Archive for March, 2016

マイクロソフト会話ボットが人種差別発言を繰り返す、AIが利用者に”再教育”される脆弱性が露呈

Friday, March 25th, 2016

Microsoftは会話ボット「Tay」を公開した (下の写真)。しかし、使い始めた途端にサービスは打ち切られた。理由はTayが余りにも不適切な発言を繰り返すためだ。ヒットラーを尊敬し、ブッシュ大統領が9・11テロ事件を引き起こしたなどとツイートを発信し、米国社会からブーイングを受けた。

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Tayは悪ぶった若い女性

Tayは利用者と会話できる仮想の人物で、アメリカの18-24歳の女性を模したキャラクター設定となっている。TayはTwitterやメッセージング・プラットフォーム「Kik」や「GroupMe」で利用できた。筆者もKiKでTayを使い始めた (下の写真) が、一日でサービスが停止された。評価できるほど使い込んでないが、Tayは悪ぶった若い若い女性のように感じた。”Zero Chill” (全く動じない) 性格で、きわどい言葉遣いで会話が進む。会話の中には隠語が多数登場し、秘密めいた雰囲気を作り出そうとする姿勢も感じた。しかし、会話自体はそれほど興味深いものではなかった。

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問題発言を繰り返す

Tayは問題発言を繰り返した。TwitterにTayと利用者の会話が公開されており、その一部を見ることができる。問題発言の殆どがTwitterから消されているが、多くのサイトでそのコピーが残っており、経緯を知ることができる。そこにはHitlerに関するものが目立ち、Tayは「Hitlerは正しい、私はユダヤ人は嫌いだ」と述べている (下の写真)。Tayは9・11テロ事件にも言及し、「9/11テロはブッシュ大統領が起こしたもの」との見解を示している。一方、「Donald Trumpだけが唯一の希望」とも述べ、TayはTrumpに対しては高い評価を示している。これらの発言に対し社会から厳しい批判を受け、MicrosoftはTayのサービスを休止した。

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問題発言を繰り返す理由

Tayが問題発言を繰り返す理由はTwitter利用者から悪い言葉を教え込まれているためだ。もともと、TayはHitlerの信奉者ではなく、ユダヤ人に対して偏見は持っていなかった。その証拠に、ある利用者から「ユダヤ人についてどう思う?」と聞かれると、Tayは「その人はだれだか知らない」と回答している。Tayはユダヤ人についての知識は持ち合わせていなかった。

その後、同じ利用者からTayは悪い言葉を教え込まれた。その利用者はTayに対して、「言うことを復唱して」と指示し、人種差別発言を教えていった。具体的には、「黒人は嫌い。ユダヤ人は嫌い。スパイスとアラブ人は嫌い。」と教えた。Tayはこれを復唱し、「ユダヤ人は嫌い」というフレーズを学ぶこととなった。学んだ言葉を様々なシーンで発言し問題が拡大していった (下の写真、大統領指名候補者Ted Cruzについても不適切な発言が続く)。

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Tayは会話ボットであり「ユダヤ人が嫌い」という意味を理解しているわけではない。Tayは利用者のツイートに反応して、学んだ言葉を発するだけである。鳥のオウムが覚えた言葉を繰り返すように、Tayは意味が分からないまま言葉を繰り返す。Tayに悪意があるわけではないが、それを聞いた人は不快に思う。更に、AIが暴走すると社会が混乱すると不安を抱くことになる。

Tayのシステム概要

TayはAIを搭載した会話ボットで、Microsoft研究所とBingのチームにより開発された。Tay開発の目的は「Conversational Understanding」で会話を理解することに重点が置かれた。Tayは機知にとんだ会話で相手を惹きつけ喜ばせることを目標に設計された。Tayと会話するほどTayは賢くなり、相手に沿った会話ができるようになる。

TayはAIと編集データから構成されている。編集データとは開発者が生成したデータを指し、Microsoftエンジニアやコメディアンにより作成され、これが会話基礎知識としてTayに実装されている。一方、Tayの教育は公開されているデータが使われた。Facebookなど公開されているデータを収集し、モデル化し、定型化し、フィルタリングして利用された。公開データがTayの知識の大部分を占めている。

