Archive for October, 2013

Google Xプロジェクト ~ Googleブランドの自動車を開発

Friday, October 25th, 2013

先週レポートしたGoogle Moonshot (月着陸) の中心組織がGoogle Xである。Google XはGoogle研究所として機能し、1960年代の宇宙開発のように、壮大な目標に向かって研究を進めている。Google X最初のプロジェクトが自動走行車 (Self-Driving Car、下の写真) であり、この研究がGoogle X設立の切っ掛けとなった。

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自動走行技術の概要

Googleは、2009年、スタンフォード大学のSebastian Thrun教授と共同で、自動運転技術の開発を始め、翌年、Google Xを設立し、本格的な研究に着手した。Google自動走行車は、センサーでとらえた情報を人工知能の手法で解析し、安全な走行路を判定するものである。車両上部にLidar (light detection and ranging) を搭載し、レーザーにより物体との距離を測定し、車両周辺の3Dマップを作成する。車両前部と後部にRadarを搭載し、前後の物体との距離・速度を測定し、遠方の物体の位置を把握する。フロントグラスにはビデオ・カメラが設置され、信号機、道路標識、前方の車のテールライトなどを検知する。屋根のGPSアンテナで位置を把握し、四つの車輪にはPosition Estimatorが搭載され、短距離の移動を測定し、正確な位置を算定する。

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人工知能技術で走行路を判定

各種センサーから収集した情報で、自動車の位置を正確に把握できるが、どのレーンを走っているかまでは分からない。そこでLidarのイメージをGoogleの得意とするマップに重ね、どのレーンを走行し、どこに横断歩道や交差点があるかなどを把握する。このスタティックな情報に、他車、歩行者、信号表示、道路標識などダイナミックな情報を重ね合わせ、マップ (上のグラフィックス) を完成させる。これら情報を解析し、安全な走行路を判定する技術として人工知能が使われている。

実際の路上では様々なことが発生し、人工知能では実際の走行を通じた学習が安全走行の鍵となる。このため自動走行車は、San Francisco地区を中心に70万キロを走行し、学習を繰り返した。自動走行車は、山道での大型トラックとのすれ違い、市街地でお母さんがベビーカーを押しての道路横断、有料道路料金所の通過、San FranciscoのLombard Streetの曲がりくねった道の走行などを学習してきた。

路上には判別できないオブジェクトがあり、自動走行車は、ホットドッグ形状の車を自動車と認識できなかった。道路工事でセンターラインが書き換えられたり、レーン減少への対応も必要となる。また、交通事故や緊急自動車など、動的な事象への対応も必要となる。雷雨、雪、竜巻など様々な気象条件での走行など、自動走行車は学習を繰り返し、人が運転するより安全なレベルに達したとしている。

インフラに頼らない独自技術

Google開発責任者のDave Fergusonは、自動運転技術開発目的について、時間と資源の有効活用であると述べている。アメリカにおける自動車での通勤時間は平均50分で、自動運転車の登場でこの時間を有効に使える。また、自動運転では前の車との車間距離を短くし、レーン幅も狭くできるため、より多くの車が道路を走行できる。自動運転では、車を所有することなくオンデマンドで利用できるため、駐車場が不要となる。

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自動運転技術では、車車間通信 (車同士の通信)、路車間通信 (車と信号間での通信) など様々な方式がある。アメリカでは1990年代初頭、カリフォルニア州のハイウェイで、路面に磁気マーカーを埋めて自動車走行を制御する方式 (上のグラフィックス) が実験された。この方式ではインフラ整備が自動運転車の前提になる。この方式はその後整備が進まず、Googleはインフラ整備に待ちくたびれ、独自技術で自動運転車を開発したとしている。

