Archive for August, 2015

Deep Learningの実力と限界、人工知能のロードマップ

Friday, August 28th, 2015

人工知能が人類を追い越す特異点「Singularity」は来ない。深層学習「Deep Learning」が大流行しているが、壁に突き当たる。人工知能は、目先の技法にとらわれることなく、本来の目的に向かって進め。つまり、人工知能は人間のインテリジェンスを目指せ。ショッキングで考えさせられる講演だった。

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人工知能開発への厳しい意見

New York University心理学部教授Gary Marcusは、2015年8月、人工知能学会「SmartData Conference」 (上の写真) で、このように講演した。Marcusは、心理学者として、頭脳の知覚機能を人工知能に応用する研究を進めている。GoogleやIBMを中心に、IT業界が人工知能開発につき進む中、その手法は正しいのか、厳しい意見が続いた。

Singularityは来ない

Marcusの発言の根底には、人工知能は我々が考えているより”未熟”である、という考え方がある。その実例として、特異点「Singularity」を挙げた。未来学者Ray Kurzweilは、人工知能が2045年に人類の英知を追い越す、と述べている。この根拠として、ムーアの法則に見られる、技術の「幾何級数的進化」を挙げている。Marcusは、これに対し、幾何級数的な進化はハードウェアの部分で、人工知能を司るソフトウェアの進化は緩慢であると主張。その事例としてApple Siriを挙げた。1964年に、Siriの”大先輩”にあたる「Eliza」がMITで開発された。パーソナルアシスタント機能は、ElizaからSiriに至るまでこの50年間、大きな進化は無い。SiriはElizaに比べ、対応できる分野が広くなったが、幾何級数的な進化は無い。

Deep Learningは統計モデル

人工知能はがんの発見など、社会生活を陰で支えている。Deep Learningで多くの人の命が救われ、生活が豊かになっている。Marcusは、Deep Learningを含む人工知能の技法を正しく理解し、その限界を知ることが重要と述べた。その一つが、人工知能は統計モデルで答えを導き出すこと。これは、人工知能は自分で考えて答えを出すのではなく、統計的に確率の高い事象を示すだけ、ということを表す。このため、人工知能を利用できる分野とそうでない分野がある。統計処理するため、データが豊富な分野では正しく答えるが、特殊な領域では上手くいかない。

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具体的には、IBM Watsonがクイズ番組「Jeopardy」に優勝した事例がある。Watsonは、クイズの答えをウェブ上で検索した。回答の94.7%はウェブ辞書ともいえるWikipediaに載っていたためである。(正確には検索というよりは仮説立案とその検証に近く、IBMはこれを「Deep Q&A」と呼ぶ。) この手法はJeopardyだけに適用でき、一般的な業務には使えない。例えば、ある人物の訴訟について、その論理構成を追うケースでは、データが十分にないのでこの手法は使えない。(上の写真は、シリコンバレーのComputer History Museumに設けられた、Jeopardyのスタジオ。Watsonの対決は、既に、コンピューターの歴史となっている。)

この他に、機械翻訳「Google Translate」が当てはまる。開発当初は言語に関するデータが十分でなく、翻訳精度が低かった。利用者の訛りや言い回しなど、データが集まるにつれ、翻訳精度が向上した。Microsoftの同時通訳「Skype Translator」もこのケースに該当する。登場したばかりのサービスで、ベータ利用者の会話データを収集し、翻訳精度を高めている。つまり、Deep Learningが使えるのは、データが大量に揃っていることが前提となる。これはロングテール問題といわれ、世界の殆どはテールの部分で、Deep Learningを適用できる領域は限られる。

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Deep LearningはBig Data解析

人工知能の重要な技法がBig Data解析で、大量のデータから有益な知見を引き出す。このBig Data解析が大きな制約になっている。Deep Learningは、データ解析で有意な事象を見つけ出すが、その理由は教えてくれない。例えば、AmazonでTaylor Swiftの「Red」を買う人は、Katy Perryの「Teenage Dream」を買ったと表示される (上の写真、一部)。Taylor SwiftのファンはKaty Perryのファンでもあるという事実関係を発見する。しかし、その理由について、人工知能は説明できない。

