Archive for March, 2015

Teslaはコンピューター!ソフトウェアが定義するクルマと自動運転技術 (2/2)

Friday, March 27th, 2015

Teslaは”Software-Defined Car”とも呼ばれ、ソフトウェアがクルマの機能を定義する。ソフトウェアは恒常的に進化し、アップデートがWiFiなどでクルマにダウンロードされる。この夏に予定されているアップデートで、自動運転機能が追加される。Teslaを情報通信機器と区分しても、それ程違和感はない。急速に進化するTeslaをレポートする。

Teslaの自動運転機能

Version 7.0はこの夏にリリースされる予定で、このアップデートで自動運転機能「Autopilot」が登場する。Autopilotは、道路に沿って、前の車と指定した距離を保ち、自動で走行する機能。道路がカーブしていても、Autopilotが自動でハンドルを切る。前のクルマがスピードを落とすと、それに従って減速する。

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自動で車線変更する「Lane Changing」も登場する。ドライバーが方向指示器を操作すると、クルマが自動でその方向に車線変更する (上の写真)。ドライバーがマニュアルで車線変更する時は、隣のレーンにクルマがいれば、アラートをあげる。前方のクルマに急速に接近すると警報がなり、緊急事態ではクルマが自動で停止する。

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Autopilotで運転している時のディスプレイ

インスツルメントパネルのデザインも一新される。上の写真はAutopilotで運転している時のディスプレイで、中心部分にセンサーが捉えた周囲のオブジェクトが表示される。前方のクルマとの車間距離は青色のバーで示され、この距離を保って走行する。追従モードを選択することもできる。アグレッシブ・モードでは、前のクルマとの車間距離を詰め、追跡するような勢いで追随する。反対に、リラックス・モードでは、車間距離を十分にとり、余裕を持った走りができる。接触の危険性があるクルマは赤色で表示され、ドライバーがハンドル操作で、制御をオーバーライドできる。

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自動で駐車する機能

自動駐車機能「Autopilot Parking」も登場する。路上で駐車スポットを見つけると、クルマはそれをドライバーに知らせ、自動で駐車する。充電ステーションSuperchargerでは、自動で空きスペースを見つけ駐車する。自宅ではクルマが自動でガレージに駐車する。狭いガレージにクルマを出し入れする必要は無い。私有地であれば、クルマはドライバーのスケジュールを把握し、自動でガレージのドアを開け、外に出て路肩に駐車して搭乗を待つ (上の写真)。クルマはGPSを備え、リアルタイムで渋滞情報を受信する。自宅から目的地までの所要時間を計算でき、クルマは時間になると、路肩でスタンバイする。まるでハイヤーを利用する気分で、ドライバーは玄関前で待っている車に乗る。Teslaはドライバーとクルマの新しいユーザーインターフェイスを提案している。

クルマとInternet of Things

因みに、クルマが自動でガレージのドアを開ける機能は、現行モデルで既にサポートされている。クルマと自宅の関係が大きく変わっている。インテリジェント・サーモスタット「Nest」は、クルマと交信し、ドライバーの帰宅時間を把握する。ドライバーが帰宅すると、玄関に明かりがともり、室内が最適の温度になっている。クルマがInternet of Thingsの重要なコンポーネントを構成している。

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クルマに搭載されているセンサー

これら自動運転機能は車載センサーを使って行われる。センサーは既に搭載されており (上の写真、テストドライブした車両)、ソフトウェアのアップデートで、自動運転機能が加わる。クルマはカメラを前方と後方に一台づつ搭載している。前方カメラは室内リアビューミラー背後に設置され、道路標識や信号や歩行者を把握する。レーダーはフロントグリル下部に設置され、前方のオブジェクトを把握する。レーダーの認識範囲は長距離で、雨や雪などの悪天候でも使える。

