Apple Watchを見据えたデジタルヘルス、臨床試験基盤「ResearchKit」で医学が進歩!

センサーやウエアラブルや人工知能の進化で、デジタルヘルスが転換点に差し掛かっている。Appleは昨年9月、「Health」アプリを投入し、健康管理市場へ参入した。先月は、臨床試験基盤「ResearchKit」を発表し、医療研究を下支えするフレームワークを投入。来月にはApple Watchが登場し、健康管理で重要な役割を担う。Appleのデジタルヘルス戦略のストーリーが繋がってきた。

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臨床試験を支援するサービス

医療現場でResearchKitが話題になっている。ResearchKitは医療機関向けの技術で、これを使えば簡単に臨床試験アプリを開発できる。一方、臨床試験に参加するモニターは、iPhoneでこのアプリを稼働し、身体情報を記録する。具体的には、臨床試験アプリは、健康管理アプリ「Health」が収集したデータを読み込み、モニターのアクティビティや健康状態を収集する。医療機関はこれらデータを解析し、医療情報に関する知見を得る構造となっている。

既に、ResearchKitで開発された臨床試験アプリが登場している。Stanford Medicine (スタンフォード大学医学部) は、心臓の健康状態を解析するアプリ「MyHeart Counts」を開発した (上の写真、アプリ専用サイト)。このアプリはモニターの日常生活をモニターすることで、生活習慣と心臓疾患の関係を医学的に解明することを目標にしている。更に、心臓疾患を予防するためには、どのような生活を送るべきかを理解する。

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モニターになってみた

筆者もこのアプリを使った臨床試験に参加した (上の写真左側、アプリ初期画面)。こう書くと仰々しいが、誰でも簡単に臨床試験に参加できるのがこのアプリの最大の特徴だ。アプリで研究目的や注意事項を読み (上の写真右側)、同意書に名前をタイプするだけで手続きが完了。スタンフォード大学病院に行って説明を受ける必要は無く、全てアプリで完結する。使用できるスマホは、iPhone 5s、iPhone 6、及びiPhone 6 Plusだが、既にApple Watch向け機能も実装されている。モニターは、身体情報を大学病院に”寄付”するが、その見返りとして、心臓の健康状態を把握できる。

モニターはアプリが指定するタスクを実行し、アンケート調査に回答する方式で進む。アプリはiPhoneセンサーでモニターの動きを自動で把握し、収集したデータから、行動パターンや心臓の健康状態を理解する。収集したデータは暗号化して送信され、名前はランダムに発生したコードで置き換えられる。身体情報を扱う研究なので、セキュリティー機能に配慮されている。ただ、収集したデータはスタンフォード大学以外でも使われる可能性ありとの記述が気になったが、ここは目をつぶってサインした。

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アプリが読み込むデータソース

試験開始前に、アプリが読み込む身体情報のデータソースを指定する。上述の通り、モニターの行動は、iPhoneに搭載されている各種センサーで、自動的に収集される。センサーが収集したデータはHealthに格納され、これをアプリが利用する構造となっている。上の写真左側がその設定画面で、Healthに格納しているデータの中で、アプリがアクセスできる項目を指定する。身長や体重などの基本情報へのアクセスを許諾した。また、血糖値や血圧など、健康診断情報へのアクセスも許諾した。最後に、アンケート調査に回答する。質問は、健康状態から家族の病歴まで、広範囲に及ぶ。上の写真右側がアンケート調査の画面で、ここでは仕事と運動量についての質問に回答している。

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データ計測は自動で行われる

試験中はiPhoneを携帯して生活するだけで、何も特別な操作は必要ない。iPhoneはズボンのポケットに入れるよう指定され、加速度計がアクティビティーや歩数を自動で計測する。一日が終わると、前日の睡眠時間など、簡単な質問に回答する。これで計測が終了し、その結果が円グラフで表示される (上の写真左側、下段)。円グラフの色が、アクティビティー種目 (睡眠、座ってる状態、運動している状態など) を示す。更に、一日の歩数が示される。アクティビティーや歩数は、上述の通り、健康管理アプリHealthで収集される。上の写真右側がHealthアプリの「Step」画面で、一日の歩行数を示している。アプリはここから歩数などのデータを読み込む。

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心臓年齢や病気に罹る確率

計測は一週間続き、最後に「ストレステスト」が行われる (上の写真左側)。これは名前の通り、心臓に負荷をかけ、心拍数を測定し健康状態を算定するものである。モニターは三分間、できるだけ早く歩き、アプリはその歩行距離を記録する。Apple Watchや他のウエアラブルで、歩行中と終了三分後の心拍数を計測する。アプリは年齢、性別、身長・体重に応じた歩行距離や心拍数をベースに、モニターのフィットネスを算定する。まだApple Watchは出荷されていないので、今回は歩行距離だけが使われた。