この他に銀行のローン審査がある。ソフトウエアが膨大なデータから、債権者のパターンを割り出し、ローンの可否を判定する。経験的にリスクの低い利用者のパターンを定義し、それに近い応募者を探し出す。人工知能はローンの可否を人間より正確に判定するが、なぜその結論に至ったのか説明できない。便利なツールであるが、ブラックボックス化して、ローン審査のノウハウを学ぶことができない。

単一の技法で全てを解く

MarcusのDeep Learningに対する評価は手厳しい。Deep Learningが幅広い分野で成功を収めているが、長期的には壁に当たるとみている。この理由は、単一のアーキテクチャーで全ての問題を解決しようとするため。多くの研究者が、Deep Learningという手法で、全ての問題の解決に取り組んでいる。今の成果を発展させれば、多くの問題を解決できると期待しているためである。日常生活で人間は、意識はしていないが、多くの解法を使って重要な判断を下す。これと同様に、人工知能も多くの解法を開発し、これらを総合的に利用すべきと主張する。

Deep Learningの弱点

Deep Learningはイメージを判別する性能が極めて高い。イメージ分類コンテスト「Large Scale Visual Recognition Challenge」で、Deep Learningのこの実力が示された。このコンテストは、120万のイメージに何が写っているかを、1000のクラスに区分けする。2014年度は、Googleが認識率93%の成績で優勝した。Deep Learningは人間レベルの視覚に迫っている。

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しかし、Deep Learningは簡単に”騙される”という弱点も明らかになった。人間にとってみると意味の無い図形でも、Deep Learningを構成するネットワーク「Deep Neural Network (DNN)」 は、これをオブジェクトと判断する。上の写真がその事例で、それぞれ虹色の縞模様であるが、DNNがこれらを読み込むと「マンガ本」(左側) と 「薬キャビネット」 (右側) と判定する。つまり、意図的にこのようなパターンを生成することで、DNNを”欺く”ことができる。この事例の他に、スクールバス、アコーディオン、コピー機、イチゴ、ウミヘビなど多くのパターンが生成されている。これは論文「Deep Neural Networks are Easily Fooled: High Confidence Predictions for Unrecognizable Images」で発表され、人間の視覚とコンピュータービジョンは、根底から異なることを示している。

コンピューターの常識と知識を試験する

人工知能が始めてTuring Testに合格した、というニュースは記憶に新しい。Turing Testとは、コンピューターが人間と同じインテリジェンスを示すことを評価する試験。2014年6月、ロシアのチャット・ロボット「Eugene Goostman」は、13歳のウクライナ生まれの少年で、英語は第二外国語という設定で、試験に臨んだ。33%の審査員がチャット・ロボットは人間であると判定し、初めてTuring Testに合格した。

新たなTuring Testが開発されている。これはコンピューターの機能を多角的に試験するもので、「Turing Triathlon」とも呼ばれる。その一つがコンピューターの常識と知識を試験する「Winograd Schema」。コンピューターに簡単な質問を文章で提示する。

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質問内容は驚くほど簡単だ。上の写真がその事例で、「トロフィーが大きすぎるので、カバンに入らなかった。何が大きすぎたのか。」という質問。この問いはコンピューターにとって難問となる。質問は特殊な構造をしており、言葉の順序など、統計情報から回答できないように工夫されている。対象物が二つ (トロフィーとカバン) 登場し、それが代名詞 (IT) で結ばれる。質問に回答するために、コンピューターは知識と常識に基づく判断が求められる。最初のコンテストが人工知能学会「Commonsense 2015」で実施された。この事例が示す通り、多くの人工知能は、簡単な判断をするまで成熟していないことが分かる。人工知能を搭載したロボットと生活するのは、もう少し先になるのかもしれない。