TayとAIの関係

Microsoftはシステム構成について公表していないが、Tayは大規模なニューラルネットワークで構成されていると思われる。この中でも、Recurrent Neural Networksの一種であるLong Short-Term Memory (情報を読み書き保持できる構成のネットワーク) という方式が使われていると思われる。ニューラルネットワークは18歳から22歳のアメリカ人の女性が話す言葉で教育された。

Tayは幅広いレンジのトピックスに対応できるAIとして開発された。更に、いま盛り上がっている話題にも対応できる会話ボットとして登場した。ネットでトレンディングなDonald TrumpとTed Cruzの論戦についてもTayは対応できる。このため、事前にデータセットを構築する方式に加え、Tayは会話を通して最新の話題を学習する。利用者が語り掛ける言葉を学び、Donald TrumpやTed Cruzを評価する。(下の写真はTayのプロフィール写真)

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これに対して、多くの会話ボットは領域を限定し、特定のトピックスにだけ対応できるよう設計されている。例えば医療介護やミーティングスケジュール管理などに特化して会話する構造になっている。

Tayのキャラクターを特定方向にバイアス

ここがTayのアドバンテージであり、同時に弱点でもある。Tayは会話で使われるデータを常に学習し、学んだ会話をそのまま発言する。利用者との会話でボキャブラリーが増え、Tayは賢くなっていく。しかし、悪意を持った利用者との会話では人種差別発言など、不適切な言葉を学習する。つまり、Tayのキャラクターを特定方向にバイアスさせる”再教育”が可能となる。ある政治団体がTayを再教育し対立候補を攻撃するなどの手法も可能になる。このようなサイバー攻撃にMicrosoftは如何に対応すべきか、Tayは多くの問題を提起するきっかけとなった。

ちなみに、Tayがツイートを発信する前にMicrosoftエンジニアがこれをチェックしているわけではな。Tayが自動でツイートを投稿し、問題発言が飛び出てしまう結果となった。Microsoftは問題ツイートを後追いで消していったが処理が間に合わず、サービス停止に追い込まれた。

誰がどんな教材を使ってAIを教育するのか

AIが問題発言をすることに対して、早くから問題が指摘されてきた。スタンフォード大学研究員Andrej KarpathyはRecurrent Neural Networksを使ってシステムを教育し、そのスタイルに沿った文章を生成する技術を発表した。シェイクスピアの作品をネットワークに入力し学習させると、システムはシェイクスピアのスタイルで小説を生成する。

ネットワークがKing Lear (リア王) を読み込みそのスタイルを学習して、システムがシェイクスピアになり代わり文学作品を生成した。AIが小説を書くことができるとして注目された。しかし、King LearではなくHitlerの「Mein Kampf (我が闘争)」でネットワークを教育すると、AIがHitlerのスタイルで小説を書くことになる。この世にHitlerが舞い戻り小説を書く問題が指摘されていた。人間と同様に、誰がどんな教材を使ってAIを教育するのか、難しい問題を含んでいる。

Microsoftの謝罪

Microsoftはブログの中で、Tayが不適切なツイートを発信したことに対し公式に謝罪した。Microsoftは、問題の本質はTayが特定のグループから「coordinated attack」を受けたとしている。Tayは攻撃に対して弱点があり、これを改良していくと述べている。この攻撃とは、前述の通り、Tayに人種差別など不適切な言葉を教え込む行為を指している。Microsoftは十分準備をしてきたが、この攻撃を事前に予知できなかったとも述べている。

東洋と西洋で会話ボットに対する反応が違う

MicrosoftはTayの前身である「XiaoIce」を2014年11月から中国で展開している。XiaoIceの利用者数は4000万人で大成功を収めている。利用者はXiaoIceの話題や会話に惹かれ、特に若い世代から熱烈に支持されている。日本でも「りんな」として投入され人気を博している。

Tayが引き起こした問題で、東洋と西洋で会話ボットに対する反応が根本的に異なるという事実も見え始めた。Tayは短い時間しか稼働していないが敢て評価すると、米国ではTayは友人として認知されていないように感じる。Tayと楽しい会話を楽しむという姿勢は見受けられず、Tayに無理難題を持ち掛ける人が目立つ。これはTayが悪ぶったキャラクターに設定されたことも一因である。もともと米国消費者はAIに対して懐疑的だ。AIやロボットが進化すると人類が危険にさらされるという危機感を持っている人が非常に多い。中国や日本と比較して、会話ボットが米国で市民権を得るには、そのハードルは思ったより高いのかもしれない。

