が遮断されるわけではない。Airplane Modeは、ソフトウェアの機能で外部との通信を停止するが、ハードウェアの動きを完全に抑制しているとの保証はない。スマートフォンの電源をオフにしても、また、バッテリーを取り外しても、機種により一部の回路が稼働しているものもある。NSAの元職員Edward Snowdenが香港で弁護士と会談した際には、全員のスマートフォンを冷蔵庫に入れて、通信を遮断したと報道されている。冷蔵庫の遮蔽効果は40 デシベル程度で、OFF Pocketは100デシベルで、格段に効果があるとしている。

消費者は小売店舗で買い物をする時、スマートフォンをOFF Pocketに入れ、自分のプライバシーを守ることができる。このプロジェクトも実用性を追求するより、シンボリックな意味合いが大きく、プライバシー保護の配慮を主張している。

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無人偵察機から身を守る

アメリカでは警察などで無人偵察機 (Drone) の配備が進んでいる。Droneはイラクやアフガニスタンでその効果が実証され、地上の人物を追尾する際に、赤外線カメラを利用する。Stealth Wearというプロジェクトでは、Droneの監視網から身を守る技術が開発された。Stealth Wearは特殊なマント (上の写真) やTシャツで、赤外線監視から利用者をシールドする。Stealth Wearは、メタル製布地で縫製され、熱を反射し、赤外線カメラに反応しない構造となっている。上の写真右側の映像は、Stealth Wearを着た人物の赤外線写真である。Stealth Wearを羽織っている部分は写っていないのが分かる。

上述の一連のプロジェクトは、テクノロジーというよりはアートに近く、消費者が日常生活で使うというよりは、美術館に展示するほうが相応しい。これらの作品は、デジタル世代の社会の歪みを、静かに表現している。

ウェアラブル・スマートキー~心臓の鼓動で認証、手を振ってドアをアンロック

Monday, September 16th, 2013

Samsungを筆頭に各社からスマートウォッチが出荷され、市場は急速にウェアラブルに向っている。しかし、スマートウィッチは消費者の心を開くコードを見出せなく、市場から厳しい評価を受けている。この市場では、ベンチャー企業から斬新なウェアラブルが登場している。Toronto (カナダ) に拠点を置くBionymは、リストバンド型のスマートキー「Nymi」を公開した (下の写真、出展はいずれもBionym)。Nymiは利用者の心臓の鼓動で本人確認を行い、パソコンの前に座るだけで、システムにログインでき、オンライン・ショッピングの決済が完了する。

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ECGシグナルで本人を特定

Nymiはリストバンドにセンサーを実装した形状のスマートキーで、これを時計のように手首に着装して利用する。Nymiのセンサーが利用者のECG (Electrocardiography、心電図) を読み取り、本人であることを確認する。利用者は、Nymiを着装する時に、反対側の指でNymi表面の金属プレート (上の写真の楕円形の部分) にタッチする。Nymi底部にもセンサーがあり、腕に接触し、回路が形成され、ECGを計測する。このECGをバイオ・シグナルとし、本人を特定する。病院で使われるECGは手や足や胸など複数個所に電極を張り付けるが、Nymiは二点で測定できる点に特徴がある。

手を振って自動車のトランクを開ける

利用者はNymiを腕につけ、スマート・デバイスを操作する。自動車では、トランクの前で腕を上げるしぐさをすると (下の写真)、トランクが開く。これはNymiに搭載されているモーション・センサーが腕の動きを感知し、トランクを開ける指示を自動車に発信し、この命令が実行される。同様に、自動車に乗る際は、ドアのそばで手でドアを開けるしぐさをすると、ドアがアンロックされる。Nymiと自動車はBluetooth Low Energyで交信する。

