オバマ政権の大地震への対応

東北関東大震災では、日が経つに連れて、その規模の大きさに驚かされた。皆様のご家族、また、会社の方々は大丈夫でしたでしょうか。被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。

g201a_earthquake_obama

アメリカ・メディアの反応

地震と津波の様子は、アメリカのメディアで克明に報道され、人々は被害の甚大さに驚いた。一方、今は福島原子力発電所の災害の様子が、ニュースの主流となり、アメリカ人の関心は、原子力発電の安全性問題に集中している。被災地への支援活動は始まったばかりで、多くの人が助けを求めているが、アメリカでのニュース報道は、原子力発電所事故一色になっている。更に、事故を起こした原子炉と同じモデルが、アメリカ国内でも稼動しており、旧式の原子炉は停止すべきという意見が強まっている。オバマ大統領は、Green Economyとして原子力発電への回帰を決めたが、アメリカのエネルギー政策は見直しを迫られている。原子力発電所の事故は、日本の問題だけでなく、アメリカにとっても喫緊の課題となっている。

アメリカの主要ネットワークは、看板キャスターを日本に派遣して、東京から、原子力発電所事故のニュースを放送している。CNNは、戦争や災害現場からの中継を手掛ける、Anderson Cooper (アンダーソン・クーパー、上の写真、出展:CNN) が、東京から刻々と最新ニュースを送っている。地震発生当初は、津波による被害の惨状や、これに立ち向かう日本人の様子を報道してきたが、今では、原子力発電所のレポート一色である。CNNは、福島第一原子力発電所1号機と3号機の水素爆発の様子を、繰り返し放送し、専門家の解説を交えながら、事態が危機的な状況にあることを報道している。黒煙を上げて爆発する3号機のイメージが、アメリカ人の頭に焼きついた。

g201b_earthquake_obama

オバマ大統領の対応

オバマ大統領は、地震発生直後から、日本への支援を表明し、国民に救援活動や復興のために、寄付をすることを訴えている。ホワイトハウスのウェブサイトでは、Foreign Policyの中に「Japan Earthquake and Tsunami」という項 (上のスクリーンショット、出展:The White House) を設けて、日本の災害に関する情報を発信し、日本への支援を呼びかけている。オバマ大統領の対応が一変したのが、3月17日である。この日、オバマ大統領は、「We Will Stand with the People of Japan」 (我々は日本の人々を支える) という演説を行なった。この演説は、アメリカ国民に、日本への援助活動の様子と、原子力発電所で起こっている問題を、説明する目的で行なわれた。更に、オバマ大統領は、アメリカ国内で多くの原子力発電所が稼動しているが、安全であることを強調し、Nuclear Regulatory Commission (NRC、原子力規制委員会) に、災害が発生した際の安全性を再検証する指示を出したことを説明した。オバマ大統領の異例の演説は、アメリカ国内で広がっている動揺を抑えることにあるが、アメリカ政府が事態の重大性を格上げしたことを窺わせるものである。

g201c_earthquake_obama

原子力発電所事故の査定

その前日、3月16日に、NRCの会長であるGregory Jaczko (グレゴリー・ヤズコ) は、連邦議会の委員会公聴会で、原子力発電所事故について報告している。公聴会では、事故の現状と分析が報告され、これをアメリカで稼動している原子力発電所に、如何に反映すべきかが議論された。NRCは、アメリカ政府の独立機関で、1975年に設立され、現在では、原子力発電に関する安全性の管理を行なっている。また、NRCは、独自の調査で、福島原子力発電所からの、放射性物質の拡散の査定を公表している。NRCは、原子力発電所から50マイル (80キロ) 以内は退去するように勧告 (上のスクリーンショット、出展:NRC) している。その根拠は、人体が被曝できる放射性物質の許容量は1 rem (10 ミリ・シーベルト) であるとしている。日米間で退避勧告の距離が違う点について、メディアから追求されると、NRCはアメリカ国内の基準に準拠しており、日本政府の判断は理解できると、苦しい答弁で日本政府を擁護している。

アメリカ国内では、福島原子力発電所の放射性物質が、ジェットストリームに乗って、アメリカに到達することを恐れている。オバマ大統領の演説や、テレビのニュースで繰り返し、放射性物質は拡散して、アメリカにはまったく影響がないことを説明しているが、多くの人が薬局でPotassium Iodide (ヨウ素剤) を買い求めている。アメリカ国内の環境問題を担当しているEnvironment Protection Agency (EPA、環境保護庁) は、福島原子力発電所での事故を受けて、放射性物質の観測地点を、アラスカやハワイなど、7箇所を増設した。EPAは、従来から、全米100箇所余りで、大気中、飲料水、ミルクなどに含まれる放射線量を測定をして、ウェブサイトで公開している。

g201d_earthquake_obama

EPAのウェブサイト (上のスクリーンショット、出展:EPA) にて、Google Maps上に示された観測点をクリックすると、ほぼリアルタイムで放射性物質の量を閲覧できる。また過去の測定データも検索できる。因みに、3月19日のサンフランシスコでの観測データを見ると、ベータ線及びガンマ線を放出する放射性物質の数量はほぼゼロで、事故の影響は全く見られない。この放射線観測ネットワークは、アメリカが核実験を始めた際に構築された冷戦時代の遺物であるが、今回の事故では、貴重なツールとなっている。