超音波センサーはクルマを取り巻くように、前方と後方に合計12台搭載されている (上の写真、ヘッドライト下の小さな円形の部分)。超音波センサーは車両の周り360度をカバーし、子供や動物など、ソフト・オブジェクトを含む物体を把握する。Autopilotは、これらセンサーからの情報を元に、走行ルートや速度を決定する。車線変更の際は超音波センサーで安全を確認する。Autopilot Parkingは、超音波センサーを使い、周囲の障害物を把握して駐車する。後方カメラは人が運転する時、後方のイメージをタッチスクリーンに表示する。

ハンドルから手を離して自動走行

Teslaは、Autopilotはハイウェーと主要幹線道路で利用できる、と公表している。ドライバーはAutopilotをオンにすると、ハンドルから手を離し、アクセルから足を外すことができる。但し、Autopilotは完全な自動運転機能ではなく、あくまで運転支援機能という位置付けである。このためドライバーは走行中、路上から目を離すことはできない。緊急事態には、ドライバーがハンドルやブレーキ操作をする必要がある。運転の全責任はドライバーにある。この意味で、Google自動運転車とは異なるコンセプトのデザインとなっている。Autopilotは、完全自動運転を目指す、一里塚ということになる。

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道路交通法の観点からはグレーゾン

道路交通法の観点からは、Autopilotはグレーゾンであることも事実。現行法令がこの機能をカバーして、明確に認めている訳ではない。つまり、Autopilot機能を使ったドライバーは、違法行為で検挙される危険性を含んでいる。道路交通法がテクノロジーの進化に追随できていない状態が続いている。このため、Mercedes-Benzなども同様の機能を提供しているが、ドライバーにハンドルを握ることを求めている。これに対してTeslaは、Autopilotは現行の道路交通法と矛盾するものではないとし、問題は無いとの見解を示している。事実、Teslaはサンフランシスコからシアトルまで、Autopilotの試験を展開中である (上の写真、イメージ)。Teslaオーナーとしては、Autopilotで手を離してもいいのかどうか気になるところで、この夏までに明快な法令が示されるのか、注目が集まっている。

法令整備のアイディア

Tesla MotorsのCEOであるElon Muskは、自動運転技術に対する法令整備の遅れに対し、建設的な提言を行っている。自動運転車を”Shadow Mode”で稼働させ、法令整備を進める案を提案した。実際に路上で運転するのではなく、自動運転車をソフトウェアでシミュレーションし、様々な状況を作り出す。ここで自動車運転車の特性を科学的に理解する。事故の起こる統計情報を得て、客観的なデータに基づき、自動運転車の関連法令を定める、という提案である。市場のムードに影響されるべきでないという主張でもある。米国では、自動運転車に対し、恐怖感を抱いている人が少なくない。無人のクルマが街を走り回り、薄気味悪いという感覚である。これらの意見に押されて、政府は自動運転車への対応で、保守的なポジションに傾いている。

人間の運転は禁止すべき

Muskは、自動運転車は人間が運転するよりはるかに安全で、将来は人間が自動車を運転することを禁止すべきと主張している。自動運転車はエレベーターで、ボタンを押すとその階まで連れて行ってくれる。エレベーターガールは不要だという主張である。運転という苦痛から解放され、自動運転車の登場を待ち望んでいる人は少なくない。

その一方で、運転が好きな人は多く、ドライブの楽しみを奪うことに対し、反対意見が出ることは必至である。特に、米国人は自動車の運転を憲法で保障された権利と認識し、自由に移動する権利を殊のほか重要と考える。

ただ、自動運転車の登場で社会通念は大きく変わる可能性がある。自動運転車が運行を始め、格段に安全に走行できれば、社会の評価が大きく向上する。同時に、人間のドライバーに対しても、同等の安全水準が求められる。つまり、運転免許証取得の基準を強化するというアプローチも一つの選択肢となる。日本では厳しい試験が課されるが、米国ではほぼ誰でも合格できる。Muskの発言は、交通事故を減らす手段を提言したもので、テクノロジーの役割が改めて問われている。