自動車メーカーは独自で開発を進めている

Googleは四年後を目途に自動運転技術を製品化すると表明している。一方で、大手自動車メーカーは、独自で技術開発を進めており、Googleの自動運転技術がどのように展開されるのか、予断を許さない。多くの自動車メーカーは、完全な自動走行技術を求めておらず、ドライバーの補助機能を目指している。GMはCadillac向けに「Super Cruise」という名称でこの機能を開発している。自動車は設定された速度で、前の車と車間距離を保ち、レーン中央を自動で走行する。ドライバーはハンドルやペダルから手足を離すことができる。GMはSuper Cruiseを2020年までに市販車に搭載するとしている。アメリカ運輸省は、自動運転のレベルを、Level 0からLevel 4までの五段階で定義している。これによると、Super CruiseはLevel 2 「Combined Function Automation」(複数の自動運転機能の連携) に相当する。一方、Googleの技術は、Level 3 「Limited Self-Driving Automation」 (特定条件下での自動運転技術) に該当する。Googleのアプローチは100%の自動運転技術で、Level 4 Full Self-Driving Automation (全ての工程で自動運転を行う技術) を目指している。(下の写真は視覚障害者がGoogle自動運転車を試験している様子。)

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Googleブランドの自動車をデザイン

Googleは大手自動車メーカーとの提携が難しく、独自で自動運転車を製造するとの報道もある。Reutersは、Googleはドイツ部品メーカーContinental AGと交渉を続けていると報道しており、Google仕様の自動車製造の噂をよんでいる。GoogleがNexusブランドのスマートフォンをHTCなどのメーカーに製造委託しているように、Googleブランドの自動車製造は自然な流れでもある。Googleは、製造した自動車を独自チャネルで販売するのではなく、Robo Taxiとして販売するとの見方もある。Robo Taxiとは、自動走行タクシーで、利用者はRobo Taxiに乗り、目的地まで自動走行で移動する。Fergusonの発言にある通り、自動運転車が登場すると、個人は車を所有するのではなく、必要に応じて利用する形態となる。更に、Google Venturesは、2013年8月、個人タクシー・ベンチャーであるUberに2億5千万ドルと大規模な投資をしており、Robo Taxiのストーリーも現実味を帯びてくる。

Googleは自動運転技術を武器に自動車メーカーに転身するのではなく、センサーで収集した大規模データを人工知能で解析するという手法で、軸足はしっかり情報通信技術に置いている。同時に、Googleは次世代IT企業が果たす新たな役割を暗示しているとも解釈できる。Teslaの最高経営責任者Elon Muskは、雑誌とのインタビューで、100%の自動運転技術開発は極めて困難で、「a bridge too far」 (向こう岸にとどかない橋) と表現している。自動運転技術は自動車メーカーの領域ではなく、IT企業の新たな役割であるとも読み取れる。

Google「月着陸」プロジェクト ~ 死を克服できるか

Friday, October 18th, 2013

Googleは、10月17日、四半期決算を発表した。ネット広告事業が好調で、売上高が過去最高を記録。この発表を受け、翌日の株価終値は、前日より$122.61値上がりし、$1,011.41となり、初めて1000ドルの大台に乗った(下のグラフ) 。消費者がモバイルに移り広告単価が安くなる中、売り上げを伸ばしたことが評価されたためである。それに加え、GoogleのMoonshot (月着陸) プロジェクトが、投資家から一定の信任を得たとも解釈できる。

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Googleは革新的な技術開発に向かう

Google最高経営責任者Larry Pageは、革新的な研究開発を、しばしばMoonshotsという言葉で表現する。Moonshotとは月着陸ロケット打ち上げという意味で、1961年、Kennedy大統領の演説で使われ、人類の壮大なチャレンジを意味している。Googleは次世代技術を研究する組織Google Xを運営しており、MoonshotsとはGoogle Xを含む、高度な研究開発プロジェクトを指している。

Pageは、四半期決算発表のなかで、Googleが目指している方向について次の通り表明した。「段階的な改善では、技術が陳腐化してしまうことは歴史が示している」とし、「自分の職務は社員に飛躍的な技術革新を求めることにある」と述べた。その事例としてAndroidを挙げ、「投機的と言われたプロジェクトに投資を始め」、Googleが検索企業から多角的に進化していることを説明した。更に、Moonshotの事例として、「自動運転車がそれにあたる」とし、Googleは革新的な技術開発に資金や頭脳を投入してしていくことを、改めて表明した。

