トランプ大統領は米国に製造業を呼び戻すが自動化で雇用は増えない、強い国づくりにはロボット産業再生が必須

トランプ大統領は米国に製造業を呼び戻すことを最重点課題として掲げている。自動車メーカーに工場を米国に移転するよう強く求めている。しかし、最新工場はロボットなどで自動化が進み、従業員の数は多くない。新工場が稼働しても生み出される雇用者数は限られる。

出典: UNCTAD

本国回帰Reshoringの流れが始まる

これと並行して、工場が高度に自動化されることで、労働賃金の安い国で製造するメリットが薄らいでいる。発展途上国での生産施設を本国に戻す動きが起こっている。この流れはOff-Shoringに対し「Reshoring」と呼ばれている。トランプ大統領に要請されなくても、米国で製造するメリットが大きい時代になってきた。この潮流はトランプ政権の産業政策に大きな影響を与えることになる。

発展途上国で職が失われる

国際連合 (United Nations) の主要組織であるUNCTAD (United Nations Conference on Trade and Development) は2016年11月、Reshoringの流れを分析したレポートを発表。UNCTADは発展途上国への投資や経済支援などを目的に設立された組織で、先進国でロボットが普及すると発展途上国労働者の職が奪われると予想する。労働賃金が低いことで成立していた発展途上国の製造工場が、ロボットの普及で脅かされていると警告している。

自動車とエレクトロニクス

ロボットなどの自動化技術の進化で最も影響を受けるのは発展途上国で、今後2/3の職が失われると指摘する。まだ経済へのインパクトは小さいが、これから多くの企業が製造施設を本国に戻す流れが本格化すると予測している。産業用ロボットは主に自動車とエレクトロニクス産業で使われており、これらの製造工場が集中するメキシコとアジア諸国への影響が大きいと分析している。

中国に産業用ロボットが集中

レポートは世界の産業用ロボットの稼働状況についても分析している (先頭のグラフ)。中国は2013年から産業用ロボットを大規模に導入している。年間の購入金額は30億ドルを超え、2016年末には設置台数で日本を抜くと予想している。今までは日本が産業用ロボットの設置台数で世界をリードしてきたが、これからはロボットは中国に集中することになる。

出典: Tesla

製造業はアメリカ回帰の傾向

Reshoring先は製品最終仕向け地や製造施設を運用する環境などが判断材料になる。自動車では巨大市場を擁すアメリカに製造施設を移転する可能性が高くなる。ロボットで自動化が進むと、米国内での製造コストがメキシコ工場でのコストと大きな違いがなくなる。Teslaはシリコンバレー郊外でクルマを製造するが (上の写真)、工場は高度に自動化されコスト競争力があることを示している。トランプ大統領の強い要請でFordはメキシコ工場建設計画を撤回し、ミシガン州で製造規模を拡大する。この決断の背景には輸入税 (Border Tax) だけでなく工場の自動化技術があるのかもしれない。

工場は戻るが雇用は限定的

しかし、工場が米国に戻って来てもロボットによる自動化で従業員数は大きくは増えない。産業がアメリカに回帰するものの、雇用を生み出すという面ではその効果は限定的である。更に、AIやロボットにより米国産業全体で職が失われることになる。トランプ政権ではAIによる大失業時代を迎えることとなり、その対策で重い荷を背負うこととなる。

ロボット産業育成が重要

製造業を支える重要な基盤技術はロボットであるが、これら産業用ロボットは欧州と日本で開発されている。強いアメリカを取り戻すためには、ロボット技術を持つことが要件となる。トランプ大統領はロボット政策について見解を発表していないが、New York Timesとのインタビューでこれに触れている (下の写真)。New York Timesが「工場で職を奪うのはロボットでは?」との問いかけに対し、「その通りで、(米国で)ロボット開発を進める必要がある」と答えている。また、米国に産業用ロボット企業が無いことも認識しており、ロボット産業育成が重要であるとの見解を示した。

出典: New York Times

市場でもロボット産業育成の声

米国産業界でロボット開発を進める必要性について議論が高まっている。ロボットニュースサイトRobot Reportによると、ロボットの2/3が米国外で生産されている。更に、産業用ロボットについては全て海外製である。産業用ロボットは米国で生まれたが、今では米国は全てを輸入に頼っている。シリコンバレーに拠点を置くAdept Technologies社が米国における最後の産業用ロボット企業といわれてきた。しかし同社はオムロンに買収され、米国から産業用ロボット企業がなくなった。