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自動車製造はソフトウェア産業

クルマの説明をしてくれたKimは、Teslaの特徴はそのシンプリシティーだと繰り返し強調した。上の写真はTeslaのスケルトンで、赤色の部分がモーターを示す。バッテリーは銀色のパネルの下に配置される。トランスミッションやドライブシャフトなどは無く、シンプルな構造となっているのが視覚的に分かる。ハードウェアの複雑性が無くなり、ソフトウェアの比重がぐんと増す。車体という標準プラットフォームでソフトウェア開発をしているというイメージに近い。Appleが電気自動車を開発していると報道されても、違和感は感じない。

利用者とのインターフェイスはタッチパネルで柔軟に定義できる。搭載しているソフトウェアは、WiFi経由で定期的にアップデートされる。AutopilotやAutopilot Parkingのような、クールな”アプリ”も登場する。Teslaに試乗して”Software-Defined Car”と言われる意味を実感した。

Teslaはコンピューター!ソフトウェアが定義するクルマと自動運転技術 (1/2)

Friday, March 20th, 2015

Teslaは”Software-Defined Car”とも呼ばれ、ソフトウェアがクルマの機能を定義する。ソフトウェアは恒常的に進化し、アップデートがWiFiなどでクルマにダウンロードされる。この夏に予定されているアップデートで、自動運転機能が追加される。Teslaを情報通信機器と区分しても、それ程違和感はない。急速に進化するTeslaをレポートする。

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Teslaはコンピューターを実感

テストドライブして、Teslaは自動車でななく、”走るコンピューター”と実感した (上の写真、試乗したTesla Model S 85D)。ユーザーインターフェイスはタッチパネルで、クルマの機能をディスプレイで操作する。iPhoneでアイコンにタッチしてアプリを使うように、Teslaの操作は直観的で、クールな”アプリ”が揃っている。iPhoneにOSアップデートをダウンロードして機能アップするように、Teslaにソフトウェアをダウンロードして、自動運転機能をインストールする。クルマの設計思想がiPhoneから多大な影響を受けており、シリコンバレー文化を感じさせる製品仕立てとなっている。

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二系統のコンピューターシステム

Tesla MotorsのOwner AdvisorであるKimに操作を教えてもらいながら、テストドライブした。クルマの形状のカーキーをポケットに入れたまま、クルマに近づくと、ドアハンドルがポッポアップし、扉を開けることができる。運転席にはカーキーを差し込むスロットや、スタートボタンは無い。キーをポケットに入れたままで、レバー (上の写真、ハンドル右側のバー) を上に押してエンジンを始動。このレバーがシフトレバーを兼ねる。

上の写真はエンジンを始動したところで、インスツルメントパネル (正面) には、速度計が表示される。走行可能距離 (241マイル) も表示される。右手には大型タッチスクリーンが設置されている (上の写真、右端)。ここに操作や運行に関する情報が表示される。上の事例は、電力消費量 (上部) とGoogle Maps (下部) が表示されている様子。インスツルメントパネルとタッチスクリーンは、二系統のコンピューターで稼働する。NvidiaのVisual Computing Module (車載プロセッサー) が使われ、高速プロセッサー「Tegra K1」が二台搭載されている。二系統の高性能コンピューターが運転をアシストする構造となっている。

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タッチスクリーンで操作

Teslaのユーザーインターフェイスは17インチのタッチスクリーンで、iPhoneを操作するようにクルマを制御する。上の写真は、サンルーフアイコンを指でスライドし、空ける操作をしている様子 (スクリーン上部)。iPhoneでロックスクリーンを開く感覚で操作できる。スクリーン下部は、ヘッドライトや室内灯の操作画面で、ボタンにタッチして点灯する。

サスペンション設定画面では車高を設定できる。走行中は速度に応じ、クルマが自動で車高を調整する。位置情報に応じた車高設定機能もある。急な坂やスピードバンプで車高を高く設定すると、クルマはその場所を把握する。搭載しているGPSで位置情報を認識し、その場所を通過する時は、設定した車高となる。