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パソコンやタブレットに対しNymiがパスワードとなる。パソコンを起動する際に、パソコンの前に座るだけで、システムにログインできる。タブレットを起動したときは、Nymiが自動で四桁のPINを入力する。ウェブサイトでオンライン・ショッピングする際は、Nymiが認証処理を行う。小売店舗で買い物をした際には、レジでクレジットカード・リーダーにNymiをかざすだけで支払いが完了する(下の写真)。

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Nymiでテレビを操作する

自宅に帰りドアの前に立つと、ドアが自動でアンロックされる。これはNymiのProximityセンサーを使っており、設定されたレンジに入るとドアがNymiと交信し命令を実行する。部屋に入ると、Nymiはスマート・アプライアンスと交信し、空調のスイッチを入れ、テレビの電源を入れる。サーモスタットは、利用者の好みを理解しており、最適な温度に設定される。テレビは、利用者が見ていたNetflixにチャンネルを合わせ、見終えたところを表示する。テレビは、ここから再生するかと質問し、利用者は、腕をまわしてYes/Noを答える (下の写真)。Nymiを腕から外すとこれら機能は停止される。

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Nymiは「認証」と「通知」を行うデバイス

パソコンやスマートフォンを利用するときは、パスワードを入力して本人確認を行う。iPhoneでは四桁のPINを入力するか、iPhone 5sでは、指をホームボタンにあて、指紋認証を行う。Nymiは、スマートフォンを持つだけで、「認証」が完了する。Nymiがスマートフォンと交信し、PINを自動で入力する。Nymiは、スマート・アプライアンスで威力を発揮する。Nymiはデバイスの使用を許可されるだけでなく、デバイスは利用者を特定でき、本人の嗜好に沿った設定を行える。上述の空調やNetflixがこの事例である。Nymiのもう一つの機能は「通知」で、スマートフォンにメッセージを受信すると、Nymiが振動しその旨を伝える。また、Nymiがスマート・デバイスと交信する際も、利用者に振動や表面のLEDライトで知らせる。

ECGで正しく認証できるのか

Nymiは、前述の通り、利用者のECGを利用して本人の特定を行う。指紋や光彩は、本人を特定できるバイオメトリックスとして実績があるが、そもそもECGで本人を特定できるのか。Bionymによると、NymiはECG Biometric Verificationという方式で、心臓の活動を電気的にモニターし、その波形を認証に使用している。ECGで計測されたデータは個人に特有のシグナルであることが学術的に検証されてきたとしている。それでは、ジョギングした後にNymiを着装すると、上手く認証ができるのかという疑問も浮かぶ。Bionymは、NymiはECGの波形をバイオ・シグナルとして使っており、心拍数が上がっても、波形は本人固有のシグナチャーを含んでおり、本人認証に利用できるとしている。一方で、上手く認証できない際は、休憩してから再度行うことを推奨している。

ECGデータを利用することへの不安

Nymiの最大の懸念材料はプライバシーである。iPhone 5sの指紋認証機能が、バイオメトリックスに内在するプライバシー問題を喚起し、波紋が広がっている。生体情報が取得され、解析されることに対しては、消費者は根強い抵抗感を持っている。これに対しては、Bionymは、Nymiで計測したECG情報は、デバイス内のSecure Elementに格納され、外部のサーバにデータが送信されることは無いとしている。また、Nymiを紛失しても、第三者がNymiにログインすることはできないとしている。拾ったNymiを付けて自動車に手を振っても、家の玄関に立っても、ドアは空かないことになる。Nymiは便利な機能を備えている分だけ、セキュリティのリスクも大きくなる。個人のプライバシーを保護する機能が、Nymiが市場で受け入れられるための最大の要件となる。

スマートウォッチは高機能センサーに向かう

市場では各社からスマートウォッチが提供されているが、消費者の心を捉え切れていない。Nymiは、リストバンド形式で、ディスプレイはない。ここにプロセッサーが入っているとは思えない形状をしている。このアプローチは、JawboneのUPと同じで、さりげないリストバンドで、背景に溶け込むことを目指している。それでも、利用者は、一日中、Nymiを腕に巻いておく必要があり、ある程度の負担を消費者に強いることとなる。

