AIアシスタントが医療現場に入る、仮想ナースが患者の手を握って看護する

人工知能と医療は親和性が高い。AIアシスタントが病院のナースに代わり、在宅で治療を続ける患者を遠隔で看護する。AIアシスタントは高度な音声認識機能を備え、患者と対話しながら、病気を治療する。患者は相手がソフトウェアと分かっているが、仮想ナースに親近感を覚える。世界が高齢化社会に向かう中、AIアシスタントは医師不足を補う切り札として注目されている。

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Mollyという仮想ナース

この技術を開発したのはSan Franciscoに拠点を置く「Sense.ly」というベンチャー企業で、AIアシスタントの形で遠隔医療プラットフォームを提供する。病院を退院した患者は在宅で治療を続けるが、Sense.lyが開発した仮想ナース「Molly」が健康状態をモニターする (上の写真)。Mollyはナースのアバターとして音声でコミュニケーションをとる。患者はMollyの指示に沿って血圧を測定し、薬を飲み、テレビ会議で医師の診察を受ける。Mollyがヒューマンタッチで患者をケアする点に特徴がある。

血圧測定やビデオ診察

在宅の患者はスマートフォンやタブレットでMollyにアクセスする。Mollyは「血圧測定の時間ですよ」と語りかけ、患者は血圧測定器「iHealth」を腕に巻き計測を始める。測定したデータはBluetoothでスマートフォンに送信され、結果が表示される。Mollyは「血圧は120/80で大変よくなりました」と説明する。更に、「測定したデータは病院に送ります」と説明し、病院に送信される。もし測定結果に問題があれば、医師がすぐに対応する手順となる。Mollyは病院にいるナースのようなタッチで患者に接する。

Mollyは遠隔医療「Telemedicine」のスケジュールを管理する。Telemedicineとは病院の医師がビデオ会議で患者を診察する方式を指す。米国ではTelemedicineが急速に普及し、診察方式の主流になりつつある。Mollyは患者に「明日午後二時にビデオ診察があります」とスケジュールを確認する。(下の写真はMollyのデモアプリを示している。患者はこのようなインターフェイスで治療を受ける。)

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医療現場におけるMollyの使われ方

San Franciscoで開催されたAIアシスタントのカンファレンス「RE.WORK Virtual Assistant Summit」で、Sense.lyのUX責任者Cathy Pearlが、医療現場におけるMollyの使われ方について、忌憚のない意見を開示した。Sense.lyは患者へのAttentive Care (付き添い介護) を目的としてMollyを開発した。Mollyが患者に付き添い、病院の看護師の手が回らないところを補う。在宅で治療を続ける患者の多くが高齢者で、Mollyが頼りにされ生活の支えとなっている。Mollyが実在のナースのような存在となり、個人の悩みをMollyに打ち明ける患者もいるとのこと。遠隔診断の時間に遅れた場合はMollyに謝罪するなど、”人間関係”が芽生えている。

市場には数多くの医療アプリがあふれており、スケジュール管理アプリを使うと、手短に血圧を測定でき、薬を飲む時間がわかる。しかしこのアプリは機械的だとして患者からは好まれていない。患者はMollyはAIと分かっているが、身近で介護してくれる存在として印象を持っている。ある患者は「手を握ってくれている」と表現しているのが印象的だった。実際に医療現場の実情を聞いてAIアシスタントの必要性を再認識した。

一方、高齢者を遠隔治療する際の問題点も明らかにされた。シニア層の患者がスマートフォンのアプリを使い、Mollyにアクセスするのは容易ではない。初めて使ったIT機器がスマートフォンという人も少なくなく、操作に慣れるまでに時間がかかる。AIアシスタントに限らず、遠隔で高齢者をケアーする際の共通の課題となる。

Expect Labsの人工知能技術

Mollyの背後では「Expect Labs」が開発した高度な人工知能技術が使われている。Expect LabsはSan Franciscoに拠点を置くベンチャー企業で、AIベースの音声アプリ「MindMeld」を開発した。Sense.lyの遠隔治療プラットフォームとMindMeldの人工知能技術を組み合わせ、インテリジェントな「Virtual Nurse」を開発した。これがMollyで、患者はアバターに音声で問いかけインタラクティブに操作する。

MindMeldは2014年に出荷を開始し、1500社で使われている。MindMeldは音声でのナビゲーションや情報検索で利用され、音声システムのトップ製品とされる。MindMeldはクルマに組み込まれ、ドライバーは音声でダッシュボードを操作する。また、セットトップボックスにも組み込まれ、音声で映画検索などができる。Siriを搭載したApple TVより高度な音声検索ができることがExpect Labsの技術力の高さを示している。最新の事例はMindMeldを医療アプリのインターフェイスとして使うことで、これがMolly登場に至った。(下の写真はMindMeldで映画を検索しているところ。William Shatner主演のStar Trekを表示。MindMeldは複雑な条件で検索できるのが最大の特徴。)

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MindMeldは自然言語解析と機械学習を組み合わせ高度な音声解析を実行する。入力された言葉をSpeech Recognitionでテキストに変換し、Knowledge Graphを使いコンセプトを把握する。更に、言語解析の手法を使い言葉に含まれる意味を理解する。そして、機械学習モデルで、問われている質問に対する答えを示す手順となる。機械学習モデルは業種ごとにトレーニングする必要がある。Mollyのケースでは医療関係者と患者の対話データなどを使いトレーニングされている。

高齢化社会とAIアシスタント

Sense.lyがAIアシスタントを医療分野で展開するのは理由がある。米国は人口増加と高齢化で慢性的に医療従事者が不足している。更に、米国は医療にかかるコストが極めて高く、解決の糸口が見つからないまま問題を引きずっている。その中でも慢性疾患患者の医療コストが最大の問題とされる。慢性疾患の患者の3%が医療費全体の65%を占めているという統計もある。この患者は”Frequent Fliers”と呼ばれ、同じ症状で入退院を繰り返す。心臓疾患を中心とするこれらの患者の在宅治療助ける目的でMollyが開発された。既に大学病院での導入が始まり、カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部で臨床試験が始まっている。

世界は高齢化社会に向かって進んでいるが、その最先端を走るのが日本である。日本の医療現場でAIアシスタントを活用した治療法は大きくブレークする可能性を秘めている。一方、世界が注目するのは中国で、10年後には大規模な高齢化社会が出現する。医師や看護師など医療従事者の不足が深刻な問題になると懸念されている。いまの日本や将来の中国など、高齢化社会に対応するためには、高度に進化したAIアシスタントの役割に期待が寄せられている。

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