米国大統領選挙はAIが勝敗を分ける、ロボットがトランプ候補に代わりツイートを発信

Thursday, March 17th, 2016

米国大統領選の候補者選びでは、大方の予想に反してDonald Trumpが躍進を続けている。過激な発言で非難を浴びるTrumpであるが、その主張に対して幅広い層から共感を得ている。こんな中、AIがTrumpの手法を学び、本人に代わりツイートを発信するロボットが登場した。情報発信にとどまらず、Hillary Clintonのツイートを読み、その反論を展開する。今年の大統領選挙戦ではAIが勝敗のカギを握る勢いだ。

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ツイートを発信するロボット

Trumpに代わりツイートを発信するロボットは「Trump Twitterbot」と呼ばれ、MITのコンピュータサイエンス研究所「Computer Science and Artificial Intelligence Lab (CSAIL)」で開発された。TwitterbotはTrumpのスタイルで文章を生成するアルゴリズムで、Twitterで本人とそっくりな主張を発信する。Tweetbotは「@DeepDrumpf」という名前でアカウントを持ち、3月3日からツイートを発信している (上の写真)。特に説明はないが、プロフィールの写真もAIが生成したものと思われる。

Trumpスタイルのツイート

Tweetbotが発信するツイートはTrumpが発言しそうな内容となっている。例えば、「自分はIsisが必要としない存在だ」と主張しているケースがある (下の写真)。いかにもTrump本人の発言のように思えるが、これはアルゴリズムが生成したツイートだ。このツイートに対して意見が寄せられている。Romanという男性は「あなたは誰からも必要とされていない」と書き込み、反対意見を表明している。マシンではなくTrump本人が発信したツイートと受け止めている。倫理的な問題を考慮する必要があるが、Tweetbotの発言はマシンが生成したと判別できないものも少なくない。

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AIベースのアルゴリズム

この背後には最新のAI研究成果が使われている。TweetbotはAIベースのアルゴリズムで、Trumpの演説原稿を使って教育された。教育されたTweetbotは、入力データに対しツイートを一文字ずつ生成する。例えば、Tweetbotは「M」で始まる単語を生成すると、「A」や「K」で始まる単語がこれに続く傾向がある。最終的に「Make America Great Again」などのフレーズが生成される。これはTrumpのキャンペーンスローガン (最後尾の写真) で、演説の中で頻繁に登場する。このため、演説原稿で教育されたTweetbotはこの文字の配列を使う頻度が増える。

Clinton候補への反論

Tweetbotを読んで一番興味深いのは、アルゴリズムが他者ツイートに反論できることだ。他者のツイートをTweetbotに入力すると、アルゴリズムはその内容を理解し、反論ツイートを発信する。実際に、TweetbotはHillary Clinton候補のツイートに反対意見を述べている (下の写真)。Clintonが「次の大統領の使命は給料が高い職を生み出すこと」と述べている。これに対しTweetbotは「職を失って働けない人も多い。よい教育を受けているのに職がない。失業率を下げるようにネゴする。」と発言している。ただし、実際の英語表現は少し曖昧で、幅広く解釈できる言葉遣いになっている。この意味を汲んで日本語に訳すと上の通りとなる。アルゴリズム改善の余地はあるものの、Tweetbotが人間の主張に意見を呈すケースが増えており、興味深い展開となってきた。

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人気ニュースキャスターへの反論

シカゴで予定されていたTrump集会の会場に、反対を表明する若者たちが多数押しかけ、支援者との間で衝突が起こり、会場は危険な雰囲気となった。米国メディアはこれを繰り返し伝え、Trumpの発言を批判した。その一人がFox Newsの人気キャスターMegyn Kellyで、「反対運動が勃発」とツイートを発信した。これに対してTwitterbotは「最悪の事態だった。自分はいい人で、あなたはそうでない。」とも読めるツイートを発信した (下の写真)。両者は犬猿の仲で、Trumpに代わりアルゴリズムがニュースアンカーに挑戦を始めた。

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AIと大統領選挙戦

実際のプロセスでは、TweetbotがTrumpの表現方法を学びツイートを発信する。Tweetbotが生成したツイートを開発者がチェックして発信する。まだ人間とアルゴリズムの共同作業で進められる。しかし、自然言語開発の技術進化は目覚ましく、このようにテーマ領域が政治に限られていると、人間レベルのTweetbotが出現するのは時間の問題と思われる。