トランプ大統領への提言

米国の産業用ロボットが衰退した理由は政府からの補助金が少ないためという意見が多い。米国の実業家で投資家であるMark Cubanは、トランプ大統領に対してロボット開発を推進するよう提言した。トランプ大統領は1兆ドル (100兆円) をインフラ整備に投資するとしているが、Cubanはその中で1000億ドル (10兆円) をロボット開発に投資すべきとしている。米国で生まれたロボットを復活させる必要があると主張する。政府はEVや再生可能エネルギー産業の育成で成功したように、今度はロボット産業に注力すべきとの見解を示している。

高度なAI技法をロボットに適用

ロボット開発ではGoogleが最新のAIを活用し研究開発を加速している。Googleのアプローチはコモディティ・ハードウェアに最新のAI技法を取り込み高度なロボットを開発するというもの。この背後では「Reinforcement Learning」といわれるAI技法が使われている。この技術は囲碁ソフトAlphaGoで使われ、人間のチャンピオンを破り世界の注目を集めた。今度はこれをロボットに応用する。

ロボットがお互いに教え合う

ロボットは学習したノウハウを他のロボットと共有する。数多くのロボットがReinforcement Learningの手法で学習するが、習得した知識はクラウド「Cloud Robotics」に集約される。ここで知識をポリシーに昇華し他のロボットと共有する。つまり、数多くのロボットが並列で学習することで、技能の習得が格段に早くなる。この手法は「Transfer Learning」と呼ばれ注目されている。(下の写真は4台のロボットがドアの開け方を学習している様子。それぞれのロボットが学んだことを4台で共有する。)

出典: Google

ロボットが人間のように学ぶ

人間や動物は試行錯誤で新しいスキルを学習するが、このモデルをロボットに応用したのが上述のReinforcement Learningである。ロボットは失敗を繰り返しながら、目的を完遂できるよう自ら学習していく。人間や動物はこれに加え、物に触るとそれがどう動くかを理解している。人間は内部にメンタルモデルを構築し、アクションを起こすとそれに応じて環境がどう変わるかを予想できるとされる。

ロボットがタッチ感覚を習得

Googleはこれと同じモデルを構築し、ロボットに物の扱い方を教える。テーブルに様々な文房具を置き、ロボットが特定のオブジェクトに触るとそれがどう動くかをこのモデルは予測する。このモデルで教育すると、ロボットは人間のように意図を持った操作ができるようになる。つまり、ロボットにオブジェクトと場所を指示すると、ロボットはそれを指定された場所に移動する。このモデルは「Deep Predictive Model」と呼ばれ、ロボットは人間のようにタッチ感覚を習得する。

Googleロボット開発の行方

先進技術を生み出すGoogleロボット開発であるが、この事業は中止されるとのうわさが絶えない。GoogleはBoston Dynamicsを5億ドルで買収したが、2016年にはこれをToyotaまたはAmazonに売却すると報道された。これに先立ち、プロジェクト責任者Andy RubinはGoogleを離れた。Alphabet配下の開発プロジェクトが相次いで中止される中、Googleのロボット開発がどこまで進むのか注視されている。

Boston Dynamicsの四つ足ロボット

先行きが見えない中でもBoston Dynamicsはロボット開発を積極的に進め、新技術を相次いで公開している。同社が開発するロボットは動物のように四本足で走行するのが特徴で、足場が悪くても歩けるため軍事への展開を目指していた。最近ではロボットを小型化し、家の中で移動し家事をこなす機能を実装している。下の写真は「SpotMini」というモデルで手 (頭に見える部分) で物を掴み操作できる。主人にビールを運び、シンクから食器を持ち上げウォッシャーに入れることができる。高度なインテリジェンスを持つが、外見は小型恐竜のようにも見え、家で使うにはデザイン面で工夫が必要かもしれない。

出典: Boston Dynamics

米国ロボット産業が再び花開く

Googleロボット事業の先行きが不透明なものの、ロボット開発はAIと密接に関係し、Googleの強みを生かせる分野である。GoogleはDeepMindと連携してロボット開発を進めており、世界最先端のAI技法を取り込むことができる。自動運転車と並んでロボット開発は将来の事業を支える柱に成長する可能性を秘めている。また、トランプ政権がロボット開発を国策として後押しする可能性もあり、開発が一気に加速するかもしれない。米国ロボット産業が再び花開く兆しを感じる。

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