機能や特性をソフトウェアで生成

ステアリングモード画面でハンドルの感度を選択できる。スポーツモードを選ぶと、レースカーのように、機敏なハンドリングを味わえる。興味深いのはクリープ機能で、ブレーキから足を離したときに、するすると前に動くモードを設定できる。オートマ自動車特有の動きで、電気自動車でこれをエミュレーションできる。つまり、Teslaの機能や特性は、ソフトウェアでいかようにでも生成できる。iPhoneにクールなアプリをダウンロードして機能を増やすように、ソフトウェアがクルマの機能を決定する。

アクセルを踏んだ時のレスポンス

操作法の説明を聞いた後、テストドライブに出た。電気自動車の静かさと、アクセルを踏んだ時のレスポンスの速さには、改めて驚かされる。Kimによると、停止状態から時速60マイル (時速96キロ) に達するまでの時間は3.2秒 (Model S P85Dのケース) とのこと。これはPorsche 911 GT3 (レースで使われるハイパフォーマンス版のPorsche) と同じレベルになる。加速の俊敏性に惹かれてTeslaを購入する人も少なくないとのこと。但し、Teslaの最高速度は時速120マイル (時速192キロ) に抑えられている。

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コンピュータービジョンと安全機能

運転していて印象的だったのは、安全に配慮した機能が充実していること。その一つが速度オーバー警告機能で、スピードを出し過ぎると警告アイコンが表示される。上の写真がその様子で、インスツルメントパネルに、現行速度 (時速44マイル) と法定速度 (時速40マイル) アイコンが示され、スピードの出し過ぎに注意を促している。クルマは搭載しているカメラで道路標識を読み、その意味を理解する。この他に、運転中にレーンを右側にはみ出したときは、ハンドルが震えて警告した。これは、レーンアシスト機能で、カメラがレーンのはみ出しを認識して、ドライバーに注意を促す。コンピュータービジョンの精度が向上し、クルマが自動車学校の先生のように、ドライバーの安全運転を監視できるようになった。

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ソフトウェア・アップデートで機能追加

ソフトウェアの更新でTeslaの機能がどんどん増えていく。クルマは常に3G又はWiFiネットワークに接続され、ソフトウェア・アップデートを自動でダウンロードする。ダウンロードが完了すると、アップデート画面が表示され、そのままインストールするか、開始時間を指定する。インストールする際は、クルマをパーキングモードにしておく。

テストドライブで使ったクルマは、最新版のソフトウェア「Version 6.1」で動いている。上の写真はリリースノートで、ここにVersion 6.1の新機能が説明されている。次のアップデートは「Version 6.2」で、更に新しい機能が追加される。主要機能はバッテリー切れ防止で、クルマが自動でドライブルートを計算する。遠出する時に、クルマが充電を考慮し、専用充電ステーション「Supercharger」を含む、最適のルートを計算する。クルマの指示通り走れば、長距離ドライブを楽しめる。

Version 7.0で自動運転技術を追加

注目のアップグレードは「Version 7.0」で、自動運転技術「Autopilot」が追加される。クルマ本体は同じであるが、ソフトウェアをアップデートすることで、どんどん機能が増えていく。自動運転技術もソフトウェアの改版で対応する。iPhoneと同じ仕組みで、Teslaを購買した後もクルマが成長を続ける。ソフトウェア・アップデートを見ると、Teslaは自動車というより、情報通信機器としての色彩が強い製品と感じる。

モバイル決済事業で激動の予兆!Googleは「Android Pay」で”おサイフケータイ”に再挑戦

Friday, March 13th, 2015

「Google Wallet」で苦戦しているGoogleは、モバイル決済基盤「Android Pay」を投入し、“おサイフケータイ”事業の再構築を目指す。モバイル決済基盤とは分かりにくいコンセプトであるが、Android PayはGoogle Walletというアプリを稼働させるプラットフォームとして機能する。Google Walletだけでなく、他社が開発した決済アプリを稼働させるのが狙いだ。Apple Payという巨人に対抗するため、Samsung Payを含め、Android陣営の力を結集することを狙っている。更に、ここでフィンテック (FinTech) イノベーションが起きることを期待している。激動が予想されるGoogleのモバイル決済戦略をレポートする。