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Googleが老化解明を行う

Pageが率いるMoonshotsの最新プロジェクトが「Calico」である。Calicoとは、バイオ技術関連新会社で、先月、Googleはその設立を発表した。新会社にはAppleのArthur Levinson会長が最高経営責任者として就任し、老化と健康な生活に関する研究を行う。特に、老化とそれに関連する病気の解明を目指すとしている。発表の中でPageは、「ヘルスケアとバイオ技術に関するMoonshotで、多くの人々の生活をより良くすることを目指す」と述べている。新会社に関する発表はこれだけで、研究内容など、会社の概要は明らかにされていない。

新会社の概要は不明なままであるが、メディアの報道などから、その一端が見えてきた。CNNは「New details on Google’s anti-aging startup」という記事で、独自の取材を元に、Calico設立の経緯を明らかにした。CNNによると、CalicoはGoogle Ventures代表Bill Marisのアイディアである。MarisはGoogle Venturesで、ディスラプティブな技術を中心に、投資を進めている。Marisによると、バイオ企業は、癌など病気の治療薬の開発に特化しており、老化を解明する企業は存在していない。老化は遺伝子の劣化で、細胞レベルで発生するといわれている。Marisは老化の原因となる遺伝子を解明し、それに対処する薬の開発という研究テーマを提案した。健康な90歳の遺伝子を解明し、そこでの共通項を見つけるというアプローチである。一方、PageはTimeとのインタビューで、「医療問題をデータ解析や統計学の観点から見ると、直観と異なる事実が見えてくる」としている。具体的には、抗がん剤を開発しても人間の寿命は三年程度しか伸びない。しかし、老化の解明が進むと、人間の平均寿命は150歳になるとも言われている。

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ビッグデータ解析をバイオ医療に応用

Pageが最高経営責任者に就任して以来、Googleは、検索企業から、バイオ医療など、異業種への展開が顕著になってきた。しかしGoogleは、IT企業から製薬企業になるのではなく、データ解析技術をバイオ医療開発に応用する手法で、軸足は情報通信技術に置いている。Calicoにおける老化の解明と情報技術の関係は示されていないが、そのヒントは23andMeにある。23andMeとは、Mountain View (カリフォルニア州) に拠点を置くベンチャー企業で、個人向けに遺伝子解析サービスを提供している。Google Venturesが投資している企業として有名になったが、昨年から、大規模な追加投資を行っている。

利用者は、検査キットの中に唾液を入れて郵送すると、23andMeが遺伝子解析を行い、その結果が専用ウェブサイトに示される (上のグラフ、前立腺癌に関連する遺伝子変異と発症確率の例) 。昨年、23andMeは、このビジネスモデルを一変した。従来は検査料金 ($499) 収入で事業を構成していたが、昨年から、検査料金を$99.99に値下げして、多くの利用者を呼び込み、世界最大規模の遺伝子データベース構築を目指している。昨年9月には、データベースを公開し、開発者はPersonal Genome APIを使って遺伝子情報にアクセスし、革新的アプリを開発することが可能となった。医療機関は大規模な臨床試験を行う代わりに、遺伝子データベースにアクセスすることで、病気と遺伝子の関係を把握できる。23andMeは、バイオ企業から病気と遺伝子に関するビッグデータ解析企業に転身した。このモデルをそのままCalicoに適用できる訳ではないが、Googleコア技術であるデータ解析を老化解明に応用するのは、妥当なアプローチである。

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検索技術から高度技術へのリープ

Pageは、Google I/Oの基調講演で、Googleは会社の実力を十分発揮できていないことを、「Googleは会社の可能性の1%しか達成していない」と表現した (上の写真) 。つまり、Googleは検索エンジンの会社で終わるのではなく、バイオ医療、自動運転車など、幅広い分野で活躍すべきとのメッセージである。検索技術から高度技術へのリープがMoonshotsである。Google株主は、長期的研究開発への投資に対して、ずっと反対を表明してきた。今期決算と株価をみると、Pageが推進しているMoonshotプロジェクトに対し、株主も一定の理解を示しているように受け止められる。Googleの異次元への進化が加速されそうである。

