Archive for September, 2015

2030年ヒトはハイブリッドになる、第二の頭脳をクラウドに持つ

Friday, September 18th, 2015

ロボットは幾何級数的に縮小を繰り返し、赤血球ほどの大きさになり、ヒトの体内で機能を発揮する。人工知能がヒトのインテリジェンスを追い超し、我々は体内のロボット経由で、これにアクセスする。つまり、近未来の人類は、自分の頭脳とクラウド上の人工知能を兼ね備えたハイブリッドになる。

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生物学的な頭脳と非生物学的な人工知能

ロボティックスのカンファレンス「RoboBusiness」で、未来学者Ray Kurzweilはこう語った (上の写真)。ロボットと生物学と人工知能についての基調講演だが、SF映画のように余りにも現実と乖離した内容であった。しかしその背後には、Kurzweilのテクノロジーに関する深い理解がある。

Kurzweilの主張を纏めると、次のようになる。テクノロジーは幾何級数的に進化する。しかし、ヒトは生物で、その進化は緩慢である。その結果、人工知能がヒトのインテリジェンスを追い超す。高度に進化した人工知能はクラウド上に実装される。同時に、ロボットは幾何級数的に形状が小さくなり、赤血球程の大きさとなる。これは「Nano Bot」 (ナノロボット) と呼ばれ、ヒトの体内で機能する。ヒトはナノロボットを介して、クラウド上の人工知能にアクセスする。つまり、ヒトは生物学的な頭脳と非生物学的な人工知能を併せ持つハイブリッドとなる。Kurzweilは、これが実現する時期についても明確に予言した。2029年、人工知能がヒトのインテリジェンスを追い越す。これは従来から主張している内容。そして、2030年、ヒトはハイブリッドになる。

テクノロジーの幾何級数的進化

Kurzweilの主張の背後には、テクノロジーの進化は幾何級数的 (「The Law of Accelerating Returns」) であるという基底概念がある。簡単な事例で示すと、1を30回足すと30であるが、幾何級数的に進化すると、30ステップ目では10億になる (2の30乗、倍々に進化した場合)。コンピューター素子が加速度的に進化しているが、これをMoore’s law (ムーアの法則) が示している。IC素子のトランジスター集積度は二年で倍になるとは、余りにも有名な話である。ただ、ムーアの法則はトランジスターについて語っているが、ディスク容量など、それ以外の素子についても当てはまる。

幾何級数的進化はコンピューターだけでなく、遺伝子解析にも当てはまる。ヒトの全遺伝子を解読する研究「Human Genome Project (HGP)」は、幾何級数的に開発速度を上げた。HGPは米国政府の威信をかけた世界最大規模のプロジェクトで1984年に始まった。しかし、開始後7年間でヒトの遺伝子の1%を解読したに過ぎなかった。多くの科学者は、全遺伝子を解読するまでには700年かかるとし、プロジェクトは失敗だとた結論付けた。一方、Kurzweilはこの時点でプロジェクトは完了したと宣言。実際に7年後の2003年に全遺伝子の解読が終了した。この事例は遺伝子解析技術が、幾何級数的に進化していることを示すものである。

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ロボット進化の方向

同様に、ロボット技術も幾何級数的に進化する。ただ、Kurzweilの視点は進化の方向に向けられ、ロボットは幾何級数的に小さくなるとみている。最終的には赤血球の大きさになる (上の写真、イメージ)。このNano Botを体内に注入し、健康管理に役立てる。Nano Botが体内の動きを監視する。例えば、がん細胞に対しT-Cell (リンパ球の一種) が正常に働き、がん増殖を抑えているかを確認する。糖尿病患者に対しては、適量のインスリンが注入さえているかをモニターする。更に、Nano Botが医師に代わり手術を実施する構想も描いている。これを「Microsurgery」と呼び、血管にできた血栓を取り除き、脳溢血を防止する。

Nano Botはロボットであるが、遺伝子を組み合わせた生物体であるとしている。具体的な説明は無かったが、遺伝子編集技術 (Genome Editing) の進化で、遺伝子にDNAを組み込んだり、置き代えるなどの操作が可能となり、目的の機能を持ったロボットができる。事実、今年のノーベル化学賞の受賞候補に、UC Berkeleyなどが開発しているGenome Editing研究が入っている。