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モバイル決済基盤とフィンテック

Googleの上級副社長Sundar Pichaiは、バルセロナで開催されたWorld Mobile Congressで、モバイル決済基盤「Android Pay」を開発していることを明らかにした (上の写真)。この模様はMobile World Liveで放送された。Android Payは噂が先行していたが、今回初めてその一端が明らかになった。詳細については、開発者会議Google I/Oで発表される予定。

Android Payは、Google Walletとは異なり、モバイル決済基盤で、Android OSで稼働するアプリに、決済機能を提供する。Google Walletは、Android Payで稼働する、一つのアプリとして位置づけられる。具体的には、アプリはAndroid Payが提供するAPIを使い、決済機能を利用できる。Android Payがアプリの背後で、NFC (Near Field Communication) 通信、セキュアーな通信 (トークンを使った通信)、更に、将来は指紋認証による本人確認を行う。つまり、Android Payを使うと、誰でも簡単に”おサイフケータイ”を開発し、事業を始めることができる。決済アプリ開発の敷居がぐんと下がり、フィンテックと呼ばれる斬新なモバイル決済サービスが登場すると期待されている。

Samsung Payとの関係は複雑

Samsungは、同じ会場で前日に、「Samsung Pay」を発表している。これはGoogle Walletと正面からぶつかり、Googleの対応が注目されていた。Pichaiはこの発表に関し、Samsung PayはGoogleのタイムラインと異なるスケジュールで進んでいる、と述べている。具体的な内容には言及しなかったが、Samsung PayもAndroid PayのAPIを使うことができることを意味している。つまり、Samsung PayをAndroid Payで稼働する一つのアプリとして位置づけ、Googleのコントロール配下に置きたい、という意図がうかがえる。Googleとしては、Android陣営内で内輪争いをするのではなく、リソースを共有し、理路整然とおサイフケータイ事業を展開することを目指している。

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Apple Payが”黒船”になった

Google Walletは2011年にサービスが始まったが、利用者数は伸びなかった。しかし、Apple Payの登場で米国市場が一変した。Apple Payが決済方式のスタンダートとなり、それに伴い、Google Walletの人気が出てきた。Google Walletの処理金額が50%増加したと言われている。Apple Payが米国モバイル決済市場の”黒船”になった。

Apple Payを使うためにiPhone 6を購入する人も多いと言われている。店舗により普及率が異なるが、健康食品スーパーマーケット「Whole Foods」(上の写真) では、カード決済の20%がApple Payという統計がある。サービス開始当初はApple Payで支払いをすると珍しがられたが、今では普通の光景になった。レジでiPhoneを手に持っていると、「Apple Payですね」と言って、会計処理をしてくれる。Google Walletではこのような現象は起こらなかったが、Appleの影響力の甚大さを改めて認識した。

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Google Wallet苦戦の理由

Google Walletが市場に受け入れられなかった理由は多々ある。最大の理由は通信キャリアとの関係で、これが事業展開の障害となってきた。通信キャリア三社 (Verizon、AT&T、T-Mobile) は、ジョイントベンチャー「Softcard」(当初の名前はISIS) を立ち上げ、モバイル決済事業を目指した。Google Walletと正面から競合する関係にあった。

このため、通信キャリアは販売するスマートフォンに、Google Walletをプレロードすることを受け入れなかった。更に、通信キャリアは、Google Walletの機能を技術的に制限した。具体的には、Google Walletで決済する時には、セキュアーエレメントに格納しているカード情報を、決済システムに送る必要がある。通信キャリアはこの通信を遮断して、Google Wallet事業を制限した。(セキュアーエレメントは通信キャリアのSIMカードにある。)

筆者はVerizonから購入したスマホで、Google Walletを使ってきた (上の写真)。サービス開始当初は使えたが、途中から使えなくなった。Googleから説明は無かったが、この時点でセキュアーエレメントの通信がブロックされたと思われる。信頼性が第一の決済サービスで、方式の変更は利用者に不安を抱かせる。Google Walletのブランドイメージが大きく低下した。