Nymiを使うには、スマート・デバイス側にその機構を実装する必要がある。Bionymは、Nymiの開発環境やAPIを公表し、開発者向けの専用サイトを設けるとしている。Nymiの普及は、如何に多くのスマート・デバイスに対応できるかにかかっている。上述の応用事例はNymiのコンセプトで、実際に技術が実装されている訳ではない。Nymiは、プレオーダを受け付けており、価格は79ドルで、2014年初頭から販売が開始される。

Nymiは、スマートウォッチは、スマートフォン機能をオフロードするのではなく、高機能センサーそのものである、というメッセージを発信している。スマートウォッチの進行方向が少し見えてきた。

iPhoneは高機能センサーに向かう~イノベーションより着実な進化

Tuesday, September 10th, 2013

Appleは、2013910日、本社キャンパスにおいて、iPhone新モデルの発表を行った。新製品は事前に報道されていた通り、普及版である「iPhone 5c(下の写真右側、出展はいずれもApple) と後継機種である「iPhone 5s(同左側) の二機種。iPhone新モデルは驚くべき技術は無いが、ハードウェア機構が改良され、着実な進化を遂げている。

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発表ハイライト

iPhone 5sでは、A7プロセッサーとM7モーション・プロセッサで、性能が大幅に向上。また、カメラ機能が強化され、指紋認証機構も搭載された。価格は199ドルから。iPhone 5cは、プラスチック・シャシに実装され、五色のバリエーションで、カラフルになった。価格は99ドルから。両モデルの出荷は、9月20日から開始される。NTT DoCoMoがiPhoneの販売を開始することが発表されたが、China Mobileについては、触れられていない。

iPhone 5s: プロセッサー

iPhone 5sはブラック、ゴールド、シルバーの三色で構成される。プロセッサーにはA7チップとM7チップが搭載されている。A7チップは64ビット・プロセッサーで、CPUとグラフィック性能が二倍になった。スマートフォンで64ビット・プロセッサーを搭載するのは、iPhoneが初となる。M7チップはモーション・プロセッサーで、加速度計、ジャイロ、コンパスを実装している。M7チップで利用者の動きを計測し、利用者が歩いているのか、走っているのか、自動車で移動しているかを把握する。アプリは、この機構を利用して、エクササイズの解析などを行う。アプリは、A7チップを経由しないで、直接、M7チップにアクセスするため、省電力構造となる。基本ソフトはiOS7

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iPhone 5s: カメラ機能

iPhone 5sは新型のiSightカメラを搭載。センサーが15%広くなり、ピクセル・サイズが1.5ミクロンと大型になり、ƒ/2.2のF値。Burst Mode (上の写真左側) では1秒間に10枚の写真を撮影し、ベストな写真が選ばれる。フラッシュは白色とアンバーのLED二機が搭載され、ソフトウェアが最適な組み合わせを算出し発光する (上の写真右側)。Auto Image Stabilizationは手ぶれを補正する機能で、Slow-motion Videoは、一秒間に120フレームのHDビデオを撮影。

iPhone 5s: 指紋認証

iPhone 5sは指紋センサーをホームボタンに搭載している。利用者は、指をホームボタンにあて、センサーで指紋を読み取り、本人認証を行う。iPhoneにアクセスするときだけでなく、iTunes Storeの認証でも使われる。購買時にパスワードを入力する代わりに、指紋認証を行う。センサーは360度のアングルで指紋を読み取り、利用者は任意の方向から指をあてることができる。指紋はデバイスの中に暗号化して格納され、クラウド上に転送されることは無い。また、家族のメンバーなど、複数人の指紋を登録することができる。

