IBMは気象会社を買収、Watsonが気象インテリジェンスを提供

人工知能ビジネスでは、質の高いデータを大量に所有していることが、決定的なアドバンテージとなる。GoogleやFacebookなどが有利なポジションにいるが、IBMなど多くの企業はデータを保有していない。このため、IBMは気象会社を買収し、世界最大規模の気象データを手に入れた。これをWatsonが解析することで利益を生み出す。IBMの人工知能ビジネスは、新しい局面を迎えた。

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気象情報会社を買収

IBMは2015年10月、民間の気象会社「The Weather Company」を買収することを発表した (上の写真)。Weather Companyは全米で最大規模の気象情報会社で、ウェブサイトとケーブルテレビを運営し、気象情報を発信する。ウェブとテレビ部門は「Weather Channel」と呼ばれ、天気予報、天気図、気象関連ニュース、異常気象警報など、包括的な気象情報を発信する。気象情報は地球上の30億ヵ所のデータをカバーしている。Weather Channelは世界最大規模のAPIプラットフォームで、毎日260億件のデータが参照される。GoogleやYahooなどがこのデータにアクセスしている。Weather Channelは専用アプリを提供し、4000万台のスマートフォンで利用され、人気度は第四位にランクされる。全米で事実上の”気象庁”としての役割を担っている。

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Weather Companyは消費者だけでなく、企業にも気象データを供給している。この部門は、「Weather Services International (WSI) 」と呼ばれ、気象データに関連するビジネス・ソリューションを提供する (上の写真)。企業は供給される気象予報データに基づき、日々の業務を最適化する。例えば、小売店舗は気温の変化に応じて商品在庫の数を調整するなど、気象情報は事業判断で活用されている。IBMは、買収に先立ち、既にWSIと緊密に事業を展開してきた。

Watson Analyticsでの解析サービス

IBMは人工知能プラットフォーム「Watson」を使った解析サービス事業を展開している。これは「Watson Analytics」と呼ばれ、保険、小売、政府、エネルギー、消費者製品、メディア企業を対象に顧客を増やしている。各企業の利用者は平易な文章で質問すると、Watsonはグラフやテキストでインタラクティブに回答する。IBMはこの方式を「Citizen Analytics」と呼び、統計学の専門家でなくても、だれでもデータ解析ができる仕組みを提供する。

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Watson Analyticsに気象データを統合

IBMは、Weather Company買収に先立ち、既に気象データを活用したソリューションを提供している。上の写真がその事例で、天候が保険会社に与える影響をWatson Analyticsで解析したもの。具体的には、自動車保険に関して、保険料申請金額とその理由を尋ねると、Watson Analyticsはそれをグラフィカルに回答する。四角の大きさが金額を示し、それぞれ、「盗難」、「ひょう」(赤色の部分)、「衝突」などと表示される。降雹による被害で保険料申請が多いことが分かる。

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また、保険料申請金額を州ごとに尋ねると、Watson Analyticsは、地図に色付けして回答する(上の写真)。アイオワ州で申請金額が多いとの回答で (濃い青色の部分)、その理由を調べるため、Claim Reasonタグをクリックすると、Hail (ひょう) であることが分かる。アイオワ州はひょうが降ることが多く、自動車の車体が傷つき、保険申請金額が多くなる。

この解析結果から、アイオワ州においては、保険会社は顧客向けのひょう対策が必要であることが分かる。例えば、ひょうが降る前に警戒情報を顧客のスマートフォンに配信すると、クルマをガレージに入れるなどの対策が可能となる。これにより保険申請金額が少なると同時に、顧客はクルマの被害を防ぐことができ、保険会社への印象も良くなる。Weather Companyの買収で、これからは大規模な気象データをWatson Analyticsに統合でき、保険会社向けの高度なソリューションが登場すると期待されている。

