米国ロボット開発はソフトウェアで勝負、高度な人工知能で人間のように学習する

ロボット開発で日本が世界をリードしているが、米国がその差を縮めようとしている。米国ロボット開発の中心はソフトウェアで、搭載している人工知能がシステムの性能を決定する。米国の得意とする人工知能を強化し、インテリジェントなロボットが登場している。

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米国を代表するロボット

米国を代表するロボットといえば、Rethink Robotics社製の「Baxter」 (上の写真) だ。Baxterは産業用ロボットであるが、見かけはヒューマノイドでサービスロボットにも見える。しかし、Baxterは台車に固定され、二本の腕とディスプレイを搭載した構成である。特定の場所で二本の腕を使って作業を繰り返す。腕の先にはグリッパー (Electric Parallel Gripper) を備え、モノを挟んで掴む。グリッパーにはカメラが搭載され、掴む対象物を見ることができる。上の写真はBaxterがテーブルの上に置かれた部品を掴み、係員に手渡している様子。Baxterは製造現場を中心に利用が広がっている。

ディスプレイにはロボットの顔が表示され、色々な表情を見せる。かわいい産業用ロボットとしてデザインされているが、視線の向きは腕を動かす方向を示している。更に、Baxterを調整する際は、このディスプレイに様々なアイコンが表示され、パソコンを使う要領でパラメーターなどを設定する。Baxterは基本ソフト「Intera」を搭載し、ディスプレイが利用者とのインターフェイスとなる。

アメリカ人が考えるロボット

米国のロボットに対するアプローチは日本のそれと大きく異なる。ロボットの価値を決めるのはソフトウェアで、如何にインテリジェントに、かつ、柔軟にロボットを制御できるかを重視する。パソコンと同じように、ハードウェアに対する関心より、基本ソフトウェアやアプリケーション開発に比重を置いている。更に、近年は人工知能の技術進化が目覚ましく、これをロボットに適応する研究が重点的に進められている。Baxterの事例で示すと、ロボットを如何に教育するかが関心事となっている。具体的には、Rethink Robotics社は、Baxterを直観的に教育する方式を提供している。人間がロボットの腕を動かせて作業を教えることができる。文字通り”手取り足取り”指導する。Baxterはこれを直ぐに理解し、教えられた通り作業する。

Baxterに仕事を教える

カンファレンス会場でBaxterの教育法を教えてもらったが、それは驚くほど簡単だった (先頭の写真)。Baxterの手首をつかむと、そこにはセンサーが埋め込まれており、人間が触っていることを認識し教育モードとなる。腕は無重力状態 (”Zero Gravity”と呼ぶ) になり、人間が腕を自由に動かせる。実際にBaxterの手首をつかみ腕を動かせてみたが、力を入れないでも滑らかに動作した。こちらの意図を理解して、Baxterの腕が自律的に動く。手首はプラスチック製で触り心地は優しく、産業用ロボットであるが家庭向けのロボットのように安心して接することができた。

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右手で手首を、左手で肘を掴み動作を教える。上の写真は、テーブルに並べられている部品を掴み、かごに移す操作を教えている様子である。人間が、Baxterの手 (End Effector) を部品上部に当て、ボタンを押してそれを掴む。ここでは吸盤 (Vacuum Cup Gripper) が使われている。次に、人間が腕を動かせかごの中に移動し、手首のボタンを押して部品を切り離す (上の写真、かごの中に降ろす前)。Baxterはこの一連の操作手順を学習し、自分で作業ができるようになる。つまり、複雑なプログラミングは不要で、手取り足取り動作を教えることで、誰でもロボットを使うことができる。このためBaxterは、大企業だけでなく、ロボット専任のエンジニアがいない中小企業でも使われている。

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次世代ロボットSawyerの登場

Rethink Roboticsは2015年9月、ロボットカンファレンス「RoboBusiness」で次世代ロボット「Sawyer」を公開した (上の写真)。Sawyerは一本の腕で構成されるロボットで、精密な操作ができる。具体的には工作機械の操作 (Machine Tending) やプリント版の試験などに使われる。Sawyer向けにアクチュエーターなどが改良され、高精度な操作ができるようになった。上の写真はSawyerがケースから部品を取り出し、指定された場所に正確に移動するデモの様子である。作業を終えると、Sawyerは取っ手を掴みケースを閉じた。Sawyerは腕が一本しかないが、ハイエンドロボットとして投入された。