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人工知能は本来の目的を見失っている

上述の事例から分かるように、人工知能のインテリジェンスは必ずしも高くない。人工知能は、開発当初は、人間のインテリジェンスを目指した。その代表が「Expert System」で、1980年代に、多くの製品が出荷され、AIブームを起こした。(上の写真はLISPマシン「LMI Lambda」、Expert Systemのヒット商品、Computer History Museumに展示されている。) Expert Systemは知識ベース (Knowledge Base) と推論エンジン (Inference Engine) で構成される。知識ベースは世界の事実を格納し、推論エンジンは特定のルールを実行する。このルールを知識ベースに適用することで、新たな知識を生成する。例えば、Expert Systemが弁護士に代わり、法務事務処理をこなした。

その当時、米国企業の多くが導入し、事務作業を効率化した。その反面、コンピューターは学習する機能がなく、システムのアップデートに費用と時間がかかり、やがて使われなくなった。実現方法は別として、Expert Systemのようなインテリジェントなシステムが、再度求められている機運を感じた。日本の第五世代コンピューターを含むExpert Systemは、失敗の象徴として語られるが、目指した方向は正しかったのかもしれない。

健全な開発コミュニティー

人工知能開発者を前に、厳しい意見が続き、会場は重い空気に包まれた。改めて指摘されるまでもなく、既に分かっている、との雰囲気も感じられた。一方、人工知能は本来の目的を見失っているという指摘には、賛同する開発者も少なくない。批判を受けるのは苦痛であるが、多角的な意見があることは、開発コミュニティーが健全な証拠かもしれない。ある方向に突っ走るのではなく、このような意見がチェックポイントとなり、立ち止まって考えることも重要だ。

Goldman SachsがFintechへ逆襲、これからの銀行はハイテク企業!

Friday, August 14th, 2015

米国で銀行がFintech (ITベースの金融サービス) ベンチャーに侵食されている。銀行側は事態を静観している訳ではなく、名門投資銀行Goldman Sachsは逆襲に転じた。同行はFacebookよりハイテクな会社と言われ、銀行の体質を大きく変えている。更に、Uberなど新興企業に幅広く投資し、ベンチャーの手法を学んでいる。米国経済の中枢を支えるGoldman Sachsが次世代の銀行の姿を示す。

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株主総会をサンフランシスコで開催

Goldman Sachsは、2015年5月、株主総会を本社のあるニューヨークからサンフランシスコに場所を変えて開催し、地元で話題となった。今回が二度目のケースで、会長兼CEOのLloyd Blankfeinは、「銀行にとって一番重要な場所はシリコンバレー」と、その理由を説明した。「役員をこの地に連れてきて、何が起こっているかを身をもって体験させる」とし、経営陣のマインドセットをテクノロジーに転換する狙いを示した。技術系企業だけでなく銀行にとっても、シリコンバレーで生まれる技術やカルチャーが大きな意味を持つことを示している。上の写真は、株主総会を開催したビルで、Goldman Sachsがオフィスを構えている。ここはBank of Americaの旧本社ビルで、今でも「Bank of America Center」と呼ばれている。(現在はノースカロライナ州に移転。) 多くの銀行がオフィスを構え、この地区は「Financial District」と呼ばれ、サンフランシスコの金融街を形成している。

テクノロジー企業でないと生き延びれない

Blankfeinは「Goldman Sachsはハイテク企業」と公言している。同行は投資銀行であるが、そのコア・コンピテンシーはテクノロジーであることを意味する。事実、同行の社員数は35,000人で、そのうち9,000人がエンジニアだ。Facebookの社員数が1万人で、Goldman Sachsはそれに匹敵する技術力を持つ。この発言は、銀行はテクノロジー企業でないと生き延びれないという意味で、Goldman Sachsのロードマップを示している。