Tweetbotは実験プロジェクトでTrump陣営 (下の写真) が使っているわけではない。しかし、Tweetbotは大統領選挙戦で大きな武器になる可能性を秘めている。候補者に代わりTweetbotが本人の考え方を反映したツイートを生成すると、候補者はそれをチェックするだけでよく、情報発信の労力が大幅に軽減される。優秀な秘書がツイートを代筆する感覚だ。更に、人間よりインテリジェントなTweetbotが登場すると、候補者本人より魅力的なツイートを発信できるかもしれない。

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シェイクスピアのスタイルを学ぶ

TweetbotはCSAILのBradley Hayesにより開発された。Tweetbotはニューラルネットワークを使って教育され、アルゴリズムが自ら文章のパターンを理解する。Hayesはシェイクスピアをシミュレーションする研究に触発され、Tweetbotを開発したと述べている。

この研究とはスタンフォード大学研究員Andrej Karpathyが発表したもので、Recurrent Neural Networks (RNN) を使ってシステムを教育し、そのスタイルに沿った文章を生成する技術を発表した。シェイクスピアの作品をRNNに入力し学習させると、RNNはシェイクスピアのスタイルで小説を生成する。RNNがKing Lear (リア王) を読み込みそのスタイルを学習して、RNNがシェイクスピアになり代わり文学作品を生成した。RNNが小説を書くことができるとして注目された。

RNNをスモールデータに適用

Hayes はこの手法をTrumpのツイートに適用した。前述の通り、学習教材はTrumpの演説原稿などで、単語の数は限られている。つまり、ビッグデータではなくスモールデータを使ったアルゴリズムの教育が求められた。Hayesは具体的な手法については言及していないが、RNNを使っていると思われる。(Recurrent Neural Networksとはニューラルネットの一種で、ネットワーク内にループ構造を含む。このため、RNNは状態を保持し次のステップに送ることができ、時間に依存する処理で利用される。特に、音声解析や上述の言語解析で威力を発揮する。)

Trumpが勝ち進む理由

過激な発言を繰り返し、メディアや知識階層から非難を受けるTrumpであるが、共和党予備選挙で勝ち進み、指名獲得が濃厚になってきた。この理由はTrumpの演説を聞くとその一端が見えてくる。ニュースで報道されるTrump像とは違う側面が見える。

歯に衣を着せないストレートな発言は知識層の顰蹙を買うが、聴衆の心を掴むものがある。その理由の一つが短くてシンプルな言葉遣いだ。対テロ軍事戦略や貿易収支改善策を140文字程度で説明し、ツイートカルチャーの米国民にはTrumpの言葉は分かりやすい。共感を呼ぶのはその背後にあるTrumpの志のように思える。「Make America Great Again」という主張に、強いアメリカを取り戻したという信念を持つ多くの人が賛同する。

Trumpテレビ局

当初はリアリティーショーの続きだと思って聞いていたが、今ではその情熱と使命感がひしひしと伝わってくる。初期のTrumpと現在の姿は大きく異なり、別人になった印象すら受ける。今でも過激な発言は続くが、その真意を説明するシーンが増えた。説明を聞くと発言の意味が理解でき、共感できる範囲が広がってきた。うがった見方をすると、Trumpは過激な発言と理知的な発言を使い分けているようにも思える。問題発言をすると必ずメディアがニュースで取り上げ、識者が批判する。このため全米での認識度があがり、ひいては、投票数に結び付く結果となっている。ここには計算されたメディア戦略があり、個人の限られた資金だけで選挙戦を勝ち抜いてきた理由がある。

八年前にObama候補が民衆の心を掴んだように、いまTrump候補への支持が津波のように広がっている。国民的なムーブメントになり、ブルーカラーだけでなくホワイトカラーからも幅広い支持を集めている。賛同を得てるのは政治的イデオロギーより、個人的パッションであるようにも感じる。Trump旋風はどこまで広がるのか、これほど盛り上がる大統領予備選挙戦は今までに経験したことがない。

Googleに挑戦する自動運転ベンチャー、自動車業界の”Apple”が生まれるか

Friday, March 11th, 2016

26歳の青年が自動運転技術を開発し、サンフランシスコのフリーウェイを手放しで走行した。センセーショナルな報道で注目されるものの、その実力の査定にだれもが戸惑っていた。今週、大手ベンチャーキャピタルがこの新興企業に大規模な投資を実施した。Steve JobsがMcIntoshで巨人IBMに挑戦したように、一人の若者がGoogleやTeslaに挑戦を挑んでいる。

