Googleが通信キャリア事業をスタート、LTEとWiFiを統合し生活空間が単一の通信網となる

Googleが通信キャリア事業に乗り出した。このサービスは「Project Fi」と呼ばれ、MVNO (仮想移動体通信事業者) 方式でネットワーク・インフラを提供する。低価格でサービスを提供するだけでなく、通信キャリアが提供する機能を根本から改良する。スマホの理想形「Nexus」を開発したように、ネットワークのあるべき姿を探求する。米国でProject Fiがスタートし、通信キャリア市場を揺さぶっている。

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近未来の通信網

Googleは2015年6月から、米国で「Project Fi」を始動した。Googleはこのプロジェクトを試験的に展開するとし、地域ごとに人数を限定してサービスを始めた。このため、プロジェクトへの参加は、Googleから招待状が必要となる。筆者も申し込みをしていたが、やっと招待状を受け取り、Project Fiを使い始めた。サポート対象デバイスはNexus 6で、Project Fi専用SIMカード (上の写真) を挿入して利用する。SIMカードはクリップ止めされており、これを使ってスロットを開ける。

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実際に使ってみると、Project Fiは近未来の通信網と言っても過言ではない。LTEやWiFiなど、異なるネットワーク間で、最適な通信網を選択し、サービスを途切れなく利用できる。屋内では、通話やテキストメッセージは、WiFi経由でやり取りする。屋外に出ると、Googleの移動体ネットワーク「Fi Network」に接続される。

ロックスクリーン左上にFi Networkと表示され、Project Fiのネットワークを利用していることを確認できる (上の写真左側)。また、ネットワークの設定や使用状況などは専用アプリ「Project Fi」を使う (上の写真右側)。Network FiはSprintとT-Mobile USの4G LTEを利用している。この意味でMVNOであるが、単に通信網を利用するだけでなく、Fi Networkは両者のうち電波強度の強いネットワークに接続する。

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WiFiとLETでシームレスな通信

印象的なのは、ネットワーク間で途切れなくサービスを利用できることだ。自宅でWiFi経由で電話している時、屋外に出るとネットワークがLTEに切り替わる。通話は途切れることなく、シームレスにハンドオーバーされる (上の写真左側)。屋内でWiFiを使って通話している時は「Calling via Home-7392」と表示される (Home-7392は筆者宅のWiFi)。屋外では「Fi Network」と表示され、Googleの通信網を利用していることが分かる。(上の写真の事例では表示されていない。) Fi Networkと表示されるだけで、背後でSprintとT-Mobileのうち、どちらのネットワークが使われているかは示されない。屋外でWiFiホットスポットがあれば、自動的にここに接続される。

通話だけでなく、データ通信でも自動でネットワークが切り替わる。自宅のWiFiでGoogleの音楽ストリーミング「Play Music」を聞きながら、自動車で屋外に出るとFi Networkに切り替わる。音楽は途切れることなくシームレスに続き、ドライブしながら好みの曲を楽しめる。今まではWiFi域外に出ると、エラーメッセージが表示され、再度接続する必要があった。WiFiとLTEの壁が取り払われ、生活空間全てが単一のネットワークになった感覚だ。どこでも継続して電話やインターネットを使え、生活が格段に便利になったと感じる。

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消費者に優しい料金体系

もう一つの魅力は消費者に優しい料金だ。料金体系はシンプルで、基本料金とデータ料金の組み合わせで構成される。基本料金は月額20ドルで、ここに、通話、テキストなどが含まれる (上の写真、The Fi basicsの部分)。データ通信は月額10ドル/GBとなる。例えば2GBで契約すると月額20ドルとなる(上の写真)。制限量まで使っていない場合は、翌月分の料金から差し引かれる、良心的な料金体系となっている。Project Fiを使い始め、電話料金が半額になった。