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ベンチャー企業を社内に招く

それでは9,000人のエンジニアがディスラプティブな技術を開発したのかという質問に対しては、Blankfeinの言葉は歯切れが悪い。各部門で技術開発が急ピッチで進められているが、まだ目に見える成果はない。しかし、Goldman Sachsが転身していることを示す興味深い事例がある。同行はFintech企業を社内に招聘し、共同開発という形式で、ベンチャー企業の手法やスピリットを学習した。

具体的には、人工知能ベンチャー「Kensho」をGoldman Sachsに招き、共同開発を実施。Kenshoはデータ解析ソフトウェアを開発しており、株取引の自動化システムへの統合を目指している。Kenshoは株式市場、気象、選挙、戦争、自然災害など、ビッグデータを解析し、株式売買の判断をサポートする。トレーダーはKenshoの解析データを参照に取引する。

このためKenshoは、実際の株取引で発生するデータを読み込んで試験する必要がある。Goldman Sachsは、Kenshoに同行のシステムにアクセスすることを認め、開発を全面的にサポートした。法令の規定により、顧客データや機密データにはアクセスできなかったが、Kenshoはトレーディングシステムに統合するための貴重な情報を得た。

Kenshoの開発が完了すると、Goldman Sachsがこのシステムの顧客となるというストーリーも描かれた。Kenshoにとっては事業展開の絶好の機会となる。一方、Goldman Sachsとしては、ベンチャー企業を社内に招くことで、技術開発の手法や、開発者たちの考え方を学習した。Goldman Sachsのエンジニアにとって、Kenshoが変革への起爆剤となった。上の写真はGoldman Sachsのオフィス内で、両社エンジニアがパーカーを着て記念撮影をした模様。厳格な社風が変わりつつあることをパーカーが象徴している。

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Fintechベンチャーへの投資

Goldman Sachsのもう一つの戦略は、Fintechベンチャーへの積極的な投資である。上述のKenshoには4780万ドル投資し、会社経営を支えている。Google Venturesなど大手ベンチャーキャピタルも出資しているが、Goldman Sachsが実質的な親会社となっている。Goldman Sachsは、Kenshoの他に、人工知能ベンチャーに集中的に投資している。具体的には、「Antuit」、「Context Relevant」、「DataFox」など、ビッグデータ解析技術に焦点を絞っている。また、決済技術ベンチャー「Square」や「BillTrust」などへの投資を進めている。上の写真はSquareの最新リーダー「Square Contactless +Chip Reader」で、NFC機構を備えApple Payに対応している。

投資の目的はベンチャーの手法を学習すること

Goldman Sachsの投資先をみていくと、Fintechを超える大きな構想が浮き上がる。Goldman Sachsは、2009年から積極的に投資を始め、累計132ラウンドに参加。ここ2年半は投資のペースが上がり、77ラウンドに参加。ここにはUber、Dropbox、Pinterest、Spotify、Squareなど、時価総額が10億ドルを超える企業が含まれている。これらはSquareを除き金融サービスとは無関係で、運輸、クラウド、ソーシャルメディア、音楽分野の企業となる。これら業界でもディスラプティブな技術が登場し、従来型企業の存続が危ぶまれている。

Goldman Sachsがこれら分野に投資する目的は、リターンを得ることではなく、先端技術と関わることを目的としている。具体的には、これら市場で生まれる新技術を学び、既存産業を破壊するビジネスモデルを理解することにある。米国経済を支えるGoldman Sachsとしては、クライアント企業をリードしていくためにも、産業を破壊する技術を第一線で把握するという使命を担っている。

Fintechをどう評価する

Goldman SachsはFintechをどのように評価しているのか、興味深い発言がある。同行Global Investment Research責任者Heath Terryが、Fintechに関する見解を公表した。因みに、Goldman Sachsは、Fintechという用語は一切使用しないで、多くの場合「Shadow Banking」と表現する。本来、Shadow Bankingとは規正法の対象となっていない金融機関を示す用語として使われる。Goldman Sachsは、Shadow Bankingとして表現することで、Fintechが”未公認”金融機関であることを強調する狙いがある。このレポートでは用語を統一し、Fintechと記載している。