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通信キャリアを迂回する方式

Googleは通信キャリアに依存しない方式を模索した。その結果、Googleはセキュアーエレメントのカード情報を送信する代わりに、これをソフトウェアでエミュレーションする方式に変更した。この方式はHost Card Emulation (HCE)と呼ばれ、セキュアーエレメントをクラウド上に構築する方式である。HCEは、カード情報をクラウドに保存し、決済処理の際に情報をスマホに読み込み、NFCリーダーに送信する。セキュアーエレメントを使わないので、通信キャリアが通信をブロックすることはできない。

これに先立ち、Googleは2013年10月、Android 4.4 (KitKat) の発表で、OSにHCE機構を搭載することを明らかにした。HCEはOSの追加機能として実装された。KitKat以降のNFC搭載スマートフォンで、Google Walletの”おサイフケータイ”機能を使うことができる。

今ではGoogle Walletは、クラウド・ワレットとしての機能も充実している (上の写真)。店舗での買い物だけでなく、オンラインショッピングの支払いもできる。Google Walletに入出金が纏められ、家計簿としても利用価値がある (左側)。また、いま流行の送金機能もあり、アプリから簡単にお金を送ることができる (右側)。

カード会社もHCE方式を推進

一方、カード会社もセキュアーエレメントを使わないHCE方式を積極的に推進している。昨年2月、MasterCardとVisaは、HCE方式での決済サービスを提供すると発表した。MasterCardはこれを「Cloud Based Payments」と呼び、米国を含む世界15カ国でプロジェクトを展開している。カード会社としては、HCE方式を採用することで、パートナー企業が簡単に”おサイフケータイ”システムを構築でき、モバイル決済事業が拡大するという目論見がある。カード会社のお墨付きで、HCE方式が世界の主流になる可能性も出てきた。

通信キャリアとの和解

技術的な側面だけでなく、Googleと通信キャリアの関係が大きく前進した。Googleは今年2月、Softcardから技術や知的財産を買い取ることに合意した。Softcardは2010年にジョイントベンチャーを設立し、システム開発を始めたが、開発は難航した。2012年にサービス開始にこぎつけたが、その普及は芳しくなかった。Softcardはサービス停止を決定し、上述の通り、Googleが資産や事業を継ぐ形式となった。

この和解により、通信キャリア三社は、Google Wallet事業に全面的に協力することを表明。販売するスマートフォンにGoogle Walletをプレインストールし、Googleはこれ対し料金を払うとしている。また、Google検索に連動する広告手数料を上げるとも言われており、通信キャリアは広告収入増加が見込まれる。一方、GoogleはGoogle Walletで生成されるデータを解析し、広告コンバージョン率を上げ、引いては広告収入向上を目指している。

Android Pay経済圏が出現するか

Googleは大きな障害をクリアーし、Google Wallet事業を再構築する環境が整った。今回は単におサイフケータイ事業だけでなく、パートナー企業がモバイル決済サービスを展開するのを支援する。まず、Samsung Payがこの基盤を利用するのかが注目される。HTCやLGも独自のモバイル決済事業を展開する道が開けてくる。ベンチャー企業からは、クールなモバイル決済アプリが誕生するかもしれない。Android Payはフィンテックのインキュベーターとなる可能性を秘めている。

お洒落だけど革新的でない?Apple Watchの狙いを読み解く

Wednesday, March 11th, 2015

Appleは、3月9日、サンフランシスコで、Spring Forwardと題した発表イベントで、Apple Watch詳細情報を発表した。改めて、Apple Watchは洒落なスマートウォッチで、ハイエンドモデル「Watch Edition」は息をのむほど美しい (下の写真)。一方、Apple Watchで生活がどう便利になるか、分かりづらいという意見もある。Apple Watchの機能は革新的でないとの評価もあるが、発表されたアプリを子細に検証すると、別の姿が見えてくる。