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VRとARが完成する

Nano Botは健康管理に留まらず、ヒトの視覚を補完する。Nano Botをヒトの脳内で使うと、本当の意味での「Virtual Reality」(VR、仮想現実)が完成する。現在はVRや「Augmented Reality」 (AR、拡張現実) を実現するには、Oculusなどのゴーグルが必要となる (上の写真)。これからはコンタクトレンズがこの役割を果たすとも言われている。Nano Botが脳内で神経システムとリンクすることで、外部の情報を直接脳にインプットできる。Nano Botが脳の視覚を司る部分とリンクすれば、裸眼で映画の世界に飛び込める。また、裸眼で見ている風景に、補足情報が付加され、本当の意味でのARが完成する。つまり、ヒトは裸眼 (これをReal Realityと呼ぶ) に加え、常に、VRとARを兼ね備える。

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インテリジェンスを補完

Kurzweilが最も力を注いでいるのは、Neocortex (大脳新皮質) をソフトウェアでシミュレーションすること。つまり、ヒトのインテリジェンスを構築することで、究極の人工知能となる。実際に、Kurzweilはこのプロジェクトを、Googleで進めている。(上の写真は脳内の構造をMRIで解析しているイメージ。解析データ量と精度は幾何級数的に増加してる。)

完成した人工知能 (これを 「Neocortex Simulator」と呼ぶ) をクラウドに展開する。ヒトは脳内で稼働しているNano Botを介して、クラウド上の人工知能にアクセスする。脳が人工知能に直接リンクを張る構造となる。ヒトは第二の頭脳を持つ、ハイブリッドとなる。第二の頭脳は、ヒトの頭脳よりはるかに高度な機能を有す。

ハイブリッドとなった人類は何ができるのか、詳しい説明は無かったが、その一端が紹介された。我々の頭脳の性能は限られており、言語を習得するのに、時間がかかる。外国語の習得に10年以上時間を費やすが、それでもマスターできない。クラウド上の第二の頭脳を持てば、瞬時にマスターできる。(Google Glassでスペイン語のメニューを見ると、目の前に英語の翻訳が表示される感覚なのかもしれない。)

Neocortexとは

Neocortexの仕組みを解明するとヒトのインテリジェントに迫ることができる。Neocortexは3億個のモジュールから構成される。3億個のプロセッサーを持った並列計算機である。これらモジュールが、パターン認識の機能を持ち、学習を重ねていく。優秀なプロセッサーであるが、制限もある。3億個あれば言語を習得できるが、上述の通り、新しい言語を学ぶには時間がかかかる。Google代表Larry Pageは3億個ではなく、数十億個のモジュールにアクセスしたいと述べている。

Neocortexの進化

Neocortexは2億年前に誕生したとされる。哺乳類だけがNeocortexを持っている。ネズミのNeocortexは切手ぐらいの大きさと厚さで、このNeocortexが新しい思考の方式を生み出した。イノベーションはNeocortexで生まれる。反対に、Neocortexを持っていない動物の行動は固定的で、決められたパターンに沿って生活する。

Neocortexが急速に進化したのは、6500万年前のことである。地球環境の変化で恐竜が絶滅した (「Cretaceous Extinction Event」と呼ばれる)。75%の動物や植物が絶滅したが、哺乳類は生き残り、繁栄を始めた。これはNeocortexを持っているため、環境の変化に柔軟に対応できたためとされる。これをきっかけに、Neocortexが種族繁栄に役立つことが示され、生物学的に高速で成長を始めた。

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ヒトの頭脳の進化

Neocortexは表面面積が増し、体の大きな部分を占めるようになった。特に、ヒトにおいてはその成長は急で、Neocortexはテーブルナプキンくらいの大きさと厚さになった。複雑に曲がった形状で、脳の80%を占める。上述の通り、ここに3億個のモジュールが詰まっており、我々はここで考える。

その一つの事例がイメージ認識である。文字の認識には100個のモジュールが必要とされる。例えば、「A」という文字を認識するには、モジュールは線や折れ曲がりなど、文字の特徴量を認識する (上の写真)。上位層に行くにつれ、抽象的な概念を把握でき、「A」という文字や「Apple」という単語を認識する。現在ブームになっているConvolutional Neural Network (CNN) の基礎概念である。