アンケート調査「Heart Age」に回答すると、モニターの心臓年齢を算出する (上の写真右側、サンプル)。心臓の健康年齢と病気 (心臓疾患と脳梗塞) にかかるリスクの割合が表示される。このケースでは、62歳のモニターの心臓年齢は60歳と若く判定されている。病気発症の確率は6%と、目標値 (7%) よりいい結果となっている。(筆者のケースでは、病気に罹るリスクが標準より高いと判定された。健康状態をデジタルに示されるとインパクトが大きい。これを契機に、食生活の改善や運動の強化を考えているところ。)

運動を促すコーチング

試験は7日間続き、これが1セットとなり、三か月ごとに繰り返される。一週間の試験が終わると、アプリはモニターに対し、毎日運動するよう「コーチング」を行う。三か月後に、再度、同じ試験を一週間にわたり行う。コーチングはゲームやメッセージなどで、アプリはどの方式が一番効果があるかを検証する。但し、筆者のケースでは、一週間のテスト期間が終了したが、コーチング情報は表示されていない。

大反響を呼んだ臨床試験アプリ

スタンフォード大学は、アプリを公開して24時間で、1万人が登録したと公表した。これだけの規模のモニターを募るには、通常、一年の歳月と50の医療機関が必要とされる。iPhoneアプリとHealthで臨床試験ができるようになり、多くのモニターを短期間で集めることができた。収集したデータはそのままクラウドに記録される。従来の紙ベースの臨床試験と比べ、はるかに効率的に知見を得ることができると評価している。

臨床試験アプリへのコメント

一方、ResearchKitで開発したアプリを使った臨床試験に対し、様々な意見が寄せられている。モニターから得られるデータの質が議論となっている。iPhone利用者は高学歴・高収入という統計情報があり、臨床試験モニターはデモグラフィックスを正しく反映していないのでは、という疑問の声も聞かれる。その一方で、FDA (米国食品医薬品局、新薬などの認可をする機関) はスマホを使った臨床試験について肯定的な評価をしている。アプリを使った臨床試験で、医療技術が進むことを期待している。因みに、このアプリは医療行為は行わないため、FDAの認可は不要である。

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パーキンソン病研究アプリなど

MyHeart Counts以外にも、ResearchKitで開発されたアプリが登場している。その一つがパーキンソン病研究のためのアプリ「mPower」で、University of RochesterとSage Bionetworksにより開発された。アプリで敏捷性、バランス、記憶力、足並みを測定することで、日常の行動と病気の関係を理解する。モニターはアプリを起動し、人細指と中指で画面を早くタップしたり (上の写真)、マイクに向かって長く「アー」と発声する。俊敏性や発声とパーキンソン病の関係を解析する。研究に寄与するだけでなく、モニターは自身の病気の予兆を早く知ることができる。また、糖尿病研究のためのアプリ「GlucoSuccess」や乳癌研究のアプリ「Share the Journey」などもリリースされている。

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IT企業はデジタルヘルスに向う

Googleは2014年7月、人体の研究を行うプロジェクト「Baseline Study」を開始した。Baseline Studyは175人の健康なモニターから遺伝子と分子情報を収集し、健康な人体のベースライン情報を把握する。心臓疾患や癌の兆候を早期に発見することを目的とする。身体情報はウエアラブルで収取される。Googleが開発したコンタクトレンズを使うと、血糖値をリアルタイムで測定できる。測定したデータは、個人の遺伝子情報と共に、人工知能を使って解析される。健康な人体を定義し、医師は病気予防に重点を置いた措置が可能となる。他に、Microsoft、IBM、Samsungなども、デジタルヘルス分野で技術開発を加速している。IT企業がデジタルヘルス事業を展開する背後には、テクノロジーの進化がある。プロセッサーやセンサーや人工知能の技術開発が進み、低価格で生体情報を収集・解析できるようになった。

AppleはResearchKitで、Healthやウエアラブルを束ねるアプローチを取っている。ResaerchKitを使うと、病院や製薬会社は、簡単に臨床試験を展開できる。現在は、iPhoneで身体情報を収集するが、やはり最適なデバイスはウエアラブルで、Apple Watchを見据えた設計となっている (上の写真)。Apple Watchの機能は心拍数の計測に留まるが、将来は、幅広い生体情報を収集すると期待されている。消費者にとってはResearchKitは無縁の存在であるが、医療現場では医学研究にインパクトを与える画期的なツールとして評価が高まっている。今年はデジタルヘルス市場でブレークスルーが起ころうとしている。

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