気象会社はメディアからデータ企業に

Weather Channelは、全米の気象庁として、高い知名度を誇っている。しかし、Weather Channelの視聴者数は伸び悩み、買い手を探していたとも報道されている。Weather Channelはメディア企業としては限界に達したとも言われる。一方、IBMが買収することで、これからはデータ企業として新しい価値を見出すことになる。この背後にはIBM Watsonの「Cognitive Computing」技法がある。Cognitiveとは認知できるという意味で、人工知能の中でも、データから意味を把握する側面に焦点を当てている。大量の気象データを解析することで、ここから多くの知見を引き出す。更に、自然言語解析で、利用者は人に語りかけるように、平易な文章で解析できる。IBMとしては、社内にデータを保有しないが、買収を重ねこれを入手していく姿勢を示している。

Twitterとの提携

IBMは、Weather Companyの買収を発表した翌日、Twitterとの提携を明らかにした。TwitterのデータストリームをWatson Analyticsに読み込み、消費者の商品に対するセンティメントを把握する。一日当たり5億件のツイートを読み込み、新製品開発ためのデータを収集し、製品の売れ行きを解析する。アイディア自体は目新しいものではないが、IBM CEOのGinni Romettyは、「Twitterのデータは石炭や石油と同じで天然資源だ」と述べ、この市場に本格的に参入することを表明した。

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IBM顧客は商品の人気度などを質問すると、Watson AnalyticsはTwitterのトレンドを回答する (上の写真、イメージ)。企業はTwitterのフィードを、会話するようにデータマインイングできる。更に、利用者は、Watson Developer CloudやBlueMixを使って、Twitter解析結果を企業のクラウドやアプリに組み込むことができる。ツイートを解析し事業展開に活用するサービスは数多く登場しているが、今度はこのアイディアをWatsonというプラットフォームで具現することとなる。今までとはけた違いにインテリジェントなシステムで解析することとなり、市場が激変すると予想される。多くのベンチャー企業にとっては、生き残りをかけた戦いが始まることを意味する。

IBMのギフトガイドが話題になっている

IBMの消費者向けギフトガイド「Watson Trend」が話題となっている。消費者はこのアプリでいま流行りのアイテムを知ることができる。下の写真がその事例で、健康商品のトレンドを表示したところで、「Nike Running Shoes」が一番話題になっていることが分かる (左側)。アプリはこの理由を「Nike Shoesはテクノロジーとエクササイズの交点にある」と説明している。アプリは、この商品の過去のトレンドと、これからの予測も示している (右側)。9月に大きな反響があり、12月のクリスマスシーズンには再び話題となると予測している。

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Watson Trendは、商品に関する大量のデータを、ソーシャルネット、ブログ、フォーラム、製品レビューなどから読み込みむ。これらデータを自然言語解析し、人間が理解するように、内容、文脈、感情などのニュアンスを把握する。これをベースに現在のトレンドと将来のトレンドを予測する。

因みに、総合ランキングではApple Watchが他を大きく引き離して首位となっている。その理由は、OSのバグが「Watch OS 2.0で解決した」ことと、「Appleの洗練されたデザイン」としている。しかし、「バッテリー持続時間」の問題が残っていることも指摘している。消費者はこれらのガイドを参考に、クリスマスプレゼントを選ぶ。Watson TrendはApple Watchを選ぶと間違いないと推奨しているが、年末商戦でどれだけ売れるのか気になるところである。予測精度の他に、IBMの事業はB2Bに特化しているが、このアプリでB2Cに乗り出したことになり、その意味でもWatson Trendの投入は意義深い。

データを持たない企業のビジネスモデル

人工知能を教育したり知見を引き出すデータを保有しておらず、IBMは人工知能事業で不利な立場と言われてきた。しかし、Weather Company買収やTwitterとの提携は、データを持たない企業のビジネスモデルを示している。IBMの人工知能ビジネス戦略が転機に差し掛かっていることを示している。また、他のIT企業が、IBMのモデルを参考に、データ企業買収に乗り出すことも予想される。

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