ウェアラブル・スマートキー~心臓の鼓動で認証、手を振ってドアをアンロック

Samsungを筆頭に各社からスマートウォッチが出荷され、市場は急速にウェアラブルに向っている。しかし、スマートウィッチは消費者の心を開くコードを見出せなく、市場から厳しい評価を受けている。この市場では、ベンチャー企業から斬新なウェアラブルが登場している。Toronto (カナダ) に拠点を置くBionymは、リストバンド型のスマートキー「Nymi」を公開した (下の写真、出展はいずれもBionym)。Nymiは利用者の心臓の鼓動で本人確認を行い、パソコンの前に座るだけで、システムにログインでき、オンライン・ショッピングの決済が完了する。

g335_bionym_01

ECGシグナルで本人を特定

Nymiはリストバンドにセンサーを実装した形状のスマートキーで、これを時計のように手首に着装して利用する。Nymiのセンサーが利用者のECG (Electrocardiography、心電図) を読み取り、本人であることを確認する。利用者は、Nymiを着装する時に、反対側の指でNymi表面の金属プレート (上の写真の楕円形の部分) にタッチする。Nymi底部にもセンサーがあり、腕に接触し、回路が形成され、ECGを計測する。このECGをバイオ・シグナルとし、本人を特定する。病院で使われるECGは手や足や胸など複数個所に電極を張り付けるが、Nymiは二点で測定できる点に特徴がある。

手を振って自動車のトランクを開ける

利用者はNymiを腕につけ、スマート・デバイスを操作する。自動車では、トランクの前で腕を上げるしぐさをすると (下の写真)、トランクが開く。これはNymiに搭載されているモーション・センサーが腕の動きを感知し、トランクを開ける指示を自動車に発信し、この命令が実行される。同様に、自動車に乗る際は、ドアのそばで手でドアを開けるしぐさをすると、ドアがアンロックされる。Nymiと自動車はBluetooth Low Energyで交信する。

g335_bionym_02

パソコンやタブレットに対しNymiがパスワードとなる。パソコンを起動する際に、パソコンの前に座るだけで、システムにログインできる。タブレットを起動したときは、Nymiが自動で四桁のPINを入力する。ウェブサイトでオンライン・ショッピングする際は、Nymiが認証処理を行う。小売店舗で買い物をした際には、レジでクレジットカード・リーダーにNymiをかざすだけで支払いが完了する(下の写真)。

g335_bionym_03

Nymiでテレビを操作する

自宅に帰りドアの前に立つと、ドアが自動でアンロックされる。これはNymiのProximityセンサーを使っており、設定されたレンジに入るとドアがNymiと交信し命令を実行する。部屋に入ると、Nymiはスマート・アプライアンスと交信し、空調のスイッチを入れ、テレビの電源を入れる。サーモスタットは、利用者の好みを理解しており、最適な温度に設定される。テレビは、利用者が見ていたNetflixにチャンネルを合わせ、見終えたところを表示する。テレビは、ここから再生するかと質問し、利用者は、腕をまわしてYes/Noを答える (下の写真)。Nymiを腕から外すとこれら機能は停止される。

g335_bionym_04

Nymiは「認証」と「通知」を行うデバイス

パソコンやスマートフォンを利用するときは、パスワードを入力して本人確認を行う。iPhoneでは四桁のPINを入力するか、iPhone 5sでは、指をホームボタンにあて、指紋認証を行う。Nymiは、スマートフォンを持つだけで、「認証」が完了する。Nymiがスマートフォンと交信し、PINを自動で入力する。Nymiは、スマート・アプライアンスで威力を発揮する。Nymiはデバイスの使用を許可されるだけでなく、デバイスは利用者を特定でき、本人の嗜好に沿った設定を行える。上述の空調やNetflixがこの事例である。Nymiのもう一つの機能は「通知」で、スマートフォンにメッセージを受信すると、Nymiが振動しその旨を伝える。また、Nymiがスマート・デバイスと交信する際も、利用者に振動や表面のLEDライトで知らせる。

ECGで正しく認証できるのか

Nymiは、前述の通り、利用者のECGを利用して本人の特定を行う。指紋や光彩は、本人を特定できるバイオメトリックスとして実績があるが、そもそもECGで本人を特定できるのか。Bionymによると、NymiはECG Biometric Verificationという方式で、心臓の活動を電気的にモニターし、その波形を認証に使用している。ECGで計測されたデータは個人に特有のシグナルであることが学術的に検証されてきたとしている。それでは、ジョギングした後にNymiを着装すると、上手く認証ができるのかという疑問も浮かぶ。Bionymは、NymiはECGの波形をバイオ・シグナルとして使っており、心拍数が上がっても、波形は本人固有のシグナチャーを含んでおり、本人認証に利用できるとしている。一方で、上手く認証できない際は、休憩してから再度行うことを推奨している。

ECGデータを利用することへの不安

Nymiの最大の懸念材料はプライバシーである。iPhone 5sの指紋認証機能が、バイオメトリックスに内在するプライバシー問題を喚起し、波紋が広がっている。生体情報が取得され、解析されることに対しては、消費者は根強い抵抗感を持っている。これに対しては、Bionymは、Nymiで計測したECG情報は、デバイス内のSecure Elementに格納され、外部のサーバにデータが送信されることは無いとしている。また、Nymiを紛失しても、第三者がNymiにログインすることはできないとしている。拾ったNymiを付けて自動車に手を振っても、家の玄関に立っても、ドアは空かないことになる。Nymiは便利な機能を備えている分だけ、セキュリティのリスクも大きくなる。個人のプライバシーを保護する機能が、Nymiが市場で受け入れられるための最大の要件となる。

スマートウォッチは高機能センサーに向かう

市場では各社からスマートウォッチが提供されているが、消費者の心を捉え切れていない。Nymiは、リストバンド形式で、ディスプレイはない。ここにプロセッサーが入っているとは思えない形状をしている。このアプローチは、JawboneのUPと同じで、さりげないリストバンドで、背景に溶け込むことを目指している。それでも、利用者は、一日中、Nymiを腕に巻いておく必要があり、ある程度の負担を消費者に強いることとなる。

Nymiを使うには、スマート・デバイス側にその機構を実装する必要がある。Bionymは、Nymiの開発環境やAPIを公表し、開発者向けの専用サイトを設けるとしている。Nymiの普及は、如何に多くのスマート・デバイスに対応できるかにかかっている。上述の応用事例はNymiのコンセプトで、実際に技術が実装されている訳ではない。Nymiは、プレオーダを受け付けており、価格は79ドルで、2014年初頭から販売が開始される。

Nymiは、スマートウォッチは、スマートフォン機能をオフロードするのではなく、高機能センサーそのものである、というメッセージを発信している。スマートウォッチの進行方向が少し見えてきた。

Leave a Reply

You must be logged in to post a comment.