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iPhone 5c: カラフルなデザイン

iPhone 5cはエントリー・モデルで、プラスチック・シャシに搭載され、五色 (白、ピンク、黄、緑、青) から構成される。また、iPhoneケースも登場し、これら五色に、黒が加わり、六色で提供される。プロセッサーはA6チップで、4インチのRetinaディスプレイ、8メガ・ピクセルのiSightカメラを搭載。基本ソフトはiOS7。

価格と出荷時期

iPhone 5sの価格は199ドル(16GB)、299ドル(32GB)、399ドル(64GB)で、出荷は9月20日から。iPhone 5cの価格は、100ドル安く、99ドル(16GB)と199ドル(32GB)で、予約開始が9月13日からで、出荷は9月20日から。

中国市場を重視する政策

今回の発表ではNTT DoCoMoがiPhoneを発売することが明らかにされた。一方で、China MobileがiPhoneを扱うかどうかの発表は無かった。報道によると、イベントの後で、Apple ChinaがChina Mobileについて発表するとの観測もある。更に、Appleは、中国向け製品出荷時期について、アメリカや日本などと同様に、9月20日とした。普及版iPhone 5cの投入や、iPhone 5sゴールド・モデルは中国市場を意識したもであるといわれ、今回の発表は、Appleが中国市場に力を入れていることを示している。

iPhoneは高機能センサーに向かう

iPhone 5s新機能は、事前に報道された範囲に収まり、サプライズは無く、あくまで、ハードウェア・コンポーネントの機能強化に留まった。カメラや指紋スキャナーなど、センサー機器が改良、又は、追加された。iPhoneはデバイスに高機能センサーを搭載する方向に向かうことを示唆している。

iPhone 5cも予想された範囲内での機能やデザインに収まった。一方で、価格が予想外に高く、エントリー・モデルであるが、値段が安いわけではない。アンロック・モデルで549ドル(16GB)と強気な値付けである。iPhone 5cで販売台数を目指すより、売上金額を重視する政策であることが窺える。

iPhoneのイノベーションが停滞し、今回の発表ではTim Cookの手腕に期待が寄せられていた。iPhoneは、利用者を驚かせる機能ではなく、着実に機能強化を行う路線を進む道を選択したとのメッセージも読み取れる。今後は、様々なセンサーを搭載し、多機能端末として、機能の幅を広げる方向に進むのか。Cook率いるAppleは何とか及第点に達したと評価できる。

カメラで店舗内顧客を追尾・解析~バーの込み具合と性別比率も

Friday, September 6th, 2013

アマゾン化する小売店舗(2)

小売店舗がAmazon.comの手法を参考に、急速にデジタル化している。RetailNextというベンチャー企業は、店舗に設置されている監視カメラの映像を解析し、顧客の線動を把握し、売上向上のためのソリューションを提供している。

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監視カメラを顧客動向解析に利用

RetailNextはSan Jose (カリフォルニア州) に拠点を置く企業で、店舗内に設置されている監視カメラで顧客の動きをモニターし、販売促進のソリューションを提供する。上の写真がその様子で、監視カメラで顧客の動きを追尾する。写真左手が入口で、顧客の出入りをカウントする。入店した顧客については、店内での動きを追尾し、どの棚で立ち止まったかなどを記録する。顧客の特定商品への関心の度合いを把握できる。線動を重ね合わせるとヒートマップとなり、顧客全体の流れを把握できる。これを元に、プロモーション結果を検証し、ショーケースのレイアウトを最適化することができる。RetailNextで計測した顧客数を、売り上げデータと統合すると、入店した顧客のうち、何人が買い物をしたのか、コンバージョン率を計測できる。人事システムと連動すると、店舗内の込み具合とスタッフの配置人数を解析し、人員の最適化を行う。オンライン・ショッピング・サイトは、アナリティックス・ツールを利用して、訪問者数、ページ閲覧回数、購買者数などの基礎情報を収集しているが、RetailNextはリアル店舗向けに、監視カメラの画像を解析して、これらの情報を収集する。RetailNextは、大手衣料品店であるAmerican Apparelなどで利用されている。RetailNextの特徴は、既設の監視カメラを利用することで、機器の設置が不要な点にある。