LEDライトによるインドア・ポジショニング~店舗内消費者の位置をピンポイントに把握

Tuesday, October 1st, 2013

アマゾン化する小売店舗(4)

小売店舗がAmazon.comの手法を取り入れ、デジタル化を進めている。店舗内の顧客位置情報を正確に把握することが、販売促進のための必須要件となる。店舗内ではGPSシグナルを捕捉できないため、WiFiシグナルを使う方式が一般的である。このレポートでは、照明用のLEDライトを使った、高精度なポジショニング技術を検証し、その応用分野を考察する。

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博物館でナビゲーションとして利用

ByteLightはBoston (マサチューセッツ州) に拠点を置くベンチャー企業で、LEDライトを利用した位置情報システムを提供している。利用者が持っているスマートフォンのカメラで、天井に設置されているLEDライトを読み込み、位置を把握する。LEDライトは、ミリセカンドの周期で点滅し、固有のシグナルを発信する。スマートフォンでLEDライトの異なるシグナルを読み込み、位置を計測する仕組みとなる。LEDライト内には専用チップが組み込まれ、ソフトウェアを搭載し、固有のシグナルを発生させる。

ByteLightは、BostonにあるMuseum of Scienceで導入されている。博物館のCahners ComputerPlaceというコーナーには、20基超のSolais Lighting社製LEDライト (上の写真) が天井に設置されている。博物館は専用アプリが搭載されたiPadを貸出し、入館者はこれをガイドブックとして、館内を移動する。アプリはフロアーマップに利用者の現在地を示し、目的の展示物までナビゲーションする (下のスクリーンショット)。セルフ・ツアーでは、展示物の前に立つと、その説明がiPadに配信される。また利用者は、iPadでPersonal Exploration Rover (火星探査ローバの模型) を操縦することもできる。これらは、ByteLightの技術で、利用者の位置を精密に測定できるため、可能となる。

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小売店舗でのプロモーション

ByteLightは小売店舗への導入が期待されている。小売店舗は、ByteLight技術で、消費者の正確な位置を把握でき、位置に応じた情報を配信する。消費者が特定の商品の前にいれば、その商品に関するクーポンや特売情報をスマートフォンにプッシュする。下の写真がそのイメージで、消費者がタブレットを使って買い物をしているところで、ピンクのTシャツの前に立っている。店舗側は、消費者のタブレットに、この商品に関する特売情報を配信する。小売店舗は、消費者の過去の購買履歴や嗜好などを把握しており、これらデータを元に、最適な情報を配信する。このソリューションも、ByteLight技術で、消費者の場所をピンポイントで把握できるため、可能となる。

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決済システムへの応用

ByteLightは、Light Field Communication (LFC) という通信方式の開発を行っていることを明らかにしている。LFCとはライトによる通信方式で、スマートフォンをLFC Reader (下の写真、白いデバイス) にかざすだけでチェックインできる。LFC ReaderがLEDライトのシグナルを発信し、消費者のスマートフォンでこれを読み取る。消費者は小売店舗のレジでスマートフォンをかざし、ポイントを貯めたり、ポイントを使うことができる。また、おサイフケータイの要領で、スマートフォンをLFC Readerにかざして支払いをするシステムも開発されている。

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インドア・ナビゲーションが今年の主戦場

多くの企業は屋内のマップ技術の開発にリソースを集中している。Googleは、2011年から、主要建造物内部のマップサービスを展開している。利用者は施設内でも、屋外と同じ要領で、Google Mapsを利用できる。Appleは独自技術でマップサービスを提供しているが、Google Mapsに大きく後れをとっている。Appleは、2013年5月、インドア・ナビゲーション技術強化のため、WiFiSLAMというベンチャー企業を買収した。また、WiFi関連製品を提供するAruba Networksは、2013年5月、Meridian Appsというベンチャー企業を買収すると発表した。Meridian Appsはインドア・ポジショニング技術を開発し、デパートで買い物客用にナビゲーション・サービスを展開している。店舗内でのポジショニング技術は、商品プロモーションでの必須要件で、ベンチャー企業からユニークな技術の登場が相次いでいる。今年は、マップ技術がアウトドアからインドアに移る、節目の年となっている。