がん検診は人工知能で!Deep Learningが悪性腫瘍を見逃さない

がん検診を受けるなら人工知能を導入した病院に行くべきだ。人工知能をがん検診に応用することで、悪性腫瘍を高精度で見つけ出す技術の開発が進んでいる。メディカルイメージをDeep Learningの手法で解析すると、熟練した医師より正確にがん組織などの病変を見つけ出す。人工知能の進化が多くの人命を救うと期待されている。

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イメージデータから病気を判定

Deep Learningでイメージ解析精度が飛躍的に進化している。サンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業「Enlitic」は、Deep Learningを医療データに応用したシステムを開発している。イメージデータをDeep Learningの手法で解析し、病気を判定する (上の写真)。イメージデータにはレントゲン写真、MRI、CTスキャン、顕微鏡写真などが使われる。検査結果に悪性腫瘍などがあるかどうかを高速にかつ正確に判定する。

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腫瘍を見つけるプロセス

Enliticはイメージ解析の技法については、事業の根幹にかかわるためとして公開していない。TEDでの講演資料などを基に概要を纏めると、その輪郭が浮かび上がる。まず解析を行う前に、大量のイメージデータを使ってシステムを教育する。上の写真がそのプロセスで、ここでは5年生存率 (5年経過後に生存している患者の比率) を予測するシステムを教育している。システムに、5年経過後に存在している患者のデータと、5年以内に死亡した患者のデータを入力する。

ここで使われているデータは病理標本 (人体から採取した検体) で、組織の顕微鏡写真を示している。システムは入力イメージから様々な特性を学習する。Enliticが定義する特性とは、組織構造の特徴を示す。具体的には、組織表面と細胞の関係や、細胞とそれを取り巻く部分の関係など、検体の組織構造を指す。システムはDeep Learningの手法でこれら構造特性を学ぶ。学習が完了したシステムに、被験者の組織イメージを入力すると、5年生存率を算定する (上の写真、グラフの部分)。

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また、数多くの被験者の組織イメージの中から、悪性腫瘍など問題の個所を特定する (上の写真、矢印で示している個所)。つまり、システムは組織構造の特性から、悪性腫瘍などを探し出すことができる。今までは専門医が目視で探していたが、ソフトウェアが高精度でこれらの個所を特定する。

人工知能の技法を医療に応用する

Enlitic創設者でCEOのJeremy Howardは、TEDでの講演やインタビューで、人工知能について見解を述べている。HowardはEnliticを創設する前には、Kaggleで社長を歴任した。Kaggleとはデータサイエンスのベンチャー企業で、企業向けに競合分析などのサービスを提供する。Howardは2014年にEnliticを創設し、データサイエンスの技法を医療に応用する研究を進めている。

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Deep Learningのイメージパターンを把握する高い能力が証明されてきた。これを医療に応用することで、三つの領域で研究が進んでいる。Radiology (放射線医学) ではレントゲン写真やMRIやCTスキャンで体内の組織を把握する。上の写真はCTスキャンの事例で、イメージデータから腫瘍特性を解析し、遺伝子情報と組み合わせ診断する。Pathology (病理学) では人体組織を観察する。冒頭の事例がこれに相当し、組織の顕微鏡写真のイメージを解析する。Dermatology (皮膚科学) では、皮膚の写真から症状を判定する。これら三つの分野でDeep Learningを応用したシステムの開発が進んでいる。人間が正しく判定ができるまでには時間がかかるが、コンピューターは短時間でこれを学習する。

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この技法はスタンフォード大学で開発された

この手法は源流をたどると、2011年にStanford Medicine (スタンフォード大学医学部) で開発された。Computational Pathologist (C-Path) と呼ばれ、機械学習の手法でマシンががん組織を識別する。乳がんの識別に適用され、C-Pathは細胞特性を6642種類に分析する。C-Pathを教育して、被験者の組織イメージを入力すると、がん細胞を検出する。上の写真は組織イメージ (紫色の部分) とそれをC-Pathで解析した結果 (その下の緑色の部分) を示している。コンピューターが人間より正確にがん細胞を判定でき、医学界に衝撃を与えた。同時に、がん細胞だけでなく、それを取り巻く細胞との関係が患者生存率に大きく依存することも発見した。これらの研究成果がEnliticに生かされている。

メディカルイメージ処理の問題

一方、メディカルイメージをDeep Learningで解析するには、解決すべき問題も少なくない。その一つが患者のイメージデータを如何に収集するかである。医療データは各病院が保存しており、データは共有されることはない。各医療機関が独立に保管し、再利用されることなく眠っているケースが多い。これらデータを如何に有効活用するかが課題となる。Enliticは医療機関と共同研究を推進することで、これらデータを利用する手法を取っている。

更に、医療機関を規制する関連法令が医療データの利用を妨げている。米国では医療関連法令「HIPAA」の要請で、患者の医療データに対するプライバシー保護が求められる。患者のプライバシーを守ることは必要不可欠だが、医療データを再利用するには障害となる。現行法令は人工知能が医療データを活用することは想定しておらず、データへのアクセスが大きな課題となる。

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IBM Watsonとは異なるアプローチ

IBM Watsonは人工知能を医療分野に応用し成果を上げているが、Enliticのアプローチとは大きく異なる。WatsonはCognitive Computingと呼ばれ、大量のデータから意味を引き出すことを目的とする。Watsonは医学論文や臨床試験結果など、大量のドキュメントを読み込み、そこから治療に関する知見を得る。医師が治療方針を決定する際に利用する (上の写真)。一方、EnliticはDeep Learningの手法でメディカルイメージを解析し症状を判定する。イメージ解析ツールとして位置づけられ、医師の視覚として活躍している。更に、Deep Learningの特性とし、高速で学習する能力を備えている。Enliticは短時間で熟練医師を超える能力を獲得する。両者は人工知能を医療分野に適用したものであるが、そのアーキテクチャーは大きく異なる。

病院を選ぶときに人工知能が決め手となる

米国ではがん検診を受信し問題なしと判定されたケースの7%でがんを発症したというレポートがある。スキャンイメージからがんを見落としているケースが報告されている。これは熟練医師が診察しても人間としての限界があることを示している。Enliticは正確なコンピュータービジョンとして機能し、この見落としを無くすことを目指している。

前述の通り、高精度なイメージ解析システムを開発するためには、大領の医療データを必要とする。つまり、患者数の多い病院がDeep Learning教育で圧倒的に有利になる。これからは利用者側としては、病院でがん検診を受ける際には、熟練医師がいることだけでなく、人工知能が導入されている大病院が選択肢となる。病院における人工知能の役割が大きくなってきた。

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