更に五階層上ると、抽象のレベルも上がる。香水の香りや音声のトーンなどを理解でき、これらを総合的に判断し、家内が部屋にいることを把握する。更に10階層上がると、高度な抽象レベルに達する。面白いとか、可哀想とか、美しいなどの感情を理解する。

夢物語ではなく研究が進む

Kurzweilのビジョンは壮大で夢物語のようにも聞こえるが、既に研究開発が始まっている。Googleは、Kurzweilの指揮の元、頭脳をソフトウェアでシミュレートする研究を進めている。これがNeocortical Simulatorで、ロボットなどに適用することを目指している。今のロボットは動きを事前にプログラムされ、あくまで定められた行動を取る。これに対し、Neocortex Simulatorを使うと、状況に応じた柔軟な対応ができる。ロボットがヒトのようにインテリジェントになる。

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すでにこの流れは始まっている。Google Glassはヒトの頭脳を補完する目的で開発された。音声で指示すると人類の知恵にアクセスできる。ヒトのインテリジェンスを補完する一つの事例となる。また、パーキンソン病の患者は、脳へのインターフェイスを実装し (上の写真)、外部のシステムと連携する。今は外科手術が必要であるが、赤血球くらいの大きさになると、これを脳の中に注入して利用する。

学会の反対意見

Kurzweilが描くビジョンは壮大であると共に、高い精度で実現されている。未来を予測する確かな目を持っていると評価されている。その一方で、多くの研究者がKurzweilの考え方に異議を唱えているのも事実。ヒトがハイブリッドとなるとの考え方は、頭脳を正しく解釈していないとの意見も少なくない。

人間の価値は抽象的な思考、推論、計算能力で判断すべきでなく、人間である所以は「Consciousness」(自覚、自分の存在を意識すること) を持つことにある、というのがその理由。Consciousnessがあるからこそ、人間は厳しい環境を生き抜いてきた。子供を生み、教育し、文化を継承してきた。そして、家族や友人と社会生活を共にしてきた。人間は生物体であるからこそ人間であるという考えだ。ハイブリッドになると、人間とは定義できない。脳の進化はゆっくりだが、人間として進化すべきという意見もある。頭脳は身体の一部で、全体から切り離すことはできない。頭脳が身体を制御するコンピューターで、頭部に実装されているという考え方は間違いだ、という声も聞かれる。

興味は尽きない

10年ぶりにKurzweilの講演を聞いたが、我々が進もうとしている近未来に驚かされる。Nano Botが脳の中で稼働するのは怖いが、それ以上に、第二の頭脳を試してみたい衝動にかられる。もはやヒトではなくなるのか、それとも感情は自分の脳に宿り、第二の頭脳はウエアラブルの拡張となるのか、興味は尽きない。

また、Kurzweilは年を取っていないようにも感じた。目の前で見ると (年齢は67歳)、肌の色つやが良く、健康なミドルエージと変わらない。Kurzweilは一日、250錠のサプリメントを飲むと言われている。サプリメントが主食になっている。米国を代表する頭脳は、私生活でも一般社会からかい離している。

VWがパンドラの箱を開けた、ソフトウェアで定義されるクルマの不正をどう見抜く

Friday, September 11th, 2015

Volkswagen (VW) の不正の影響が世界に広がっている。次世代のクルマは「Software-Defined-Car」と呼ばれ、ソフトウェアがクルマの性能や機能を決定する。UberやGoogle、またAppleが、自動運転技術を開発している。コンポーネントの殆どがソフトウェアで、ここに庇護や不正があれば、交通事故を含む重大な社会問題が発生する。VW問題は次世代の自動車産業が直面する課題でもある。

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シリコンバレーで衝撃が走る

VWの問題は、自動車産業のハブになりつつあるシリコンバレーで、深刻に受け止められている。EPA (米国環境保護庁) は、2015年9月18日、VWのディーゼル車は排ガス試験を不正にクリアーしていたことを公表した。EPAによると、不正は2009年から始まり、対象車種はJetta、Beetle、Audi A3、Golf (上の写真)、Passatなど人気車種が含まれている。全世界で1100万台の車両に不正ソフトウェア (「Defeat Device」と呼ばれる) が搭載されている。排ガス試験において、不正ソフトウェアが特定の有害物質の基準を満たすよう機能した。