ネットワークでイノベーションを興す

革新的なネットワークを低価格で提供するが、Googleの狙いはどこにあるのか、興味深い発言がある。Android部門などの責任者Sundar Pichaiは、Project Fiについての見解を表明した。Googleは基本ソフト (Android) とデバイス (Nexus) だけでなく、ネットワークを含めた統合システムで、技術開発を進める必要がある。個々のネットワークでは技術進化が停滞しているが、包括的なネットワーク環境ではイノベーションが起こると期待を寄せている。

通信キャリアとの関係にも言及した。Project Fiは限定的なプロジェクトで、VerizonやAT&Tなど、既存キャリアと競合することは無い。SprintとT-Mobileはネットワーク回線をGoogleに卸し、空回線を有効利用できる。これにより、ユーザ数が減少し収入は減るかもしれないが、利益率が改善し、収益は増えると期待している。

既存キャリアへの圧力

米国の消費者は低価格で先進的なサービスを使うことができるとして、一様にProject Fiを評価している。つまり、Project Fiが新しい基準となり、VerizonやAT&Tを値下げや新サービス開発に向かわせる可能性を秘めている。Project Fiが黒船となり、米国のキャリア市場が大きく変わろうとしている。

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既に米国キャリアの中で、Project Fi方式を模したサービスが登場した。ノースカロライナ州に拠点を置くRepublic Wirelessは、MVNO方式のキャリアでProject Fiと類似のサービスを導入した。通信はWiFi経由で行い、WiFi環境がない場合は携帯電話回線を利用する。両者の間でシームレスな移行はできないが、有料サービスを最小限に留める仕組みとなる。料金体系でProject Fiの方式を模している。基本料金 (通話とテキストとWiFi) は月額10ドルで、データ通信 (1GB) は月額15ドルとなる (上の写真)。未使用の部分は翌月に払い戻しを受ける仕組みとなっている。Project Fi方式が米国市場で普及し始めた。

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Googleの狙い

モバイル環境でイノベーションが起こり、便利な機能が登場し、通信価格が下がれば、利用者数の増加につながる。これは消費者にとってのメリットであり、同時に、これがGoogleの狙いでもある。より多くの人がインターネットにアクセスすれば、Googleサービス利用者が増え、広告収入などが増える。

Googleは一貫してこの手法を展開しており、Project Fi以外に、高速ブロードバンド「Google Fiber」の前例がある。Google Fiberの最大転送速度は1Gbpsで、主要都市で施設が進んでいる。大手ケーブル会社Comcastはこれに対抗するため、Google Fiberの二倍の性能を持つ「Gigabit Pro」の施設を始める。15年以上無風状態であった米国のブロードバンド市場が、Google Fiberの登場で一気に動き出した。

地球規模では、Googleは気球インターネット「Project Loon」の開発を急いでいる (上の写真)。アフリカや南米など、インターネット環境が整っていない地域に、気球からブロードバンドサービスを展開する。地域住民の社会インフラを提供するとともに、インタネット利用者を増やし、Googleサービスの利用者を増やす狙いがある。

Project Fiの日本への影響

前述の通り、Project Fiの背後では、SprintとT-Mobileの通信網が使われている。T-Mobile最高経営責任者John Legereは、Project Fi向けにネットワークを供給し、新技術が展開されることにを全面的にサポートしている。

一方、Sprint親会社SoftBankの孫正義社長は、Project Fiへの参加に躊躇したとも言われている。Sprintは多くのMVNOに回線を卸しているが、Googleに対しては懐疑的なポジションを取っている。この理由は明らかにされていないが、Googleが通信キャリア事業に参入し、Sprintと競合することを避けたいという思惑があったと推察される。

しかし、Google向けに通信網を提供したのは、Project Fiの手法を学び、日本で類似サービスを展開する意図があるのかもしれない。SoftBankが直接手掛けないとしても、日本のMVNOはProject Fiから学ぶところは少なくない。モバイルサービスは完成形ではなく、まだまだ大きく進化できる余地があることをProject Fiは示している。

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