無人走行するクルマはできるのか? Google自動運転車が直面している課題

Googleは自動運転車を2017年に出荷すると示唆していたが、今ではこれを2019年としている。最初に出荷される自動運転車は全米を走れるわけではなく、地域を限定して運用される。このところGoogleは自動運車投入に関し慎重なポジションを取っている。この背景には何があるのか、米国議会公聴会資料などから、自動運転車開発でGoogleが直面している問題を解析する。

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米国議会の自動運転車に関する公聴会

米国議会上院の通商科学運輸委員会 (Senate Committee on Commerce, Science, and Transportation) は2016年3月、自動運転車に関する公聴会を開催した。GoogleやGMなどが出席し、自動運転技術開発状況について説明するとともに、連邦政府への要望を提示した。Googleは、各州ごとに自動運転車に関連する法案が審議されているが、これらに代わり連邦政府が全米をカバーする統一指針を示すことを求めた。公聴会では委員長John Thune (上の写真) が自ら議長を務めた。公聴会の模様はビデオで公開されている。

公聴会では自動運転車の安全性に関する評価が示された。Duke Universityのロボティックス研究所 (Humans and Autonomy Lab and Duke Robotics) 所長Mary Louise Cummingsが自動運転技術について厳しい見解を示した。自動運転技術の将来は楽観できるものではないとし、自動運転車が社会に普及するのは時期尚早であると述べた。更に、完全自動運転車については尚更であるとしその危険性を指摘した。Tesla Autopilotのような限定的な自動運転車は安全性が十分に確立されていないことを意味する。更に、Googleが開発している完全自動運転車については、市場に投入する時期を慎重に決めるべきとしている。

識者が指摘する自動運転車の問題点

Cummingsは主張の根拠について説明した。発言内容を纏めると、自動運転車開発での課題は、悪天候での走行、ソーシャル・インタラクション、セキュリティー、プライバシーとなる。悪天候での走行とは、自動運転車は路上の水たまり、霧雨、激しい雨、降雪などに対応できていないことを指す。ソーシャル・インタラクションとは聞きなれない言葉だが、クルマとヒトとの交信を示す。自動運転車は警察官の手信号を理解できないなど、ヒトと意思疎通できない。セキュリティー面からは、自動運転車はサイバー攻撃に対して備えができていないだけでなく、GPS受信機やLidarへの妨害行為への対応が求められる。プライバシー保護や個人データ管理の観点からは、自動運転車が収集するカメラ映像やセンシングデータの厳格な管理が求められると指摘した。

ソーシャルインタラクション (対クルマ)

この中で最大の障壁になると思われるのがソーシャルインタラクションである。Google自動運転車と並走して一番気になるのがこのソーシャルインタラクションだ。ソーシャルインタラクションとは、具体的にはドライバーと他のドライバーやヒトとのコミュニケーションを示す。ドライバーは運転中に他人とアイコンタクトなどで無意識にコミュニケーションを取り、お互いの意図を確認しあっている。一時停止の道路標識がある交差点では、順番が回ってきて発進する際には、交差する車線のドライバーを見て安全を確認する。しかし、自動運転車はアイコンタクトで安全確認ができないため、他のドライバーは不安を感じる。

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実際にこのシーンに遭遇した。前を走っていたGoogleプロトタイプは交差点 (上の写真) で立ち往生した。T字路の一時停止標識で止まり (上の写真でクルマが止まっている場所)、左右の安全を確認して順次発進するが、Googleプロトタイプは動かなかった。左側のクルマが発進し、プロトタイプの順番になったが、発進する様子はない。アルゴリズムが仕様通り機能しなかったのか、一回順番をスキップして次の回に発進した。このような状況になると、他のドライバーはGoogleプロトタイプの意図が読めず、発進していいのかどうか不安を感じる。人間だと問題が起こった時は、目くばせや手を振って意思疎通を図るが、自動運転車はこれができない。

ソーシャルインタラクション (対歩行者)

横断歩道の手前で歩行者が立ち止まっている場合、意図を把握するのが難しい。道を渡るのか、それとも、そのまま立ち止まったままなのか判断できない場合もある。スマートフォンを操作している場合は尚更である。人間のドライバーが困惑するこのケースを自動運転車はどう判断するのか、まだまだ課題は多い。アルゴリズムが歩行者の次の行動を予測することは、クルマの進路を予測することに比べ格段に難しい。