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Fintechが誕生した背景

米国でFintechが登場したのは、リーマンショック (Financial Crisis、世界金融危機) が引き金となった。これ以降、米国政府の規制が強化され、銀行の活動が大幅に制限されてきた。更に、銀行の社会的な信用度が低下し、ここにぽっかりと大きな空白地帯が生まれ、Fintechベンチャーが登場した。

Facebookの株式公開もその要因として挙げている。ソーシャルネットワークが巨大ビジネスになることに刺激され、ベンチャーキャピタルは次のFacebookを探した。そこで狙いをつけたのが金融産業で、多くの金融新興企業に資金を投入した。この結果、Fintechベンチャーが数多く登場し、次のGoogleやFacebookを目指し、革新的な技術を開発している。Fintech分野への投資金額は、2014年度が122億ドルで、前年から3倍以上に拡大した (上の写真)。このうち米国市場は99億ドル (棒グラフのオレンジ色の部分) と、Fintechが米国に集中していることも分かる。

銀行がFintechに苦戦する理由

銀行がFintechに苦戦する理由についても述べている。銀行は米国政府の法規制が重い足かせになっている。金融危機以降、規制が大幅に強化され、銀行はより厳格な資本の定義が求められ、融資のために十分な資金を有しておくことが義務付けられた (「Basel III」という法令などの規定による)。同時に、Fintechの優位性はテクノロジーであることも認めている。特に大規模データ (ビッグデータ) とアルゴリズム (人工知能) に着目しており、Fintechは潜在顧客を特定する技術や特定領域での予測モデル (ローン審査など)で優れている。更に、Fintechは店舗を持たず、顧客獲得のコストを低く抑えられるなどの特長がある。規制法とテクノロジーで銀行が苦戦していることが分かる。

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銀行が脅威に感じるFintechベンチャー

更に、Goldman Sachsが注目しているFintechベンチャーについて述べている。企業名は出さなかったが、脅威に感じる技術を公表した。一つは「Socialization」で、金融サービスの普遍化を意味する。富裕層だけでなく、一般消費者も自由に資産管理などを利用できるようになった。もう一つの意味はソーシャルネットで、金融情報を消費者が共有する。これはピアツーピア送金「Venmo」を念頭に置いている。Venmoは手数料ゼロで送金できるだけでなく、若者世代はお金の貸し借りについても書き込み、広く世間に公開する。上の写真がその事例で、Venmoアプリには、お金の貸し借りの情報が氾濫している。このソーシャル機能が若者層を惹きつける。

二つ目は「Transparency」で、これは文字通り透明性を示す。これはピアツーピア融資「Lending Club」を念頭においている。債務者の状況やデフォルトに関する情報をオープンにし、出資者はリアルタイムで投資の状況を把握できる。商品がシンプルで、手数料構造が分かり易い点も評価される。Lending Clubのような透明性が消費者を惹きつける大きな要因となっている。Lending Clubのような企業の登場で、融資市場の収益1300億ドルのうち、10%をFintechが奪うといわれている。

ミレニアル世代について

Goldman Sachsはミレニアル世代 (1980年から2000年の間に生まれた世代) が重要な客層であるとの認識を持っている。ミレニアル世代後半は社会で成功してい人が多く、金融企業にとって大きな収入源となる。しかしミレニアル世代の63%はクレジットカードを持っていない。この理由は、クレジットカードを信用していないためで、ローンの金利 (22%程度) を不合理だと感じる。更に、クレジットカードでの送金手数料についても納得がいかない。上述のVenmoで送金すると、デビットカードは無料だが、クレジットカードだと2%の手数料がかかる。ミレニアル層はVenmoのようなFintechに慣れ、送金は無料のサービスだと思っている。クレジットカードで手数料を取られる仕組みが納得できない。Goldman Sachsは、これら新世代の顧客を如何に取り込むのか、その手腕が問われることとなる。