国防省の支援活動

国防省は、地震と津波による被災者救済のために、日本の自衛隊の活動をサポートする形で、救助活動を展開している。この任務には、アジア・パシフィック地域で展開しているPacific Command (PACOM) が従事している。PACOMはこの任務を「Operation Tomodachi」(友達作戦) と命名し、地震発生直後から救援活動を展開している。この作戦で展開している艦船は、Ronald Reagan (空母)、Cowpens (巡洋艦)、Tortuga (揚陸艦)、Essex (揚陸艦) 等である。

g201e_earthquake_obama

上の写真は、指揮艦であるBlue Ridgeで、シンガポールから被災地に向けて、北上している様子である。この写真は、FacebookのBlue Ridgeのページから引用した。Facebookのページには、任務に当たる兵士に、様々な人から激励のメッセージが届いている。PACOMによる救援活動は、ウェブサイトやFacebookやFlickrなどで紹介されている。アフガニスタン・イラン戦争で、世界から非難を受けているアメリカ軍であるが、ソーシャル・メディアを利用して、PR活動に力を入れ、人気回復を目指している。

国防省の放射能対策

国防省の発表によると、U.S Northern Command (アメリカ本土を管轄する部隊) から、9人の放射線専門要員が日本に派遣され、更に、450人の放射線対応部隊が待機しており、必要に応じて展開するとしている。被災地で展開している隊員は、Dosimeter (放射能吸収量測定装置) を携帯しており、隊員が被曝した放射線量を測定している。更に、この部隊はヘリコプターや飛行機に測定器を搭載し、放射線量をモニターしていると公表している。

g201f_earthquake_obama

また、国防省は、RQ-4 Global Hawk (上の写真、出展:Department of Defense) という無人偵察機を、Andersen Air Force Base (グアム) から展開していると表明している。Global Hawkは、被災地の様子を高高度から高解像度の写真撮影を行なうことができ、ほぼリアルタイムで災害の様子を把握できる。Global Hawkは、イラクやアフガニスタンで軍事目的に使用されているが、ハイチ大地震から、災害復興のために利用されている。更に、U-2偵察機が、Osan Air Base (韓国) から展開しており、被災地の写真撮影を行なっている。

NBC Newsは、原子力発電所からの放射能について、WC-135 Constant Phoenix (下の写真、出展:Department of Defense) により測定されると報道している。WC-135は、Offutt Air Force Base (ネブラスカ州) を飛び立ち、日本に向かっているとしている。WC-135はBoeing 707を改造したもので、放射性物質を測定する機能を持っており、チェルノブイリ原発事故の後に投入され、大西洋上の放射線量をサンプリングした。また、最近では、2006年と2009年の北朝鮮の核実験による放射能を測定するために飛来している。PACOMは、独自のネットワークと機材で、放射性物質拡散のモニタリングを行なっている。

g201g_earthquake_obama

民間企業からは、衛星写真を使って被災地や原子力発電所をモニターしている。Digital GlobeはLongmont (コロラド州) に拠点を置き、衛星からリモート・センシングを行なっている。この画像は、Google EarthやMapsなどで使われている。Digital Globeは、同社のウェブサイトで「Japan Earthquake and Tsunami」と題して、災害の状況を時系列に掲載している。この中には、福島原子力発電所の建屋の様子を高解像度で捉えて、一般に公開している。非常事態になってみると、危機管理技術はアメリカに依存していることに気付く。安全を担保するためにも、日本の独自技術が必要と痛感する。

エネルギー政策論と情報の透明性

福島原子力発電所の事故を受けて、ドイツや中国では、原子力発電所の建設を停止するとの報道があり、世界のエネルギー政策が変わりつつある。アメリカも同様に、今後のエネルギー供給はどうあるべきかの議論が、一斉に沸きあがった。アメリカの場合は、ドイツのように明快ではなく、原子力発電所建設反対派と推進派が拮抗しており、様々な議論が起こっている。ざっくり表現すると、リベラル派は、従来から原子力発電の危険性を指摘しており、今回の事故を切欠に、原子力発電への回帰を中止すべきとしている。保守派は、BPのメキシコ湾での原油流出事故で、沿岸での採掘が停止となったうえに、原子力発電所の建設も中止すると、アメリカ経済への打撃が大きすぎると主張している。アメリカ国内では、両陣営とも、日本で発生した原子力発電所の事故に、衝撃を受けている。原爆の被爆国である日本は、原子力に対する安全性に、世界で一番敏感である。世界最高の技術を持っている日本が、原子力発電所を安全に運転できないことは、アメリカのリベラル派と保守派に、一様に衝撃を与えている。

これからアメリカのエネルギー政策論を展開していく上で、原子力発電所事故のデータが鍵を握る。事故が発生した原因、その対応策と結果、更に、放射能汚染の範囲や影響など、様々なデータが必要となる。オバマ大統領が進めている、Open Governmentをヒントに、菅内閣は、国防上の機密情報を除いて、全てのデータを開示する必要がある。これらのデータをマシンリーダブルとして、APIを公開し、各国の政府関係者だけでなく、一般市民にも公開すべきである。具体的な方法はともかく、政府関係者の人員は限られており、市民の優秀な頭脳も利用して、対応策やこれからのエネルギー政策を議論する必要がある。まだ数多くの被災者が、今日の食べ物と薬を求めているときに、明日のエネルギーを議論するのは心苦しいが、復興に向けて、日本の優秀な技術力を活用するときである。

One Response to “オバマ政権の大地震への対応”

  1. 喜田道夫 says:

    宮本さん。とってもいい記事ですね。いまの時点で読んでも、内容が新しいです。日本人とマスコミが世界の考え方と完全にずれてしまった状況を今後も発信してください。

Leave a Reply

You must be logged in to post a comment.