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Sawyerをどのように利用するか

Sawyerは既にGEの照明機器部門GE Lightingで使われている。SawyerがLED照明機器の組み立て作業を担っている。Sawyerは箱の中からプリント版など部品を掴み、それをLED照明機器の指定された場所にインストールする作業をこなす (上の写真)。様々な形状の部品を製品内のタイトなスペースに正確に移動する。

GEは生産性を上げるツールとしてSawyerを導入した点を強調している。社員をロボットで置き代えるのではなく、社員がSawyerをツールとして利用する。米国企業はロボットを導入し生産性向上を目指しているが、同時に、雇用問題にも細心の注意を払っている。更に、GEは「Industrial Internet」の提唱者でロボットをInternet of Thingsの主要コンポーネントとして位置づけている。Sawyerに代表されるロボットが、スマート工場を構成する重要な役割を担う。

Rethink RoboticsはBaxterやSawyerを「Collaborative Robot」として開発した。Collaborative Robotとは共同作業ロボットで、人間に混じって安全に作業できるよう設計された。製造作業工程の90%は自動化できないと言われており、これをロボットが人間と隣り合わせで作業することを目指している。

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大学のロボティックス研究

メーカーだけでなく、大学の研究機関がロボットのソフトウェア開発に力を入れている。特に、人工知能をロボットに適用する研究を重点的に進めている。Carnegie Mellon Universityは、ロボットがモノを掴むアルゴリズムの研究で大きな成果を上げた。そもそも、ロボットが身の回りのモノを掴むことは非常に難しい。コップやスマートフォンを掴むためには、十分な教育と、綺麗に整理された環境が必要となる。一方、人間の赤ちゃんは、身の回りのものを試行錯誤しながら、手で掴むことを自分で学ぶ。ロボットも、人間が掴み方を教えるのではなく、自律的に学習する方式の研究が進んでいる。この研究の成果は「Supersizing Self-supervision: Learning to Grasp from 50K Tries and 700 Robot Hours」という論文でで発表された。

この研究ではBaxterが使われ、人工知能の重要な技法であるDeep Learning (深層学習) を応用した。米国のロボティックス研究ではBaxterが標準プラットフォームになっている。前述の通り、Baxterは腕の先にグリッパーとカメラを備えている。更に、この研究ではBaxterの頭部にMicrosoft Kinectセンサーを搭載し、目の前のオブジェクトを把握するために利用した。Baxterは150種類のモノを5万回掴み、伸べ700時間の学習を積んだ。対象物はテレビのリモコンやプラスティックのおもちゃなどで、人間に教えられることなく、Baxterが自律的に学習した。上の写真はBaxterがモノの掴み方を学習している様子である。テーブルの上にはモノが煩雑に置かれている。この中からBaxterはモノを識別する (写真左下a)。Baxterは玩具のピストルを掴むが、その方法は一つではなく、異なる方向でモノを掴むことを学習した (写真右下b)。この結果、Baxterはモノを見て掴めるかどうかを80%の確率で予測できるようになった。つまり、Baxterはロボットの基本操作であるモノの掴み方を自分で学習することができた。

ロボットと人工知能

米国の研究機関はBaxterを使って、ロボット制御の基礎研究を幅広く展開している。上述の事例の他に、University of Marylandは、Baxterが人間の仕草を見て料理の作り方を学ぶ研究を展開。この研究が上手くいくと、料理を含め家事を担うロボットの開発に目途がつく。製造ラインでは、人間の作業を見て、ロボットが作業方法を自分で学習する。このように、米国のロボット開発は、人工知能を最大限に活用し、人間のように自律的に学習できる仕組みを目指している。今はまだ、ロボットが玩具のピストルを掴める程度だが、技術は幾何級数的に進化している。ロボットが、日本流に表現すると、箸で大豆を掴むのは時間の問題といわれている。数年以内には、ロボットが人間より器用にモノを掴める、との予測もある。米国のロボット開発は人工知能に重点を置き、世界の覇権を窺っている。

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