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先進的な金融機関の対応

Goldman Sachsだけでなく、先進的な金融機関はFintech対応戦略を着々と実施している。サンフランシスコに拠点を置く投資銀行「Charles Schwab」は、投資アプリ「Intelligent Portfolios」の提供を始めた (上の写真)。これはインテリジェントな投資サービスで、自分に合うポートフォリオを設定すると、その後はシステムが自動で売買する。更に、売買手数料は無料とPRしている。このアプリはFintechベンチャー「Wealthfront」にヒントを得て開発されたもので、消費者がどう反応するのか注目を集めている。

サンフランシスコに拠点を置く銀行「Wells Fargo」は金融サービスのアクセラレーター「Startup Accelerator」を立ち上げた。Wells Fargoがエンジェルとして新興企業に出資し、Fintechサービスの開発を後押しする。既に一期生が育ち、光彩認証システム「EyeVerify」など、六社からFintech技術が登場した。しかし、大多数の銀行はFintech対応が遅れているのが実情で、銀行の保守的な体質や巨大なシステムを変革することの難しさも窺える。

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Fintech最大の課題

続々と新技術を生み出しているFintechベンチャーだが、避けて通れない大きな課題がある。Goldman SachsがShadow Bankingと表現するように、Fintechベンチャーは法規制を受けないで事業を展開しているが、ついに米国政府は規制の第一歩を踏み出した。2015年7月、米国財務省は「Treasury Seeks Public Comments on Marketplace Lenders」と題したメモを発行 (上の写真)。これはFintechに対し一般からの意見を求めるもので、オンライン融資サービスを安全に運用し、産業の成長を支えることを目的とする。

同時に、Fintech規制について、検討を始めたということでもある。市場からは、Fintechというイノベーションの芽を摘むべきではないと、懸念の声が上がっている。一方、消費者からすると、Fintechの安全性を担保する構造は必要である。Fintechの経営が破たんし、出資した資金が戻ってこないのでは困る。Fintechの社会的な責任が重くなるにつれ、法規制なしで運用することは考えにくい。Fintechイノベーションを継続しつつ、規制は最小限に留めることが求められ、米国財務省の手腕に注目が集まっている。

米国の東西バランスが変わる

従来、大学を卒業した優秀な人材はニューヨークのウォールストリートに就職していたが、金融危機以降はこの流れが変わり、シリコンバレーのハイテク企業に就職している。新卒者だけでなく、GoogleのCFOであるRuth Poratはニューヨークの名門銀行「Morgan Stanley」から移ってきた。米国の優秀な人材は、ニューヨークからシリコンバレーに移り、西側の重要性が相対的に増している。これら優秀な人材がFintechを含むディスラプティブな技術の開発に従事している。Goldman Sachsがサンフランシスコで株主総会を開くように、シリコンバレーの役割が増し、破壊的技術の誕生が続きそうだ。

もう銀行は不要?Fintechベンチャーが金融業を侵食する

Friday, August 7th, 2015

米国で街から銀行が消えようとしている。銀行機能がオンラインバンキングに移るという意味ではなく、銀行自体がベンチャー企業にとって代わられる。この背後にはFintechと呼ばれるファイナンス革新がある。思いもよらない新技術が登場し、消費者が銀行を離れていく (下の写真)。

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消費者が銀行となる

Fintechベンチャーは数千社にのぼり、斬新な技術がどんどん誕生している。その中で話題のサービスが「Abra」だ。Abraはシリコンバレーに拠点を置く新興企業で、送金サービスを開発している。米国から海外に送金できるだけでなく、送金手数料は限りなくゼロに近い。送金に際し銀行口座は不要で、入金したお金を引き出すときは、ATMではなく「Teller」と呼ばれる人物から受け取る。Tellerは銀行ではなく一般消費者で、市民が銀行ネットワークを構成する。個人タクシー「Uber」のモデルからヒントを受け、銀行というコンセプトが大きく変わろうとしている。