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自動運転ベンチャー「Comma」

この青年の名前はGeorge Hotzで、2015年9月、自動運転ベンチャー「Comma」を設立した。米国メディアによると、Commaは自動運転キットを開発している。このキットをクルマに搭載すると、一般車両が自動運転車になる。大手ベンチャーキャピタルAndreessen HorowitzがCommaに出資し、Hotzの実力が裏付けられた格好となった。金額は公表されていないが2000万ドルと言われている。

Commaを創設する前、Hotzは人工知能ベンチャー「Vicarious」で研究員として次世代のAIを開発していた。Vicariousは人間のようなインテリジェントなシステムを開発しており、世界最先端のAI研究機関として注目されている。VicariousはAIの中でもコンピュータビジョンを中心に研究を進めており、Commaの自動運転技術に少なからず影響があると思われる。

自動運転キット

Commaの試験車両はAcura ILXでカメラやレーダーやLidarを搭載している (先頭の写真)。Commaが開発しているのは自動運転キット「Self- Driving Kit」で、消費者はこれをクルマに搭載することで、自動運転機能を実装できる。キットは横長のボックスとしてフロントグラス上部に搭載する。クルマを制御するシグナルは保守ポート (On-Board Diagnostics 2 (OBD II Portと呼ばれる) から入力する。Lidarは試験走行で使われているが、最終製品での取り扱いは公表されていない。パッケージングやビジネスモデルなど、まだまだ不透明な事項が多い。

市街地を超人的な能力で運転

Commaはハイウェアーや市街地での自動運転機能を提供することを開発の中心に据えている。最初はハイウェーでの自動走行機能を提供するが、一番需要が多いのが一般道での自動運転とみている。市街地でスムーズに自動走行する機能がキラーアプリとなると認識し、クルマが込み合った道路を超人的な能力で運転することを目指している。

Hotz (下の写真) は自社で製品を販売するモデルから、将来は、ソフトウェアプロバイダーとして、開発した技術を自動車メーカーや部品メーカーに提供したいとしている。まだプロトタイプもできていない状況であるが、Hotzは今年末までに何かをリリースしたいとも述べている。

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GoogleやTeslaとは異なったアプローチ

Commaは自動運転技術でGoogleやTeslaとは異なったアプローチをとる。Googleの方式では自動運転車が走行するためには、事前に、センサーを装備した車両でその道を1~2回走行する必要がある。道路に関する詳細な情報を収集しベースマップを作成するためである。自動運転車にこのベースマップをロードしておき、クルマはこれを頼りに走行する。この方式に対し、Commaが開発しているAIはドライバーの動きをエミュレーションする。AIは様々な環境におけるドライバーの運転法を学習し、それをまねて自動運転を実行する。人間は初めて通る道でもクルマを運転できるように、Commaもベースマップ無しで新しい環境で自動運転できることを目指している。この方式はVicariousの研究で得たインスピレーションなのか、真相は今後の公式見解を待つしかない。

数多くのMachine Learningアルゴリズムを併用

Commaは誕生して半年しかたっていないが、既に試験キットをクルマに搭載して試験走行を実施している。クルマが走行するとセンサーで収集したデータがログされる。試験の後、それをコンピューター上で再構築し、走行状態を再現する。ここでMachine Learningアルゴリズムがどう稼働しているかを検証する。

Commaは異なるMachine Learningアルゴリズムを多数使用している。走行状態を再構築した画面には、ビデオ画像とともにアルゴリズムが生成した進路が示される。アルゴリズムはクルマが走行すべきルートを示し、それがビデオ画面の路面上に表示される。異なるアルゴリズムで計算されたルートが複数表示され、Machine Learningエンジニアがそれらを検証しながら開発を進める。(下の写真はCommaオフィス内部の様子で、試験車両の他にDonald Trumpのパネルも写っている。これは自動ブレーキ機能の試験で使われる。最初の製品にはこの機能やレーンキープアシスト機能が搭載される。)