下の写真はMountain View市街地で試験走行をしているGoogleプロトタイプ (交差点手前で止まっている車両)。ここでは多くの歩行者がスマホを見ながら横断歩道を渡る。ソーシャルインタラクションに関する学習データが豊富で、Googleプロトタイプのアルゴリズムは機械学習を重ね機能を向上しているものと思われる。

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安全性の評価基準の制定

公聴会では自動運転車の安全基準についても意見が述べられた。Cummingsは開発企業は自動運転車の安全性評価が十分でないと指摘した。同時に、NHTSA (National Highway Traffic Safety Administration、米国運輸省配下で車両安全基準を制定する部門) がこの役割を担うべきであると提案した。CummingsはシンクタンクRand Corpのレポートを引用し、自動運転車が人間レベルの安全性を証明するためには、2.75億マイルを無事故で走行する必要があると述べた。

実際にこのレポートを読むと、その根拠を示すグラフが示されている (下の写真)。これによると、人間がクルマを1億マイル運転すると死亡事故は1.09回発生する。自動運転車が人間と同じくらい安全であることを証明するためには2.75億マイルを無事故で走る必要がある (緑色のグラフ、推定の確度は95%)。一方、Google自動運転車は2009年から2016年3月までに150万マイル走行している。単純計算すると人間レベルの安全性を証明するためには12.5年かかかることとなる。走行距離だけで安全性を評価する方法は現実的でないことがわかる。

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このため、Cummingsは政府や企業は安全を評価するための新しい手法を開発する必要があると提唱した。自動運転技術で先行しているのは航空機産業で、早くから自動着陸機能 (Autoland) を商用機に搭載し運用している。航空機の自動着陸機能は、製造メーカーが徹底した試験を実施し、そのデータをFAA (米国連邦航空局) が検証する仕組みとなる。FAAが安全だと認定したソフトウェアだけを使うことができる。Cummingsは、これと同様に自動運転車も開発企業が試験データを公開し、公的機関で安全性を検証する仕組みが必要であると提唱した。ここでは触れられなかったが、開発企業は自動運転車の試験データは製品の根幹に関わる機密データで、これを公開することを躊躇している事情もある。

Googleの安全評価指標

Googleは自動運転車の安全性に関するデータは公開していないが、テストレポートからこれを読み取ることができる。テストレポートはMonthly Reportと呼ばれ、カリフォルニア州で実施している自動運転車の試験結果が記載されている。この中に自動運転機能を停止する措置 「Disengagement」を報告している部分がある。Disengagement (自動運転機能解除措置) を実行することは自動運転車が危険な状態にあることを意味する。自動運転車が設計通り作動していない状況で、不具合の件数とも解釈できる。つまり自動運転車のインシデントレポートとなる。

Disengagementは自動運転車が自律的に起動するケースと、同乗している試験スタッフがマニュアルで起動する方法がある。下のテーブルはDisengagementの回数と試験走行距離を月別に表示したものである。2015年11月は、Disengagementの回数は16回で走行距離は43275.9マイルとなる。つまりこの月は16回問題に遭遇したことを意味する。GoogleはDisengagementが実行されたときのデータをシミュレーターに入力し問題の原因を解析する。Disengagementを実行しなっかた場合、自動運転車はその後どう動いたかもシミュレーションする。自動運転車は問題をうまく回避したのか、それとも事故につながったのかを解析する。ただ、Monthly Reportにはここまでの情報は開示されていなく、Disengagementの回数だけが報告されている。

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更に興味深いのはDisengagementの場所である。自動運転車は高速道路や市街地を走行するが、高速道路では問題がほとんど発生していない。Disengagementが発生した場所は市街地に集中しており、全体の90%を占める。歩行者や自転車が多い市街地の走行がいかに難しいのかをこのデータが示している。

自動運転車への期待

ちなみに、このレポートはカリフォルニア州政府が定めた法令に従ってGoogleが開示したものである。他の企業がカリフォルニア州で自動運転車を試験する際は同様のレポートの提出が義務付けられている。このレポートによると、いま自動運転車を購入すると、2700マイルごとに障害が発生することになる。クルマの平均走行距離を勘案すると3か月に一回事故に遭遇することを意味する。安全性は急速に改善しているが、商用車として市場に投入するにはまだ早すぎることがわかる。Monthly Reportを読むと自動運転技術開発の難しさを改めて認識する。同時に、米国では、Googleや自動車メーカーがこの難しい課題を乗り越え、自動運転車を市場に投入し、交通事故が減ることへの期待が大きくなっている。運転の便利さだけでなく、交通事故を減らす手段としても、自動運転車への評価が高まっている。

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