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Abra利用法

専用アプリからこのサービスを利用する。送金する時は、ホーム画面 (上の写真左側) の「Send」ボタンを押し、受取人氏名と金額を記入し送金する。受取人は入金を確認し、お金を引き出す際は、「Withdrawal」画面を操作する。ここで上述「Teller」の場所を確認し (上の写真右側、人型アイコン)、そこに出向きお金を受け取る。この事例は200ドルを引き下ろすところで、受取人はMaria NarezというTellerに出向く。手数料はTellerが任意で設定でき、ここでは1%となっている。多くの場合、コンビニなどがTellerとなり、ネットワークを支えている。

背後でBitcoinが使われる

この背後ではBitcoinが使われ、実際の送金はBitcoinでトランザクションが進む。専用アプリをインストールすると、Blockchainベースの住所録が導入される。(Blockchainとは分散型データベースでBitcoinなど仮想通貨のトランザクションをログする。) 送金では指定した相手にBitcoinが送られるが、利用者からはこのトランザクションは見えない。お金を引き出すときはTellerに利用者のQRコードを示し、本人の認証をする。AbraはBitcoinを媒介としたピアツーピア送金のためのプラットフォームを提供しているだけで、お金には全くタッチしていないし、手数料も取らない。Abraはビジネスモデルを明らかにしていないが、送金トランザクションのビッグデータ解析による広告収入などを目指しているのかもしれない。

二度のクラッシュを経験したミレニアム世代

Fintechの波は銀行だけでなく、証券会社にも押し寄せている。シリコンバレーに拠点を置くベンチャー企業「Wealthfront」は、顧客資産を運用・管理する独自のアルゴリズムで、投資サービスを展開する。ミレニアム世代を対象としており、会員の60%が35歳未満という若い顧客層を抱えている。この世代は、インターネットバブル崩壊とリーマンショックという、二度の市場クラッシュを経験し、投資に自信を失っている。このデモグラフィックスに敢えて狙いを絞り、独自のアルゴリズムで資産運用を始めた。このアプローチが技術志向のミレニアム世代に好評で、TwitterやGoogleを始めとするハイテク企業の社員の間で利用が爆発的に広がっている。更に、サンフランシスコのプロフットボールチーム「49ers」の若い選手の資産運用を任されている。

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ノーベル経済学の理論を取り入れたアルゴリズム

Wealthfrontの資産運用アルゴリズムは、ノーベル経済学の理論「Modern Portfolio Theory」を取り入れ、話題となっている。このアルゴリズムは公開されており、だれでも閲覧し検証できる。更に、Wealthfrontは運用方法を公開しており、この透明性が若い投資家に好まれている。また、クラウドで資産管理を行うことで、最低運用金額が低く設定され、手数料が安いことも人気の理由。

Wealthfrontは、11種の「アセットクラス」を用意しており、利用者は嗜好 (リスク許容度など) に合わせてポートフォリオを決定する。Wealthfrontはこの中から、「米国株式」、「先進国株式」、「新興国株式」、「コモディティー」、「不動産」、「債権」という六種類のアセットクラスを使う。これら六種類のアセットクラスに「Mean-Variance Optimization (設定したリスクでリターンを最大にする)」手法を適用し、最適のポートフォリオを形成する。上の写真がその概念図で、円グラフがアセットクラスの配分を示し、右に行くほどリスクが増す。

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利用者は質問に答え、リスク許容度を算定し、アセットクラスの配分を決定する。上の写真は筆者のケースで、リスク許容度は10点満点中6.0と判定された。これに基づき、六種類のアセットクラスの配分が決定した (下段の棒グラフの部分)。Wealthfrontはこの配分で資産を運営し、配分が変わるごとに「Rebalance」と呼ばれる調整をする。