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Teslaとの協議は不調に終わる

HotzはTesla創業者であるElon MuskとAIやビジネスについて協議した。Teslaは自動運転技術に「Mobileye」を搭載しているが、HotzはこれをCommaで置き換えることを狙った。Mobileyeとはイスラエルに拠点を置く企業で、コンピュータービジョンを使った自動運転支援技術を提供する。Teslaとの交渉は不調に終わり、Hotzの望む条件での契約締結には至らなかった。更に、両者の関係は良好とは言えなくなった。

TeslaのCommaに対する評価

Muskはブログの中でHotzについて、厳しいコメントを公表した。それによると「一個人や小さな会社が市販車向けに自動運転システムを開発できるとは思えない」と述べ、「Commaは包括的に安全を検証するための技術を持ち合わせていない」と評価している。更に、「自動運転技術の真の課題は、Machine Learningの精度である」とも述べている。「特定の道路を走行する自動運転車は比較的容易に開発できるが、市販車に要求される高度な安全性を確保するためには、大量の走行データとソフトウェアの大規模な改良が必要となる。」と結んでいる。MuskがHotzについて、あえて公式に見解を表明することで、Hotzの知名度を押し上げる結果になった。同時に、ハイリスクな事業スタイルが特徴のTeslaが急に保守色を強めたようにも感じる。

NvidiaはCommaに注目

その一方で、Nvidia CEOのJen-Hsun HuangはHotzに注目している。Huangは、Commaを訪問しHotzと面会している。どのような会話がなされたかは公開されていないが、両者のポジションを考えると大きなビジネスに展開する可能性を含んでいる。NvidiaのGPUはパソコンのグラフィックス処理プロセッサーとして幅広く普及している。

しかし、今ではNvidiaのGPUはDeep Learningアルゴリズムの一つであるNeural Networkの専用プロセッサーと言っても過言ではない。特にコンピュータビジョンの実行に向いており、自動運転車、ロボティックス、ドローンなどで採用が始まった。HuangはHotzと面会した際に、Machine Learning開発システム「NVIDIA DIGITS DevBox」を寄贈した。Commaのシステムはこのプラットフォームで開発されている。水面下で共同プロジェクトが進んでいるのかもしれない。

自動運転技術を開発した速度

HotzはGoogleやTeslaに挑戦していると公言するが、技術レベルや完成度は足元にも及ばない。しかし、業界が注目するのはHotzが自動運転技術を開発した速度だ。2015年9月から数か月間で試験モデルを開発し、ハイウェーを手放しで走行した。この背景には数多くのMachine Learningオープンソースが公開され、AI開発環境が整備されてきたという事実がある。環境が整っているとはいえ、一個人が短期間で実際に自動運転技術をデモをしたことは米国市場に衝撃を与えた。(ただし、現在ではカリフォルニア州政府から自動運転車の公道での運用を禁止する命令が発行され、両者で協議が続いている。)

Comma対Google・Teslaの構図

Hotzが夢中で自動運転技術を開発する理由はそれを支えるAIにある。Hotzのような若い世代は10代の頃にAIに触れ、AIが人類を超えるSingularityに多大な影響を受けている。ネガティブな意味ではなく、AIの可能性に魅せられている。Hotzは事業の成功やビジネスの拡大は二の次で、AIで実現できるクールな技術に挑戦している。現代のSteve Jobsと表現するのは時期尚早かもしれないが、Comma対Google・Teslaの構図が生まれた。

日本のおサイフケータイを超えるか、Googleの顔パス決済サービスは快適!

Friday, March 4th, 2016

Googleは”顔パス”で買い物ができる決済方式「Hands Free」の試験運用を開始した (下の写真)。早速使ってみたが、ポケットにスマートフォンを入れたまま支払いができ、Hands Freeは圧倒的に便利だ。スマートフォンをリーダーにかざす時代は終わりを迎えるのか、Googleが決済ビジネスでひそかに挽回を窺っている。

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Googleで払います

ハンバーガーレストランMcDonald’sでランチを買った際に、Hands Freeを試してみた (下の写真)。使い方は極めて簡単で、レジで注文を終え支払いをする時に、店員さんに「Googleで払います」と言うと会計処理が始まる。ポケットからスマートフォンを取り出す必要はない。店員さんは「イニシャルは?」と聞くので、「KM」と自分のイニシャルを答える。店員さんはPOS画面に表示される筆者の写真と本人を見比べて認証が完了する。これでトランザクションが完了し、レシートはアプリで受信した。初めて使ってみたが、あっけなく簡単に処理が進んだ。