不正のメカニズム

EPAは不正行為の詳細について触れていないが、ニュース番組などがそのメカニズムを報道した。これらを纏めると、不正ソフトウェアの仕組みは次の通りとなる。不正ソフトウェアは、車両が排ガス試験を受けている時だけ作動し、排ガスに含まれている有害物質の濃度を下げるよう働く。排ガス試験を受けていることを把握するために、不正ソフトウェアは車両の様々なデータを総合的に判断する。ステアリングが一定で、駆動系タイヤだけが回転している状態を試験中と判断する。

試験中であると認識すると、不正ソフトウェアは排ガスに含まれるNOx (窒素酸化物) など、有害物質の濃度を低減する。ディーゼルエンジンは、触媒コンバーター (Catalytic Converter) で窒素酸化物を分解する。効率よく分解するには、高温で処理する必要がある。このため、燃料を多く燃やし温度を上げる。これで排ガス試験中は窒素酸化物の濃度が下がり、EPAの基準をクリアーする。一方、燃料を多く使うと車両の燃費が下がる。このため、試験が終わると不正ソフトウェアの機能を停止する。このため走行時には、既定の40倍の窒素酸化物を排出する。

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誰が不正を見つけたのか

不正行為はUniversity of West Virginiaの研究グループ (上の写真) により見つけられた。このグループは「Center for Alternative Fuels, Engines and Emissions (CAFEE)」と呼ばれ、車両に搭載しているエンジンの効率化や環境問題を研究している。CAFEEはVWのディーゼル車を使い、走行時の排ガス濃度を測定した。それをメーカーが発表している値と比較すると、大きな差があることを発見した。

この研究は非営利団体「International Council on Clean Transportation」の依頼で実施された。米国の排ガス規制の実情を把握するのが目的であった。研究結果は2014年に発表され、この団体のウェブサイトに公開されているが、ニュースで報道されることは無かった。一方、EPAがこのレポートに着目した。その経緯は明らかになっていないが、CAFEEからの問題提起があったとされる。EPAはのレポートの結果を元に、独自の調査を行い、問題の確証を掴んだ。EPAはVWに接触し、事実関係を確認した。当初、VWは測定法の違いと説明したが、最終的に、不正行為を認めた。

なぜVWは不正を侵したのか

VWの不正は、ガソリン車が主流の米国市場に、ディーゼル車を販売するためと言われている。米国は2008年に排ガス規制を大幅に強化した。これをクリアーするために、自動車メーカーは複雑な排ガス制御装置を搭載した。これが上述の触媒コンバーターで、排ガスに尿素を含んだ特殊な液体 (Diesel Exhaust Fluid) を吹きかける。これにより窒素酸化物が窒素と水に分解される。この厳しい規制をクリアーするために、不正ソフトウェアを使ったとされる。

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消費者から不安の声

ウェブサイトでは、VWディーゼル車所有者が様々な意見を書き込み、活発に情報を交換している。このまま乗り続けていいいのか、また、排ガス試験を受ける時にはどうするのかなど、多くの疑問が掲示されている。また、環境問題を改善する目的で、VWのディーゼル車を買ったのに、環境を汚染する側に回り、残念だという意見も少なくない。VWはリコールにより不正ソフトウェアを改版すると発表た。ソフトウェアの改版で、窒素化合物の排出量を抑えるために、燃料を多く投入し、処理温度を上昇させる。ひいては、燃費が悪くなり、VWの再販価格が20%ほど下がるとの噂も流れている (上の写真、ハイライトの部分)。消費者に金銭的な影響がでている。

不正検出になぜこんなに長くかかるのか

CAFEEの研究プロジェクトがなければ、今回の不正は検出されていない。世界で1100万台が走っているのに、これほど長期間にわたり、不正が見つからなかったという事実は、背後に重大な問題あることを示している。不正ソフトウェアが巧妙に実行されると、その検出は極めて難しいということだ。インターネットのサイバー攻撃に似ているのかもしれない。PCが高度なマルウェアに感染すると、その検出や駆除が極めて難しいという事態に似ている。クルマの機能や性能がソフトウェアで定義され、不正なソフトウェアをどう検知するのか、大きな問題が社会に投げかけられた。

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自動運転車への影響

クルマがハードウェアからソフトウェアに比重を移しつつあるが、その代表が自動運転車である。Googleは既に、自動運転車プロトタイプを走らせ、市街地での実地試験を展開している。Uberは会社の総力を挙げ、自動運転技術開発に取り組んでいる。AppleはEV開発を決定したと言われ、その一つの機能が自動運転技術となる。