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パートナー企業が開発したアプリ

発表イベントで、CEOのTim Cookが、Apple Watchについて詳細情報を公表した。機能については、驚くような情報は無かったが、パートナー企業が開発したアプリについては、新鮮な情報が揃っていた。技術担当副社長Kevin Lynchが、Apple Watchを使って、これらアプリをデモし、新しい使い方を示した。アプリを子細に見ていくと、Apple Watchの狙いが浮き上がる。

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おサイフケータイ付き腕時計

Apple Watchでおサイフケータイ機能「Apple Pay」が使えることが大きなアドバンテージとなりそうだ。店舗で買い物をし、サイドボタンをダブルクリックし、リーダーにかざすだけで支払がいできる (上の写真、左側)。ポケットからスマホを取り出す必要は無く、腕時計で支払いができるのは、圧倒的に便利。セキュリティーに関しては、Apple Watchを着装する際に、四桁のPINを入力して本人確認をする。Apple Watchを外すとログオフした状態となり、他人が支払いをすることはできない。リーダーとはNFC (Near Field Communication) 方式で交信する。筆者は、スターバックスでリストバンド「Microsoft Band」で支払いをしているが、この方式はヒットの予兆を感じる。

ホテルのルームキーとなる

Apple Watchをホテルのルームキーとして使える。これはホテルチェーン「Starwood Hotels & Resorts」が開発したアプリで、Apple Watchがルームキーとなる (上の写真、右側)。ホテルに到着するとアプリでチェックインし、そのまま部屋に向う。アプリには「Room Number 237」などと、部屋番号が表示される。部屋のドアにApple Watchをかざすと鍵がアンロックされる。このケースもドアの鍵とはNFC方式で交信する。ホテルカウンターで長い行列に並ぶ必要は無く、スマートにチェックインできる。ホテル側としても、業務の効率化に役立つ。

駐車場で料金を支払う

Apple Watchで駐車料金を支払うことができる。パーキング・メーターにApple Watchかざすと、駐車場のスロット番号が自動で入力され、登録しているクレジットカードで支払いができる。これは「PayByPhone Parking」というアプリで、パーキング・メーターとはNFC方式で通信する。アプリは駐車時間終了10分前にメッセージを表示する。時間までに戻れそうにない時は、アプリで追加料金を払い時間を延長できる。

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自動販売機で料金を支払う

NFC方式での支払いは駐車場だけでなく、自動販売機にも広がっている。Coca-Colaは、今年末までに、北米でApple Payに対応した自動販売機を10万台導入するとしている。iPhoneをかざすだけで、清涼飲料水を購入できる (上の写真)。今回の発表イベントでは、Apple Watchで同じ処理ができることを明らかにした。日本ではSuicaを使って自動販売機で支払いをするのは普通の生活だが、米国でもApple Payの影響力でこの流れが始まった。Apple Watchの登場で、ポケットからスマホを取り出す代わりに、腕時計で買い物する方式が注目されている。

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スマートホームを操作する

スマートホームとウエアラブルの連携がトレンドとなっている。Apple Watchとスマートホームが連動するアプリが登場した。上の写真左側は、スマート・サーモスタット「Honeywell Lyric」と連動するアプリ。時計のディスプレイで「外出中」や「就寝」ボタンを押すと、空調が省エネモードとなる。利用者が自宅から遠いところにいると、アプリはメッセージで確認したのち、「旅行」モードで運転する。サーモスタットはApple Watchで利用者の位置を把握し、帰宅すると室内が最適な温度になっている。

上の写真右側は、スマートホーム機器「Lutron」と連動するアプリで、家庭内の電燈をApple Watchで操作する。ソファに座ったままで、「映画モード」を選択すると、室内の照明が落ちる。寝室で「就寝モード」を選択して家全体を消灯する。家を離れている時も操作でき、防犯のため、夜間に電燈を点けることもできる。電燈を点けたまま外出すると、アプリが消すかどうかを尋ねる。