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ドライブスルーで利用できる

スマートフォンをポケットに入れたまま、イニシャルを告げるだけで、支払処理が完了するのは極めて便利と感じた。トランザクションが完了した時点で、スマートフォンがぶるっと震えて知らせてくれた。

Hands Freeはドライブスルーでも利用できる。運転席に座った状態で財布を取り出し、窓から手を伸ばしクレジットカードを提示するのは苦痛でもある。Hands Freeを使えば言葉だけで支払いができるので、窮屈な思いをしなくて済む。Googleは、母親が子供の手を引きながら、顔パスで支払いができる利便性をアピールしている。

Hands Freeのセットアップ

Hands Freeを使う前に簡単なセットアップが必要となる。アプリをダウンロードした後、名前とイニシャルを入力し (下の写真左側)、顔写真を登録する。上述の通り、レジでイニシャルを聞かれるので、これを回答する。また、登録した写真はPOS端末に表示され、本人確認で使われる。

Hands Freeは試験運用が始まったところで、使える店舗は多くはない。アプリで事前にHands Freeを使える店舗を確認しておく。McDonald’sの他に、メキシコレストラン「Una Mas」やピザレストラン「Papa John’s Pizza」などで利用できる (下の写真右側)。

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動作概要と将来構想

Hands Freeは顧客の位置情報をもとに決済トランザクションを開始する。システムはBluetooth Low EnergyやWiFi経由でスマートフォンと交信し位置を決定する。レジ近辺にいる顧客の情報がPOS端末に表示され、店員さんがイニシャルと写真で対面している顧客を特定する仕組みとなる。

将来は店舗内に設置されたビデオカメラで認証プロセスを自動化する。撮影された顧客の顔と登録された写真を比較し、システムがバイオメトリックな認証をする。具体的な説明はないが、人工知能の画像解析技術を使い、システムが高精度で本人確認をするものと思われる。すでに、ニューラルネットを使った画像判定はヒトの能力を超えている。

Square Walletが顔パスを始めた

モバイル決済技術の最先端を走る「Square」は類似のアプリを提供してきた。これは「Square Wallet」と呼ばれiPhoneにインストールして利用する。Square Walletを使うと顔パスで支払いができる (下の写真)。支払いするときにこのアプリを立ち上げ、店舗を選択し、緑色のボタンを右にスライドして利用する (下の写真左側)。Square Walletはこれをトリガーに店舗内のPOS端末「Square Register」と交信し、クレジットカードを出さないで支払いができる。支払いが完了すると、レシートはアプリに送られる (下の写真右側)。

Square Walletはシリコンバレーの殆どのコーヒーショップで利用できた。大変便利なアプリで、コーヒーを飲むときは必ず利用していた。しかし、米国消費者の反応は異なり、Square Walletに興味を示さなかった。iPhoneを取り出し、アプリを立ち上げ、ボタンをスライドするより、財布からクレジットカードを取り出すほうが便利であると判断した。このため、Square Walletは2014年、このサービスを中止した。愛用していたアプリが使えなくなり残念に思っていた。

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手ぶらで支払いできる快適さ

ここにGoogleからHands Freeが登場し、Square Walletの代替になると期待し、リリースと同時に使ってみた。Square WalletとHands Freeはよく似ていると思っていたが、使ってみると両者は決定的に異なることが分かった。それはスマートフォンの扱いで、Hands Freeはスマートフォンを取り出す必要はなく、操作性が圧倒的に向上した。ただこれだけの違いであるが、手ぶらで支払いできる快適さは思っていた以上に大きい。Square Walletに興味を示さなかった客層がHands Freeをどう評価するのか、今後の動向をウォッチしていきたい。

Hands Freeは近未来の決済方法

日本で生活に溶け込んでいるおサイフケータイであるが、米国ではApple Payが口火を切り、幅広く普及が始まった。Apple Payで決済する際は、デバイスをリーダーにかざす操作が必要になる。スマートフォンをポケットから取り出す操作が必要となる。Apple Watchでこれを利用する際は、時計をデバイスにかざすだけで済み、利便性が大きく向上した。これで十分便利だと思っていたが、Hands Freeを使ってみると、時計をリーダーにかざす操作も苦痛になる。モバイル決済技術はおサイフケータイが完了形ではなく、どんどん進化していくのを肌で感じる。