自動運転車はソフトウェアが周囲のオブジェクトを把握し、機械学習の結果に従い、次の進行方向を決定する。ソフトウェアの不正行為は交通事故につながる重大な影響を及ぼす。自動運転車のケースでは、メーカーが不正行為を行うよりは、消費者や第三者がソフトウェア改造をするケースが課題として浮上している。

公聴会などで、技術者はメーカーに対して、自動運転車ソフトウェアを改造することを許諾するよう求めている。目的は業務に沿った自動運転車を開発すること。事実、米国の農業用トラクターの多くはGPSを使った自動運転機能を搭載している。米国の自動運転車の殆どは農場を走っている。これらの多くは、作業を最適化するために、改造された自動運転技術を搭載している。更に、米国のメーカー・ブームで、個人が自動運転車を改造し、独自のクルマを作りたいという欲求も根強い。iPhoneを脱獄 (Jailbreak) し、独自のアプリを稼働させるように、自動運転車の改造が起こる前兆を感じる。自動運転車の不正や改造をどう検出するのか、VW問題は、次世代の自動車産業が直面する課題を示している。

Google自動運転車プロトタイプは自動車ではない、新世代の移動手段

Friday, September 4th, 2015

これが自動車? Google自動運転車プロトタイプを見た時の印象だった。ディズニーランドから抜け出してきた、玩具の自動車のように思えた。同じ自動運転車でも、Lexusベースのモデルとは雲泥の差がある。このプロトタイプが、シリコンバレー市街地を走行し、地区の夏祭りで展示され、生活とのかかわりが深くなってきた。プロトタイプに接して自動運転車に対する考え方が大きく変わった。

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街中での走行試験

Googleはシリコンバレー市街地で、プロトタイプの走行試験を始めた。上の写真はその様子で、テストドライバーが二人搭乗し、市街地を繰り返し走行する。車体は丸みを帯びたシンプルな形状で、必要最小限のパーツで構成されている。余りにも単純化された形状で、一般車両との違いが際立ち、通りでひときわ目立つ存在だ。最高速度は時速25マイル (時速40キロ) に制限され、ゆっくりと走る。

プロトタイプは安全運転

クルマを運転していて、プロトタイプと一緒に走る機会も増えた。プロトタイプの走行は普通のクルマと同じで、ソフトウェアで制御しているとは思えない。安全に走行し、一緒に走って不安は感じない。ただ、安全サイドにプログラムされていると感じる場面もある。例えば、一時停止標識で止まり、左右の安全を確認して発進するが、余裕を持って動き出す。人間だと発進するタイミングだが、プロトタイプは発進しない。すこしイライラすることもあるが、安全運転に配慮した設定になっていることが分かる。最終製品でどう設定されるか分からないが、安全性と効率のバランスが求められる。安全でも渋滞を引き起こすのでは社会生活に支障が出る。

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プログラムエラー?

プログラムエラーと思える事態にも遭遇した。T字路の一時停止標識で止まり、左右の安全を確認して順次発進するが、プロトタイプは動かない。左側のクルマが発進し、プロトタイプの順番になったが、発進する様子はない。一回順番をスキップして、次の回に発進した。複雑な交差点ではなく、何かのエラーで停止したように思える。自動運転車は、次の行動を決定できない時は、動かないでそのまま停止する。人間と同じように、プロトタイプはエラーを重ね、それを学習し技量を上げていく。(上の写真は試験走行するプロトタイプ。)

自動運転車の事故履歴

エラーに関連して、興味深いデータがある。Googleは専用ウェブサイトに、自動運転車が起こした事故の詳細を公表している。このレポートによると、Lexusベースの自動運転車は今年に入り8月までに、合計8件の事故を起こしている。ほとんどが軽い接触事故で、搭乗者が怪我をするなど大きな事故はない。

気になるのは事故のパターンで、全て後ろから追突されている。自動運転車が引き起こした事故はない。赤信号で止まっているところに、背後から追突・接触されたケースがほとんどで、事故の被害者になっている。このことは自動運転車の安全性の高さを示している。一方で、上述の通り、自動運転車は安全サイドにプログラムされているようで、他のドライバーからすると発進のタイミングが合わないこともある。レポートで報告されている事故とは関連しないが、ドライバーは自動運転車の特性を認識し、注意を払う必要があると感じた。