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顧客の表情に応じたクーポン発行

SynqeraはSt. Petersburg (ロシア) に拠点を置くベンチャー企業で、小売店舗向けにショッピング・ソリューションを提供している。同社はNew Yorkにオフィスを構え、アメリカでの展開を計画している。SynqeraはSimplate (上の写真右側) という、決済端末を提供している。顧客はレジに設置してあるSimplateで、クレジットカードをスワイプし支払処理を行う。おサイフケータイのように、NFC機構を搭載したスマートフォンからも利用できる。その際に、Simplateに搭載されたカメラが、顧客の顔を読み取り、性別・年齢・感情を判定し、最適なクーポンを発行する。顧客が店舗を出ると、Simplateは、クーポンを顧客のSMSに送信する。年配の男性で少し機嫌が悪い人に対しては、ウィスキーのクーポンを送ると、購買される確率が高いとの報告もある。Synqeraは、顧客情報 (性別、年齢、感情、購入履歴) と店舗情報 (プロモーションや在庫状況) 、及び天気などの外的要因を解析し、顧客に最適な情報を提供するプラットフォームである。会員登録では自分の年齢を実際より若く入力する人が多いが、Synqeraのカメラには偽りは通用しない。一方で、アメリカ市場では顔認識技術に対して、消費者の抵抗感は高い。Synqueraが、このハードルを如何に乗り越えるのか、今後の展開が期待される。

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どのバーに若い女性が多いのか

顔認識技術を応用したシステムは、日常生活の中に入り始めている。SceneTapはAustin (テキサス州) に拠点を置くベンチャー企業で、ビデオカメラの画像を解析し、店舗内の顧客数、性別、年齢を把握するシステムを提供している。SceneTapは同名のアプリを公開しており、消費者はこれを利用して、活気あるバーを探すことができる。上のスクリーンショットがSceneTapアプリを使っている様子である。左側はSan Franciscoのバーを検索した結果で、地図上にバーの位置がピンで表示される。ピンの色はバーの込み具合を示している。オレンジ色はHot Spotで、8割以上の込み具合で、バーが活気に溢れていることを示している。一方、水色はChillで、二割以下の込み具合で、盛り上がりに欠けている。ピンをタップすると、バーの詳細情報が表示される。右側がその画面で、Tope – Hoppinというバーの概要と、顧客の性別比率、性別ごとの年齢が表示される。また、店舗内の写真やコメントも掲載される。このケースでは、来店者の性別は、36%が女性で、64%が男性。それぞれの平均年齢は、27歳と29歳となっている。利用者はこれらの情報を元にバーを選択することができる。

SceneTapは全米15の主要都市で使われている。San Franciscoでは2012年5月からサービスが始まり、20店舗余りがこのシステムを導入している。店舗では、入口や内部にビデオカメラを設置し、撮影した画像をSceneTapに送信し解析を行う。店舗側としては、バー内部の情報を公開することで、集客効果を期待している。また、他店舗と比較して、自社の営業状態を把握するためにも使われている。一方で、SceneTapのサービスは、プライバシー保護団体から問題視されてきた。顧客は知らないうちにビデオ撮影され、その情報がプロモーションに利用されている。これに対してSceneTapは、顧客のプライバシーは保護されていると主張。SceneTapは、システムで採用している画像解析手法はFacial Detection (画像中に顔があることを検知) でありFacial Recognition (顔から名前を判別) ではないと釈明している。個人を識別できる情報はなく、物理的な顔を統計処理しているという主張であるが、苦しい見解である。

ビデオ・アナリティックスといえばTom Cruseの映画「Minority Report」で登場する、古典的な手法である。今ではカメラ解像度と解析技法が飛躍的に向上し、身近なところで使われている。個人のプライバシーを如何に守るかについて、改めて問われている。