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大型店舗で買い物をする

Apple Watchが買い物の手助けをする。これは大型店舗「Target」が開発したアプリで、買いたい商品の売り場に近づくと、アプリがそれを教えてくれる。事前にiPhoneで買い物リストを作っておき、店舗ではその売り場に近づくと、Apple Watchにメッセージが表示される (上の写真左側、スポーツ用品売り場で自転車を表示)。アプリは消費者の場所を把握し、売り場に関連する買い物リストを表示する。これ以上の説明は無いが、店舗にBluetoothビーコン「 iBeacon」を備えておけば、ピンポイントで消費者の位置を把握できる。スマホにメッセージが表示されるのとは異なり、腕時計を見ながらの買い物は便利に違いない。

定番のランニングアプリ

ウエアラブルの必須アプリはランニング管理。上の写真右側は「Nike+ Running」で、アプリがランニングの走行距離、時間、ペースなどを表示する。iPhoneとペアで利用し、走りながらApple Watchで途中経過を確認できる。ランニング中に友人から応援メッセージが届くと、それをApple Watchで閲覧できる。ヘッドセットとBluetoothで繋ぐと、走りながら音楽を聞ける。ランニングが終わるとアクティビティーのサマリーを表示する。取り立てて新しい機能は無いが、ウエアラブルで一番人気のアプリ。

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Bring Your Own Wearable (BYOW)

早くもApple Watchを仕事に活用するアイディアが登場した。上の写真左側は、米国の先進医療機関「Mayo Clinic」が開発した、医師向けのアプリ。アプリは忙しい医師のスケジュールを管理する。医師はApple Watchを見て、患者がロビーで待っているのか、検査を終えたのかなどを把握する。診察する際には、アプリで患者の年齢、性別、体重などを閲覧し、お洒落に情報にアクセスする。BYOD (Bring Your Own Device) の次は、BYOWが話題になっている。

上の写真右側は、コントラクターが仕事をした時間を管理し、請求書を発行するアプリ「Invoice2go」。コントラクターは、Apple Watchをして仕事場に到着すると、アプリはそれを把握。職場はGeofencing機能で定義され、Apple Watchがその中に入ると、仕事をしているとみなされ、働いた時間を記録する。コントラクターはこの情報を元に、請求書を発行する。支払いを受領すると、アプリが知らせてくれる。

登場しなっかたアプリ

発表イベントでは新しいアプリが数多く紹介されたが、期待に反し登場しなかったアプリもある。これはデジタルヘルス関連で、Apple Watchは、血圧、心電図、皮膚の電気伝導率 (ストレスの度合いを測定)、血中酸素濃度を測定する機能を搭載すると噂されていた。しかし、昨年9月の発表でこれら機能は公表されず、Apple Watchはデジタルヘルスから大きく路線を転換したことが明らかになった。今回もこの路線を踏襲し、高度なデジタルヘルス機能は登場しなかった。これら重要な機能が欠落したままのApple Watchは考えにくく、将来製品に順次搭載されることを期待している。

今まで述べてきたアプリに共通しているのは、Apple WatchがNFCやBluetoothなどでネットワークに繋がり、センサーの役割を果たしていること。Internet of Thingsとして機能し、バックグランドで必要なデータを送受信し、利用者に便利な機能を提供している。Apple Watchが、クレジットカードやドアの鍵となり、リアル社会のツールとして使われる。Apple Watchは、情報表示端末ではなく、Internet of Thingsのセンサーとして捉えれば、製品の狙いが分かり易い。将来は、上述の通り、Apple Watchが身体情報をモニターするバイオ・センサーとしての役割が期待されている。

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お洒落にITを楽しむのがニューノーマル

Appleは製品発表に先立ちPRを展開してきた。上の写真は女性雑誌「Vogue」三月号で、中折の部分に12ページにわたり、Apple Watchのコマーシャルが掲載された。ドレスやバッグと並び、Apple Watchがファッションアイテムとして位置づけられている。Apple Watchのテレビコマーシャルも始まった。お洒落なApple Watchで、秒針が時を刻むように、その機能を次から次へと紹介した。プライムタイムで女性を対象に、ファッション性を前面に押し出したコマーシャルだった。お洒落にITを楽しむのがニューノーマルであるとのメッセージを感じた。