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夏祭りの出し物

シリコンバレーのMountain View地区の夏まつりに、Googleがプロトタイプを展示した (上の写真)。会場では専任スタッフが、プロトタイプの特徴について説明しくれた。プロトタイプのセンサーの種類や、データ処理の仕組みを、分かり易く解説してくれた。興味深かったのは、プロトタイプ車内での操作方法だ。プロトタイプ車内を見ると、搭乗者とクルマのインターフェイスが分かり、設計思想の一端が理解できる。但し、スタッフから車内の撮影は禁止され、カメラに収めることはできなかった。

クルマの操作法

スタッフの説明を纏めると次のようになる。プロトタイプはステアリングもブレーキもなく、行き先を告げると、クルマが自動走行し、目的地まで運んでくれる。その際に、目的地をどうクルマに伝えるかがカギになる。車内には二台のモニターが設置され、搭乗者はここに行き先を入力する。また、スマートフォンから入力する方式も検討されている。

更に、音声認識機能を使い、プロトタイプに語りかけて入力する方式も開発中とのこと。これはGoogle Mapsで行き先を音声で入力する方式に似ている。「OK, Google, get me directions to xxx」という方式の延長となるのかもしれない。クルマを利用する人は子供からシニアまで幅広く、コマンドを入力するのでは使いづらい。タクシーの運転手さんに目的地を告げるように、言葉での操作が必須となる。ここはGoogleの得意分野である、音声認識と自然言語解析の出番となる。

目的地に到着するとクルマは自動で停止し、搭乗者は降車する。異常事態が発生した際には、緊急停止ボタンを押すとクルマは止まる。更に、緊急事態ではないが、クルマの速度を落としたり、停止させるためのボタンがあることをGoogleは明らかにしている。停止や減速を含め、クルマを音声で操作する方式については説明はなかったが、プロトタイプは家電を操作するように、ボタンを押して指示を出す。インターフェイスはスマート家電に似ていると感じた。

車内を覗くと思ったより広く、十分なスペースがある。座席は二人掛けで、大人二人が座っても十分余裕がある。ステアリングの前の部分が大きめのストレージになっている。搭乗して手荷物をここに入れる。車外と同様車内もシンプルの一言に尽きる。シートが二つあるだけで、ダッシュボードなどの機器類は無く、スキーのゴンドラを彷彿させる。

試験走行のための設備

上述の通り、プロトタイプはステアリングやブレーキペダルはないが、試験走行のため、これらを特別に取り付けている。ステアリングは水平に設置され、ホイールに取り付けられたノブを回して操作する。床にはブレーキペダルがついている。ステアリング前方には、スタートボタンと非常停止ボタンが取り付けられている。

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ドアのペイント

ドアの側面にはイラストがプリントされている (上の写真)。これはMountain Viewの街並みを表したもので、人々の生活シーンが描かれている。Googleはイラストのコンテストを実施した。希望する住民にドアの大きさのデザイン用紙が配布され、これにスケッチして応募する。上の写真は応募作品から選ばれたもので、住民の意見を採用した形となっている。米国では、自動運転車に対して不気味な印象を持つ人が少なくない。ロボットが運転する無人のクルマが街中を走り回り、SFのホラー映画を連想する。プロトタイプはかわいいペイントで不気味なイメージを払拭する狙いがある。また、試験走行を重ねている地域社会とのつながりを深める意図もある。

クルマは移動手段

夏祭り会場に展示されたプロトタイプの周りを多くの人が取り囲み、自動運転車に対する興味の高さが分かった。特に若い世代が多く、プロトタイプを背景に自撮りする人もあった。プロトタイプに形状が一番近い市販車は「Volkswagen Beetle」になるかもしれないが、近くで見ると全く別の思想で設計されているが分かる。

プロトタイプは移動するためのツールで、そのために必要な機能だけを搭載している。所有者のステータスシンボルとなるデザインではなく、近くのスーパーマーケットに買い物に行くときの移動手段となる。個人が所有するよりも、タクシー会社や地方自治体が、地域の足として提供するモデルがしっくりくる。プロトタイプを個人が所有するより、オンデマンドで利用する形態が主流となると感じた。プロトタイプは新世代の移動手段を提案しているように思えた。