証券会社がFintechの影響を受ける

大手証券会社はアルゴリズムで資産を運用管理するベンチャー企業に警戒を強めている。Wealthfrontなどがミレニアム市場で急成長しており、その手法に大きな関心を寄せている。サンフランシスコに拠点を置く老舗証券会社「Charles Schwab」は、Wealthfrontの手法を模したアルゴリズムで、これに対抗している。証券市場にもFintechの波が激しく押し寄せている。

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Fintech最大規模の会社

Fintechはベンチャー企業だけでなく、株式を上場し大きく成長した企業もある。サンフランシスコに拠点を置く「Lending Club」がその代表で、2014年12月に株式を公開し、9億ドル募った (上の写真)。現在の時価総額は55億ドルで、Fintech最大クラスの企業に成長した。2006年に創業し、リーマンショック以後は、銀行でローンを組めない人に、ピアツーピア方式で融資した。今では融資を受ける借り手と、融資したい人を結びつけるプラットフォームを提供してる。

銀行やカード会社が債権者となるのが一般的だが、Lending Clubは一般消費者が債権者となる点に特徴がある。Lending Clubは店舗を持たず、低コストで融資できる点が評価されている。債務者の多くは、クレジットカードなどのローンを返済するために、Lending Clubを利用している。Lending Clubを使うと金利が7%安くなるという報告がある。

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Lending Clubの仕組み

融資を受けたい人は基礎データを入力すると、Lending Clubが融資の可否と条件を算定する。応募者のオンラインデータやクレジットレートなどを参照して、ほぼリアルタイムにこれらを算定する。融資金額は1000ドルから35000ドルまでで、ローン期間は原則3年間。

一方、消費者や企業は融資を提供することができる。株式に投資するように、債権者は複数の債務者に投資する。債務者はリスクを指標にポートフォリオ「A」から「G」まで用意されている (上の写真上段)。右に行くほどリスクが上がり、利回りも上がる。同時に、デフォルトに陥る可能性も高まり、利率が大きく変動することになる。Lending Clubは、これら「A」から「G」までの配分を事前にセットしたパッケージを用意している (上の写真下段)。投資者はこのパッケージから、安定したリターンが期待できるもの、または、大きなリターンが期待できるものなど、自分の投資戦略に沿ったポートフォリオを選択できる。

Lending Clubは銀行になる

ベンチャー企業が斬新なFintechを開発し、それが市場で試され、成長を遂げてきた。しかし、Lending Clubのような例外もある。既に大企業となり、市場からその技術が評価され、安定した存在となった。同時に、ベンチャーの時の勢いが影を潜め、急激な成長が見られなくなっているのも事実。Lending Clubは銀行の仲間入りをしたとの声も聞こえてくる。Fintechベンチャーは、会社規模が大きくなっても革新的であり続けられるのか、その課題も見えてきた。

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なぜFintechは米国で生まれるのか

Fintechが米国に集中している理由は、銀行に入ると分かる。筆者の取引銀行はCitibankで、一等地の立派なビルで営業している (上の写真)。しかし、一歩中に入ると空き家のようにガラガラで、人も機材も閑散としている。カウンターには10ほどの窓口があるが、2-3人のスタッフが対応しているだけ。顧客は殆どいなく、待つことなく窓口に直行できる。Citibankのリテール機能はインターネットに移り、スマホ・アプリやウェブサイトで事足りる。海外送金を含む入出金はATMででき、店舗内に入る必要はなくなった。銀行店舗は業務が目的というより、ステータスを表すシンボル的な存在になった。

銀行に行かなくなった米国では、Fintechを利用することに違和感を感じない。もともと店舗を持たないで営業している銀行も少なくない。リーマンショック以降、銀行の社会的ポジションが低下し、Fintechベンチャーとの差異が小さくなった。シリコンバレーで生活すると、銀行業務がFintechに侵食され、店舗が街から消えていく必然性を肌で感じる。